StudyMed医師国家試験

「その瞬間」を切り取るのはどれ?―有病率と罹患率で整理する静的・動的指標

第113回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第7問

ある一時点での割合を示す指標はどれか。

  1. a.死亡率
  2. b.出生率
  3. c.致命率
  4. d.有病率
  5. e.罹患率

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は疫学指標の基本、「一時点の割合」を示す指標を選ぶ問題だ。ポイントは、分子が「状態」なのか「出来事」なのかを見分けること。この視点さえ持てば、どの指標も迷わず分類できるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で率がたくさん出てきて、正直どれも同じに見えてしまいます。死亡率も「ある時点で亡くなっている人の割合」みたいに思えてしまって……。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。死亡は「起きた出来事」だから、1年間なら1年間と観察期間を決めないと数えられない。人口動態統計の死亡率は、1年間の死亡数を年央人口、日本では10月1日現在の人口で割って人口千対で表す。期間の指標なんだ。
医学生医学生
なるほど。出生率も同じで、1年間に生まれた数を数えるから期間の指標ですね。
ドクタードクター
その通り。出生も死亡も、届出に基づいて1年分を集計する人口動態統計の代表的な指標だ。では致命率はどうだろう。
医学生医学生
致命率は死亡率と似ていますが、分母が違ったような……。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。致命率は、ある疾患にかかった人のうち、その病気で亡くなった人の割合。分母は人口全体ではなく患者数で、病気の重篤度を表す。罹患してから死亡に至るまでを追って求めるから、やはり一時点の指標ではない。
医学生医学生
罹患率は「病気の人の割合」だから、一時点っぽい気がします。
ドクタードクター
そこが本問の一番の引っかけだ。罹患率は、一定期間内に「新たに」発症した人の頻度。分子は新規発症という出来事に限られ、すでに病気を持っている人は含めない。分母には観察人年を使うことが多く、いわば発生のスピードを表す指標なんだ。
医学生医学生
ということは、正解は有病率ですね。ある日に「今その病気を持っている人」を数えれば、新規か既存かを問わず、その瞬間の状態として出せます。
ドクタードクター
正解。有病率、正確には時点有病率は、ある時点で疾患を有する人の割合で、まさに「その瞬間を切り取った」静的な指標だ。ちなみに一定期間内のどこかで病気を持っていた人の割合を期間有病率と呼ぶこともあるけれど、単に有病率と言えば時点有病率を指すよ。
医学生医学生
CBTの勉強では、有病率と罹患率をセットで覚えていました。両者に関係はありますか。
ドクタードクター
あるよ。病気の発生が安定していて有病率が低い状況なら、おおよそ「有病率≒罹患率×平均有病期間」が成り立つ。たとえばかぜ症候群は罹患率が高くても数日で治るから有病率は低い。逆に治療の進歩で亡くならずに長く生きられるようになると、罹患率が同じでも有病率は上がるんだ。
医学生医学生
有病率が上がったからといって、病気が増えたとは限らないんですね。糖尿病のような慢性疾患では特に注意が必要そうです。
ドクタードクター
まさにそう。データを読むときの大事な視点だ。もう一つ、研究デザインとの対応も押さえておこう。一時点で調べる横断研究からは有病率が得られるけれど、新規発症を捉えるには対象者を追跡するコホート研究が必要になる。
医学生医学生
人口統計でも同じ区別がありましたよね。国勢調査は一時点の調査なので静態統計でしょうか。
ドクタードクター
その通り。国勢調査は5年ごとに10月1日時点で行う人口静態統計で、1年間の届出を集計する人口動態統計とは対になる。「状態か出来事か」「一時点か期間か」という軸で整理すると、統計の問題はぐっと解きやすくなるよ。

まとめ

疫学・人口統計の指標は、一時点の状態を切り取る静的指標と、一定期間内に起きた出来事の頻度を表す動的指標に分けられます。ある時点で疾患を有する者の割合である有病率(時点有病率)は静的指標であり、死亡率・出生率・致命率・罹患率はいずれも期間中の出来事を数える動的指標です。致命率は分母が患者数で疾患の重篤度を表し、罹患率は新規発症のみを分子とする点が有病率との違いです。また有病率≒罹患率×平均有病期間の関係があり、横断研究からは有病率、コホート研究からは罹患率が得られます。分子が「状態」か「出来事」かを見極める視点は、統計データを正しく読み解く基礎となります。

解答・解説

正解はdです

疫学や人口統計の指標は、「ある一時点の状態を切り取ったもの(静的な指標)」と「一定期間内に起きた出来事の頻度を表すもの(動的な指標)」に大別できる。本問は前者に当たるものを選ぶ問題である。 見分けるコツは、分子が「状態(その時点で〜である人)」なのか「出来事(期間中に〜が起きた件数)」なのかを確認することである。死亡・出生・新規発症は、いずれも一定の観察期間を決めなければ数えられない出来事であり、期間の指標となる。これに対し、「現在その病気を持っている人」は、ある日付・時刻を定めればその瞬間の状態として数えられる。したがって、ある時点で疾患を有する者の割合を表す有病率(正確には時点有病率)が一時点の指標に該当する。 なお、この区別は研究デザインとも対応する。一時点の状況を調べる横断研究からは有病率が得られるが、新規発生(罹患)を把握するには対象者を時間経過とともに追跡するコホート研究が必要となる。

選択肢考察

  1. ×a.  死亡率

    一定期間(通常は1年間)に発生した死亡数を、その集団の人口で割った指標である。人口動態統計では人口千対で表し、分母には年央人口(日本では10月1日現在の人口)を用いる。分子が1年間に起きた死亡という出来事であるため、期間の指標であり一時点の割合ではない。

  2. ×b.  出生率

    一定期間(通常1年間)の出生数を人口で割った指標で、人口千対で表す(粗出生率)。分子は期間中に起きた出生という出来事であり、死亡率と同じく期間の指標である。人口動態統計の代表的な指標の一つである。

  3. ×c.  致命率

    ある疾患に罹患した者のうち、その疾患が原因で死亡した者の割合である(致死率、case fatality rate ともいう)。分母は人口全体ではなく患者数である点が死亡率との違いで、疾患の重篤度を表す。罹患してから死亡に至るまでの経過を一定期間追って求めるものであり、一時点の割合ではない。

  4. ○d.  有病率

    ある一時点において、集団の中でその疾患を有している者の割合である(時点有病率)。分子は新規・既存を問わず「その時点で病気を持っている人」という状態であり、分母はその時点の集団の人数である。ある瞬間の状況を切り取った指標であるため、本問の「ある一時点での割合を示す指標」に該当する。横断研究や実態調査で得られる代表的な指標である。

  5. ×e.  罹患率

    一定の観察期間内に、新たに疾患を発症した者の頻度を示す指標である。分子は期間中の新規発症数に限られ、既に病気を持っている人は含めない。分母には観察人年(観察人数×観察期間)を用いることが多く、時間当たりの発生速度を表す。期間を設定しなければ求められないため、一時点の指標ではない。

有病率と罹患率の関係

疾患の発生が安定した状態(定常状態)にあり、有病率が低い場合には、おおよそ「有病率 ≒ 罹患率 × 平均有病期間」の関係が成り立つ。このため、罹患率が同じでも、治療の進歩などで死亡せず長く生存するようになると有病期間が延び、有病率は上昇する。逆に急性で短期間に治癒する疾患(例: かぜ症候群)は、罹患率が高くても有病率は低くなりやすく、致命率の高い疾患も有病期間が短いため有病率は低めになる。

静的指標と動的指標

・静的(一時点): 有病率(時点有病率)、人口静態統計(国勢調査による人口構成など) ・動的(期間): 罹患率、累積罹患率、死亡率、出生率、致命率、人口動態統計(出生・死亡・死産・婚姻・離婚の届出に基づく) 人口静態統計の代表である国勢調査は5年ごとに10月1日時点で行われる一時点の調査であり、人口動態統計は1年間の届出を集計する期間の統計である。

研究デザインとの対応

・横断研究: 一時点の調査で有病率を求められるが、要因と疾患の時間的前後関係は判定しにくい。 ・コホート研究: 対象者を追跡し、罹患率や相対危険を求められる。

補足

期間有病率(一定期間内のいずれかの時点で疾患を有していた者の割合)という概念もあるが、一般に単に「有病率」といえば時点有病率を指す。

POINT

・有病率=ある一時点で疾患を有する者の割合(既存患者を含む、静的指標) ・罹患率=一定期間内の新規発症の頻度(動的指標) ・死亡率・出生率・致命率はいずれも期間中に起きた出来事を数える指標 ・致命率の分母は患者数、死亡率の分母は人口 ・有病率 ≒ 罹患率 × 平均有病期間 ・横断研究→有病率、コホート研究→罹患率

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。