朝のピークフローが語る喘息の「ゆらぎ」―日内変動をとらえる指標はどれか
第114回医師国家試験 F問題 第17問
国試問題にチャレンジ
気管支喘息患者で日内変動を認めるのはどれか。
- a.残気量
- b.肺活量
- c.肺拡散能
- d.1回換気量
- e.ピークフロー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気管支喘息は変動する気流制限を特徴とし、気道は夜間から早朝にかけて最も狭くなるため、1日の中の揺れをとらえる指標としてピークフロー(最大呼気流量)が用いられます。ピークフローは気道の狭さを鋭敏に反映し、携帯型メータで患者自身が朝夕に測定でき、日本のガイドラインでは日内変動20%以上が喘息を示唆し、変動が大きいほどコントロール不良と判断します。残気量や肺活量は発作時に変化しうるものの日内変動の評価には用いられず、肺拡散能は肺胞が保たれる喘息では正常で肺気腫型COPDとの鑑別点になり、1回換気量は気道の狭さを直接表しません。ピークフローは喘息日誌やゾーン管理による自己管理の要であり、スパイロメトリーや気道可逆性試験と組み合わせて評価することが大切です。病態の「変動性」と検査指標を結びつけて理解することが、喘息の診断と長期管理の基盤になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
気管支喘息は、気道の慢性炎症を背景に、変動する気流制限(気道が狭くなったり元に戻ったりすること)と気道過敏性を示す疾患である。気流制限は1日の中でも変動し、典型的には夜間から早朝にかけて気道が最も狭くなる。そのため、喘息の症状や発作は夜間・明け方に起こりやすい。
考え方
気道の狭さ(気流制限)をよく反映し、1日に何回でも簡単に測れる指標が、日内変動の評価に使われる。それがピークフロー(PEF:peak expiratory flow、最大呼気流量)である。PEFは深く吸い込んだあと一気に強く吐き出したときの最大の呼気流速であり、太い気道の閉塞の程度を反映する。携帯型のピークフローメータを使えば、患者自身が自宅で朝夕に測定できる。 肺活量や残気量のような肺気量の指標や、肺拡散能、1回換気量は、喘息の気流制限の時間的な変動を鋭敏に反映する指標としては用いられず、日内変動の評価対象にはならない。
PEF日内変動の評価
日内変動率は、1日の最高値と最低値の差を、両者の平均で割って求めることが多い。 日内変動率(%)=(最高値-最低値)÷{(最高値+最低値)÷2}×100 日本の喘息予防・管理ガイドラインでは、日内変動が20%以上あれば、変動する気流制限があり喘息を示唆する所見としている。
選択肢考察
- ×a. 残気量
残気量(RV)は、最大限に息を吐き切ったあとも肺に残る空気の量である。喘息発作中は、呼気時に末梢気道が閉じて空気が肺に閉じ込められる(エアトラッピング)ため、増加する。しかし残気量の測定には体プレチスモグラフ法やガス希釈法など検査室での手技が必要で、1日の中での変動を追う指標としては用いられない。残気量の慢性的な増加は、肺気腫を主体とするCOPD(慢性閉塞性肺疾患)でより典型的にみられる。
- ×b. 肺活量
肺活量(VC)は、最大吸気位から最大呼気位までゆっくり吐き出せる空気量である。発作時には残気量の増加によって低下することがあるが、喘息の気流制限の程度をよく反映する指標ではなく、日内変動を評価する指標としては用いられない。喘息の気流制限の評価には、肺活量ではなく1秒量(FEV1)やPEFといった呼気の速さの指標を用いる。
- ×c. 肺拡散能
肺拡散能(DLCO:一酸化炭素を使って測る肺拡散能力)は、肺胞から毛細血管へのガスの移りやすさを表す。肺胞壁や肺毛細血管床の障害で低下し、間質性肺炎や肺気腫で低下がみられる。喘息は気道の病気であり、肺胞の構造は保たれるため、肺拡散能は正常(ときに軽度上昇)で、日内変動も示さない。この特徴は、喘息と肺気腫型COPDを見分ける手がかりになる。
- ×d. 1回換気量
1回換気量は、安静時の1回の呼吸で出入りする空気の量で、成人では約500mL(およそ体重1kgあたり6〜8mL)である。発作が強いときは浅く速い呼吸になって低下することがあるが、呼吸パターンや換気の需要によって決まる量であり、気道の狭さを直接表す指標ではない。喘息の日内変動の評価には用いない。
- ○e. ピークフロー
ピークフロー(PEF)は、最大吸気位から努力して一気に吐き出したときの最大呼気流量である。気道の狭さを鋭敏に反映し、喘息では夜間から早朝に低く、日中に高いという日内変動を示す。携帯型ピークフローメータで患者自身が朝夕に測れるため、喘息日誌に記録して、診断(日内変動20%以上で喘息を示唆)、コントロール状態の評価、発作の早期発見と自己管理に用いる。日内変動が大きいほどコントロール不良と判断する。
なぜ夜間〜早朝に気道が狭くなるか
ヒトの気道径には概日リズムがあり、健常者でもわずかに変動するが、喘息ではこの変動が大きくなる。主な要因は次のとおりである。 ・内因性ステロイド(コルチゾール)の血中濃度が夜間に最低となる ・血中アドレナリンが夜間に低下し、副交感神経(迷走神経)の緊張が高まって気管支が収縮しやすくなる ・就寝中の寝具中ダニなどアレルゲンへの曝露、気道の冷却、胃食道逆流 ・夕方に吸い込んだアレルゲンによる遅発型喘息反応 このため、喘息の症状は夜間から明け方に悪化しやすく、PEFも早朝に最低値をとることが多い(モーニングディップ)。
PEFの臨床での使い方
・自己最良値(コントロール良好時の最高値)や予測値に対する割合で評価する。自己最良値の80%以上は安定、50〜80%は注意、50%未満は危険(ただちに治療・受診が必要)という区分(ゾーン管理)がよく用いられる。 ・喘息の管理目標の一つに、PEFの日内変動20%未満の維持がある。 ・PEFは努力に依存し、測定誤差も大きいため、診断や重症度の評価には、スパイロメトリーの1秒量(FEV1)や気道可逆性試験(短時間作用性β2刺激薬の吸入後にFEV1が12%以上かつ200mL以上改善すれば陽性)を組み合わせる。
喘息とCOPDの呼吸機能の比較
・喘息:可逆性・変動性のある閉塞性障害。肺拡散能は正常。PEFの日内変動が大きい。 ・COPD:不可逆性(完全には戻らない)の閉塞性障害(気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満)。肺気腫型では肺拡散能が低下し、残気量・全肺気量が増加する。
POINT
・喘息では気流制限が変動し、夜間〜早朝に悪化する。 ・日内変動の評価に用いるのはピークフロー(PEF)。ピークフローメータで患者が自宅で朝夕に測る。 ・PEF日内変動20%以上は喘息を示唆する所見であり、変動が大きいほどコントロール不良。 ・喘息では肺拡散能は正常で、肺気腫型COPDとの鑑別点になる。
