StudyMed医師国家試験

その首、押してはいけない―頸動脈狭窄のある発作性上室頻拍への安全な止め方

第114回医師国家試験 D問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第40問

74歳の女性。動悸を主訴に来院した。今朝7時ころに突然,激しい動悸を自覚した。ソファーに横になり様子をみていたが,30分経っても症状が治まらず,不安感が強くなったため受診した。既往歴として高血圧症と両側頸動脈に動脈硬化性の狭窄を指摘されている。意識は清明。体温36.6℃。脈拍168/分,整。血圧132/88mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。心電図ではQRS幅の狭い波形による,規則正しい頻拍を認める。  対応として適切でないのはどれか。

  1. a.Valsalva手技
  2. b.ベラパミル投与
  3. c.ジソピラミド投与
  4. d.頸動脈洞マッサージ
  5. e.アデノシン三リン酸投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、突然始まった規則正しい頻拍への対応を問う問題だ。どれもこの不整脈を止めうる方法なんだけれど、「この患者さんに限ってやってはいけないもの」を既往歴から見抜けるかがカギになる。まず、心電図からどんな不整脈を考えるかな。
医学生医学生
QRS幅が狭くて規則正しい頻拍なので、上室性の頻拍ですね。突然始まっているので発作性上室頻拍でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。narrow QRSで規則正しい頻拍の鑑別には、洞性頻脈、発作性上室頻拍、2:1伝導の心房粗動、心房頻拍などがある。洞性頻脈は発熱や脱水、貧血などに伴って徐々に速くなるから、「突然始まる」経過とは合わない。
医学生医学生
心房粗動の2:1伝導だと、心拍数が150くらいで一定になると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。心房がおおむね毎分300回前後で興奮し、その半分が心室に伝わるから150/分前後になることが多い。今回の168/分はそれよりやや速く、突然始まって持続している点からも、発作性上室頻拍が最も考えやすい。その大部分は房室結節を回路に含むリエントリーで、房室結節の中を回る房室結節リエントリー性頻拍と、副伝導路を介する房室回帰性頻拍がある。
医学生医学生
どちらも房室結節を通るから、房室結節の伝導を抑えれば止まるということですね。
ドクタードクター
その通り。それが治療の考え方の土台になる。もう一つ大事なのが血行動態で、この患者さんは意識清明で血圧も保たれ、心不全の徴候もない。安定しているので、まず迷走神経刺激手技、無効なら薬物、という順で停止を試みる。不安定なら同期下電気ショックだ。
医学生医学生
迷走神経刺激手技というと、Valsalva手技と頸動脈洞マッサージですよね。OSCEの前に友達と「息をこらえていきむ」練習をした記憶があります。
ドクタードクター
Valsalva手技は声門を閉じて胸腔内圧を上げ、いきみを解除したときの血圧の反動的な上昇を圧受容器が感知して、反射的に迷走神経の緊張が高まる仕組みだ。いきんだ後に仰臥位にして下肢を挙上する修正Valsalva手技は、通常の方法より停止率が高いと報告されている。頸動脈に直接触れないから、この患者さんでも最初に試みてよい。
医学生医学生
頸動脈洞マッサージも同じ迷走神経反射を使いますが、この方は両側の頸動脈に動脈硬化性の狭窄がありますね……。
ドクタードクター
そこが問題の核心だ。頸動脈洞マッサージは総頸動脈の分岐部にある圧受容器を一側ずつ圧迫して反射を起こす手技だけれど、そこにプラークがあると、圧迫でプラークが剥がれて脳塞栓を起こしたり、狭窄部の血流が落ちて脳虚血を起こしたりする危険がある。両側に狭窄が指摘されている今回は、行うべきではない対応なんだ。
医学生医学生
高齢というだけでも慎重になるべきでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。高齢者では過度の徐脈や洞停止も起こしやすいので、一般に避ける方向で考える。行う場合でも、頸動脈雑音がないこと、脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往がないことを事前に確認するのが原則だ。では、薬物についても見ていこう。アデノシン三リン酸はどうかな。
医学生医学生
房室結節を一瞬ブロックして止める薬ですよね。でも、投与すると心臓が止まると聞いて少し怖い印象があります。
ドクタードクター
確かに数秒間の心停止や胸部不快感、顔面紅潮がみられることがあるけれど、作用時間が数秒〜十数秒と非常に短いからすぐに戻る。そのぶん急速静注して生理食塩水で後押しする必要がある。迷走神経刺激手技が無効な場合の第一選択薬の一つだ。気管支を収縮させるので喘息では禁忌だけれど、今回はその情報はない。
医学生医学生
ベラパミルはCa拮抗薬で、房室結節の伝導を抑えるから使えますね。
ドクタードクター
そう。非ジヒドロピリジン系で、Vaughan Williams分類のIV群にあたる。ただし陰性変力作用と血管拡張作用があるから、低血圧や心不全、左室機能低下がある例では注意が必要で、副伝導路を伴う心房細動には禁忌だ。この患者さんは血圧が保たれているので使用できる。ジソピラミドはIa群のNaチャネル遮断薬で、回路の伝導を遅らせ不応期を延ばす。ATPやベラパミルが無効な場合などに選択され、抗コリン作用による尿閉や緑内障の悪化、低血糖などには注意が要るけれど、使うこと自体は誤りではない。
医学生医学生
どれも止める力はあるけれど、患者さんの背景で「使えない」ものが決まるということですね。
ドクタードクター
その視点が大事だ。最後に発展知識。発作を繰り返す人には、カテーテルアブレーションで根治をめざせる。成功率は90%台と高い。また、ATPや迷走神経刺激で房室伝導を一時的に抑えると、心房粗動の鋸歯状波や心房頻拍のP波が見えやすくなって、診断の手がかりにもなるんだ。眼球圧迫法は網膜剥離などの危険があるので、現在は行わないことも覚えておこう。
医学生医学生
循環器内科の実習で、アブレーション後に「もう発作の心配がなくなった」と喜んでいた患者さんがいたのを思い出しました。
ドクタードクター
患者さんの生活の質を大きく変える治療だからね。急性期は安全に止め、慢性期は根治を考える。そして手技や薬を選ぶ前には、必ず既往歴と禁忌を確認する習慣をつけてほしい。

まとめ

突然始まる規則正しいnarrow QRS頻拍は発作性上室頻拍を考え、その多くは房室結節を回路に含むリエントリーのため、房室結節の伝導を抑えることで停止します。血行動態が安定していれば、Valsalva手技などの迷走神経刺激手技、無効ならATP急速静注やベラパミル、Naチャネル遮断薬の順に試み、不安定なら同期下電気ショックを行います。頸動脈洞マッサージは、頸動脈狭窄や頸動脈雑音、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往がある場合には、プラークの剥離による脳塞栓や脳虚血の危険があるため避けるべきで、高齢者でも慎重さが求められます。あわせてATPは気管支喘息、ベラパミルは低血圧・心不全や副伝導路を伴う心房細動で避けるなど、各治療の禁忌を押さえておくことが重要です。同じ効果をもつ選択肢の中から患者背景に応じて安全な方法を選ぶ力は、不整脈診療に限らず臨床判断全般の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・74歳の女性。安静時に突然始まった激しい動悸が30分以上続いている。 ・既往歴:高血圧症があり、両側の頸動脈に動脈硬化による狭窄を指摘されている。 ・バイタル:意識は清明。脈拍168/分で整、血圧132/88mmHg、SpO2 98%で、血行動態は安定している。心音・呼吸音に異常はなく、心不全を示す所見もない。 ・心電図:QRS幅の狭い(narrow QRS)、規則正しい頻拍である。

診断へのプロセス

narrow QRSで規則正しい頻拍の鑑別は、洞性頻脈、発作性上室頻拍(PSVT:paroxysmal supraventricular tachycardia)、2:1伝導の心房粗動、心房頻拍などである。 ・洞性頻脈は、発熱、脱水、貧血、疼痛などに伴って徐々に脈が速くなるもので、「突然始まる」経過とは合わない。 ・心房粗動では、心房が毎分約300回(おおむね250〜350/分)興奮し、2:1で心室に伝わると心拍数は150/分前後で一定になることが多い。本例の168/分はこれよりやや速い。 突然始まり突然止まる、心拍数150〜200/分程度の規則正しいnarrow QRS頻拍という特徴から、発作性上室頻拍が最も考えやすい。PSVTの大部分は、房室結節を回路に含むリエントリー(房室結節リエントリー性頻拍、副伝導路を介する房室回帰性頻拍)である。

設問の考え方

血行動態が安定しているPSVTは、次の順で停止を試みる。 (1) 迷走神経刺激手技(Valsalva手技、頸動脈洞マッサージなど)で房室結節の伝導を抑える。 (2) 無効なら薬物を投与する。アデノシン三リン酸(ATP)の急速静注、ベラパミルなどのCa拮抗薬、Naチャネル遮断薬などを用いる。 (3) 血行動態が不安定な場合は、同期下電気ショック(カルディオバージョン)を行う。 選択肢はいずれもPSVTを停止させうる方法だが、本例は両側頸動脈に動脈硬化性狭窄がある。この状態で頸動脈洞マッサージを行うと、プラークが剥がれたり血流が低下したりして脳梗塞を起こす危険がある。したがって、本例で適切でない対応は頸動脈洞マッサージである。

選択肢考察

  1. ×a.  Valsalva手技

    Valsalva手技は、声門を閉じて息をこらえ、いきむように胸腔内圧を上げる方法である。いきみを解除したときの血圧の反動的な上昇を圧受容器が感知し、反射的に迷走神経の緊張が高まる。その結果、房室結節の伝導が抑えられ、房室結節を回路に含むリエントリー性のPSVTが停止しうる。非侵襲的で頸動脈に直接触れないため、頸動脈狭窄がある本例でも最初に試みてよい適切な対応である。いきんだ後に仰臥位にして下肢を挙上する修正Valsalva手技は、通常の方法より停止率が高いと報告されている。

  2. ×b.  ベラパミル投与

    ベラパミルは非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(Vaughan Williams分類IV群)である。房室結節のCa依存性の伝導を抑えてリエントリー回路を断ち切るため、PSVTの停止に有効である。陰性変力作用(心臓の収縮力を弱める作用)と血管拡張作用があるため、低血圧や心不全、左室機能が低下した例では注意が必要である。また、副伝導路を伴う心房細動(偽性心室頻拍)には禁忌である。本例は血圧が保たれ心不全徴候もないため、使用できる適切な対応である。

  3. ×c.  ジソピラミド投与

    ジソピラミドはNaチャネル遮断薬(Vaughan Williams分類Ia群)で、心筋の伝導を遅くし、不応期を延ばす。房室結節リエントリーの回路や副伝導路の伝導を抑えるため、PSVTの停止に用いることができる。主にATPやベラパミルが無効な場合や、副伝導路が関わる頻拍で選択される。抗コリン作用による口渇、尿閉、緑内障の悪化や、陰性変力作用、低血糖などの副作用に注意が必要だが、本例で用いること自体は誤りではない。

  4. ○d.  頸動脈洞マッサージ

    頸動脈洞マッサージは、総頸動脈の分岐部にある頸動脈洞(圧受容器)を一側ずつ圧迫・マッサージして迷走神経反射を起こし、房室結節の伝導を抑える手技である。しかし、頸動脈に動脈硬化性の狭窄やプラークがあると、圧迫によってプラークが剥がれて脳塞栓を起こしたり、狭窄部の血流が低下して脳虚血を起こしたりする危険がある。本例は両側の頸動脈に狭窄が指摘されており、脳梗塞のリスクが高いため、この手技は行うべきではない。行う場合も、頸動脈雑音がないこと、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の既往がないことを事前に確認する必要がある。高齢者では過度の徐脈や洞停止も起こしやすい。以上から、本例で適切でない対応である。

  5. ×e.  アデノシン三リン酸投与

    アデノシン三リン酸(ATP)は、体内で速やかにアデノシンとなり、房室結節に一過性の伝導ブロックを起こしてリエントリーを止める。作用時間が数秒〜十数秒と非常に短いため、10〜20mg程度を急速に静注し、すぐに生理食塩水で後押しする。迷走神経刺激手技が無効なPSVTに対する第一選択薬の一つである。一過性の胸部不快感、顔面紅潮、数秒間の心停止がみられることがあり、気管支を収縮させるため気管支喘息では禁忌である。本例に喘息の情報はなく、使用できる適切な対応である。

発作性上室頻拍(PSVT)の概要

・突然始まり突然止まる、規則正しい頻拍である。心拍数は150〜250/分程度で、QRS幅は通常狭い(脚ブロックや変行伝導があれば広くなる)。 ・機序:最も多いのは、房室結節の速伝導路と遅伝導路の間で興奮が回る房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)である。次に多いのは、副伝導路(WPW症候群など)を介して心房と心室の間を回る房室回帰性頻拍(AVRT)である。どちらも房室結節を回路に含むため、房室結節の伝導を抑えれば停止する。 ・器質的心疾患がなければ、予後は一般に良好である。

急性期の停止法

(1) 血行動態が不安定な場合(ショック、意識障害、急性心不全など)は、同期下電気ショックを行う。 (2) 血行動態が安定している場合: ・迷走神経刺激手技:Valsalva手技(修正Valsalva手技を含む)、顔面冷水刺激(ダイビング反射の利用。主に乳幼児に用いる)、頸動脈洞マッサージ(頸動脈狭窄、頸動脈雑音、脳梗塞・TIAの既往がある場合や高齢者では避ける)。眼球圧迫法は網膜剥離などの危険があるため、現在は行わない。 ・薬物:ATP急速静注(喘息では禁忌)、ベラパミル・ジルチアゼム静注(低血圧、心不全、副伝導路を伴う心房細動では避ける)、Naチャネル遮断薬(ジソピラミド、プロカインアミド、シベンゾリンなど)。β遮断薬を用いることもある。

再発予防・根治

・カテーテルアブレーション(高周波カテーテル心筋焼灼術)で根治をめざせる。成功率は90%台と高い。 ・アブレーションを行わない場合は、Ca拮抗薬やβ遮断薬などで発作を予防する。

narrow QRS頻拍の鑑別のこつ

・規則正しい頻拍:洞性頻脈、PSVT、心房粗動(伝導比が一定の場合)、心房頻拍。 ・不規則な頻拍:心房細動、伝導比が変動する心房粗動、多源性心房頻拍。 ・ATP投与や迷走神経刺激で一時的に房室伝導を抑えると、心房粗動の鋸歯状波(F波)や心房頻拍のP波が見えやすくなり、診断に役立つ。

POINT

・突然始まる規則正しいnarrow QRS頻拍(150〜250/分)は、発作性上室頻拍(PSVT)を考える。 ・血行動態が安定していれば、迷走神経刺激手技→ATP急速静注やベラパミル→Naチャネル遮断薬の順に試みる。不安定なら同期下電気ショックを行う。 ・頸動脈洞マッサージは、頸動脈狭窄、頸動脈雑音、脳梗塞・TIAの既往がある場合は、脳塞栓の危険があるため禁忌である。高齢者でも避ける。 ・ATPは気管支喘息では禁忌である。ベラパミルは低血圧・心不全や、副伝導路を伴う心房細動では避ける。 ・根治療法はカテーテルアブレーションである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。