勃起は仙髄、射精は胸腰髄―自律神経で解く男性性機能の司令塔
第113回医師国家試験 F問題 第16問
国試問題にチャレンジ
射精の中枢があるのはどれか。
- a.大脳皮質
- b.橋
- c.頸胸髄
- d.胸腰髄
- e.腰仙髄
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
射精の中枢は下部胸髄から上部腰髄(おおむねTh10〜L2付近)の胸腰髄にあり、交感神経が精管・精嚢・前立腺の平滑筋を収縮させて精液を後部尿道へ送り出し、同時に膀胱頸部を閉じて逆行性射精を防ぎます。続く精液の排出は仙髄S2〜S4から出る陰部神経による球海綿体筋の収縮が担い、一方で仙髄の副交感神経(骨盤内臓神経)は勃起中枢として働きます。大脳皮質や視床下部は上位からの調節役であり、橋にあるのは排尿中枢である点も混同しやすいポイントです。後腹膜リンパ節郭清による交感神経損傷、糖尿病性自律神経障害、α1遮断薬などは射精障害の原因となるため、「勃起は副交感(仙髄)、射精は交感(胸腰髄)」という対比は、泌尿器科・外科の術後合併症や薬の副作用を理解する土台になります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
男性の性機能(勃起・射精)を制御する神経中枢の位置を問う問題である。勃起と射精は、いずれも脊髄レベルの反射を基本とし、大脳・視床下部などの上位中枢がそれを促進・抑制するという構造をもつ。試験では「勃起は副交感神経(仙髄)、射精は交感神経(胸腰髄)」という対比で整理しておくことが最も重要である。
射精の二つの相
射精は時間的に二つの段階に分けられる。 1. 射出(emission):精巣上体尾部・精管・精嚢・前立腺の平滑筋が収縮し、精子と精漿が後部尿道(前立腺部尿道)へ送り出される段階である。同時に膀胱頸部(内尿道括約筋)が閉鎖し、精液が膀胱へ逆流するのを防ぐ。これらは交感神経の働きであり、その節前ニューロンは下部胸髄から上部腰髄(おおむねTh10〜L2付近)の側角(中間外側核)にある。ここから出た線維は交感神経幹・腰内臓神経を経て上下腹神経叢・下腹神経から骨盤内の生殖器へ至る。 2. 狭義の射精(expulsion):後部尿道にたまった精液が、球海綿体筋・坐骨海綿体筋などの骨盤底横紋筋の律動的収縮によって外尿道口から勢いよく排出される段階である。これは仙髄(S2〜S4)のオヌフ核から出る体性神経(陰部神経)が担う。
反射弧
亀頭などの陰茎からの感覚刺激は陰部神経(陰茎背神経)を通って脊髄に入り、胸腰髄の交感神経ニューロンと仙髄の運動ニューロンを協調して興奮させる。この脊髄内の射精反射の発生装置(spinal ejaculation generator)が上部腰髄にあることが知られており、射精反射の中枢は「胸腰髄」と位置づけられる。 以上から、射精の中枢として最も適切なのは胸腰髄である。
選択肢考察
- ×a. 大脳皮質
大脳皮質は視覚・聴覚・想像などによる性的興奮を生み出し、その情報を視床下部(内側視索前野など)を介して脊髄の中枢へ伝える。射精を促進・抑制する上位の調節には関わるが、射精反射そのものの中枢は脊髄にあり、大脳皮質ではない。実際、上位の脊髄損傷で脳からの連絡が絶たれていても、陰茎への刺激で反射性に射精が起こりうる(ただし損傷部位によっては困難になる)。
- ×b. 橋
橋(脳幹)には大脳・視床下部から脊髄へ向かう下行路が通過しており、性機能に関わる信号の通り道にはなるが、射精中枢は存在しない。橋に中枢があることで有名なのは排尿中枢(橋排尿中枢、Barrington核)であり、混同しないよう注意する。なお延髄の一部(傍巨細胞核)は射精反射を抑制する方向に働くとされる。
- ×c. 頸胸髄
頸髄下部〜上部胸髄の側角には、頭頸部・上肢・心臓などへ向かう交感神経の節前ニューロンがある(例:Th1〜Th2付近の障害でHorner症候群)。骨盤内の生殖器を支配する交感神経はそれより下位の下部胸髄〜上部腰髄から出るため、頸胸髄は射精中枢ではない。
- ○d. 胸腰髄
下部胸髄から上部腰髄(おおむねTh10〜L2付近)の側角にある交感神経ニューロンが射精の中枢である。ここから出た交感神経線維は腰内臓神経・下腹神経を経て精巣上体・精管・精嚢・前立腺の平滑筋を収縮させ(射出)、同時に膀胱頸部を閉鎖して逆行性射精を防ぐ。射精反射を統合する脊髄内の発生装置も上部腰髄に存在する。このため後腹膜リンパ節郭清などで腰部交感神経が損傷されると、射精障害(射出障害・逆行性射精)が起こる。
- ×e. 腰仙髄
仙髄(S2〜S4)にあるのは勃起中枢である。ここから出る副交感神経(骨盤内臓神経)が陰茎海綿体の血管を拡張させ、反射性勃起を起こす。また仙髄から出る陰部神経は、射精の後半(精液を外へ押し出す球海綿体筋の収縮)にも関わるが、射精を統括する中枢として挙げられるのは胸腰髄であり、本選択肢は誤りとされる。
男性性機能と自律神経の整理
・勃起:主に副交感神経(仙髄S2〜S4→骨盤内臓神経→海綿体神経)。神経終末や血管内皮から一酸化窒素(NO)が放出され、cGMPが増えて海綿体平滑筋が弛緩し、血液が流入する。陰茎への直接刺激による「反射性勃起」は仙髄中枢を介し、性的想像などによる「心因性勃起」には胸腰髄の経路も関与する。 ・射出(emission):交感神経(胸腰髄Th10〜L2付近→下腹神経)。精管・精嚢・前立腺の収縮と膀胱頸部の閉鎖。 ・射精(expulsion):体性神経(仙髄S2〜S4→陰部神経)。球海綿体筋・坐骨海綿体筋の律動的収縮。 ・語呂として「Point(勃起)は副交感(Parasympathetic)、Shoot(射精)は交感(Sympathetic)」と覚えるとよい。
上位中枢
大脳皮質・辺縁系・視床下部(内側視索前野、室傍核)が性的興奮を統合し、下行路を通じて脊髄中枢を調節する。セロトニン系は射精を抑制する方向に働くため、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は射精遅延の副作用をもち、早漏の治療に応用されることがある。
臨床との関連
・射精障害の原因:精巣腫瘍に対する後腹膜リンパ節郭清、直腸癌手術などでの腰部交感神経・下腹神経損傷、糖尿病性自律神経障害、α1遮断薬(特にシロドシンなどのα1A選択的遮断薬)による射精障害、前立腺手術後の逆行性射精。 ・脊髄損傷:損傷レベルにより勃起・射精機能の残り方が異なる。射精困難例では陰茎への振動刺激や電気射精で精液を採取することがある。
混同しやすい中枢
・排尿中枢:橋(橋排尿中枢)が排尿反射を統合し、仙髄(S2〜S4)が膀胱収縮(副交感神経)を担う。蓄尿には胸腰髄(Th11〜L2付近)の交感神経(下腹神経)が関与する。
POINT
・射精中枢は胸腰髄(下部胸髄〜上部腰髄の交感神経)。 ・勃起中枢は仙髄(S2〜S4、副交感神経=骨盤内臓神経)。 ・射精は射出(交感神経:精管・精嚢・前立腺の収縮+膀胱頸部閉鎖)と狭義の射精(陰部神経:球海綿体筋の収縮)からなる。 ・腰部交感神経の損傷(後腹膜リンパ節郭清など)で射精障害・逆行性射精が起こる。 ・橋にあるのは排尿中枢であり、射精中枢ではない。
