乳汁漏出と月経不順―高プロラクチン血症の「原因探し」で本当に必要な検査はどれ?
第113回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。頭痛,乳汁漏出および月経異常を主訴に来院した。半年前から月経不順となった。最近,乳白色の乳汁の分泌に気付き,頭痛や目の奥の痛みを頻繁に自覚するようになった。身長153cm,体重43kg。体温36.5℃。脈拍72/分,整。血圧110/60mmHg。初診時の血清プロラクチン320ng/mL(基準15以下)。 診断に有用でないのはどれか。
- a.脳脊髄液検査
- b.下垂体造影MRI
- c.TSH,FT4の測定
- d.薬物服用歴の確認
- e.血清プロラクチン値の再測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
乳汁漏出と月経異常は高プロラクチン血症を示す代表的な症候で、プロラクチン過剰が視床下部のGnRH分泌を抑えることで排卵障害が起こります。原因検索では、安静下でのプロラクチン再測定と妊娠の除外に続き、最も頻度の高い薬剤性(D2受容体遮断薬など)を服薬歴で、TRH増加を介する原発性甲状腺機能低下症をTSH・FT4で除外し、最後に下垂体造影MRIで腺腫や視床下部・下垂体茎病変を検索します。脳脊髄液検査は高プロラクチン血症の鑑別には寄与せず、頭蓋内占拠性病変が疑われる状況ではむしろ脳ヘルニアの危険を伴います。プロラクチンが250ng/mLを超えるような著明高値で頭痛を伴えばマクロプロラクチノーマを強く疑い、治療の第一選択はドパミン作動薬です。「ドパミンによる抑制が主体」という調節の特徴を理解しておくと、原因の列挙から検査・治療までを一貫して組み立てられます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・30歳女性、半年前からの月経不順と乳白色の乳汁漏出:乳汁漏出・無月経(または月経不順)の組み合わせは、高プロラクチン血症を最初に考えるべき症候である。プロラクチン過剰は視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のパルス状分泌を抑えるため、LH・FSHの分泌が低下し、排卵障害・月経異常を生じる。 ・頭痛と眼の奥の痛みを頻繁に自覚:下垂体のトルコ鞍内に腫瘍があり、鞍隔膜が引き伸ばされたり周囲に圧排が及んだりしていることを示唆する。腫瘍が上方へ伸展すれば視交叉を圧迫して視野障害(典型的には両耳側半盲)も起こりうる。 ・血清プロラクチン320ng/mL(基準15以下):著明な高値である。
診断へのプロセス
高プロラクチン血症の原因は大きく、①生理的要因(妊娠、授乳、睡眠、ストレス、運動など)、②薬剤性、③原発性甲状腺機能低下症、④視床下部・下垂体茎病変(ドパミンが下垂体へ届かなくなる)、⑤プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)、⑥胸壁病変(帯状疱疹、熱傷、胸部手術後など)や慢性腎不全、などに分けられる。日常診療で頻度が最も高いのは薬剤性である。 したがって診断の流れは、まず採血条件を整えてプロラクチン高値を再確認し、妊娠を除外したうえで、服薬歴の聴取と甲状腺機能検査で頻度の高い二次性の原因を除外し、最後に下垂体造影MRIで視床下部・下垂体病変を検索する、という順になる。 本例ではプロラクチン値が250ng/mLを超えており、頭痛・眼の奥の痛みという局所症状もあることから、大きさ10mm以上のマクロプロラクチノーマが最も疑われる。
設問の考え方
「診断に有用でない」検査を選ぶ問題である。高プロラクチン血症の原因検索に役立つ検査かどうかで各選択肢を判断する。腰椎穿刺による脳脊髄液検査は、髄膜炎・脳炎・くも膜下出血などの診断に用いるもので、高プロラクチン血症の鑑別には寄与しない。
選択肢考察
- ○a. 脳脊髄液検査
診断に有用でない(正解)。脳脊髄液検査は、髄膜炎・脳炎などの中枢神経感染症、くも膜下出血、多発性硬化症などの診断に用いる検査であり、髄液を調べてもプロラクチノーマや高プロラクチン血症の原因は分からない。さらに本例は頭痛を訴えており頭蓋内占拠性病変が疑われるため、画像で頭蓋内圧亢進の有無を確認しないまま腰椎穿刺を行うと脳ヘルニアを誘発する危険もある。現段階で行う意義のない検査である。
- ×b. 下垂体造影MRI
有用である。視床下部・下垂体病変の検索に必須の画像検査である。ガドリニウム造影を併用すると、正常下垂体は早期に濃染される一方で腺腫は造影効果が遅れるため、数mm大の微小腺腫も描出しやすい。腫瘍の大きさ(10mm未満のミクロ腺腫か10mm以上のマクロ腺腫か)、鞍上部への進展、視交叉の圧迫、海綿静脈洞への浸潤などを評価でき、治療方針の決定にもつながる。本例はプロラクチン著明高値と頭痛からマクロプロラクチノーマが強く疑われ、最も重要な検査の一つである。
- ×c. TSH,FT4の測定
有用である。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン(FT4:遊離サイロキシン)の低下に対するフィードバックで視床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)分泌が増える。TRHは甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけでなくプロラクチンの分泌も刺激するため、高プロラクチン血症を生じる。長期例では下垂体の過形成によりMRIで下垂体腫大がみられ、腺腫と紛らわしいこともある。甲状腺ホルモン補充で改善するため、TSH高値・FT4低値の有無を確認して除外しておく必要がある。
- ×d. 薬物服用歴の確認
有用である。高プロラクチン血症の原因として最も頻度が高いのは薬剤性である。プロラクチン分泌は視床下部から放出されるドパミンによって常に抑制されているため、ドパミンD2受容体を遮断する薬剤(抗精神病薬:スルピリド、ハロペリドール、リスペリドンなど、制吐薬・消化管運動改善薬:メトクロプラミド、ドンペリドン)や、ドパミンを枯渇させる薬剤(レセルピン)、ドパミン産生を抑えるメチルドパで抑制が外れ、プロラクチンが上昇する。そのほか三環系抗うつ薬、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤なども原因となる。服薬歴の確認は欠かせない。
- ×e. 血清プロラクチン値の再測定
有用である。プロラクチンは拍動性に分泌され、睡眠、ストレス(採血時の緊張を含む)、食事、運動、乳頭刺激、性交などで一時的に上昇しうる。1回の測定値だけで病的と判断せず、安静下で再測定して持続的な高値であることを確認するのが原則である。また、プロラクチンが免疫グロブリンと結合した生物活性の乏しい大分子(マクロプロラクチン)が多いことによる見かけ上の高値(マクロプロラクチン血症)も鑑別の対象となる。
プロラクチン分泌の調節
・下垂体前葉ホルモンの多くは視床下部の放出ホルモンによる刺激で主に調節されるが、プロラクチンは視床下部から下垂体門脈を経て届くドパミンによる「抑制」が主体である点が特徴的である。 ・促進因子としてはTRH、エストロゲン(プロラクチン遺伝子の転写を促進)、セロトニン、オピオイド(内因性・外因性とも分泌を促進)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)などがある。 ・日内変動があり、入眠後に上昇して睡眠中に高く、午前中の遅い時間帯(10〜12時頃)に低くなる。このため外来では午前中に安静をとってから採血するのが望ましい。
病態とプロラクチン値の目安
・薬剤性や、視床下部・下垂体茎病変(非機能性下垂体腺腫による茎の圧迫など)でドパミンの到達が妨げられて起こる高プロラクチン血症(いわゆるstalk effect)では、値は100ng/mL前後以下にとどまることが多い。 ・プロラクチノーマでは腫瘍の大きさと血中濃度がおおむね相関し、200〜250ng/mLを超える場合はマクロプロラクチノーマの可能性が高い。
プロラクチノーマの症状と治療
・女性:無月経・月経不順、乳汁漏出、不妊。発見が比較的早く、ミクロ腺腫が多い。 ・男性:性欲低下、勃起障害、女性化乳房など。症状に気付かれにくく、頭痛や視野障害を呈するマクロ腺腫で見つかることが多い。 ・腫瘍が大きい場合は頭痛、視野障害(両耳側半盲)、他の下垂体前葉ホルモンの分泌低下をきたす。 ・治療の第一選択はドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)による薬物療法であり、多くの例でプロラクチン値の正常化と腫瘍縮小が得られる。薬剤が効かない・使えない場合などに経蝶形骨洞手術を考慮する。
POINT
・乳汁漏出+月経異常 → 高プロラクチン血症を考える。 ・原因検索の手順:プロラクチン再測定(安静下)→ 妊娠の除外 → 服薬歴(最多は薬剤性)→ TSH・FT4(原発性甲状腺機能低下症)→ 下垂体造影MRI。 ・プロラクチンはドパミンで抑制、TRHで促進される。 ・プロラクチン200〜250ng/mL以上はマクロプロラクチノーマを疑う。 ・脳脊髄液検査は高プロラクチン血症の鑑別には不要であり、頭蓋内占拠性病変が疑われる段階では腰椎穿刺は危険でもある。
