StudyMed医師国家試験

「眠れない」はフレイルの物差しではない―Fried基準5項目で見抜く要介護の手前

第113回医師国家試験 F問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第27問

身体的フレイルの評価基準として誤っているのはどれか。

  1. a.易疲労感
  2. b.握力の低下
  3. c.睡眠時間の短縮
  4. d.歩行速度の低下
  5. e.日常生活活動量の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者診療の基本である「身体的フレイル」をどう判定するかを問う問題だ。フレイルという言葉の意味と、国際的に使われている判定基準の中身を正確に覚えているかがポイントになる。まず、フレイルってどんな状態だと理解しているかな。
医学生医学生
虚弱、つまり年をとって弱った状態ですよね。要介護とはどう違うんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だね。フレイルは、加齢で筋力や予備能力が落ちて、感染症や転倒といった小さなストレスをきっかけに要介護や死亡へ移行しやすくなった状態をいう。健康と要介護の中間にあたり、適切に介入すれば健康な状態に戻りうる、つまり可逆性があるのが最大の特徴なんだ。
医学生医学生
戻れる段階だからこそ、早く見つける物差しが必要なわけですね。
ドクタードクター
その通り。身体的フレイルの判定には、Friedらが提唱した表現型モデル、いわゆるCHS基準が国際的に使われている。日本ではそれを日本人向けに改変したJ-CHS基準がある。項目は5つ。思い出せるかな。
医学生医学生
老年医学の講義で聞いた気がします……握力と歩行速度は覚えているんですが、あとは睡眠とか食欲でしたっけ。
ドクタードクター
惜しいけれど、そこが今回の落とし穴だ。5項目は、意図しない体重減少、疲労感、身体活動量の低下、歩行速度の低下、握力の低下。3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしで健常と判定する。
医学生医学生
じゃあ易疲労感、握力の低下、歩行速度の低下、日常生活活動量の低下は全部入っていて、睡眠時間の短縮だけが含まれない。誤っているのは睡眠時間の短縮ですね。
ドクタードクター
正解。高齢になると睡眠が浅く、総睡眠時間も短くなりやすいけれど、それは生理的な加齢変化の一つで、要介護へ移行しやすい脆弱性を見分ける判定項目にはなっていないんだ。一つずつ中身も確認しておこう。疲労感はどう評価すると思う?
医学生医学生
自己申告ですよね。客観的に測るのは難しそうです。
ドクタードクター
そう。J-CHS基準では「ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする」に当てはまるかを尋ねる。活力の低下を反映する自覚症状だね。握力は全身の筋力を簡便に反映する指標で、2020年改定版では男性28kg未満、女性18kg未満を低下とする。これはアジアのサルコペニア診断基準AWGS 2019と同じ数値だ。
医学生医学生
臨床実習の総合診療科で、外来の高齢の方に握力計を握ってもらったことがあります。歩行速度はどれくらいが目安ですか。
ドクタードクター
通常歩行速度で1.0m/秒未満を低下とする。歩行速度は下肢筋力やバランスを含めた身体機能の総合指標で、将来のADL低下や死亡を予測するとされている。身体活動量は「軽い運動・体操をしているか」「定期的な運動・スポーツをしているか」の両方に「していない」と答えた場合に該当する。体重減少は6か月で2kg以上の意図しない減少が目安だ。
医学生医学生
握力と歩行速度って、サルコペニアの診断にも出てきますよね。フレイルとサルコペニアは同じものなんですか。
ドクタードクター
重なりは大きいけれど同じではない。サルコペニアは骨格筋量の減少に筋力低下か身体機能低下を伴う状態で、身体的フレイルの中核をなす病態と考えるといい。フレイルにはさらに、認知機能低下や抑うつなどの精神・心理的フレイル、独居や閉じこもりなどの社会的フレイルという側面もあって、互いに影響し合う。
医学生医学生
身体だけ見ていても不十分ということですね。
ドクタードクター
そう。臨床で意識してほしいのがフレイル・サイクルだ。低栄養から筋肉量が減り、筋力と基礎代謝が落ち、活動量とエネルギー消費が減って食欲が落ち、さらに低栄養になる、という悪循環。だから介入の柱は、レジスタンス運動、たんぱく質を中心とした栄養摂取、そして社会参加の促進になる。
医学生医学生
運動だけ、栄養だけ、ではなく、悪循環をどこからでも断ち切る発想なんですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。外来で「最近疲れやすい」「歩くのが遅くなった」という訴えを、年のせいで片づけずに拾い上げることが、要介護を防ぐ第一歩になるよ。

まとめ

フレイルは加齢により予備能力が低下し、小さなストレスで要介護や死亡に移行しやすくなった状態で、適切な介入で健康な状態に戻りうる可逆性をもつ点が重要です。身体的フレイルの判定にはFriedのCHS基準(日本ではJ-CHS基準)が用いられ、体重減少、疲労感、身体活動量の低下、歩行速度の低下(1.0m/秒未満)、握力の低下(男性28kg未満、女性18kg未満)の5項目のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定します。睡眠時間の短縮は加齢でよくみられる変化ですが、判定項目には含まれません。フレイルはサルコペニアを中核とし、精神・心理的、社会的側面とも相互に影響するため、運動・栄養・社会参加を組み合わせてフレイル・サイクルを断ち切る介入が求められます。判定項目を正確に押さえることは、高齢者の早期発見と要介護予防の実践に直結します。

解答・解説

正解はcです

フレイル(frailty)とは、加齢によって筋力や予備能力が落ち、感染症や転倒などの小さなストレスをきっかけに要介護状態や死亡へ移行しやすくなった状態をいう。健康な状態と要介護状態の中間にあたり、適切な介入を行えば健康な状態へ戻りうる(可逆性がある)点が重要である。 身体的フレイルの判定には、Friedらが提唱した表現型モデル(Cardiovascular Health Study:CHS基準)が国際的に広く使われている。CHS基準は次の5項目からなる。 1. 体重減少(意図しない体重減少) 2. 疲労感・易疲労感(自己申告による疲れやすさ) 3. 身体活動量の低下 4. 歩行速度の低下 5. 筋力の低下(握力の低下) 5項目のうち3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目ならプレフレイル(フレイル予備群)、該当なしなら健常と判定する。日本ではこれを日本人向けに改変した日本版CHS基準(J-CHS基準)が用いられている。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。選択肢のうち易疲労感、握力の低下、歩行速度の低下、日常生活活動量の低下はいずれも上記の5項目に含まれる。睡眠時間の短縮は加齢に伴ってよくみられる変化ではあるが、フレイルの判定項目には含まれていない。したがって睡眠時間の短縮が誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  易疲労感

    評価基準に含まれる(誤りではない)。疲労感はCHS基準の1項目である。J-CHS基準では「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に当てはまるかどうかを質問して判定する。体力や持久力が落ち、活力が低下していることを反映する自覚症状である。

  2. ×b.  握力の低下

    評価基準に含まれる(誤りではない)。握力は全身の筋力を簡便に反映する指標で、CHS基準では「筋力低下」の項目として測定する。現行のJ-CHS基準(2020年改定版)では、利き手の握力が男性28kg未満、女性18kg未満を低下とする。これはアジアのサルコペニア診断基準(AWGS 2019)と同じ数値である。改定前の基準では男性26kg未満とされていた。握力低下はサルコペニア(加齢に伴う骨格筋量・筋力の低下)の診断項目でもある。

  3. ○c.  睡眠時間の短縮

    評価基準に含まれないため、これが誤りであり正解となる。高齢になると睡眠が浅くなり、総睡眠時間も短くなりやすい。しかしこれは生理的な加齢変化の一つであり、要介護へ移行しやすい脆弱な状態を見分けるための身体的フレイルの判定項目(体重減少、疲労感、活動量低下、歩行速度低下、握力低下)には入っていない。

  4. ×d.  歩行速度の低下

    評価基準に含まれる(誤りではない)。歩行速度は下肢筋力やバランス能力などを含めた身体機能を総合的に表す指標で、将来のADL(activities of daily living:日常生活動作)低下や死亡を予測するとされる。J-CHS基準では通常歩行速度1.0m/秒未満を低下とする。サルコペニアの身体機能評価にも用いられる。

  5. ×e.  日常生活活動量の低下

    評価基準に含まれる(誤りではない)。身体活動量の低下はCHS基準の1項目である。J-CHS基準では「軽い運動・体操をしているか」「定期的な運動・スポーツをしているか」の2つの質問にいずれも「していない」と答えた場合に該当とする。活動量が落ちると外出や人との交流が減って閉じこもりがちになり、筋力低下が進むという悪循環に陥りやすい。

J-CHS基準(2020年改定版)の概要

・体重減少:6か月で2kg以上の意図しない体重減少 ・筋力低下:握力 男性28kg未満、女性18kg未満 ・疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする ・歩行速度:通常歩行速度1.0m/秒未満 ・身体活動:軽い運動・体操も、定期的な運動・スポーツもしていない →3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル、0項目で健常。

フレイルの多面性

フレイルには身体的フレイルのほか、認知機能低下や抑うつなどの精神・心理的フレイル、独居・閉じこもり・経済的困窮などの社会的フレイルがある。これらは互いに影響し合う。

フレイル・サイクル

低栄養→筋肉量減少(サルコペニア)→筋力・基礎代謝の低下→活動量・エネルギー消費の低下→食欲低下→さらなる低栄養、という悪循環が形成される。運動(とくにレジスタンス運動)と、たんぱく質を中心とした栄養摂取、社会参加の促進が介入の柱となる。

サルコペニアとの関係

サルコペニアは骨格筋量の減少に筋力低下または身体機能低下を伴う状態で、AWGS 2019(Asian Working Group for Sarcopenia 2019)では、筋力を握力(男性28kg未満、女性18kg未満)で、身体機能を6m通常歩行速度(1.0m/秒未満)、5回椅子立ち上がりテスト(12秒以上)、SPPB(Short Physical Performance Battery、9点以下)のいずれかで評価する。歩行速度のカットオフは、旧版のAWGS 2014では0.8m/秒未満であったが、2019年改訂で1.0m/秒未満に引き上げられ、J-CHS基準と同じ値になった(欧州のEWGSOP2では0.8m/秒以下)。身体的フレイルの中核をなす病態である。

POINT

・身体的フレイルの評価(Fried/CHS基準)は、体重減少、疲労感、身体活動量低下、歩行速度低下、握力低下の5項目である。 ・3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定する。 ・睡眠時間の短縮は判定項目に含まれない。 ・フレイルは可逆性のある「要介護の手前」の状態であり、早期発見と介入(運動・栄養・社会参加)が重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。