見つかった2cmの胃癌、次に何を見る?―「範囲」と「深さ」が切り方を決める
第113回医師国家試験 F問題 第65問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。人間ドックの上部消化管内視鏡検査で胃前庭部に2cmの胃癌を指摘され受診した。 治療方針の決定に有用なのはどれか。2つ選べ。
- a.拡大内視鏡
- b.経鼻内視鏡
- c.超音波内視鏡
- d.カプセル内視鏡
- e.バルーン内視鏡
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
早期胃癌の治療方針は、内視鏡的切除(EMR・ESD)で治せるか外科手術が必要かを判断することが出発点であり、その根拠となるのが深達度、組織型、大きさと範囲、潰瘍の有無です。拡大内視鏡はNBIなどの画像強調観察と併用して粘膜表層の微小血管や表面構造を観察し、病変の側方範囲の決定や組織型の推定に役立ちます。超音波内視鏡は胃壁の層構造を描出して癌の深達度を評価でき、周囲リンパ節の評価にも用いられます。一方、経鼻内視鏡は苦痛の少ないスクリーニング用、カプセル内視鏡とバルーン内視鏡は主に小腸の検査であり、胃癌の精査には用いません。造影CTによる転移評価や切除後の病理学的な根治性判定と合わせて、検査ごとの役割を理解しておくことが、適切な治療選択の基盤になります。
解答・解説
正解はa, cです
状況の整理
52歳の男性が、人間ドックで行ったスクリーニング目的の上部消化管内視鏡検査で、胃前庭部に径2cmの胃癌を指摘された。症状の記載はなく、偶然見つかった比較的小さな病変であり、早期胃癌である可能性が高い。
治療方針を決める要素
早期胃癌では、内視鏡的切除(EMR:内視鏡的粘膜切除術、ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)で治せるか、外科手術(リンパ節郭清を伴う胃切除)が必要かを判断することが最初の分かれ目になる。内視鏡的切除はリンパ節転移の可能性がきわめて低い病変に限られ、その判断には次の情報が必要である。 ・深達度:癌が粘膜内(T1a)にとどまるか、粘膜下層(T1b)以深に及ぶか。 ・組織型(分化度):分化型か未分化型か。 ・大きさと範囲:病変の正確な広がり(側方の境界)。 ・潰瘍(瘢痕)の有無。 このほか、進行癌の可能性も含めてリンパ節転移や遠隔転移の有無を造影CTなどで評価し、生検による組織診断を確認する。
設問の考え方
選択肢のうち、上記の情報を内視鏡で直接得られるものを選ぶ。拡大内視鏡は、狭帯域光観察(NBI)などの画像強調と組み合わせて粘膜表面の微小血管や表面構造を詳しく観察でき、病変の範囲(切除範囲)の決定や組織型の推定に役立つ。超音波内視鏡(EUS)は胃壁の層構造を描出し、癌がどの層まで達しているか(深達度)を評価できる。どちらも内視鏡治療の適応判断に直結する検査である。一方、経鼻内視鏡は苦痛の少ないスクリーニング向けの細径内視鏡であり、カプセル内視鏡とバルーン内視鏡は主に小腸(カプセルは大腸も)を観察する検査で、胃癌の精密評価には用いない。
選択肢考察
- ○a. 拡大内視鏡
拡大内視鏡は粘膜を光学的に数十倍以上に拡大して観察できる内視鏡である。NBI(narrow band imaging:狭帯域光観察)などの画像強調観察と組み合わせると、粘膜表層の微小血管構築や表面微細構造の不整を捉えられる。これにより、癌と周囲の非癌粘膜との境界(側方範囲)を正確に決めて、ESDの切除範囲を設定できる。また、血管や表面構造のパターンから分化型か未分化型かの推定にも役立つ。範囲と組織型は内視鏡治療の適応判断に必要な情報であり、治療方針の決定に有用である。
- ×b. 経鼻内視鏡
経鼻内視鏡は先端径5〜6mm程度の細い内視鏡を鼻から挿入する方法で、咽頭反射が少なく苦痛が軽いため、検診などのスクリーニングで広く用いられる。しかし細径であるため、通常の経口内視鏡に比べて画質・光量・処置用の鉗子口などの面で制約があり、拡大観察や超音波による深達度評価もできない。経口内視鏡ですでに見つかっている病変について、治療方針に必要な追加情報を得る目的には適さない。
- ○c. 超音波内視鏡
超音波内視鏡(EUS:endoscopic ultrasonography)は、内視鏡の先端に超音波探触子を備え、胃の内腔から胃壁を描出する検査である。胃壁は超音波では通常5層構造として描出され、腫瘍によってどの層が途絶・肥厚しているかから、癌が粘膜内にとどまるか、粘膜下層以深に及ぶかといった深達度を評価できる。深達度は内視鏡的切除の適応か外科手術かを分ける最も重要な因子の一つであり、治療方針の決定に有用である。周囲リンパ節の腫大の評価にも用いられる。なお、深達度診断は通常の内視鏡所見を基本とし、判断に迷う場合にEUSを追加するのが一般的である。
- ×d. カプセル内視鏡
カプセル内視鏡は小型カメラを内蔵したカプセルを飲み込み、消化管を通過する間に撮影した画像を体外の記録装置に送る検査である。日本では小腸用と大腸用が保険適用となっており、原因不明の消化管出血などで小腸を観察する目的が中心である。胃内では観察方向を制御できず、送気もできないため胃の詳細な観察には向かない。拡大観察や深達度評価、生検もできず、胃癌の治療方針決定には役立たない。
- ×e. バルーン内視鏡
バルーン内視鏡(ダブルバルーン内視鏡、シングルバルーン内視鏡)は、内視鏡やオーバーチューブにつけたバルーンを膨らませて腸管を固定し、たぐり寄せながら深部へ進める方法である。主に小腸の観察と、生検・止血・ポリープ切除などの処置に用いられる。胃は通常の内視鏡で十分に到達できる部位であり、胃癌の評価に用いる意味はない。
胃癌の深達度と早期胃癌
胃壁は内側から粘膜(M)、粘膜下層(SM)、固有筋層(MP)、漿膜下層(SS)、漿膜(SE)からなる。癌が粘膜または粘膜下層までにとどまるもの(T1:T1a=M、T1b=SM)を、リンパ節転移の有無にかかわらず早期胃癌という。
内視鏡的切除の適応(日本の胃癌治療ガイドラインの考え方の概略)
・内視鏡的切除の対象はリンパ節転移の可能性がきわめて低い病変で、原則として粘膜内癌(cT1a)である。 ・分化型で潰瘍(瘢痕)のない粘膜内癌は大きさを問わずESDの適応となる。分化型で潰瘍を伴う場合は3cm以下が適応となる。 ・未分化型の粘膜内癌は、潰瘍がなく2cm以下のものが適応となる。 ・EMRは2cm以下の潰瘍のない分化型粘膜内癌が対象とされる。 切除後は病理学的に深達度、脈管侵襲、断端などを評価し、根治性を判定する。根治が得られなければ追加の外科切除を検討する。
胃癌の術前評価に用いる検査
・通常内視鏡+生検:存在診断、組織型の確定、肉眼型・深達度の推定。 ・色素内視鏡(インジゴカルミン散布)、画像強調観察(NBIなど)・拡大内視鏡:範囲診断、質的診断。 ・超音波内視鏡:深達度、周囲リンパ節の評価。 ・造影CT:リンパ節転移、肝転移などの遠隔転移、腹水の評価。 ・上部消化管造影:病変の位置や胃全体との関係の把握(術式決定の参考)。
各種内視鏡の主な用途
・経鼻内視鏡:苦痛の少ないスクリーニング。 ・カプセル内視鏡:小腸(原因不明の消化管出血など)、大腸。 ・バルーン内視鏡:小腸の観察と処置、術後再建腸管でのERCPなど。
POINT
・早期胃癌の治療方針(内視鏡的切除か外科手術か)は、深達度、組織型、大きさ、潰瘍の有無で決まる。 ・拡大内視鏡(NBI併用)は病変の範囲と組織型の推定に有用。 ・超音波内視鏡は胃壁の層構造から深達度を評価できる。 ・経鼻内視鏡はスクリーニング向け、カプセル内視鏡・バルーン内視鏡は主に小腸の検査であり、胃癌の精査には用いない。
