潜血陽性なのに「血尿なし」?―試験紙と沈渣を読み分ける尿検査のキホン
第113回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
16歳の女子。健診で尿潜血陽性を指摘され来院した。来院時尿所見:黄褐色で軽度混濁,比重1.020,pH 8.0,蛋白(±),糖(-),潜血(±),沈渣は赤血球1未満/HPF,白血球5~9/HPF,扁平上皮細胞5~9/HPF,硝子円柱1~4/WF〈全視野〉。 尿所見の評価について正しいのはどれか。
- a.膿尿はない。
- b.血尿はない。
- c.希釈尿である。
- d.酸性尿である。
- e.病的円柱がある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿検査では、試験紙法による定性検査と尿沈渣を区別して評価することが大切です。血尿は沈渣赤血球5個以上/HPF、膿尿は沈渣白血球5個以上/HPFで定義され、潜血反応はヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性をみるため、沈渣で赤血球がなければ潜血陽性でも血尿とは判定しません。潜血と沈渣の乖離は、アルカリ尿や低比重尿での溶血、ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿、月経血混入などで生じ、扁平上皮細胞が多い場合は採尿時の汚染を疑って中間尿で再検します。尿比重はおおむね1.005〜1.030、pHは5.0〜7.5が目安で、硝子円柱は生理的円柱、赤血球・白血球・顆粒・ろう様・脂肪円柱などが病的円柱です。各項目を基準と照らして読み分ける力は、健診での尿異常から腎疾患を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はbです
問題のテーマ
健診で尿潜血陽性を指摘された16歳女子の尿検査結果を、項目ごとに基準と照らして判定する問題である。尿定性検査(試験紙法)と尿沈渣(遠心した尿の沈殿物を顕微鏡で観察する検査)の結果を区別し、それぞれの判定基準を正確に知っているかが問われている。
各項目の評価
・外観:黄褐色で軽度混濁。混濁は白血球、上皮細胞、塩類(アルカリ尿ではリン酸塩が析出しやすい)などで生じる。 ・比重1.020:基準範囲(おおむね1.005〜1.030)内で、希釈尿でも著しい濃縮尿でもない。 ・pH 8.0:基準(おおむね5.0〜7.5、平均6前後)を超えるアルカリ尿である。 ・蛋白(±)、糖(-):有意な異常とはいえない。 ・潜血(±):試験紙法は赤血球中のヘモグロビン(およびミオグロビン)のペルオキシダーゼ様活性を検出する。 ・沈渣赤血球1未満/HPF:血尿の基準(5個以上/HPF)を満たさず、血尿はない。 ・沈渣白血球5〜9/HPF:膿尿の基準(5個以上/HPF)を満たす。 ・扁平上皮細胞5〜9/HPF:外尿道口や腟由来の細胞であり、採尿時の混入(汚染)を示唆する。 ・硝子円柱1〜4/WF:健常者でも少数みられる生理的な円柱であり、病的円柱ではない。
考え方
潜血反応が陽性でも、沈渣で赤血球が確認されなければ血尿とは判定しない。試験紙の潜血陽性と沈渣の赤血球数が乖離する原因には、アルカリ尿や低比重尿で赤血球が溶血して沈渣で見えなくなる場合、ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿、月経血の混入、ビタミンCなどの影響(偽陰性方向)がある。本例ではpH 8.0のアルカリ尿であり、赤血球が壊れやすい条件にあることも念頭に置く。また、扁平上皮細胞が多く採尿時の汚染が疑われるため、白血球の増加も汚染の影響を考慮し、中間尿の再検で確認するのが実際的である。ただし設問は「尿所見の評価」であり、数値上は膿尿の基準を満たす。
選択肢考察
- ×a. 膿尿はない。
尿沈渣で白血球5個以上/HPF(強拡大1視野あたり)を膿尿と判定する。本例は5〜9/HPFであり膿尿の基準を満たすため、「膿尿はない」は誤りである。なお、扁平上皮細胞が5〜9/HPFと多く、外陰部・腟からの汚染が混じっている可能性があるため、臨床的には外陰部を清拭した中間尿で再検し、尿路感染症かどうかを判断する。
- ○b. 血尿はない。
血尿は尿沈渣で赤血球5個以上/HPFと定義される。本例の沈渣赤血球は1未満/HPFであり、試験紙法で潜血(±)であっても血尿はないと判定する。潜血反応はヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性をみる化学反応なので、赤血球そのものがなくても、溶血したヘモグロビンやミオグロビンで陽性となりうる。とくにアルカリ尿(本例はpH 8.0)や低比重尿では赤血球が溶解しやすく、沈渣で赤血球が見えにくくなるため、必要に応じて新鮮尿で再検する。
- ×c. 希釈尿である。
尿比重の基準はおおむね1.005〜1.030(随時尿では1.010〜1.025程度が目安)であり、1.010未満が続く場合を低比重尿(希釈尿)と考える。本例の比重1.020は基準範囲内で、希釈尿ではない。持続する低比重尿は、多飲(心因性多飲症)、尿崩症、腎の濃縮力障害などでみられる。
- ×d. 酸性尿である。
尿pHは通常5.0〜7.5程度で、食事内容などにより変動するが平均6前後の弱酸性である。本例のpH 8.0はアルカリ尿であり、酸性尿ではない。アルカリ尿は、植物性食品の多い食事、食後のアルカリ潮(胃酸分泌に伴う一過性のアルカリ化)、ウレアーゼ産生菌(プロテウスなど)による尿路感染症、採尿後の長時間放置、尿細管性アシドーシス(とくに遠位型)、制酸薬・重炭酸ナトリウムの投与などでみられる。
- ×e. 病的円柱がある。
円柱は、尿細管(主にHenleループの太い上行脚)から分泌されるTamm-Horsfall蛋白(ウロモジュリン)が尿細管内で固まり、その形を写し取ったものである。基質だけからなる硝子円柱は、健常者でも少数みられ、濃縮尿、脱水、激しい運動後、酸性尿などで増えやすい生理的円柱である。本例の硝子円柱1〜4/WFは病的意義に乏しい。病的円柱とは、赤血球円柱、白血球円柱、上皮円柱、顆粒円柱、ろう様円柱、脂肪円柱など、細胞成分や変性物を含む円柱を指す。
尿検査の主な基準(目安)
・比重:1.005〜1.030。1.010付近に固定する場合を等張尿(腎の濃縮・希釈力がともに低下した状態、慢性腎不全など)という。 ・pH:5.0〜7.5(平均6前後)。 ・血尿:尿沈渣赤血球5個以上/HPF。肉眼で赤い場合を肉眼的血尿、顕微鏡でのみわかる場合を顕微鏡的血尿という。 ・膿尿:尿沈渣白血球5個以上/HPF。
病的円柱と疾患の対応
・赤血球円柱:糸球体からの出血を示し、糸球体腎炎(IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、ループス腎炎など)を示唆する。 ・白血球円柱:腎実質の炎症、急性腎盂腎炎や間質性腎炎を示唆する。 ・上皮円柱・顆粒円柱:尿細管障害(急性尿細管壊死など)でみられる。顆粒円柱は細胞成分が変性したもの。 ・ろう様円柱:尿細管内での長期の停滞を示し、高度の腎障害(慢性腎不全)でみられる。 ・脂肪円柱:ネフローゼ症候群でみられる(卵円形脂肪体も伴う)。
尿潜血陽性と沈渣の乖離
・潜血陽性・沈渣赤血球なし:溶血(アルカリ尿、低比重尿、長時間放置)、ヘモグロビン尿(血管内溶血)、ミオグロビン尿(横紋筋融解症)。 ・潜血陰性・沈渣赤血球あり(偽陰性):アスコルビン酸(ビタミンC)の大量摂取など。 ・女性では月経血の混入による偽陽性に注意し、月経期を避けて再検する。
扁平上皮細胞の意義
扁平上皮は外尿道口・腟など下部の被覆上皮由来であり、多数認められる場合は採尿時の汚染を示唆する。この場合、白血球や細菌の増加も汚染による可能性があり、中間尿を正しく採取して再検する。
POINT
・血尿:沈渣赤血球5個以上/HPF。試験紙の潜血陽性だけでは血尿と判定しない。 ・膿尿:沈渣白血球5個以上/HPF。 ・尿比重の基準はおおむね1.005〜1.030、尿pHはおおむね5.0〜7.5(pH 8.0はアルカリ尿)。 ・硝子円柱は健常者でもみられる生理的円柱。赤血球・白血球・上皮・顆粒・ろう様・脂肪円柱が病的円柱。 ・扁平上皮細胞が多い尿は採尿時の汚染を疑う。
