うつむく少年の声を聴く―不登校診療は「傾聴」から始まる
第113回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。不登校を主訴に母親と来院した。高校受験を控えた中学3年生。この2か月,朝起きることができないため学校に行っていない。午前中は頭痛,腹痛などの症状を訴え,ベッドの中にいるが,夕方から夜になると元気になり,深夜遅くまでゲームや勉強をしている。学校から病気の可能性を確認するために医療機関を受診するように言われて受診した。母親は「本人が勉強嫌いで学校をさぼっている。ゲームばかりして夜更かしするので朝起きられない」と感情的に主張し,その隣で患者はうつむいて黙っている。 まず行うべきこととして適切なのはどれか。
- a.患者に登校を促す。
- b.患者の話を傾聴する。
- c.患者に睡眠薬を処方する。
- d.母親に抗不安薬を処方する。
- e.母親の対応を厳しく注意する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不登校の思春期患者を前にしたとき、保護者の解釈だけで判断せず、まず本人の話を傾聴して信頼関係を築くことが診療の出発点です。朝に強く夕方以降に軽快する頭痛・腹痛や起床困難は起立性調節障害を考える手がかりとなり、睡眠・覚醒相後退型の概日リズム障害、受験ストレスやいじめ、うつ病などの心理社会的要因も含めて幅広く評価します。評価前の登校刺激、原因不明のままの睡眠薬処方、母親への処方や批判は、本人や家族との関係を損ない得るため避けるべきです。本人だけと話す時間を設け、保護者の苦労にも共感しながら双方と協力関係を築く姿勢は、思春期医療や家族を巻き込む診療全般で役立つ基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・15歳男子、高校受験を控えた中学3年生:思春期で、進路や学業の負担が大きい時期である。 ・2か月前から朝起きられず不登校:一過性ではなく、ある程度持続している。 ・午前中に頭痛・腹痛を訴えて臥床し、夕方から夜にかけて元気になる:症状に明確な日内変動がある。 ・深夜までゲームや勉強をしている:就寝時刻が遅れ、生活リズムが夜型にずれている。勉強も続けており、学習意欲そのものが失われているとは言い切れない。 ・学校から医療機関の受診を勧められた:本人が自ら望んで受診したわけではない。 ・母親は「勉強嫌いでさぼっている」と感情的に主張し、本人はうつむいて黙っている:母子間の意思疎通がうまくいっておらず、本人は萎縮して自分の考えを語れていない。
考えられる背景
朝の不調と午後以降の回復という経過からは、起立性調節障害(自律神経の働きが不十分で、起立時に脳への血流が保てず朝に強い症状が出る)や、概日リズム睡眠・覚醒障害の睡眠・覚醒相後退型(体内時計が後ろにずれて朝起きられない)などの身体的要因が考えられる。一方で、学校での人間関係(いじめを含む)、受験のプレッシャー、家庭内の葛藤、抑うつや不安障害といった心理社会的要因も否定できない。現時点では、これらのどれが主体なのかを判断する材料がそろっていない。
まず何をすべきか
情報の大部分は母親の解釈によるもので、本人自身の言葉はまだ一つも得られていない。本人が困っていること、体の症状の具体的な様子、学校や家庭で何が起きているかを知るには、本人から直接話を聞くしかない。また、本人は受診に積極的でない可能性があり、母親の前で萎縮しているため、医師が本人の味方として話を受け止める姿勢を示し、信頼関係(ラポール)を築くことが診断と支援の出発点となる。したがって、まず行うべきは患者の話を傾聴することである。必要に応じて母親とは別々に話を聞く場を設けるのも有効である。
選択肢考察
- ×a. 患者に登校を促す。
不登校の原因が身体疾患なのか、心理的な問題なのか、学校での出来事なのかがまだわからない段階で登校を勧めるのは適切でない。原因によっては症状を悪化させたり、本人を追い詰めたりするおそれがある。また、母親の主張に医師が同調していると本人に受け取られれば、医師との信頼関係を築くことが難しくなる。登校の再開は、原因を評価し、本人の意向を確かめたうえで、段階的に検討すべき目標である。
- ○b. 患者の話を傾聴する。
現時点で得られている情報は母親の見方に偏っており、本人がなぜ学校に行けないのか、どのような症状にどの程度困っているのかは確認できていない。本人の話を否定せずに聞き取ることで、起立性調節障害や睡眠リズムの障害を疑う症状の詳細(立ちくらみ、起立時の動悸、入眠時刻など)、いじめや受験のストレス、抑うつ症状の有無など、鑑別と支援に必要な情報が得られる。また、思春期の患者で、しかも保護者の前で黙り込んでいる状況では、医師が本人の立場に耳を傾ける姿勢そのものが信頼関係の構築につながり、その後の診療の土台となる。
- ×c. 患者に睡眠薬を処方する。
本人は不眠を訴えておらず、朝起きられない理由が不眠症によるのか、体内時計のずれや起立性調節障害、生活習慣によるのかも評価されていない。原因がはっきりしないまま薬物療法を始めるのは不適切である。夜型の生活リズムに対しては、起床時刻の固定、朝の光を浴びる、夜間の画面使用を控えるなどの生活指導がまず優先される。また、睡眠薬によって翌朝の眠気が残れば、かえって朝の不調を悪化させるおそれもある。
- ×d. 母親に抗不安薬を処方する。
母親は感情的になってはいるが、それは子どもの不登校に対する心配や戸惑いの表れとも考えられ、病的な不安障害があるとは判断できない。そもそも受診の目的は患者本人の評価であり、母親の診察も行わないまま薬を処方するのは筋違いである。母親に対しては、不調の背景について説明し、困りごとに共感しながら協力関係を築くことが求められる。
- ×e. 母親の対応を厳しく注意する。
母親の決めつけるような態度に問題があるとしても、詳しい事情がわからない段階で責めるのは適切でない。母親は今後本人を家庭で支える最も重要な支援者であり、批判すれば防衛的になって医療者との協力関係が損なわれ、受診の継続も難しくなる。母親の心配に理解を示しつつ、症状が怠けではなく身体的・心理的な要因で生じうることを説明し、本人への接し方を一緒に考えていく姿勢が望ましい。
不登校とは
文部科学省は、何らかの心理的・情緒的・身体的・社会的要因や背景により、児童生徒が登校しない、あるいはしたくてもできない状況にあるため、年間30日以上欠席したもの(病気や経済的理由によるものを除く)を不登校と定義している。不登校は疾患名ではなく状態を表す言葉であり、その背景は多様である。
不登校の背景として考えるべき主な病態
・起立性調節障害(OD):思春期に多い自律神経機能不全。朝起きられない、立ちくらみ、頭痛、腹痛、倦怠感などが午前中に強く、午後から夜にかけて軽快する。新起立試験(臥位と起立後の血圧・心拍数の変化を測定する)で、体位性頻脈症候群、起立直後性低血圧などのサブタイプを判定する。治療は病態の説明、水分・塩分摂取、急に立ち上がらないなどの生活指導が基本で、必要に応じて昇圧薬(ミドドリンなど)を用いる。 ・概日リズム睡眠・覚醒障害(睡眠・覚醒相後退型):入眠と起床の時刻が望ましい時刻より大きく後ろにずれ、朝起きられない。思春期に多い。 ・うつ病、不安症(社交不安症など)、適応障害 ・神経発達症(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症)や学習障害を背景とした学校不適応 ・いじめ、家庭内の問題、虐待 ・身体疾患(甲状腺機能低下症、貧血、慢性疲労を来す疾患など)も除外が必要である
思春期患者への面接の工夫
・保護者同席の面接に加え、本人だけと話す時間を設ける ・話された内容の秘密を守ることを伝える(ただし自傷・他害・虐待など安全に関わる場合は例外であることも説明する) ・本人の話を否定・評価せず、まず受け止める ・保護者の苦労にも共感を示し、本人と保護者の双方と協力関係を築く
POINT
・不登校は状態像であり、身体的要因(起立性調節障害、睡眠リズム障害など)と心理社会的要因(いじめ、受験ストレス、うつ病など)の両面から評価する ・情報が保護者の解釈に偏っているときは、まず本人の話を傾聴し、信頼関係を築くことが初期対応の基本 ・評価前の登校刺激、原因不明のままの薬物処方、保護者への批判は避ける ・朝に強く夕方以降に軽快する頭痛・腹痛・起床困難は、起立性調節障害を考える手がかりとなる
