StudyMed医師国家試験

家では話せるのに学校では声が出ない―選択緘黙は「選んで黙る」のではない

第114回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第114回 A問題 第8問

選択緘黙について正しいのはどれか。

  1. a.思春期に多い。
  2. b.聴力は正常である。
  3. c.言語理解の障害が原因である。
  4. d.脳波検査が診断に有用である。
  5. e.発声練習による治療が有効である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は選択緘黙についての知識問題だ。病名に「選択」と付いているせいで誤解されやすい疾患なんだけど、カギは「ある場面では話せる」という一点にある。そこから何が正常で何が問題なのかを考えていこう。
医学生医学生
名前からすると、本人が話さないことを自分で選んでいる、というイメージがあります。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴なんだ。選択緘黙は、家庭など安心できる場面では普通に話せるのに、幼稚園や学校のように話すことが期待される特定の社会的場面では一貫して話せなくなる状態をいう。意図的に黙っているのではなく、強い不安や緊張のために話せなくなる。だからDSM-5では不安症群に分類されているんだ。
医学生医学生
精神医学の講義で、社交不安症と同じ不安症群に入っていると習った気がします。わがままや反抗とは違うんですね。
ドクタードクター
その通り。では「家では話せる」ということから、どんなことが言えるかな。
医学生医学生
家で会話が成り立っているなら、言葉を聞き取って理解して、返事をする能力は保たれている…ということは、聴力は正常ですね。
ドクタードクター
正解。聴力が正常、というのが正しい選択肢だ。実際の臨床でも、話さないことを心配して小児科や耳鼻咽喉科を受診し、聴力や発声器官に異常がないと言われてから児童精神科に紹介されることが少なくない。逆に、どの場面でも話しにくいなら、難聴や言語発達の遅れなど別の原因を考える必要がある。
医学生医学生
同じ理屈で、言語理解の障害が原因というのも違いますね。家では年齢相応に話せるわけですから。
ドクタードクター
そうだね。DSM-5の診断基準でも、話さないのがその場で求められる言語の知識不足や不慣れによるものではないこと、たとえば移住して間もなく新しい言語に慣れていない子どもは除く、という条件がある。知的障害や自閉スペクトラム症、言語発達の遅れを併存することはあるけれど、それが原因というわけではなく、中核にあるのはあくまで不安なんだ。
医学生医学生
好発年齢はどうでしょう。思春期のほうが人目を気にして緊張しやすそうな気がしますが。
ドクタードクター
そう考えたくなるけど、多くは5歳未満の幼児期に発症する。入園や入学を機に、家族以外の人と話す必要が出てきて初めて問題として気づかれることが多いんだ。思春期に新たに発症するのは典型的ではない。経過とともに軽快する例が多いが、成人まで持ち越す例もある。
医学生医学生
脳波検査はどうですか。小児科の実習で、発達の相談に来た子に脳波をとっているのを見たことがあって。
ドクタードクター
てんかんなどの併存が疑われれば脳波をとることもあるけれど、それは併存症の評価であって、選択緘黙そのものの診断根拠にはならない。この疾患は、特定の場面では話せず他の場面では話せるという行動パターンを、本人・家族・園や学校からの情報で確認して臨床的に診断する。診断を確定できる検査は存在しないんだ。
医学生医学生
治療として発声練習をするのも、話せる場面では普通に声が出ているなら意味がなさそうですね。
ドクタードクター
その通り。発声機能に問題はないから病態に合わないし、むしろ無理に話させようとすると不安を強めて逆効果になりうる。発声や発話そのものの訓練が意味をもつのは、吃音、つまり小児期発症流暢症のように場面に関係なく発話の流暢さが障害される病態だね。
医学生医学生
では、実際にはどう治療するんですか。
ドクタードクター
中心は不安を和らげる環境調整と行動療法だ。話しやすい相手や場面から少しずつ段階を上げていく刺激フェーディングやシェイピング、年長児なら認知行動療法も使う。家族と学校が連携して、話さないことを責めず、うなずきや筆談など話す以外の手段も認めながら進めるのが大切だよ。症状が重い場合にはSSRIが併用されることもある。
医学生医学生
診断基準に期間の条件もありましたか。
ドクタードクター
少なくとも1か月持続することが必要で、しかも入学後最初の1か月は含めない。新しい環境に慣れないための一時的な沈黙と区別するためだ。鑑別では、難聴や言語発達遅滞、吃音、自閉スペクトラム症はいずれも場面を問わず言葉やコミュニケーションの問題がみられる、という点が選択緘黙との違いになる。「場面によって話せるかどうかが分かれる」ことを常に確認する、と覚えておこう。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、家ではどうですか、と場面ごとに聞くことが大事そうですね。
ドクタードクター
まさにそう。家庭と学校での様子を分けて聴取することが、診断の一番の手がかりになるんだ。

まとめ

選択緘黙は、家庭など安心できる場面では話せるのに、学校など話すことが期待される特定の社会的場面で一貫して話せなくなる状態で、DSM-5では不安症群に分類されます。ある場面では会話が成り立つことから、聴力・言語理解・発声機能は正常であり、診断は行動パターンの聴取に基づく臨床診断で、脳波などの検査で確定するものではありません。多くは5歳未満の幼児期に発症し、入園・入学を機に気づかれます。治療は環境調整と、話しやすい場面から段階的に進める行動療法・認知行動療法が中心で、発声練習は病態に合わず、無理に話させるとかえって不安を強めます。難聴、言語発達遅滞、吃音、自閉スペクトラム症との鑑別では「場面によって話せるかどうかが違うか」が要点であり、この視点は小児の言葉の相談に向き合う際の基本になります。

解答・解説

正解はbです

選択緘黙(場面緘黙)の基本的な特徴を問う一般問題である。 選択緘黙とは、家庭など安心できる場面では普通に話せるのに、幼稚園・学校など「話すことが期待される特定の社会的場面」では一貫して話せなくなる状態である。DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では不安症群に分類されており、背景には強い不安・緊張がある。名称から「本人が話さないことを選んでいる」と誤解されやすいが、意図的に黙っているのではなく、不安のために話せなくなるという理解が重要である。 解答の鍵は「別の場面では話せる」という点にある。家庭では年齢相応に話せるのだから、話すための器官(聴覚・発声器官)や言語能力そのものには問題がない。ここから、聴力は正常であり、言語理解の障害や発声の問題が原因ではないこと、脳の器質的異常を調べる検査で診断するものではないことが導かれる。また好発年齢は幼児期であり、多くは入園・入学など集団生活が始まる時期に気づかれる。

選択肢考察

  1. ×a.  思春期に多い。

    誤りである。発症は多くが5歳未満の幼児期で、幼稚園・保育所や小学校への入園・入学を機に、家族以外の人と話す必要が生じて初めて問題として気づかれることが多い。経過とともに軽快する例が多いが、成人まで持ち越す例もある。思春期に新たに発症することが典型ではない。

  2. ○b.  聴力は正常である。

    正しい。選択緘黙の子どもは家庭など安心できる場面では会話が成立しており、言葉を聞き取って理解し、応答する能力が保たれている。したがって聴力は正常である。実際、話さないことを心配して小児科や耳鼻咽喉科を受診し、聴力や発声器官に異常がないと言われてから精神科・児童精神科に紹介されることも少なくない。逆に、どの場面でも話しにくいのであれば、難聴や言語発達の遅れなど別の原因を考える必要がある。

  3. ×c.  言語理解の障害が原因である。

    誤りである。選択緘黙では言語理解は保たれており、家庭では年齢相応の会話ができる。DSM-5の診断基準でも、話さないことがその場で求められる言語の知識不足や不慣れ(例:移住して間もない子どもが新しい言語に慣れていない場合)によるものではないことが条件とされている。知的障害や自閉スペクトラム症、言語の発達の遅れなどを併存することはあるが、それらが選択緘黙の原因というわけではなく、中核にあるのは不安である。

  4. ×d.  脳波検査が診断に有用である。

    誤りである。選択緘黙は、特定の場面では話せず他の場面では話せるという行動のパターンを、本人・家族・園や学校からの情報で確認して臨床的に診断する。脳波を含め、診断を確定できる検査は存在しない。てんかんなど脳波異常を伴う疾患を併存することはありうるが、それは併存症の評価であって選択緘黙自体の診断根拠にはならない。

  5. ×e.  発声練習による治療が有効である。

    誤りである。選択緘黙の子どもは話せる場面では問題なく発声・発話できるため、発声機能を鍛える訓練は病態に合わず、有効性を示す根拠もない。むしろ話すことを無理に強いると不安を強めて逆効果になりうる。治療の中心は、不安を和らげる環境調整と、話しやすい相手・場面から少しずつ段階を上げていく行動療法(刺激フェーディング、シェイピングなど)や認知行動療法であり、家族と学校が連携して取り組む。症状が重い場合には選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉が併用されることもある。なお、発声練習が治療の選択肢となりうるのは、小児期発症流暢症(吃音)のように発話そのものに問題がある病態である。

選択緘黙の概要

・定義:他の状況では話しているにもかかわらず、話すことが期待される特定の社会的状況(学校など)で一貫して話すことができない状態。 ・分類:DSM-5では不安症群に含まれる(以前は「通常、幼児期・小児期・青年期に初めて診断される障害」に分類されていた)。 ・好発:幼児期に発症し、入園・入学時に顕在化しやすい。まれな疾患である。 ・背景:もともと不安が強い、行動抑制的な気質が関与するとされる。社交不安症の併存が多い。

DSM-5の診断基準の要点

1. 他の状況では話しているのに、特定の社会的状況では一貫して話せない。 2. その障害が学業・職業上の成績や対人的コミュニケーションを妨げている。 3. 持続期間が少なくとも1か月(学校での最初の1か月は、慣れない環境による一時的な沈黙と区別するため含めない)。 4. 話せないのは、その場で求められる言語の知識不足や不慣れによるものではない。 5. コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず、自閉スペクトラム症・統合失調症などの精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

鑑別のポイント

・難聴、言語発達遅滞:どの場面でも言葉の問題がみられる。 ・吃音(小児期発症流暢症):場面に関わらず発話の流暢性が障害される。 ・自閉スペクトラム症:対人相互性やコミュニケーションの質的な障害が場面を問わずみられる。

POINT

・選択緘黙は「家庭では話せるが、学校など特定の場面で話せない」状態で、DSM-5では不安症群に分類される。 ・幼児期(多くは5歳未満)に発症し、入園・入学時に気づかれやすい。 ・聴力・言語理解・発声機能は正常。診断に有用な検査はなく臨床的に診断する。 ・治療は環境調整と行動療法・認知行動療法が中心で、発声練習は適応にならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。