「150」を丸暗記していませんか―純酸素下で肺胞気式を組み立て直す
第112回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
74歳の女性。ネフローゼ症候群のために一般病棟に入院中であったが,呼吸困難,低酸素血症および腎機能低下による尿量減少をきたした。胸部エックス線写真で肺うっ血と両側胸水とを認め,心胸郭比は74%であった。持続血液透析濾過〈CHDF〉と呼吸管理とを行うためICUに入室し,気管挿管下に人工呼吸を開始した。動脈血ガス分析(FIO2 1.0):pH 7.45,PaCO2 32Torr,PaO2 100Torr,HCO3- 22mEq/L。肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉は,一般的にPAO2(肺胞気酸素分圧)-PaO2で表される。 この患者のPAO2はどれか。 ただし,大気圧は760Torr,37℃での水蒸気圧は47Torr,呼吸商は0.8とする。
- a.150-32
- b.150-32/0.8
- c.760-47
- d.(760-47)×1.0-32
- e.(760-47)×1.0-32/0.8
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生まとめ
肺胞気酸素分圧(PAO2)は簡略式「(大気圧−飽和水蒸気圧)×FIO2−PaCO2/呼吸商」で求めます。室内気で使う「150」は713×0.21に由来する値であり、本問のようにFIO2 1.0で人工呼吸中の場合は713×1.0に置き換える必要があり、PAO2は約673Torr、A-aDO2は約573Torrと高度に開大しています。PaCO2を呼吸商で割るのは、CO2産生と酸素消費の比を考慮して肺胞で失われた酸素量を見積もるためです。A-aDO2は肺胞低換気では開大せず、拡散障害・換気血流比不均等・シャントで開大するため、低酸素血症の原因が肺にあるかを判別する指標になり、高濃度酸素下ではP/F比も併用します。数値を丸暗記するのではなく式の意味を理解しておくことが、酸素投与中の患者の呼吸評価に直結します。
解答・解説
正解はeです
症例の整理
ネフローゼ症候群で入院中の74歳女性が、腎機能低下による尿量減少と呼吸困難・低酸素血症をきたした。胸部エックス線写真では肺うっ血と両側胸水があり、心胸郭比は74%と著明に拡大している(正常は50%以下)。体液過剰による溢水・うっ血性心不全の状態と考えられ、除水のための持続血液透析濾過(CHDF: continuous hemodiafiltration)と、気管挿管下の人工呼吸が開始された。 動脈血ガスは吸入酸素濃度(FIO2)1.0、つまり純酸素の吸入下でPaO2 100Torrにとどまっている。PaO2/FIO2比(P/F比)は100であり、高度の酸素化障害がある。PaCO2 32Torrと低下しており過換気の状態である。
設問の考え方
肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は、肺胞内の酸素分圧(PAO2)と動脈血の酸素分圧(PaO2)の差で、肺でのガス交換障害の程度を表す指標である。PAO2は直接測定できないため、肺胞気式(肺胞気方程式)から推定する。臨床で一般に用いられる簡略式は次のとおりである。 PAO2 =(大気圧 − 飽和水蒸気圧)× FIO2 − PaCO2 / 呼吸商 各項の意味は次のとおりである。 ・(大気圧 − 飽和水蒸気圧):吸い込んだ空気は気道内で37℃に温められ、水蒸気で飽和する。その分圧(47Torr)を差し引いた残りが、乾燥ガスとして利用できる圧である。 ・× FIO2:そのうち酸素が占める割合を掛けると、気道内に入る酸素分圧(吸入気酸素分圧、PIO2)になる。 ・− PaCO2 / 呼吸商:肺胞では酸素が血液に取り込まれ、代わりに二酸化炭素が出てくる。二酸化炭素は拡散しやすく肺胞気と動脈血の分圧がほぼ等しいため、肺胞気CO2分圧をPaCO2で代用する。呼吸商(R、酸素消費量に対する二酸化炭素産生量の比)が0.8のとき、二酸化炭素0.8が出る間に酸素は1消費されるので、失われた酸素分を PaCO2 / 0.8 として差し引く。 本問に当てはめると、大気圧760Torr、水蒸気圧47Torr、FIO2 1.0、PaCO2 32Torr、呼吸商0.8であるから、 PAO2 =(760 − 47)× 1.0 − 32 / 0.8 = 713 − 40 = 673Torr となる。なお、この673Torrは呼吸商で割る簡略式による値であり、本問は慣例どおり簡略式で解答することを求めている(厳密式との違いは補足を参照)。 このときA-aDO2は 673 − 100 = 573Torr と非常に大きく、肺水腫による高度のガス交換障害(シャント様の病態)を反映している。
選択肢考察
- ×a. 150-32
150は室内気(FIO2 0.21)で呼吸しているときの吸入気酸素分圧(713 × 0.21 ≒ 150Torr)である。本例は純酸素(FIO2 1.0)を吸入しているので、この値は使えない。さらに、PaCO2を呼吸商で割っておらず、二重に誤っている。
- ×b. 150-32/0.8
室内気で呼吸しているときの簡略式(PAO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8)であり、式の形自体はよく使われるものである。しかし、本例はFIO2 1.0で人工呼吸中であるため、吸入気酸素分圧は150ではなく(760 − 47)× 1.0 = 713Torrとしなければならない。室内気の式だけを丸暗記していると選んでしまいやすい誤りである。
- ×c. 760-47
FIO2 1.0のときの吸入気酸素分圧(PIO2 = 713Torr)を表しているにすぎない。肺胞ではガス交換によって酸素が血中に移動し、二酸化炭素が肺胞内に出てくるため、その分を差し引かなければ肺胞気酸素分圧にはならない。
- ×d. (760-47)×1.0-32
吸入気酸素分圧の部分は正しいが、PaCO2を呼吸商で割っていない。一般に用いる簡略式では、二酸化炭素の産生量と酸素消費量の比(呼吸商0.8)を考慮してPaCO2 / 0.8を差し引くので、本問の求める式とは一致しない。なお、窒素の出入りまで補正する厳密な肺胞気式では、FIO2 1.0のとき補正係数が1となりこの形に一致する。しかし本問は呼吸商0.8を与えたうえで一般的な簡略式による解答を求めており、正解とはならない。
- ○e. (760-47)×1.0-32/0.8
肺胞気式の簡略式「PAO2 =(大気圧 − 飽和水蒸気圧)× FIO2 − PaCO2 / 呼吸商」に、大気圧760Torr、37℃の水蒸気圧47Torr、FIO2 1.0、PaCO2 32Torr、呼吸商0.8を代入した形であり、本問の正しい式である。計算すると713 − 40 = 673Torrとなる。
A-aDO2の意義
・低酸素血症の原因は、肺胞低換気、拡散障害、換気血流比不均等、シャント、吸入気酸素分圧の低下(高地など)に分けられる。 ・A-aDO2は肺胞低換気のみが原因の低酸素血症では開大せず(PAO2自体が下がるため)、拡散障害・換気血流比不均等・シャントでは開大する。低酸素血症の原因が肺そのものにあるかを見分けるのに有用である。 ・室内気での正常値はおおむね10〜20Torr以下で、加齢とともに大きくなる(目安として「年齢/4 + 4」などが用いられる)。 ・FIO2を上げるとA-aDO2の正常値自体も大きくなるため、高濃度酸素下での評価にはP/F比が併用される。P/F比は正常で400〜500程度、300以下で酸素化障害、100以下は重度である。
肺胞気式のポイント
・室内気での簡略式:PAO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8(150 ≒ 713 × 0.21)。 ・吸入酸素濃度が変わる場合は、150の部分を(大気圧 − 47)× FIO2 に置き換える。 ・二酸化炭素は酸素の約20倍拡散しやすいため、肺胞気CO2分圧(PACO2)とPaCO2はほぼ等しいとみなせる。 ・より厳密な肺胞気式は PAO2 = PIO2 − PaCO2 ×[FIO2 +(1 − FIO2)/ R]で、吸気量と呼気量の違い(窒素の出入り)を補正する項を含む。R = 0.8のとき、補正係数はFIO2 0.21で約1.20となり、簡略式の係数1/R = 1.25との差は小さい。一方、FIO2が1.0に近づくほど補正係数は1に近づき、簡略式との差はむしろ大きくなる。 ・FIO2 1.0では厳密式は PAO2 = PIO2 − PaCO2 = 713 − 32 = 681Torr となり、本文で示した673Torr(呼吸商で割る簡略式による値)とは約8Torr異なる。つまり簡略式は高濃度酸素下ほど誤差が大きくなる近似である。それでも国家試験や日常診療では慣例的に簡略式で計算し、本問も呼吸商0.8を与えて簡略式で解答することを前提としている。
本例の背景
・ネフローゼ症候群では低アルブミン血症と腎でのナトリウム貯留により体液が過剰となりやすく、腎機能低下が加わると乏尿・溢水から肺水腫や胸水をきたす。 ・CHDFは循環動態が不安定な重症患者でも、緩徐かつ持続的に除水・溶質除去ができる血液浄化法である。
POINT
・肺胞気式(簡略式):PAO2 =(大気圧 − 47)× FIO2 − PaCO2 / 0.8。 ・室内気(FIO2 0.21)では PAO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8 となる。FIO2が変われば150を使ってはいけない。 ・A-aDO2 = PAO2 − PaO2。肺胞低換気のみでは開大せず、拡散障害・換気血流比不均等・シャントで開大する。 ・本例ではPAO2 = 673Torr、A-aDO2 = 573Torrと高度に開大している。
