ガイドラインは「法律」ではない―「行わないほうがよい」も立派な推奨
第113回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
診療ガイドラインに示されている「推奨」について正しいのはどれか。
- a.推奨の内容は5年間変更されない。
- b.弱い推奨は診療には用いてはならない。
- c.推奨の内容はすべての患者に適用される。
- d.強い推奨に反する診療は行ってはならない。
- e.「~は行わないほうがよい」という推奨がある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
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ドクターまとめ
診療ガイドラインの推奨は、エビデンスを系統的に評価し益と害のバランスを踏まえて、患者と医療者の意思決定を支援するために示されるものです。推奨には「行う」と「行わない」の2つの向きと、「強い」と「弱い(条件付き・提案)」の2つの強さがあり、「~は行わないほうがよい」という否定方向の推奨も存在します。推奨は想定した患者集団に向けたもので全員に一律適用されるものではなく、強い推奨にも法的拘束力はなく、弱い推奨も共同意思決定のうえで診療に用いられます。また有効期間の定めはなく、新たなエビデンスに応じて随時改訂されます。推奨の強さはエビデンスの確実性だけでなく価値観やコストも含めて決まることを理解すると、ガイドラインをEBMの道具として正しく使いこなせるようになります。
解答・解説
正解はeです
診療ガイドラインとは、ある健康問題について、エビデンス(科学的根拠)を系統的に収集・評価(システマティックレビュー)し、益と害のバランスを考えたうえで、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を示した文書である。日本では公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する Minds(EBM普及推進事業)が作成方法の手引きを公開しており、現在の多くのガイドラインは GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムの考え方に基づいて推奨を作成している。 推奨は「向き」と「強さ」の二つの軸で表現される。向きには「行うことを推奨する」と「行わないことを推奨する」の両方があり、強さには「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨・提案)」がある。つまり推奨は2方向×2段階の計4通りの形をとり得る。 また、推奨はあくまで「想定した標準的な患者集団」に対して最も適切と考えられる選択を示したものであり、個々の患者に機械的に当てはめる規則でも、医療者の裁量を縛る法的な拘束力をもつものでもない。実際の診療では、推奨に加えて、患者の病態・価値観や希望・医療資源・医師の臨床経験を統合して判断する(これがEBM〔evidence-based medicine、根拠に基づく医療〕の本来の姿である)。 以上から、ガイドラインの推奨を「固定的・絶対的・全員に一律適用されるもの」と捉える選択肢は誤りであり、「行わないほうがよい」という否定方向の推奨が存在することを述べた選択肢が正しい。
選択肢考察
- ×a. 推奨の内容は5年間変更されない。
誤り。推奨の有効期間が5年間と定められているわけではない。医学的知見は日々更新されるため、新たな臨床試験の結果などで推奨の根拠が変われば、改訂版や部分改訂(追補)によって随時見直される。一般に数年ごとの定期改訂が目安とされることはあるが、「一定期間変更しない」というルールは存在しない。
- ×b. 弱い推奨は診療には用いてはならない。
誤り。弱い推奨は「条件付き推奨」「提案する」とも表現され、益が害を上回る可能性が高いものの、エビデンスの確実性が低い、患者の価値観によって選択が分かれる、コストが大きいなどの理由で一律には勧めにくい場合に用いられる。患者の状況や希望を踏まえて共同意思決定(shared decision making)を行い、適切と判断されれば診療に用いてよい。むしろ強い推奨を出せるだけのエビデンスがない臨床課題は多く、弱い推奨に基づく診療は日常的に行われている。
- ×c. 推奨の内容はすべての患者に適用される。
誤り。推奨はガイドラインが対象として設定した患者像(年齢、重症度、合併症の有無など)に対して最適と考えられる診療行為を示したものである。目の前の患者が併存疾患をもつ、高齢である、治療に対する価値観が異なるなど、想定と異なる場合には推奨がそのまま当てはまるとは限らない。個々の患者ごとに適用可能性を検討する必要がある。
- ×d. 強い推奨に反する診療は行ってはならない。
誤り。強い推奨は「ほとんどの患者にとって益が害を明らかに上回る(または下回る)」と判断されたものだが、それでも禁止規定や法的義務ではない。患者の病状、合併症、本人の意向(例:説明を受けたうえで治療を拒否する場合)などを考慮し、その患者にとって最善と判断される場合には推奨と異なる診療を選択することも許される。その際は判断の理由を説明し、診療録に記録しておくことが望ましい。
- ○e. 「~は行わないほうがよい」という推奨がある。
正しい。推奨には「行うこと」を勧めるものだけでなく、「行わないこと」を勧める否定方向のものもある。害が益を上回ると判断された介入、有効性が示されなかった検査・治療などについては、「~を行わないことを推奨する(強い推奨)」「~を行わないことを提案する(弱い推奨)」といった形で示される。例えば、ある病態に対して手術や特定の薬剤の使用を行わないよう推奨する場合がこれにあたる。不要・有害な医療を減らすうえで重要な役割をもつ。
診療ガイドラインの定義(Minds)
健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書。
推奨の表し方(GRADEの考え方)
・向き:行うことを推奨する/行わないことを推奨する ・強さ:強い推奨(「推奨する」)/弱い推奨(「提案する」「条件付きで推奨する」) ・推奨の強さは、エビデンスの確実性(質)だけでなく、益と害のバランス、患者の価値観や意向のばらつき、コストや資源などを総合して決定される。したがって、エビデンスの確実性が低くても強い推奨となることや、その逆もある。
エビデンスの確実性
GRADEでは高(A)・中(B)・低(C)・非常に低(D)の4段階で評価する。ランダム化比較試験(RCT)は高から、観察研究は低から評価を始め、バイアスのリスク、非一貫性、非直接性、不精確さ、出版バイアスなどで評価を下げ、効果が大きい場合などには上げる。
ガイドラインの位置づけ
・ガイドラインは医療者の判断を支援する道具であり、診療を強制するものではない。 ・EBMは「最良のエビデンス」「患者の価値観・意向」「臨床現場の状況」「医療者の専門技能」を統合して意思決定することであり、ガイドラインはこのうち主にエビデンスを要約して提供する役割を担う。 ・新しいエビデンスに応じて改訂される。
POINT
・推奨には「行う」方向と「行わない」方向がある。 ・推奨の強さには「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨・提案)」があり、弱い推奨も診療に用いてよい。 ・推奨は想定した患者集団に対するものであり、個々の患者への適用は個別に判断する。 ・強い推奨であっても法的拘束力はなく、患者の状況・意向により異なる選択をとり得る。 ・推奨は新たなエビデンスに応じて随時改訂される(有効期間の定めはない)。
