罰せられない、でも放っておかない―心神喪失者の「その後」を支える医療観察法
第112回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
心神喪失の状態で殺人未遂を犯し,不起訴処分になった者の指定入院医療機関について定めた法律はどれか。
- a.刑法
- b.医師法
- c.医療観察法
- d.地域保健法
- e.精神保健福祉法
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
刑法39条により心神喪失者は罰せられず、心神耗弱者は刑が減軽されますが、刑法はその後の医療については定めていません。心神喪失等の状態で殺人・放火・強盗・不同意性交等・不同意わいせつ・傷害といった重大な他害行為を行い、不起訴や無罪等となった者の医療を定めるのが医療観察法で、地方裁判所で裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体が審判し、入院決定となれば厚生労働大臣が指定する指定入院医療機関で治療が行われます。退院後は指定通院医療機関への通院と、保護観察所の社会復帰調整官による精神保健観察で地域生活を支えます。精神保健福祉法の措置入院が知事による行政処分であるのに対し、医療観察法は司法判断に基づく点が大きな違いです。司法・医療・福祉の連携の枠組みを理解しておくことは、精神科医療に関わるすべての医師にとって重要です。
解答・解説
正解はcです
問われていること
精神障害のために責任能力がない状態(心神喪失)で重大な他害行為を行い、刑事責任を問われなかった者に対する医療の仕組みが、どの法律で定められているかが問われている。
考え方
刑法39条により、心神喪失者の行為は罰せられず、心神耗弱者(責任能力が著しく低い者)の行為は刑が減軽される。そのため、精神障害が原因で殺人などの重大な事件を起こしても、不起訴や無罪となり刑罰を受けない場合がある。しかし、そのままでは本人に必要な治療が継続されず、病状の悪化から同様の行為が繰り返されるおそれもある。 こうした者に対し、裁判所の審判を経て手厚い専門医療と地域での継続的な観察・支援を提供し、病状の改善と再発防止、社会復帰の促進を図るために制定されたのが、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法、2003年成立、2005年施行)である。入院による医療を行う「指定入院医療機関」や、通院医療を担う「指定通院医療機関」は、この法律に基づいて厚生労働大臣が指定する。 本問の事例は「心神喪失」「殺人未遂(重大な他害行為。殺人は未遂も対象)」「不起訴処分」という医療観察法の対象要件をすべて満たしている。
選択肢考察
- ×a. 刑法
刑法は犯罪の成立要件と刑罰を定める法律である。第39条で「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と定め、本問の者が処罰されない根拠にはなっているが、処罰されなかった者への医療や指定入院医療機関については規定していない。
- ×b. 医師法
医師法は医師の免許、国家試験、臨床研修、応招義務や診断書交付義務、異状死体の届出義務など、医師の資格と業務上の義務を定める法律であり、触法精神障害者の医療とは関係がない。
- ○c. 医療観察法
医療観察法は、心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為(殺人、放火、強盗、不同意性交等、不同意わいせつ、傷害)を行い、不起訴処分または無罪・刑の減軽(実刑を除く)の確定判決を受けた者を対象とする。検察官の申立てにより地方裁判所で審判が行われ、入院決定となった者は厚生労働大臣が指定する指定入院医療機関で専門的な医療を受ける。同法第2条で指定入院医療機関が定義されており、本問の法律に該当する。
- ×d. 地域保健法
地域保健法は、保健所や市町村保健センターの設置と業務など、地域保健対策の推進に関する基本的事項を定める法律である。保健所は精神保健に関する業務も担うが、指定入院医療機関に関する規定はない。
- ×e. 精神保健福祉法
精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)は、精神障害者の医療・保護、社会復帰の促進、福祉などを定める法律で、任意入院、医療保護入院、措置入院、応急入院などの入院形態や精神保健指定医について規定する。自傷他害のおそれがある精神障害者を措置入院させる仕組みはあるが、心神喪失で重大な他害行為を行い不起訴となった者を裁判所の審判に基づいて指定入院医療機関で治療する仕組みは、医療観察法に定められている。
医療観察法の流れ
1. 対象者:心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分、または無罪・刑の減軽(執行猶予など、実刑とならない場合)が確定した者。 2. 申立て:検察官が地方裁判所に審判を申し立てる。審判の期間中、原則として鑑定入院が行われ、精神鑑定が実施される。 3. 審判:裁判官1名と精神保健審判員(精神科医)1名の合議体が、精神保健参与員(精神保健福祉士など)の意見も聴いて、「入院決定」「通院決定」「この法律による医療を行わない決定」のいずれかを行う。 4. 入院医療:指定入院医療機関(国、都道府県、独立行政法人などが設置する病院から厚生労働大臣が指定)で、多職種チームによる手厚い医療を受ける。 5. 退院後・通院医療:指定通院医療機関で通院医療を受け、保護観察所の社会復帰調整官(精神保健福祉の専門職)が中心となって精神保健観察と地域の関係機関の連携調整を行う。通院期間は原則3年で、必要に応じて延長される(最長でさらに2年)。
重大な他害行為
殺人、放火、強盗、不同意性交等、不同意わいせつ(2023年の刑法改正前は強制性交等、強制わいせつ)、傷害。傷害以外は未遂も対象となる。
精神保健福祉法の措置入院との違い
・措置入院:警察官通報などをきっかけに、精神保健指定医2名が診察して「自傷他害のおそれ」があると判断した場合に都道府県知事(政令指定都市の市長)が入院させる行政処分。刑事手続きを経ていない場合や、軽微な事件の場合などに用いられる。 ・医療観察法:重大な他害行為で刑事手続きにのった者が、心神喪失等を理由に刑罰を受けなかった場合に、裁判所の審判で処遇を決める。
POINT
・刑法39条:心神喪失者は罰しない、心神耗弱者は刑を減軽。 ・心神喪失等で重大な他害行為を行い不起訴・無罪等となった者の医療は医療観察法で定める。 ・審判は地方裁判所で、裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体が行う。 ・入院は厚生労働大臣が指定する指定入院医療機関、通院時は保護観察所の社会復帰調整官が精神保健観察を担う。 ・措置入院(精神保健福祉法)との区別が重要。
