増えるがん死、下がるがん死亡率―人口統計20年の「矛盾」を読み解く
第113回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
我が国の人口統計の最近20年間の変化として正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.乳児死亡率は上昇傾向にある。
- b.自然増減数はマイナスに転じた。
- c.老年人口指数は低下傾向にある。
- d.交通事故の死亡者数は減少傾向にある。
- e.悪性新生物の年齢調整死亡率は上昇傾向にある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の人口統計は、少子化・高齢化と、医療や公衆衛生の進歩による年齢別死亡率の低下という3つの流れで整理できます。出生数の減少と死亡数の増加により自然増減数は2005年に初めてマイナスとなり、2007年以降は自然減が続いています。交通事故死亡者数は1990年代初頭のピーク以降、シートベルトの徹底や飲酒運転の厳罰化、救急医療の充実などで減少傾向にあります。一方、老年人口指数は上昇、乳児死亡率は世界最低水準のまま低下を続けており、悪性新生物は死亡数・粗死亡率が増加する一方で年齢調整死亡率は低下しています。粗死亡率と年齢調整死亡率を区別する視点は、統計問題を解くだけでなく、疫学データや臨床研究を正しく読み解くための基本となります。
解答・解説
正解はb, dです
我が国の人口動態・人口静態の長期的な流れを押さえていれば解ける問題である。背景にある大きな流れは「少子化」と「高齢化」、そして「医療・公衆衛生の進歩による年齢別死亡率の低下」の3つである。 少子化と高齢化が進むと、出生数は減り、高齢者が増えることで死亡数は増える。その結果、出生数から死亡数を引いた自然増減数はマイナス(自然減)となり、総人口は減少に転じる。また、15〜64歳の生産年齢人口に対する65歳以上の老年人口の割合(老年人口指数)は上昇する。 一方で、死亡に関する指標は「粗死亡率(単純な死亡率)」と「年齢調整死亡率」を区別して考える必要がある。高齢者が増えると、がんなど高齢者に多い疾患の粗死亡率は上昇するが、年齢構成の影響を取り除いた年齢調整死亡率は、医療の進歩や危険因子の減少により低下している。乳児死亡率は世界最低水準のまま低下を続けており、交通事故死亡者数も安全対策の進歩により大きく減少している。 これらの流れに照らして各選択肢を判定すると、正しいのは自然増減数のマイナス転化と、交通事故死亡者数の減少の2つである。
選択肢考察
- ×a. 乳児死亡率は上昇傾向にある。
乳児死亡率(生後1年未満の死亡数を出生1,000に対して表したもの)は、戦後の衛生状態・栄養の改善、周産期医療や新生児集中治療の発達によって急速に低下し、最近20年間も緩やかに低下を続けている。現在は出生1,000対おおむね2前後と、世界で最も低い水準にある。上昇傾向という記述は誤りである。
- ○b. 自然増減数はマイナスに転じた。
自然増減数は出生数から死亡数を差し引いた値である。出生数の減少(少子化)と、高齢化に伴う死亡数の増加により、2005年に戦後初めてマイナスとなり、翌2006年にわずかにプラスに戻ったものの、2007年以降は一貫してマイナス(自然減)が続き、その幅は年々拡大している。最近20年間の変化として正しい。
- ×c. 老年人口指数は低下傾向にある。
老年人口指数は「老年人口(65歳以上)÷生産年齢人口(15〜64歳)×100」で求める指標で、働き手世代が高齢者をどれだけ支えているかを示す。高齢者数の増加と生産年齢人口の減少が同時に進んでいるため、1970年代以降一貫して上昇しており、最近20年間でも大きく上昇している。低下傾向という記述は誤りである。
- ○d. 交通事故の死亡者数は減少傾向にある。
交通事故による死亡者数(事故後24時間以内の死亡者数)は、1970年頃に1万6千人を超えて最多となり、いったん減少した後、1990年代初頭に再び1万1千人台のピークを迎えた。その後は、シートベルト着用の義務化と徹底、飲酒運転の取り締まり強化・厳罰化、エアバッグなど車両の安全装備の普及、救急医療体制の充実などにより減少を続け、近年は2千人台まで減っている。最近20年間の変化として正しい。
- ×e. 悪性新生物の年齢調整死亡率は上昇傾向にある。
悪性新生物は1981年以降死因の第1位であり、死亡数や粗死亡率は高齢化の影響で増加を続けている。しかし、年齢構成の違いを補正した年齢調整死亡率は、男女とも1990年代半ば頃から低下傾向にある。これは、胃癌の減少(ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下など)、喫煙率の低下、検診や治療の進歩などによる。粗死亡率と年齢調整死亡率を混同させる選択肢であり、誤りである。
主な人口指標の定義
・年少人口指数=年少人口(0〜14歳)÷生産年齢人口×100 ・老年人口指数=老年人口(65歳以上)÷生産年齢人口×100 ・従属人口指数=(年少人口+老年人口)÷生産年齢人口×100 ・老年化指数=老年人口÷年少人口×100 ・自然増減数=出生数-死亡数 ・乳児死亡率=乳児死亡数÷出生数×1,000
最近の主な傾向
・上昇・増加:老年人口、老年人口割合(高齢化率)、老年人口指数、従属人口指数、老年化指数、死亡数、悪性新生物などの粗死亡率 ・低下・減少:総人口(2008年頃をピークに減少)、年少人口、生産年齢人口、出生数、自然増減数、乳児死亡率、新生児死亡率、周産期死亡率、年齢調整死亡率、交通事故死亡者数
合計特殊出生率の推移
合計特殊出生率は2005年に過去最低の1.26となった後、2015年の1.45まで緩やかに回復したが、その後は再び低下し、2020年代には過去最低を更新している。出生数は一貫して減少傾向である。
粗死亡率と年齢調整死亡率
粗死亡率は人口の年齢構成の影響を強く受けるため、高齢化が進むと疾患の実態が変わらなくても上昇する。地域間や年次間で死亡の状況を比較するときは、基準人口を用いて年齢構成をそろえた年齢調整死亡率を用いる。現在の基準人口には2015年モデル人口が用いられている。
POINT
・自然増減数は2005年に初めてマイナス、2007年以降は自然減が継続 ・老年人口指数・従属人口指数は上昇傾向 ・乳児死亡率は低下を続け世界最低水準 ・交通事故死亡者数は1990年代初頭のピーク以降、減少傾向 ・悪性新生物は粗死亡率・死亡数は増加、年齢調整死亡率は低下(両者を区別する)
