縮んだ肺は「細くて背の高い」曲線を描く―特発性肺線維症のflow-volume曲線を読み解く
第112回医師国家試験 C問題 第38問
国試問題にチャレンジ
59歳の男性。労作時の呼吸困難を主訴に来院した。3年前から労作時の呼吸困難があったがそのままにしていた。健診で胸部の異常陰影を指摘されたため,心配になり受診した。身長172cm,体重70kg。体温36.3℃。脈拍80/分,整。血圧128/84mmHg。呼吸数18/分。SpO2 95%(room air)。心音に異常を認めない。呼吸音は正常だが,両側の背部にfine cracklesを聴取する。胸部エックス線写真(A)と胸部CT(B)とを別に示す。 別に示すflow-volume曲線(C①~⑤)のうち,この患者で予想されるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
fine cracklesと、下肺野胸膜直下優位の蜂巣肺・牽引性気管支拡張というUIPパターンの画像からは、特発性肺線維症を考えます。肺線維症は肺が硬く縮む拘束性換気障害で、flow-volume曲線は横幅(努力性肺活量)が小さく、ピークフローは比較的保たれ、下降脚が急峻な縦長の小さい曲線となり、1秒率は正常〜高値を示します。これは線維化した肺の弾性収縮力増大と気道の牽引により、気流速度が保たれるためです。下降脚が下に凸にへこむ閉塞性障害、頂点が台形に平坦化する上気道狭窄、上に凸の肩をもつ若年健常者の曲線との違いを、横幅・頂点・下降脚の3点で整理しておくと判読に迷いません。呼吸機能の形を病態生理から説明できる力は、労作時低酸素や抗線維化薬の効果判定など、IPF診療の実際にも直結します。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・59歳男性。3年前から徐々に進行する労作時呼吸困難があり、慢性・進行性の呼吸器疾患が考えられる。 ・安静時SpO2は95%と軽度低下にとどまるが、両側背部にfine crackles(捻髪音。吸気終末に聴かれる「パチパチ」という細かい断続性副雑音で、ベルクロラ音とも呼ばれる)を聴取する。fine cracklesは線維化して硬くなった末梢の肺胞・細気管支が吸気時に急に開放されることで生じ、間質性肺疾患を強く示唆する。 ・胸部エックス線写真(A): 両側下肺野の外側(末梢)優位に網状影がみられ、肺野はやや縮小している。 ・胸部CT(B): 両側下葉の胸膜直下優位に網状影と蜂巣肺(数mm〜1cm程度の嚢胞が壁を共有して層状に並ぶ像)があり、牽引性気管支拡張(線維化で周囲から引っ張られて気管支が拡張した像)を伴う。右肺には一部すりガラス影もみられる。
診断へのプロセス
下肺野・胸膜直下優位の網状影と蜂巣肺、牽引性気管支拡張はUIP(usual interstitial pneumonia:通常型間質性肺炎)パターンの特徴である。膠原病、薬剤、粉じん吸入、過敏性肺炎など原因の明らかな間質性肺疾患を示唆する情報がなく、中高年男性の慢性経過であることから、特発性肺線維症(IPF)と考えられる。
flow-volume曲線の考え方
flow-volume曲線は、最大吸気位から一気に最大努力で呼出したときの気流速度(縦軸)と呼出量・肺気量(横軸)の関係を描いたものである。曲線の「横幅」が努力性肺活量(FVC)、「頂点」がピークフロー、「下降脚の形」が末梢気道の状態を反映する。 IPFでは肺が線維化して硬くなり(コンプライアンス低下)、膨らまなくなるため肺気量が減少する拘束性換気障害を示す。一方、気道そのものは狭窄しておらず、むしろ肺の弾性収縮力が増し、牽引により気道が引っ張られて開くため、同じ肺気量で比べると気流速度は保たれる。その結果、曲線は「横幅が狭く(FVC低下)、ピークフローは比較的保たれ、下降脚は直線的〜やや上に凸で急峻」な、縦長で小さい相似形となる。FEV1/FVC(1秒率)は正常か、むしろ高値となる。この形に一致するのは①である。
選択肢考察
- ○a. ①
横幅(FVC)が約2.7Lと②の正常例(約4.5L)に比べて明らかに小さい一方、ピークフローは約10L/秒と比較的保たれ、下降脚は凹みのない急峻な形をしている。肺気量が減るが気道閉塞はない拘束性換気障害のパターンであり、肺の線維化で肺容積が縮小するIPFで予想される曲線である。
- ×b. ②
FVCは約4.5L、ピークフローは約12L/秒で、頂点から肺気量0に向かって下降脚がほぼ直線的に下がる、成人の正常な曲線である。肺容積が減少するIPFの患者では、このように肺活量が保たれることはない。
- ×c. ③
ピークフローが約7L/秒と低く、頂点の直後に気流速度が急に落ち、下降脚が下に凸(へこんだ形)となって長く尾を引いている。末梢気道の閉塞により呼出の後半で気流が著しく低下する閉塞性換気障害のパターンで、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息、びまん性汎細気管支炎などでみられる。
- ×d. ④
FVCは約4.5Lと保たれているが、ピークフローが約6L/秒に頭打ちとなり、曲線の上部が平らな台形(プラトー)になっている。太い気道(気管・喉頭など)の狭窄により最大気流が制限される上気道(中枢気道)狭窄のパターンであり、気管腫瘍や挿管後の気管狭窄などでみられる。
- ×e. ⑤
FVCは約4.5L、ピークフローは約12L/秒と保たれ、下降脚の前半が上に凸となる「肩」をもつ曲線である。若年者、特に若い女性の健常者でみられることが多い形で、病的意義はない。肺気量が保たれている点で、肺容積の減少するIPFとは合致しない。
flow-volume曲線の代表的パターン
・正常: 急峻に立ち上がって頂点(ピークフロー)に達した後、下降脚がほぼ直線的に下がる。若年者では下降脚が上に凸になることがある。 ・閉塞性換気障害(COPD、喘息など): ピークフロー低下、下降脚が下に凸(へこむ)。重症になるほどへこみが強くなる。進行したCOPDでは過膨張のため全肺気量・残気量が増加する。 ・拘束性換気障害(間質性肺炎・肺線維症、胸郭変形、神経筋疾患など): 曲線全体が小さく横幅が狭い。下降脚は急峻で、1秒率は正常〜高値。 ・上気道(中枢気道)狭窄: ピークフローが頭打ちとなり台形状になる。固定性狭窄では呼気・吸気の両方が平坦化し、可変性の胸郭外狭窄(声帯麻痺など)では吸気側、胸郭内狭窄では呼気側が主に平坦化する。
換気障害の分類(スパイロメトリー)
・%肺活量(%VC)80%未満: 拘束性換気障害 ・1秒率(FEV1/FVC)70%未満: 閉塞性換気障害 ・両者を満たすもの: 混合性換気障害
特発性肺線維症(IPF)の要点
・特発性間質性肺炎の中で最も頻度が高く、50歳以上の男性、喫煙者に多い。慢性進行性で予後不良である。 ・症状: 乾性咳嗽、労作時呼吸困難。所見: fine crackles、ばち指。 ・画像: 両側下肺野・胸膜直下優位の網状影、蜂巣肺、牽引性気管支拡張(UIPパターン)。 ・検査: 血清KL-6、SP-D、SP-Aの上昇。呼吸機能では拘束性換気障害と肺拡散能(DLCO)の低下がみられ、労作時に低酸素血症が顕著になる(6分間歩行試験での SpO2 低下)。 ・合併症: 急性増悪、肺癌、肺高血圧症、気胸。 ・治療: 抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)で肺活量低下の進行を緩やかにする。必要に応じて酸素療法、呼吸リハビリテーション、肺移植を検討する。
POINT
・fine crackles+下肺野胸膜直下の蜂巣肺・牽引性気管支拡張 → 特発性肺線維症(UIPパターン)。 ・肺線維症は拘束性換気障害: flow-volume曲線は横幅(FVC)が小さく、ピークフローは比較的保たれ、下降脚は急峻。1秒率は正常〜高値。 ・COPDは下降脚が下に凸、上気道狭窄はピークフローが頭打ちの台形、若年健常者は下降脚が上に凸になりうる。 ・曲線の横幅(肺気量)、頂点の高さ、下降脚の形の3点に注目して判読する。
