保健所の仕事、どこまでが守備範囲?―「医療保険の事務」は誰のものか
第112回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
保健所の業務として誤っているのはどれか。
- a.難病に関する相談を受ける。
- b.食中毒患者の届出を受ける。
- c.医療保険に関する事務を行う。
- d.保健師による家庭訪問活動を行う。
- e.人口動態統計に関する事務を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
保健所の業務は地域保健法第6条に定められ、食品衛生・環境衛生・医事薬事などの対物保健サービスと、精神保健・難病・結核や感染症などの広域的・専門的な対人保健サービス、人口動態統計などの地域保健統計が中心です。難病相談、食中毒の届出受理、保健師による専門的な家庭訪問、人口動態調査票の経由・点検はいずれも保健所の業務ですが、医療保険の事務は協会けんぽや健康保険組合、国民健康保険などの保険者が担うもので、保健所の業務ではありません。乳幼児健診や予防接種など身近な対人サービスは市町村保健センターの役割であり、保健所・市町村・保険者の役割分担を整理しておくことが理解の近道です。医師は食中毒や感染症の届出を通じて保健所と日常的に連携するため、この知識は国試対策にとどまらず臨床の実務に直結します。
解答・解説
正解はcです
保健所が担う業務の範囲を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、保健所の業務に当たらないものが正解となる。 保健所は地域保健法に基づいて都道府県、指定都市、中核市、その他政令で定める市および東京都の特別区が設置する、地域の公衆衛生の中核機関である。その業務は地域保健法第6条に列挙されており、大きく次の2つに整理できる。 ・対物保健サービス:食品衛生、環境衛生(住宅、水道、下水道、廃棄物処理など)、医事・薬事、衛生上の試験・検査など。 ・広域的・専門的な対人保健サービス:精神保健、難病対策、結核・感染症対策、エイズ・性感染症対策など。 さらに、人口動態統計をはじめとする地域保健統計、保健師に関する事項、公共医療事業の向上なども含まれる。 これに対し、身近で一般的な対人サービス(乳幼児健診、予防接種、住民の健康診査や健康相談など)は主に市町村(市町村保健センター)が担う。また、医療保険の運営(被保険者の資格管理、保険料の徴収、保険給付など)は、各医療保険制度の「保険者」の仕事であり、保健所の業務ではない。 選択肢を地域保健法第6条の各事項に照らし、どれが保健所の守備範囲外かを判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 難病に関する相談を受ける。
保健所の業務である。地域保健法第6条は「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健」に関する事項を保健所の業務として掲げている。難病は専門性が高く、患者数も市町村単位では少ないため、広域的・専門的な対人サービスとして保健所が療養相談、訪問相談、患者・家族の交流会、地域の支援体制づくりなどを行っている。
- ×b. 食中毒患者の届出を受ける。
保健所の業務である。食品衛生法により、食中毒患者またはその疑いのある者を診断した医師、あるいはその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。届出を受けた保健所長は都道府県知事等に報告するとともに、原因食品や原因施設の調査、検査などを行う。食品衛生は代表的な対物保健サービスである。
- ○c. 医療保険に関する事務を行う。
保健所の業務ではないため、これが「誤っているもの」として正解である。医療保険の事務(被保険者資格の管理、保険料の徴収、保険給付など)は保険者が行う。保険者には、全国健康保険協会(協会けんぽ)、健康保険組合、共済組合、市町村(都道府県とともに国民健康保険を運営)、国民健康保険組合、後期高齢者医療広域連合などがある。また、診療報酬請求の審査・支払は社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会が担う。地域保健法第6条にも医療保険事務は含まれていない。
- ×d. 保健師による家庭訪問活動を行う。
保健所の業務である。地域保健法第6条には「保健師に関する事項」が挙げられており、保健所の保健師は、精神障害者、難病患者、結核患者、医療的ケアの必要な小児など、専門的な支援を要する人を対象に家庭訪問を行っている。なお、新生児訪問や乳児家庭全戸訪問など一般的な母子の訪問は主に市町村の保健師が担う。家庭訪問そのものは保健所と市町村の双方で行われる活動である。
- ×e. 人口動態統計に関する事務を行う。
保健所の業務である。地域保健法第6条は「人口動態統計その他地域保健に係る統計」に関する事項を掲げている。出生・死亡・死産・婚姻・離婚の届出は市区町村長に提出され、市区町村が作成した人口動態調査票は保健所長を経由して都道府県知事に送付され、さらに厚生労働大臣に送られて集計される。保健所はこの経由機関として調査票の点検などを担っている。
地域保健法第6条に定める保健所の業務(14項目)
1. 地域保健に関する思想の普及および向上 2. 人口動態統計その他地域保健に係る統計 3. 栄養の改善および食品衛生 4. 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生 5. 医事および薬事 6. 保健師に関する事項 7. 公共医療事業の向上および増進 8. 母性および乳幼児ならびに老人の保健 9. 歯科保健 10. 精神保健 11. 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健 12. エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防 13. 衛生上の試験および検査 14. その他地域住民の健康の保持および増進
保健所と市町村保健センターの比較
・保健所:設置主体は都道府県、指定都市、中核市、政令で定める市、特別区。所長は原則として医師。対物サービス(食品衛生、環境衛生、医事・薬事など)と、広域的・専門的な対人サービス(精神保健、難病、結核・感染症など)を担い、市町村への技術的援助も行う。 ・市町村保健センター:市町村が設置(任意)。所長は医師である必要はない。住民に身近な一般的対人サービス(乳幼児健診、母子健康手帳の交付、予防接種、健康相談、健康教育、がん検診など)を担い、対物サービスは行わない。
医療保険の保険者
被用者保険:全国健康保険協会、健康保険組合、共済組合など。 地域保険:国民健康保険(都道府県と市町村、国民健康保険組合)。 後期高齢者医療制度:後期高齢者医療広域連合。
POINT
・保健所の業務は地域保健法第6条に規定。 ・保健所=対物サービス+広域的・専門的対人サービス(精神保健、難病、結核・感染症)+統計。 ・市町村保健センター=身近で一般的な対人サービス(乳幼児健診、予防接種など)。対物サービスはない。 ・医療保険の事務は保険者の仕事で、保健所の業務ではない。 ・食中毒を診断した医師は直ちに最寄りの保健所長へ届け出る。
