「深い呼吸」の正体はアシドーシスかアルカローシスか―異常呼吸を病態生理で見分ける
第112回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
異常呼吸と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.起坐呼吸 ―― 肺水腫
- b.呼気延長 ―― 気管支喘息
- c.口すぼめ呼吸 ―― COPD
- d.Kussmaul呼吸 ―― 過換気症候群
- e.Cheyne-Stokes呼吸 ―― 脳梗塞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症など)に対する呼吸性代償としての深く規則的な呼吸であり、過剰な換気により呼吸性アルカローシスをきたす過換気症候群とは病態が正反対です。起坐呼吸は左心不全による肺うっ血・肺水腫、呼気延長は気管支喘息やCOPDなどの閉塞性障害、口すぼめ呼吸はCOPDで呼気時の気道虚脱を防ぐ代償法、Cheyne-Stokes呼吸は脳梗塞などの両側大脳半球・間脳障害や重症心不全でみられます。脳の障害部位により中枢神経性過換気や持続性吸息呼吸、Biot呼吸と呼吸パターンが変化することも合わせて押さえておきましょう。過換気症候群では紙袋再呼吸は推奨されず、肺塞栓症や気胸などの器質的疾患の除外が重要です。呼吸の「見た目」ではなく背景の病態生理で整理することが、ベッドサイドでの的確な判断につながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
呼吸の型(パターン)の異常と、その原因となる代表的疾患との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」型であり、対応関係が成り立たない組合せを一つ選ぶ。
異常呼吸を整理する視点
異常呼吸は、次のような観点で整理すると覚えやすい。 ・体位との関係:仰臥位で苦しく坐位で楽になる起坐呼吸(左心不全による肺うっ血など)。 ・呼気・吸気のバランス:気道狭窄で呼気が延長する(気管支喘息、COPD)。 ・代償のための呼吸法:COPD患者が自ら行う口すぼめ呼吸。 ・換気の深さ・回数の異常:代謝性アシドーシスを代償する深く規則的なKussmaul呼吸。 ・リズムの異常:周期的に増減と無呼吸を繰り返すCheyne-Stokes呼吸、不規則なBiot呼吸(失調性呼吸)など。
考え方
Kussmaul呼吸は「代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償」である点が本質であり、原因疾患は糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症などである。過換気症候群は不安などを契機に必要以上の換気が生じ、PaCO2が低下して呼吸性アルカローシスとなる病態であり、酸塩基平衡の向きがまったく逆である。見かけ上「換気が多い」という共通点に惑わされず、背景の病態生理で区別することが正解への鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 起坐呼吸 ―― 肺水腫
正しい組合せである。起坐呼吸は、仰臥位で呼吸困難が増強し、坐位や半坐位をとると軽快する状態である。仰臥位では下半身からの静脈還流が増え、機能の落ちた左心では処理しきれず肺うっ血・肺水腫が増悪する。坐位をとると静脈還流が減って肺うっ血が軽くなり、横隔膜も下がって肺が広がりやすくなるため、呼吸が楽になる。左心不全による肺うっ血・肺水腫が代表的な原因であり、重症の気管支喘息発作などでもみられる。
- ×b. 呼気延長 ―― 気管支喘息
正しい組合せである。気管支喘息では、気道の炎症・平滑筋収縮・粘液分泌により末梢気道が狭くなり、閉塞性換気障害を呈する。気道は呼気時に胸腔内圧の上昇で一層狭くなるため、息を吐き出すのに時間がかかり、呼気が延長する。呼気時の笛様の連続性副雑音(wheezes)を伴うことが多い。COPDでも同様に呼気延長がみられる。
- ×c. 口すぼめ呼吸 ―― COPD
正しい組合せである。COPD(慢性閉塞性肺疾患)、特に肺気腫では肺胞壁の破壊により肺の弾性収縮力が失われ(コンプライアンスが過度に高い状態)、末梢気道を外から引っ張って開いておく力も弱くなる。そのため呼気時に気道が早期に虚脱して空気が肺内に取り残される(エアトラッピング)。口をすぼめてゆっくり息を吐くと気道内圧が高く保たれ、気道の虚脱が防がれて呼出しやすくなる。患者が自然に身につけていることが多く、呼吸リハビリテーションでも指導される。
- ○d. Kussmaul呼吸 ―― 過換気症候群
誤った組合せであり、これが正解である。Kussmaul呼吸は、代謝性アシドーシスに対して呼吸中枢が刺激され、CO2を排出してpHを是正しようとする代償性の呼吸で、深く大きく規則的な呼吸(しばしば回数も増える)が特徴である。糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症(腎不全)などでみられる。一方、過換気症候群は心理的ストレスや不安を契機に過剰な換気が起こり、PaCO2が低下して呼吸性アルカローシスを生じる病態であり、頻呼吸と呼吸困難感、口周囲や手指のしびれ、テタニー様の手指のこわばり(助産師手位)などを伴う。代謝性アシドーシスの代償ではないため、Kussmaul呼吸とは呼ばない。
- ×e. Cheyne-Stokes呼吸 ―― 脳梗塞
正しい組合せである。Cheyne-Stokes呼吸は、浅い呼吸から一回換気量が次第に増えて深い呼吸となり、再び次第に浅くなって無呼吸に至るという周期を繰り返す周期性呼吸である。呼吸中枢のCO2に対する反応性の変化や、血液が肺から脳へ届くまでの循環時間の延長によって換気の調節が行き過ぎと不足を繰り返すことで生じる。両側大脳半球や間脳の障害(脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、髄膜炎など)、重症心不全でみられ、高齢者の睡眠中や高地でも認めることがある。
主な異常呼吸のまとめ
・起坐呼吸:仰臥位で増悪、坐位で軽快。左心不全(肺うっ血・肺水腫)、重症喘息発作。 ・呼気延長:末梢気道の狭窄。気管支喘息、COPD。 ・口すぼめ呼吸:呼気時の気道虚脱を防ぐ。COPD(肺気腫)。 ・Kussmaul呼吸:深く規則的な大呼吸。代謝性アシドーシスの代償(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症など)。 ・Cheyne-Stokes呼吸:漸増・漸減と無呼吸を周期的に繰り返す。両側大脳半球・間脳の障害、重症心不全。 ・Biot呼吸(失調性呼吸):呼吸の深さ・回数・リズムが不規則で、呼吸と無呼吸が突然入れ替わる。延髄など下位脳幹の障害(血管障害、腫瘍、炎症、外傷)。呼吸停止が近いことを示唆する。 ・中枢神経性過換気:持続する速く深い呼吸。中脳〜橋上部の障害。 ・持続性吸息呼吸:吸気の終わりで息を止める。橋の障害。 ・下顎呼吸:吸気時に下顎を動かしてあえぐような呼吸。死戦期にみられる。
過換気症候群のポイント
不安・緊張などを誘因とし、若年女性に多い。動脈血ガスでPaCO2低下、pH上昇(呼吸性アルカローシス)を示す。アルカローシスによりイオン化カルシウムが低下し、しびれやテタニー様症状が出る。治療は安心させてゆっくり呼吸させることが基本であり、紙袋再呼吸法は低酸素血症の危険があるため現在は推奨されない。器質的疾患(肺塞栓症、気胸、心疾患など)の除外が重要である。
POINT
・Kussmaul呼吸=代謝性アシドーシスの呼吸性代償(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症)。過換気症候群は呼吸性アルカローシスであり別物。 ・起坐呼吸=左心不全(肺うっ血・肺水腫)。 ・呼気延長=閉塞性換気障害(気管支喘息、COPD)。 ・口すぼめ呼吸=COPDで呼気時の気道虚脱を防ぐ。 ・Cheyne-Stokes呼吸=両側大脳半球・間脳障害、重症心不全。Biot呼吸=延髄障害。
