StudyMed医師国家試験

「入院中心から地域へ」―数字と制度で読み解く日本の精神保健福祉

第113回医師国家試験 F問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第11問

我が国の精神保健福祉について正しいのはどれか。

  1. a.自殺者数は男性よりも女性の方が多い。
  2. b.精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。
  3. c.精神障害は障害者の雇用の促進等に関する法律の対象とならない。
  4. d.精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。
  5. e.精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本の精神保健福祉の制度と統計をまとめて問う問題だ。一つひとつ暗記で片づけることもできるけれど、「入院医療中心から地域生活中心へ」という改革の流れを軸にすると、選択肢の正誤がぐっと判断しやすくなる。まずは自殺の統計から考えてみよう。自殺者数は男女どちらが多いと思う?
医学生医学生
うつ病は女性に多いと精神科の講義で習ったので、自殺者も女性が多いのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。うつ病の有病率や自殺未遂、自殺念慮は女性に多いとされる。でも自殺で亡くなる人、つまり既遂者は一貫して男性が多く、おおむね女性の2倍以上なんだ。年齢でみると中高年男性に多い。総数は2003年ごろの約3万4千人をピークに減って、近年は2万人台前半で推移しているけれど、男性優位という構図は変わっていない。
医学生医学生
未遂と既遂で性差が逆になるんですね。公衆衛生の講義で聞いた気がしますが、混同していました。
ドクタードクター
次は医療計画。医療法に基づいて都道府県がつくる計画で、重点的に医療連携体制を整える疾病を「5疾病」と呼ぶ。中身は言えるかな。
医学生医学生
がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病……あと一つが精神疾患でしょうか。CBTの勉強では最初「4疾病5事業」と覚えた気がして不安です。
ドクタードクター
その記憶は間違いじゃないよ。もともとは4疾病だったんだ。うつ病などの気分障害や認知症の増加で精神疾患の患者数が300万人を超える規模になり、2013年度からの医療計画で精神疾患が加わって5疾病になった。だから「精神疾患は医療計画の5疾病に含まれる」という記述が正しい。なお2024年度からの第8次医療計画では事業に新興感染症への対応が加わって5疾病6事業になったけれど、5疾病の構成は変わっていない。
医学生医学生
では障害者雇用の話はどうですか。精神障害は手帳もあるし、対象外ということはなさそうですが。
ドクタードクター
その感覚で正解。障害者雇用促進法の対象は、身体障害、知的障害、そして発達障害を含む精神障害などによって職業生活に長期にわたり相当の制限を受ける人だ。さらに2018年からは、精神障害者保健福祉手帳をもつ人が事業主の雇用義務の対象、つまり法定雇用率の算定基礎にも加わった。だから「対象とならない」は誤りだね。
医学生医学生
精神科病床数はどうでしょう。日本は医療が整っているから、少ないということはない気がします。
ドクタードクター
むしろ逆の意味で有名なんだ。日本の人口当たり精神病床数はOECD諸国で最多レベル、平均在院日数も著しく長い。欧米は1960年代以降に病床を大幅に減らして地域ケアへ移行した、いわゆる脱施設化を進めたけれど、日本では民間精神科病院を中心に病床が維持されてきた。長期入院患者の地域移行は今も大きな政策課題だよ。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、何十年も入院している患者さんがいて驚きました。まさにその問題なんですね。
ドクタードクター
そうだね。最後は自立支援医療。障害者総合支援法に基づく精神通院医療は、通院医療費の自己負担を原則1割に軽減する制度だ。症状が落ち着いた維持治療期になったら打ち切られると思う?
医学生医学生
寛解したら支援は不要、と考えてしまいそうですが……再発予防のための通院も必要ですよね。
ドクタードクター
その通り。統合失調症や双極性障害、うつ病は維持療法が長く続くことが多い。寛解状態でも、それを保ち再発を防ぐために通院が必要なら引き続き対象になる。むしろ維持治療期こそ制度の意義が大きいんだ。認定の有効期間は1年で、必要に応じて更新する。
医学生医学生
まとめると、正しいのは精神疾患が5疾病に入っているという記述だけで、ほかは性差、雇用、病床数、支給期間の理解をそれぞれ逆に突いているんですね。
ドクタードクター
よく整理できたね。発展として法律の流れも押さえておこう。精神衛生法から、宇都宮病院事件を契機に人権擁護と社会復帰を重視した精神保健法へ、そして精神保健福祉法へと改正されてきた。2004年の改革ビジョンで「入院医療中心から地域生活中心へ」が示され、今は精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が進められている。
医学生医学生
医療計画への追加も、雇用義務化も、通院医療の支援も、全部その地域生活を支える方向につながっていますね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。臨床に出たら、退院支援や通院継続の場面で、自立支援医療や就労支援の制度を患者さんに紹介できるかどうかが、その人の地域生活を大きく左右する。制度の知識は試験のためだけでなく、患者さんを支える道具だと思って覚えておこう。

まとめ

医療法に基づく医療計画の5疾病は、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患であり、精神疾患は患者数の増加を背景に2013年度から加えられました。自殺者数は男性が女性の2倍以上で、うつ病や自殺未遂が女性に多いこととの混同に注意が必要です。障害者雇用促進法は精神障害(発達障害を含む)も対象とし、2018年からは雇用義務の対象にもなりました。日本の人口当たり精神病床数はOECD諸国で最多レベルで在院日数も長く、自立支援医療(精神通院医療)は寛解後の維持治療期にも再発予防のために継続されます。「入院医療中心から地域生活中心へ」という改革の軸で制度を整理すると、個々の知識がつながり、臨床で患者の地域生活を支える際にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

我が国の精神保健福祉に関する制度と統計の基本を問う一般問題である。押さえるべき論点は、(1)自殺統計の性差、(2)医療法に基づく医療計画で重点的に扱われる疾病、(3)障害者雇用促進法の対象範囲、(4)国際比較からみた日本の精神科医療の特徴(病床の多さと入院の長期化)、(5)障害者総合支援法に基づく自立支援医療(精神通院医療)の対象、の5点である。 考え方としては、日本の精神保健医療福祉が「入院医療中心から地域生活中心へ」という方向で改革されてきた流れを軸にすると整理しやすい。精神疾患は患者数の増加を背景に医療計画の重点疾病に加えられ、雇用施策では精神障害者も他の障害と同様に支援・雇用義務の対象とされ、通院医療は再発予防を含めて長期に公費で支える仕組みになっている。一方で、日本は人口当たりの精神病床数が国際的に突出して多く、脱施設化の遅れが課題とされている。この流れに沿って各選択肢を検討すると、正しい記述は「精神疾患は医療計画の5疾病に含まれる」だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  自殺者数は男性よりも女性の方が多い。

    誤り。我が国の自殺者数は一貫して男性が女性を大きく上回っており、男性はおおむね女性の2倍以上である。例えば平成29年(2017年)の統計では男性約1万4,800人、女性約6,500人で、男性が約2.3倍であった。年間の自殺者総数は2003年の約3万4千人をピークに減少し、近年は2万人台前半で推移しているが、男性優位という構図は変わっていない。なお、自殺未遂者や自殺念慮・うつ病の有病率はむしろ女性に多いとされ、既遂者数との違いに注意する。

  2. ○b.  精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。

    正しい。都道府県が医療法に基づいて策定する医療計画では、がん、脳卒中、急性心筋梗塞(心筋梗塞等の心血管疾患)、糖尿病、精神疾患の5つが重点的に医療連携体制を整える疾病(5疾病)とされている。もともとは4疾病であったが、うつ病などの気分障害や認知症の増加により精神疾患の患者数が300万人を超える規模となったことから、平成25年度(2013年度)からの医療計画で精神疾患が追加され「5疾病5事業」となった。なお2024年度からの第8次医療計画では、事業に新興感染症発生・まん延時の医療が加わり「5疾病6事業」(および在宅医療)となっているが、5疾病の構成は変わらない。

  3. ×c.  精神障害は障害者の雇用の促進等に関する法律の対象とならない。

    誤り。障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)が対象とする障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他心身の機能の障害があるために、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける、または職業生活を営むことが著しく困難な者と定義されており、精神障害は明確に含まれる。さらに平成30年(2018年)4月からは、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の所持者)も事業主の雇用義務の対象として法定雇用率の算定基礎に加えられた。

  4. ×d.  精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。

    誤り。日本の人口当たり精神病床数はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最も多い水準にあり、OECD平均の数倍に達する。欧米諸国が1960年代以降に精神科病床を大幅に削減し地域ケアへ移行した(脱施設化)のに対し、日本では民間精神科病院を中心に病床が維持されてきた。精神病床の平均在院日数も諸外国と比べて著しく長く、長期入院患者の地域移行が国の重要な政策課題となっている。

  5. ×e.  精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。

    誤り。障害者総合支援法に基づく自立支援医療(精神通院医療)は、精神疾患のため継続的な通院医療を必要とする者を対象とし、医療費の自己負担を原則1割に軽減する(所得に応じて月額上限あり)。症状がほぼ消失して寛解状態にあっても、その状態を維持し再発を防ぐために通院治療が必要であれば支給の対象となり続ける。統合失調症や双極性障害、うつ病などは維持療法が長期にわたることが多いため、維持治療期こそこの制度の意義が大きい。認定の有効期間は1年で、必要に応じて更新する。

医療計画の5疾病・事業

医療計画は医療法に基づき都道府県が6年ごと(中間見直しは3年)に策定する。5疾病はがん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患。事業は救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療(小児救急を含む)の5事業に、第8次(2024年度〜)から新興感染症発生・まん延時の医療が加わり6事業となった。これに在宅医療の体制整備が加わる。

日本の精神保健医療福祉の流れ

精神衛生法(1950年)→精神保健法(1987年、宇都宮病院事件を契機に人権擁護と社会復帰を重視)→精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法、1995年)と改正されてきた。2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で「入院医療中心から地域生活中心へ」の方針が示され、現在は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が進められている。

障害者雇用促進法

事業主に一定割合以上の障害者の雇用を義務づける(法定雇用率)。法定雇用率は段階的に引き上げられており、民間企業では2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%とされている。2018年から精神障害者が雇用義務の対象に加わった。

自立支援医療

障害者総合支援法に基づき、精神通院医療(旧精神保健福祉法第32条)、更生医療(18歳以上の身体障害者)、育成医療(18歳未満の身体障害児)の3つから成る。精神通院医療の窓口は市町村で、判定は精神保健福祉センターが行う。

自殺対策

自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正)と自殺総合対策大綱に基づき対策が進められている。自殺者数は男性に多く、年齢階級別では中高年男性に多いが、若年層では死因の上位を自殺が占めることが問題とされる。

POINT

・医療計画の5疾病=がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患(精神疾患は2013年度から追加) ・自殺者数は男性が女性の2倍以上 ・障害者雇用促進法の対象には精神障害(発達障害を含む)が含まれ、2018年から雇用義務の対象 ・日本の人口当たり精神病床数はOECD諸国で最多レベル、平均在院日数も長い ・自立支援医療(精神通院医療)は寛解後の維持治療期・再発予防目的でも対象、自己負担は原則1割

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。