衰えていく体の中で「上がっていく」もの―加齢と末梢血管抵抗
第112回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
成人で加齢とともに増加するのはどれか。
- a.腎濃縮力
- b.細胞内液量
- c.末梢血管抵抗
- d.糸球体濾過量〈GFR〉
- e.1日当たりクレアチニン産生量
対話形式の解説
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ドクターまとめ
加齢により多くの臓器は実質細胞が減って萎縮し、GFR・腎血流量・尿濃縮能、細胞内液量、筋肉量とそれに比例するクレアチニン産生量などは低下します。その中で例外的に上昇するのが末梢血管抵抗で、エラスチンの断片化やコラーゲン増加、内膜肥厚、石灰化による動脈の硬化と内腔狭小化が原因となり、高齢者に多い収縮期高血圧と脈圧の拡大につながります。また筋肉量の減少によりクレアチニン産生量が減るため、血清クレアチニン値は腎機能低下を過小評価しやすく、eGFRやシスタチンCでの評価が重要です。加齢による変化を「萎縮して低下するもの」と「硬化して上昇するもの」に分けて理解しておくと、脱水や薬物有害事象など高齢者特有のリスクを予測する力につながります。
解答・解説
正解はcです
加齢に伴う生理機能の変化を問う問題である。
基本的な考え方
成人以降、多くの臓器では実質細胞が少しずつ減って萎縮し、機能は徐々に低下する。安静時には症状として現れないことが多いが、脱水・感染・薬剤などの負荷がかかると、余力(予備能)の乏しさが表面化する。したがって「加齢とともに増加するもの」を選ぶには、機能や量が減っていく項目の中から、例外的に上がっていくものを見つけ出せばよい。
加齢で増加する代表例
加齢で上昇する代表は、血管の硬さに関連する指標である。動脈壁ではエラスチン(弾性線維)の断片化とコラーゲン(膠原線維)の増加、内膜の肥厚、石灰化が進み、血管は硬く内腔は狭くなる。これにより末梢血管抵抗、収縮期血圧、脈圧、脈波伝播速度が上昇する。ほかに体脂肪率、残気量、機能的残気量、閉塞性換気障害の指標なども加齢で増える項目として覚えておくとよい。 選択肢のうち、腎濃縮力・細胞内液量・GFR・クレアチニン産生量はいずれも加齢で低下する項目であり、増加するのは末梢血管抵抗である。
選択肢考察
- ×a. 腎濃縮力
低下する。加齢によりネフロン数が減り、髄質の浸透圧勾配を保つ働きや、集合管の抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)に対する反応性が弱まるため、尿を濃くする能力は落ちる。若年者では夜間に濃い尿が少量つくられるが、高齢者ではこの日内変動が失われ、夜間にも薄い尿が多くつくられる。これが夜間多尿・夜間頻尿の一因となる。また水分摂取が減ったときに尿を濃縮して水を保持できないため、口渇感の低下と相まって脱水に陥りやすい。同様に、ナトリウムの保持・排泄の調節能や酸の排泄能も加齢で低下する。
- ×b. 細胞内液量
低下する。体内の水分の多くは細胞内、とくに水分を多く含む筋肉に存在する。加齢により骨格筋をはじめとする細胞数が減少し(サルコペニアなど)、相対的に水分の少ない脂肪組織の割合が増えるため、細胞内液量は減る。総体水分量は成人で体重の約60%であるが、高齢者では約50%程度まで低下する。体内の水の蓄えが少ないため、高齢者はわずかな水分喪失でも脱水になりやすい。
- ○c. 末梢血管抵抗
増加する。加齢により動脈壁ではエラスチンの断片化、コラーゲンの増加、平滑筋の変化、内膜肥厚、石灰化などの動脈硬化性変化が進み、血管の弾力性が失われ内腔が狭くなる。血管抵抗は血管半径の4乗に反比例するため、わずかな内腔の狭小化でも抵抗は大きく上昇する。こうして末梢血管抵抗は加齢とともにほぼ直線的に増加し、大動脈の伸展性低下と合わせて、高齢者に多い収縮期高血圧(収縮期血圧の上昇と拡張期血圧の相対的低下=脈圧の拡大)の原因となる。また血管機能の低下により、臓器血流の自動調節能(血圧が変動しても臓器血流を一定に保つ仕組み)も衰える。
- ×d. 糸球体濾過量〈GFR〉
低下する。加齢により糸球体の硬化・消失が進んでネフロン数が減少し、腎血流量も低下するため、GFRは減少する。腎は加齢による機能低下が目立つ臓器の一つで、一般にGFRは中年以降、年に約1 mL/分/1.73 m²程度ずつ低下するとされる。日本で用いられる推算GFR(eGFR)の計算式やクレアチニンクリアランスを推定するCockcroft-Gault式に年齢が組み込まれているのはこのためである。腎排泄型の薬剤は高齢者で蓄積しやすく、用量調節が必要となる。
- ×e. 1日当たりクレアチニン産生量
低下する。クレアチニンは筋肉中のクレアチン(クレアチンリン酸)の代謝産物であり、1日の産生量は筋肉量にほぼ比例する。加齢とともに筋肉量は減少するため、クレアチニン産生量も減る。このため高齢者ではGFRが低下していても産生量の減少と相殺されて血清クレアチニン値が正常範囲にとどまることがあり、血清クレアチニン値だけでは腎機能低下を見逃しやすい。年齢を考慮したeGFRの利用や、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCの測定が役立つ。
加齢に伴う主な生理的変化
<増加・上昇するもの> ・循環:末梢血管抵抗、収縮期血圧、脈圧、脈波伝播速度、左室壁厚(心臓は萎縮せず、後負荷増大によりむしろ肥大傾向となる) ・呼吸:残気量、機能的残気量、残気率(残気量/全肺気量)、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO₂) ・体組成:体脂肪率 ・内分泌:FSH・LH(閉経後に著明)など ・その他:前立腺は肥大傾向となる <減少・低下するもの> ・腎:GFR、腎血流量、尿濃縮能、ナトリウム保持能、酸排泄能 ・呼吸:肺活量、1秒量、1秒率、動脈血酸素分圧(PaO₂)、肺の弾性収縮力 ・循環:最大心拍数、圧受容体反射の感度(起立性低血圧を起こしやすい)、臓器血流の自動調節能 ・体組成:総体水分量、細胞内液量、筋肉量、骨量 ・代謝:基礎代謝量、耐糖能、クレアチニン産生量 ・その他:口渇感、免疫能、神経伝導速度
臨床上の意味
平常時には目立たなくても、予備能の低下は感染・手術・脱水・薬物投与などの負荷時に問題となる。とくに肺と腎は加齢による機能低下が顕著で、階段昇降時の息切れや、夜間の多尿・脱水、腎排泄型薬剤の蓄積(薬物有害事象)が起こりやすい。
POINT
・加齢で多くの臓器は萎縮し機能が低下するが、末梢血管抵抗・収縮期血圧・脈圧は上昇する(動脈硬化による)。 ・高齢者の収縮期高血圧は、血管の硬化と末梢血管抵抗の増大で説明される。 ・腎:GFR・腎血流量・尿濃縮能は低下し、夜間多尿や脱水を起こしやすい。 ・体水分量(とくに細胞内液)は減少し、脱水になりやすい。 ・筋肉量の減少でクレアチニン産生量が減るため、血清クレアチニン値は腎機能低下を過小評価しやすい。
