StudyMed医師国家試験

肝硬変の診察で「ないもの」を見抜く―門脈圧亢進の三本柱と紛れ込んだ虫垂炎サイン

第113回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第14問

高度な門脈圧亢進を伴う肝硬変患者で認められないのはどれか。

  1. a.下腿の浮腫
  2. b.Rovsing徴候
  3. c.腹壁静脈の怒張
  4. d.Traube三角の濁音
  5. e.濁音界の位置移動〈shifting dullness〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高度な門脈圧亢進を伴う肝硬変で「認められない」身体所見を選ぶ問題だ。ポイントは、門脈圧が上がると体に何が起きるかを機序から整理すること。そうすれば、仲間外れの所見が自然に浮かび上がってくるよ。まず、門脈圧亢進で起きることを思いつくだけ挙げてみて。
医学生医学生
食道静脈瘤、腹水、脾腫…あとはメドゥーサの頭ですね。消化器内科の講義で「三大所見」として習った気がします。
ドクタードクター
いいね。整理すると、①肝臓を迂回する側副血行路の発達、②脾臓のうっ血による脾腫、③腹水と浮腫、の三本柱になる。肝硬変では線維化と再生結節で肝内の血管抵抗が上がり、さらに内臓の血管拡張で門脈への流入も増えるから、門脈圧が上昇するんだ。では、腹壁静脈の怒張はどの柱に入るかな。
医学生医学生
側副血行路ですね。でも、なぜお腹の表面の静脈が太くなるんでしょうか。
ドクタードクター
胎児期の臍静脈は生後に閉じて肝円索になるけれど、門脈圧が上がると傍臍静脈が拡張して、門脈血が臍周囲の腹壁静脈から上・下大静脈へ流れる抜け道ができる。だから臍を中心に放射状に怒張するんだ。血流は臍から遠ざかる向きになるから、臍より下でも頭側へ流れる下大静脈閉塞とは区別できる。
医学生医学生
血流の向きで鑑別できるんですね。OSCEの腹部診察で静脈怒張を見る項目はありましたが、向きまでは意識していませんでした。
ドクタードクター
次はTraube三角の濁音。Traube三角は左前胸部の下のほうにある領域で、普段はどんな打診音がする?
医学生医学生
下に胃泡があるので鼓音です。それが濁音になるということは、何かが入り込んでいる…脾腫でしょうか。
ドクタードクター
その通り。脾静脈から門脈へ血が流れにくくなって脾臓がうっ血性に腫大し、その領域にかかると濁音になる。血液検査では脾機能亢進による血小板減少も手がかりになるね。では、残りの下腿浮腫と濁音界の位置移動は?
医学生医学生
どちらも水が溜まる所見ですね。門脈の圧が上がるからでしょうか。
ドクタードクター
それも一因だけど、それだけじゃない。肝臓でアルブミンが作られなくなって膠質浸透圧が下がること、有効循環血漿量の減少を感知してレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化し、Na・水が貯留すること。この3つが重なって腹水や下腿浮腫が生じるんだ。腹水があると仰臥位で液体は側腹部に、腸管ガスは中央に集まる。体位を変えると液体が移動して濁音と鼓音の境界が動く。これがshifting dullnessだよ。
医学生医学生
そうすると最後に残るRovsing徴候は、確か虫垂炎の所見でしたよね。
ドクタードクター
正解。Rovsing徴候は左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みが出る、あるいは強くなる所見で、急性虫垂炎を示唆する。腸管内のガスが口側へ押し戻されて盲腸が伸展したり、炎症のある腹膜が動かされたりして痛みが誘発されると考えられている。門脈圧亢進の病態とは関係がないから、これが「認められない」ものだね。
医学生医学生
外科の実習でMcBurney点やBlumberg徴候と一緒に確認しました。Rosenstein徴候や腸腰筋徴候もセットでしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。虫垂炎の診察所見は名前が多いから、こうした問題で紛れ込ませやすいんだ。最後に発展知識。側副血行路は腹壁だけじゃない。左胃静脈や短胃静脈から食道静脈へ流れると食道・胃静脈瘤になり、破裂すると大量吐血を起こす。脾静脈から左腎静脈へ抜ける脾腎シャントは、アンモニアなどが肝臓を通らずに全身へ回るので肝性脳症の原因になりうる。
医学生医学生
門脈圧亢進の所見だけでなく、黄疸や手掌紅斑、くも状血管腫みたいな肝機能低下の所見も一緒に見るんですよね。
ドクタードクター
そう。肝硬変の診察では「門脈圧亢進による所見」と「肝機能低下による所見」の2軸で整理すると漏れが少ない。臨床では、血小板減少や脾腫を見たら静脈瘤の評価として内視鏡を考える、といった次の一手につなげることも大切だよ。

まとめ

肝硬変に伴う門脈圧亢進症では、側副血行路の発達(食道・胃静脈瘤、臍を中心とする腹壁静脈の怒張)、脾腫(Traube三角の濁音、血小板減少)、腹水・浮腫(shifting dullness、下腿の圧痕性浮腫)が代表的な所見です。腹水や浮腫は、門脈系の静水圧上昇に加え、低アルブミン血症による膠質浸透圧低下とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化によるNa・水貯留が重なって生じます。一方、Rovsing徴候は左下腹部の圧迫で右下腹部痛が出る急性虫垂炎の所見であり、門脈圧亢進とは無関係です。所見を暗記するだけでなく機序から整理しておくと、「認められないもの」を問う問題にも迷わず対応でき、実際の腹部診察でも所見を病態と結びつけて解釈できるようになります。

解答・解説

正解はbです

門脈圧亢進症とは

門脈は腸管・脾臓・膵臓などからの静脈血を集めて肝臓へ運ぶ血管である。肝硬変では、肝臓の線維化と再生結節によって肝内の血管抵抗が上昇し、さらに内臓の血管拡張により門脈への流入血流が増えることで、門脈圧が上昇する(正常はおよそ100〜150mmH2O、200mmH2O以上で門脈圧亢進症とする)。

門脈圧亢進と肝機能低下から生じる所見

肝硬変患者の身体所見は、主に次の機序で説明できる。 ①側副血行路の発達:肝臓へ流れにくくなった門脈血が、肝臓を迂回して大循環(上・下大静脈)へ戻る経路が発達する。食道・胃静脈瘤、腹壁静脈の怒張(臍を中心に放射状に広がるものはメドゥーサの頭と呼ばれる)、直腸静脈叢の拡張などが生じる。 ②脾腫:脾静脈から門脈への流出が妨げられてうっ血性に脾臓が腫大する。打診ではTraube三角の濁音、血液検査では脾機能亢進による血小板減少などがみられる。 ③腹水と浮腫:門脈系の静水圧上昇、肝臓でのアルブミン合成低下による膠質浸透圧の低下、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化によるNa・水の貯留などが重なり、腹水や下腿浮腫が生じる。腹水は濁音界の位置移動(shifting dullness)や波動で確認できる。

本問の考え方

「認められないもの」を選ぶ問題である。選択肢のうち、下腿浮腫・腹壁静脈怒張・Traube三角の濁音・濁音界の位置移動はいずれも上記の機序で説明できる。これに対しRovsing徴候は急性虫垂炎を示唆する腹膜刺激に関連した所見であり、門脈圧亢進とは関係しない。

選択肢考察

  1. ×a.  下腿の浮腫

    認められる。肝硬変では肝臓のアルブミン合成能が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧が低下して水分が血管外へ漏れ出す。加えて、有効循環血漿量の減少を感知してレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化し、腎でのNa・水の再吸収が増えることも体液貯留を助長する。重力の影響を受ける下腿に圧痕性浮腫として現れやすい。

  2. ○b.  Rovsing徴候

    認められない(正解)。Rovsing徴候は、左下腹部を手で圧迫すると右下腹部に痛みが生じる、あるいは増強する所見で、急性虫垂炎を示唆する。左下腹部を押すことで腸管内のガスが口側へ押し戻されて盲腸が伸展する、あるいは炎症のある腹膜が動かされることで右下腹部の痛みが誘発されると考えられている。門脈圧亢進症の病態とは無関係である。

  3. ×c.  腹壁静脈の怒張

    認められる。門脈圧が高くなると、肝円索内で閉塞していた臍静脈が再開通(傍臍静脈の拡張)し、門脈血が臍周囲の腹壁静脈を通って上・下大静脈へ流れる側副路が形成される。その結果、臍を中心に放射状に腹壁静脈が怒張し、メドゥーサの頭(caput medusae)と呼ばれる。門脈圧亢進による腹壁静脈の血流は臍から遠ざかる向き(臍より上は頭側、臍より下は足側)となり、下大静脈閉塞による怒張(臍下でも頭側へ流れる)と区別できる。

  4. ×d.  Traube三角の濁音

    認められる。Traube三角(Traube's space)は左前胸部下部、左第6肋骨・左肋骨弓・前腋窩線で囲まれた領域で、その下には胃泡があるため通常は打診で鼓音を呈する。門脈圧亢進により脾静脈がうっ血して脾腫が生じると、腫大した脾臓がこの領域にかかり濁音となる。脾腫を診察で推定する方法の一つである。

  5. ×e.  濁音界の位置移動〈shifting dullness〉

    認められる。腹水があると、仰臥位では液体が背側・側腹部に、ガスを含む腸管が腹部中央に集まるため、側腹部が濁音、臍周囲が鼓音となる。体を横に向けると液体は下側へ移動し、濁音と鼓音の境界(濁音界)が位置を変える。これが濁音界の位置移動で、身体診察で腹水の存在を推定する方法である。肝硬変では門脈圧亢進と低アルブミン血症などにより腹水が貯留しやすい。

門脈-大循環の主な側副血行路

・左胃静脈(胃冠状静脈)・短胃静脈 → 食道静脈・奇静脈 → 上大静脈:食道・胃静脈瘤(破裂すると大量吐血) ・傍臍静脈 → 腹壁静脈 → 上・下大静脈:腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭) ・上直腸静脈 → 中・下直腸静脈 → 内腸骨静脈 → 下大静脈:直腸静脈瘤 ・脾静脈 → 左腎静脈:脾腎シャント(肝性脳症の原因となることがある)

肝硬変の身体所見(肝機能低下によるもの)

黄疸、くも状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房(エストロゲンの肝での代謝低下)、羽ばたき振戦(肝性脳症)、出血傾向(凝固因子の合成低下)、ばち指など。

急性虫垂炎の主な身体所見

・McBurney点の圧痛:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点 ・Lanz点の圧痛:左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点 ・Rovsing徴候:左下腹部の圧迫で右下腹部痛が出る ・Blumberg徴候(反跳痛):圧迫した手を急に離すと痛みが強まる(腹膜刺激徴候) ・Rosenstein徴候:左側臥位で右下腹部の圧痛が増強する ・腸腰筋徴候(psoas sign):右股関節の伸展で疼痛が誘発される(後腹膜側の虫垂で陽性になりやすい) ・閉鎖筋徴候(obturator sign):右股関節を屈曲・内旋させると疼痛が誘発される

POINT

・門脈圧亢進症の三大所見:側副血行路(食道静脈瘤、腹壁静脈怒張)、脾腫(Traube三角の濁音、血小板減少)、腹水。 ・腹水の身体所見:濁音界の位置移動(shifting dullness)、波動。 ・浮腫・腹水の機序:門脈圧上昇+低アルブミン血症+RAA系の活性化。 ・Rovsing徴候は急性虫垂炎の所見(左下腹部の圧迫で右下腹部痛)。 ・Traube三角は通常鼓音であり、濁音なら脾腫を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。