StudyMed医師国家試験

下がらない血圧と増える浮腫―重症妊娠高血圧腎症で「痙攣を防ぐ」一手

第113回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第35問

37歳の初産婦(1妊0産)。妊娠30週に両下腿浮腫の増悪を主訴に来院した。これまでの妊娠経過は順調であったが,妊娠27週ころに両下腿浮腫を生じ,28週ころから浮腫の増悪を認めた。意識は清明。脈拍72/分,整。血圧160/104mmHg。尿検査で蛋白2+である。ノンストレステスト〈NST〉はreactiveで,子宮収縮は認めない。入院後安静にして血圧を再検査したところ,164/106mmHgであった。  投与すべき薬剤はどれか。

  1. a.β2刺激薬
  2. b.ループ利尿薬
  3. c.硫酸マグネシウム
  4. d.ドパミン受容体作動薬
  5. e.ベンゾジアゼピン系抗不安薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠後期の高血圧の問題だ。考えるべきは、病型と重症度を判断したうえで、母体に何が起こりうるか、そしてそれをどう防ぐか。安静にしても血圧が下がらなかった点と、選択肢に何が並んでいるかに注目してほしい。まず病型はどう判断する?
医学生医学生
妊娠20週以降に高血圧が出て、蛋白尿もあるので、妊娠高血圧腎症だと思います。
ドクタードクター
正解。さらに収縮期160 mmHg以上、または拡張期110 mmHg以上は重症の基準だ。安静後の再検でも下がらないから、緊張による一過性の上昇ではない。高年初産というのも危険因子だね。
医学生医学生
浮腫がどんどん悪化しているのも重症度に関係しますか。昔は妊娠中毒症の三大症状と習った気がします。
ドクタードクター
いいところを突いたね。かつての妊娠中毒症では浮腫・蛋白尿・高血圧が主徴とされたが、2005年の定義変更以降、浮腫は診断基準から外れている。妊婦にはよくある所見だからね。ちなみに現在の基準では、蛋白尿の量も重症度の判定には使わない。ただ今回の浮腫は、病態の初期徴候だった可能性はある。
医学生医学生
重症だと、何が一番怖いんでしょうか。
ドクタードクター
母体では子癇、HELLP症候群、常位胎盤早期剝離、肺水腫、脳出血。胎児では発育不全や胎児機能不全だ。根本治療は妊娠の終結だけれど、30週ではまだ児が未熟。NSTはreactiveで胎児の状態は良好だから、母児を厳重に監視しながら降圧と子癇予防を行う。そして子癇の予防・治療の第一選択薬が硫酸マグネシウムだ。
医学生医学生
選択肢に降圧薬がないのはそういうことなんですね。マグネシウムで血圧も下がるんですか。
ドクタードクター
そこは誤解しやすい。硫酸マグネシウムには降圧作用はほとんどない。中枢神経の興奮を抑えたり脳血管の攣縮を和らげたりして痙攣を防ぐと考えられている。だから重症高血圧には、ニカルジピンやヒドララジン、ニフェジピン、ラベタロールなどの降圧薬を別に併用するんだ。
医学生医学生
浮腫がひどいなら、ループ利尿薬で水を抜くのはどうですか。
ドクタードクター
直感的にはそう思えるよね。でも妊娠高血圧腎症では、血管内皮障害で血管透過性が上がり、血漿が血管外へ漏れて浮腫になっている。血管の中はむしろ循環血漿量が減って濃縮しているんだ。そこへ利尿薬を使えば胎盤血流がさらに落ち、胎児を危険にさらす。肺水腫や心不全を合併した場合を除いて、原則使わない。
医学生医学生
β2刺激薬は、産婦人科の実習で切迫早産の妊婦さんに点滴されているのを見ました。
ドクタードクター
リトドリンだね。子宮収縮抑制薬だが、今回は子宮収縮がないので適応がない。それに頻脈や肺水腫などの副作用があり、肺水腫を起こしやすい重症の妊娠高血圧症候群では禁忌とされている。
医学生医学生
ドパミン受容体作動薬は、高プロラクチン血症の講義で出てきた薬ですよね。
ドクタードクター
そう、ブロモクリプチンやカベルゴリンは、Parkinson病や高プロラクチン血症、産後の乳汁分泌抑制に使う薬で、妊娠高血圧腎症の治療薬ではない。乳汁分泌抑制で使った際に血圧上昇や脳卒中の報告があり、妊娠高血圧症候群の患者では避けるべきとされている。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬も、心理的な血圧上昇ではないので病態は改善しないね。ジアゼパムは子癇発作を止める目的で使うことはあっても、予防効果はマグネシウムに劣る。
医学生医学生
マグネシウムを使うときは、中毒にも気をつけないといけないですよね。
ドクタードクター
その通り。治療域はおよそ4〜7 mEq/Lで、超えると膝蓋腱反射の消失、呼吸抑制、さらに高値で心停止に至る。投与中は血中濃度、膝蓋腱反射、呼吸数、尿量を監視し、中毒時の拮抗薬はグルコン酸カルシウムだ。腎から排泄されるから、尿量の低下にも注意したい。
医学生医学生
降圧薬では、ACE阻害薬やARBは妊娠中は使えないんでしたよね。
ドクタードクター
そう、胎児の腎障害などを起こすので禁忌だ。また急激に下げすぎると胎盤血流が減るので、降圧は慎重に行う。34週未満で娩出が見込まれるなら、胎児の肺成熟を促すために母体へベタメタゾンを投与する。マグネシウムは32週未満の早産が迫った場面で、児の脳性麻痺リスクを下げる胎児脳保護目的でも使われることがあるよ。

まとめ

妊娠20週以降に新たに出現した高血圧に蛋白尿を伴えば妊娠高血圧腎症であり、収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上が持続すれば重症と判断します。重症例では子癇やHELLP症候群、常位胎盤早期剝離などの危険が高く、子癇の予防・治療の第一選択薬は硫酸マグネシウムです。硫酸マグネシウムには降圧作用がほとんどないため降圧薬を併用し、投与中は膝蓋腱反射・呼吸数・尿量・血中濃度を監視して、中毒時にはグルコン酸カルシウムで拮抗します。循環血漿量を減らす利尿薬や、肺水腫を招きうるβ2刺激薬は避けるべき薬剤です。病態を踏まえて何を防ぐべきかを考える姿勢は、母児二人の命を預かる周産期管理の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・37歳の初産婦(1妊0産)、妊娠30週。高年初産であり、妊娠高血圧症候群(HDP:hypertensive disorders of pregnancy)の危険因子をもつ。 ・妊娠27週ころから両下腿浮腫が出現し、28週ころから増悪した。 ・血圧160/104 mmHg、入院・安静後の再検でも164/106 mmHg。収縮期血圧が160 mmHg以上であり、重症域の高血圧が持続している。安静後も下がらないことから、緊張などによる一過性の血圧上昇ではない。 ・尿蛋白2+。 ・意識は清明で、頭痛や視覚異常などの記載はない。 ・ノンストレステスト(NST)はreactive(一過性頻脈を認め、胎児の状態は良好)で、子宮収縮はなく切迫早産の所見もない。

診断へのプロセス

妊娠20週以降に初めて高血圧(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)が出現し、蛋白尿を伴っているので、妊娠高血圧腎症(preeclampsia)と診断できる。さらに収縮期160 mmHg以上(または拡張期110 mmHg以上)は重症の基準を満たす。浮腫は妊婦によくみられる所見であり、現在はHDPの診断基準には含まれないが、本例では病態の初期徴候であった可能性がある。

設問の考え方

重症の妊娠高血圧腎症で問題となるのは、子癇(妊娠20週以降に起こり、てんかんや他の原因では説明できない痙攣発作)、HELLP症候群、常位胎盤早期剝離、肺水腫、脳出血などの母体合併症と、胎児発育不全・胎児機能不全である。治療の根本は妊娠の終結(児の娩出)だが、妊娠30週では児の未熟性が問題となるため、母児の状態を厳重に監視しながら、重症高血圧に対する降圧療法と、子癇発作の予防を行う。子癇の予防・治療の第一選択薬が硫酸マグネシウムである。選択肢には降圧薬が含まれていないので、子癇予防の観点から薬剤を選ぶことになる。

選択肢考察

  1. ×a.  β2刺激薬

    β2刺激薬(リトドリン塩酸塩)は子宮平滑筋を弛緩させる子宮収縮抑制薬であり、切迫早産の治療に用いられる。本例は子宮収縮がなく、適応がない。さらにβ2刺激薬は頻脈・動悸、肺水腫、高血糖などの副作用があり、血管透過性が亢進し肺水腫を起こしやすい重症妊娠高血圧症候群では、母体の状態を悪化させるおそれがあるため禁忌とされている。

  2. ×b.  ループ利尿薬

    妊娠高血圧腎症では、血管内皮障害により血管透過性が亢進し、血漿成分が血管外へ漏れて浮腫が生じる一方、血管内の循環血漿量はむしろ減少し血液が濃縮している。ここに利尿薬を使うと循環血漿量がさらに減り、胎盤への血流が低下して胎児の状態を悪化させるおそれがある。浮腫があるからといって利尿薬を使うのは誤りであり、肺水腫や心不全を合併した場合を除き、原則として用いない。

  3. ○c.  硫酸マグネシウム

    硫酸マグネシウムは子癇発作の予防と治療に用いる第一選択薬である。中枢神経の興奮を抑え、脳血管の攣縮を和らげることなどで痙攣を防ぐと考えられており、ジアゼパムやフェニトインよりも子癇の予防効果が高いことが示されている。重症の妊娠高血圧腎症は子癇を起こしやすく、本例は収縮期160 mmHg以上の重症高血圧が安静後も続いているため、子癇予防として投与する。なお硫酸マグネシウムに降圧作用はほとんどないので、重症高血圧に対しては別に降圧薬(ニカルジピン、ヒドララジン、ニフェジピン、ラベタロールなど)を併用する。投与中は血中マグネシウム濃度、膝蓋腱反射、呼吸数、尿量を監視し、高マグネシウム血症(腱反射消失、呼吸抑制、心停止)に注意する。中毒時の拮抗薬はグルコン酸カルシウムである。

  4. ×d.  ドパミン受容体作動薬

    ドパミン受容体作動薬(ブロモクリプチン、カベルゴリンなど)は、Parkinson病や高プロラクチン血症の治療、産後の乳汁分泌抑制に用いられる薬剤であり、妊娠高血圧腎症の治療薬ではない。産褥期に乳汁分泌抑制目的で投与した際、血圧上昇や脳卒中などの報告があり、妊娠高血圧症候群の患者では使用を避けるべきとされている。

  5. ×e.  ベンゾジアゼピン系抗不安薬

    ベンゾジアゼピン系抗不安薬は不安や心理的緊張を和らげる薬剤である。本例は安静後も重症域の高血圧が持続しており、心理的ストレスによる血圧上昇ではなく妊娠高血圧腎症によるものであるため、抗不安薬で病態は改善しない。ジアゼパムは子癇発作が起きた際に痙攣を止める目的で使われることはあるが、子癇の予防効果は硫酸マグネシウムに劣り、予防薬としては用いない。

妊娠高血圧症候群(HDP)の定義と病型(日本妊娠高血圧学会、2018年改定)

・定義:妊娠時に高血圧(収縮期140 mmHg以上かつ/または拡張期90 mmHg以上)を認める場合をいう。 ・妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿(300 mg/日以上など)を伴うもの。蛋白尿がなくても、肝機能障害、腎機能障害、神経障害(脳卒中、頑固な頭痛、視覚障害、子癇など)、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全(胎児発育不全など)のいずれかを伴えば妊娠高血圧腎症とする。 ・妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、上記の所見を伴わないもの。 ・加重型妊娠高血圧腎症:妊娠前または妊娠20週までに高血圧や腎疾患があり、妊娠20週以降に蛋白尿や臓器障害が加わるものなど。 ・高血圧合併妊娠:妊娠前から、または妊娠20週までに高血圧を認めるもの。 ・重症:収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上の高血圧、または臓器障害を伴う妊娠高血圧腎症。蛋白尿の量は重症度の判定に用いない。 ・浮腫は2005年の定義変更以降、診断基準に含まれていない(かつての「妊娠中毒症」では浮腫・蛋白尿・高血圧の3つが主徴とされていた)。

危険因子

初産、高年妊娠(40歳以上で特に高い)、肥満、高血圧・腎疾患・糖尿病・抗リン脂質抗体症候群などの合併、多胎妊娠、HDPの既往・家族歴、生殖補助医療による妊娠など。

病態

胎盤形成の過程で、らせん動脈のリモデリング(血管の拡張)が不十分となり胎盤が虚血に陥る。胎盤から血管新生を妨げる因子(可溶性Flt-1など)が母体血中に放出され、全身の血管内皮障害を来す。その結果、血管攣縮・高血圧、血管透過性亢進(浮腫、循環血漿量減少)、蛋白尿、血小板活性化・凝固異常などが生じる。

管理・治療

・根本的治療は妊娠の終結である。週数、母児の状態(重症高血圧のコントロール不能、子癇、HELLP症候群、胎盤早期剝離、胎児機能不全など)を総合して娩出時期を決める。妊娠34週未満で娩出が見込まれる場合は、胎児の肺成熟を促すため母体に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン)を投与する。 ・降圧療法:重症域の高血圧には降圧を行う。経口薬はメチルドパ、ラベタロール、ニフェジピン、ヒドララジン。緊急時は静注のニカルジピンやヒドララジンを用いる。急激・過度の降圧は胎盤血流を減らすため避ける。ACE阻害薬・ARBは胎児腎障害などを起こすため妊娠中は禁忌である。 ・子癇予防:硫酸マグネシウムを持続静注する。治療域の血中濃度はおよそ4〜7 mEq/Lで、これを超えると膝蓋腱反射の消失、呼吸抑制、さらに高値で心停止を来す。拮抗薬はグルコン酸カルシウム。

硫酸マグネシウムの他の用途

切迫早産の子宮収縮抑制にも用いられる。妊娠32週未満の早産が差し迫った場合に母体へ投与すると、児の脳性麻痺のリスクを下げる胎児脳保護効果も報告されている。

POINT

・妊娠20週以降の新規高血圧+蛋白尿=妊娠高血圧腎症。収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上は重症。 ・子癇の予防・治療の第一選択薬は硫酸マグネシウム(降圧作用はほとんどないため、重症高血圧には降圧薬を併用する)。 ・硫酸マグネシウム投与中は膝蓋腱反射・呼吸数・尿量・血中濃度を監視し、中毒にはグルコン酸カルシウム。 ・利尿薬は循環血漿量を減らし胎盤血流を低下させるため原則使わない。β2刺激薬(リトドリン)は重症HDPで禁忌。 ・妊娠中に使える降圧薬:メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピン、ニカルジピン(静注)。ACE阻害薬・ARBは禁忌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。