StudyMed医師国家試験

ヘルシンキ、アルマ・アタ、オタワ―地名で覚える医療の国際宣言

第113回医師国家試験 B問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第113回 B問題 第2問

ヘルシンキ宣言で述べられているのはどれか。

  1. a.安楽死の条件
  2. b.健康の定義
  3. c.人を対象とする医学研究の倫理原則
  4. d.プライマリヘルスケア
  5. e.ヘルスプロモーション

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療に関する国際的な宣言や憲章を「どの文書が何を定めたか」で対応づける問題だ。知識問題だけど、背景の歴史を知っておくとぐっと覚えやすくなるよ。ヘルシンキ宣言と聞いて、まず何が浮かぶかな。
医学生医学生
医学概論の講義で聞いた覚えはあるんですが、患者の権利だったか研究倫理だったか、少し自信がありません。
ドクタードクター
そこは多くの人が混同するところだね。ヘルシンキ宣言は1964年に世界医師会がヘルシンキの総会で採択したもので、正式名称は「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」。つまり、人を対象とする医学研究の倫理原則を述べたものが正解だ。ちなみに患者の権利を定めたのは同じ世界医師会のリスボン宣言だよ。
医学生医学生
研究倫理なんですね。そもそも、なぜ医師会がそういう宣言を出す必要があったんでしょうか。
ドクタードクター
出発点は第二次世界大戦中のナチス・ドイツによる非人道的な人体実験だ。その反省から1947年にニュルンベルク綱領がまとめられ、被験者の自発的同意が不可欠だと明示された。ヘルシンキ宣言はそれを土台に、医師自身の団体が研究倫理を示したものなんだ。その後も何度も改訂されていて、最新は2024年の改訂だよ。
医学生医学生
中身としては、インフォームド・コンセントが中心ですか。
ドクタードクター
それは柱の一つだね。ほかにも、被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、独立した研究倫理委員会で事前に審査を受けること、リスクと利益を比較衡量すること、弱い立場の人への特別な配慮、プライバシーの保護、研究の事前登録と結果の公表などが盛り込まれている。
医学生医学生
基礎配属で研究室に行ったとき、倫理審査の申請書類がすごく分厚くて驚きました。あれもこの流れなんですね。
ドクタードクター
そのとおり。国内では「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」やGCP省令、臨床研究法などにこの原則が反映されている。では、ほかの選択肢がどの文書に対応するか整理しよう。健康の定義はどうかな。
医学生医学生
それはWHO憲章ですよね。肉体的・精神的・社会的に満たされた状態、というやつです。
ドクタードクター
正解。1946年に採択されたWHO憲章の前文で、病気でないことだけでなく、精神面・社会面も含めてwell-beingととらえた点が特徴だ。次にプライマリヘルスケアとヘルスプロモーションは?
医学生医学生
プライマリヘルスケアはアルマ・アタ宣言で、ヘルスプロモーションはオタワ憲章…だったと思います。公衆衛生の講義でセットで出てきました。
ドクタードクター
しっかり覚えているね。アルマ・アタ宣言は1978年のWHO・ユニセフ合同会議で採択され、「2000年までにすべての人に健康を」を掲げて、住民参加や予防重視を原則とした。オタワ憲章は1986年で、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義している。2005年のバンコク憲章でさらに発展させられたよ。
医学生医学生
残る安楽死の条件は、どこかの宣言で決められているんでしょうか。
ドクタードクター
ここは注意が必要だ。世界医師会には安楽死に関する宣言があるけれど、その立場は安楽死や医師による自殺幇助に反対するもので、容認の条件を示したものではない。日本でも安楽死を認める法律はなく、東海大学安楽死事件の判決などで違法性が阻却されうる要件が示されたにとどまるんだ。
医学生医学生
「条件」という言葉に引っかからないようにしないといけませんね。
ドクタードクター
そうだね。最後に関連する文書もまとめておこう。ヒポクラテスの誓いを現代化したジュネーブ宣言は医の倫理、リスボン宣言は患者の権利、イスタンブール宣言は臓器取引と移植ツーリズムの禁止。世界医師会の宣言は地名と内容をペアで覚えるのが近道だ。
医学生医学生
臨床実習で治験の同意説明に同席したことがありますが、「いつでも不利益なく同意を撤回できます」と必ず伝えていました。あれもヘルシンキ宣言の原則なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。同意の撤回の自由や、同意能力のない人では代理人の同意に加えて本人のアセントにも配慮することなど、現場の手順の一つひとつに宣言の精神が生きている。将来研究に関わるときにも、必ず立ち返る原点だと思っておいてほしい。

まとめ

ヘルシンキ宣言は1964年に世界医師会が採択した「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」で、ナチスの人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領を土台としています。被験者の利益の優先、自由意思によるインフォームド・コンセント、研究倫理委員会による事前審査、研究の登録と公表などが中核で、国内の倫理指針や臨床研究法にも反映されています。健康の定義はWHO憲章、プライマリヘルスケアはアルマ・アタ宣言、ヘルスプロモーションはオタワ憲章、患者の権利はリスボン宣言と、文書と内容を対応づけて整理しておくことが大切です。安楽死については世界医師会は反対の立場であり、容認条件を定めた国際規範ではない点にも注意しましょう。これらの宣言の理解は、国試対策にとどまらず、研究や日常診療で倫理的判断を下す際の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

医療・公衆衛生に関する国際的な宣言・憲章は、「どの文書が何について定めたものか」を対応づけて覚えることが求められる。 ヘルシンキ宣言は、1964年にフィンランドのヘルシンキで開かれた世界医師会(World Medical Association、WMA)総会で採択された文書で、正式名称は「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」である。第二次世界大戦中にナチス・ドイツで行われた非人道的な人体実験への反省から1947年にまとめられたニュルンベルク綱領を土台に、医師自身の団体が研究倫理の原則を示したものである。その後も繰り返し改訂されており、最新版は2024年の改訂である。 選択肢のうち、ヘルシンキ宣言の内容に当たるのは「人を対象とする医学研究の倫理原則」であり、その他は別の宣言・憲章や判例で扱われるテーマである。

選択肢考察

  1. ×a.  安楽死の条件

    誤り。ヘルシンキ宣言は研究倫理の文書であり、安楽死の条件は扱っていない。世界医師会は別に安楽死に関する宣言を出しているが、その立場は安楽死や医師による自殺幇助に反対するもので、容認の条件を示したものではない。わが国では安楽死を合法化する法律はなく、裁判例(1995年の東海大学安楽死事件判決など)で違法性が阻却されうる要件が示されたにとどまる。

  2. ×b.  健康の定義

    誤り。健康の定義は世界保健機関(WHO)憲章の前文(1946年採択、1948年発効)に示されている。「健康とは、病気でないとか弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」とされ、身体面だけでなく精神面・社会面を含めて健康をとらえた点が特徴である。

  3. ○c.  人を対象とする医学研究の倫理原則

    正しい。ヘルシンキ宣言は、人間(個人を特定できる試料やデータを含む)を対象とする医学研究について、医師が守るべき倫理原則を定めたものである。被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、自由意思によるインフォームド・コンセントの取得、独立した研究倫理委員会による事前審査、リスクと利益の比較衡量、弱者への特別な配慮、プライバシーと個人情報の保護、研究の事前登録と結果の公表などが盛り込まれている。

  4. ×d.  プライマリヘルスケア

    誤り。プライマリヘルスケア(primary health care、PHC)は、1978年に旧ソ連のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマトイ)で開かれたWHO・ユニセフ合同の国際会議で採択されたアルマ・アタ宣言で提唱された。「2000年までにすべての人に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げ、住民参加、地域資源の活用、予防重視、他分野との協調などを原則とする。

  5. ×e.  ヘルスプロモーション

    誤り。ヘルスプロモーションは、1986年にWHOがカナダのオタワで開いた国際会議で採択されたオタワ憲章で提唱された概念で、「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義される。2005年のバンコク憲章では、グローバル化を踏まえてこの考え方が補完・発展された。

ヘルシンキ宣言の主な内容

・研究に参加する人の生命、健康、尊厳、自己決定権、プライバシーを守ることは研究に関わる医師の責務である ・研究の目的がどれほど重要でも、被験者個人の権利と利益が優先される ・研究計画は、開始前に独立した研究倫理委員会で審査・承認を受ける ・参加者からは、十分な説明に基づく自由意思による同意(原則として文書)を得る。同意はいつでも不利益なく撤回できる ・同意能力のない人を対象とする場合は法的代理人の同意を得るとともに、本人の賛意(アセント)にも配慮する ・新しい介入は、その時点で最善と証明された介入と比較して検証する。プラセボの使用は限られた条件でのみ認められる ・臨床研究は事前に公開データベースに登録し、否定的な結果も含めて公表する

医の倫理・医療に関する主な国際文書

・ヒポクラテスの誓い(古代ギリシャ):医師の職業倫理の原点 ・ニュルンベルク綱領(1947年):人体実験の許容条件。被験者の自発的同意の必要性を明示 ・ジュネーブ宣言(1948年、WMA):ヒポクラテスの誓いを現代化した医の倫理 ・WHO憲章(1946年採択):健康の定義 ・ヘルシンキ宣言(1964年、WMA):人間を対象とする医学研究の倫理的原則 ・アルマ・アタ宣言(1978年):プライマリヘルスケア ・リスボン宣言(1981年、WMA):患者の権利(良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定権、情報を得る権利、守秘義務など) ・オタワ憲章(1986年):ヘルスプロモーション ・バンコク憲章(2005年):ヘルスプロモーションの発展 ・イスタンブール宣言(2008年):臓器取引と移植ツーリズムの禁止

わが国での具体化

ヘルシンキ宣言の原則は、国内では「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や、医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP省令)、臨床研究法などに反映されている。

POINT

・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会)=人間を対象とする医学研究の倫理的原則 ・中核は被験者の利益優先、インフォームド・コンセント、倫理委員会による審査 ・健康の定義=WHO憲章、プライマリヘルスケア=アルマ・アタ宣言、ヘルスプロモーション=オタワ憲章(・バンコク憲章) ・患者の権利=リスボン宣言、医の倫理=ジュネーブ宣言、臓器取引禁止=イスタンブール宣言

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。