食べているのに痩せていく―「TSH」ひとつで見抜く甲状腺中毒症
第112回医師国家試験 B問題 第49問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,48と49の問いに答えよ。 20歳の女性。体重減少を主訴に来院した。 現病歴:生来健康であった。2か月前の健康診断では47kgであった体重が40kgになった。食事量は以前と変わらず,過食や嘔吐はない。倦怠感が強く,暑がりになり,夜は眠れなくなった。 既往歴:12歳時に急性虫垂炎で手術。輸血歴はない。 生活歴:大学生。喫煙歴と飲酒歴はない。 家族歴:父親が高血圧症。 現症:意識は清明。身長153cm,体重40kg。体温37.5℃。脈拍104/分,不整。血圧142/52 mmHg。呼吸数16/分。前頸部の腫脹と手指振戦とを認める。腱反射は全体的に亢進している。 検査所見:血液所見:赤血球462万,Hb 13.2g/dL,Ht 40%,白血球4,600,血小板28万。血液生化学所見:AST 35U/L,ALT 40U/L,血糖85mg/dL,HbA1c 5.2%(基準4.6~6.2),Na 142 mEq/L,K 3.8mEq/L,Cl 104mEq/L。
診断に最も有用な血液検査項目はどれか。
- a.インスリン
- b.アルブミン
- c.コルチゾール
- d.カテコラミン
- e.甲状腺刺激ホルモン〈TSH〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
食事量が保たれているのに体重が減り、暑がり、不眠、頻脈、振戦、腱反射亢進、脈圧の増大、甲状腺腫がそろえば、甲状腺中毒症、特に若年女性ではBasedow病を強く疑います。診断に最も有用なのはTSHで、原発性の甲状腺中毒症では負のフィードバックにより測定感度以下まで抑制され、甲状腺機能異常のスクリーニングとして最も感度の高い検査です。実際にはFT4(必要に応じFT3)と同時に測定し、FT4高値でもTSHが抑制されていなければTSH産生下垂体腫瘍などの中枢性病態を考えます。似た症状を示す褐色細胞腫とは甲状腺腫や脈圧の広がりで区別し、甲状腺中毒症と確定した後はTSH受容体抗体、甲状腺摂取率、超音波検査でBasedow病と破壊性甲状腺炎を鑑別します。フィードバックの仕組みから検査値を読み解く考え方は、内分泌疾患全般の診断に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理と診断
20歳の女性が、食事量は変わらないのに2か月で7kg(47kg→40kg)の体重減少をきたした。過食・嘔吐はなく、摂食障害は考えにくい。暑がり、不眠、強い倦怠感に加え、微熱(37.5℃)、不整な頻脈(104/分、心房細動の合併も疑われる)、脈圧の大きい血圧(142/52mmHg、脈圧90mmHg)、前頸部腫脹(甲状腺腫の推定)、手指振戦、全身的な腱反射亢進がみられる。貧血はなく、白血球数・血糖・HbA1c・電解質・肝酵素も基準範囲内である。 これらは甲状腺ホルモンの過剰による代謝亢進と交感神経症状の組み合わせであり、甲状腺腫を伴う若年女性であることから、甲状腺中毒症、特にBasedow病が最も疑われる。
診断に必要な検査の考え方
甲状腺中毒症を疑ったら、まず血中の甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン:FT4、遊離トリヨードサイロニン:FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定し、「甲状腺ホルモンが本当に過剰か」と「視床下部-下垂体-甲状腺系のどこに原因があるか」を明らかにする。 甲状腺ホルモンの分泌は、視床下部から出るTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体からのTSH分泌を促し、TSHが甲状腺を刺激するという流れで調節されている。血中の甲状腺ホルモンが増えると、TRHとTSHの分泌が抑えられる(負のフィードバック)。 ・甲状腺自体に原因がある原発性の甲状腺中毒症(Basedow病、破壊性甲状腺炎など):FT4高値、TSHは抑制されて低値(多くは測定感度以下) ・TSH産生下垂体腫瘍などの中枢性:FT4高値にもかかわらずTSHは正常〜高値(不適切分泌) TSHはわずかな甲状腺ホルモンの変化にも鋭敏に反応するため、甲状腺機能異常のスクリーニングとして最も感度が高い。したがって本問で選択肢の中から診断に最も有用な検査を一つ選ぶならTSHとなる。
選択肢考察
- ×a. インスリン
インスリン測定は、糖尿病の病型評価や、インスリノーマ・インスリン自己免疫症候群などの低血糖をきたす疾患の診断に用いる。本例では血糖85mg/dL、HbA1c 5.2%と正常であり、体重減少の原因としての糖尿病は否定的である。また低血糖もないため、振戦や頻脈を低血糖発作によるものと考える根拠もない。甲状腺中毒症の診断には役立たない。
- ×b. アルブミン
血清アルブミンは栄養状態や肝臓の合成能、蛋白漏出の有無を反映する指標である。体重減少と低アルブミン血症をきたす病態として肝不全、吸収不良症候群、蛋白漏出性胃腸症、悪性腫瘍などがあるが、本例ではAST・ALTが基準範囲内で、下痢や浮腫など吸収不良・蛋白漏出を思わせる記載もない。アルブミンを測っても甲状腺中毒症の診断にはつながらない。
- ×c. コルチゾール
コルチゾール測定は副腎不全(Addison病など)やCushing症候群の評価に用いる。副腎不全は体重減少や倦怠感の原因となるが、通常は低血圧、低血糖、低ナトリウム血症、高カリウム血症、色素沈着などを伴う。本例は血圧が高めで、血糖・電解質も正常であり、副腎不全を積極的に疑う所見はない。また暑がり、振戦、甲状腺腫といった所見は副腎不全では説明できない。
- ×d. カテコラミン
カテコラミン(またはその代謝産物であるメタネフリン類)の測定は褐色細胞腫の診断に用いる。褐色細胞腫でも頻脈、振戦、発汗、高血圧、体重減少がみられるため鑑別には挙がる。しかし褐色細胞腫の高血圧は収縮期・拡張期ともに上昇することが多く、本例のような拡張期血圧の低い脈圧増大は高拍出状態を示す甲状腺中毒症により合致する。何より前頸部腫脹(甲状腺腫)は甲状腺疾患を強く示唆するため、まず甲状腺機能を調べるべきであり、カテコラミンは最も有用な検査とはいえない。
- ○e. 甲状腺刺激ホルモン〈TSH〉
甲状腺中毒症が疑われる本例では、TSH測定が診断に最も有用である。甲状腺自体に原因がある原発性の甲状腺中毒症(Basedow病など)では、過剰な甲状腺ホルモンによる負のフィードバックで下垂体からのTSH分泌が強く抑えられ、TSHは低値(多くは測定感度以下)となる。TSHは甲状腺ホルモンのわずかな変化にも鋭敏に反応するため、甲状腺機能異常のスクリーニングとして最も感度が高い。実際にはFT4(必要に応じFT3)と同時に測定し、TSH低値かつFT4高値であれば原発性の甲状腺中毒症と判断できる。FT4高値でもTSHが抑制されていなければ、TSH産生下垂体腫瘍などの中枢性の原因を考える。
甲状腺機能検査の読み方
・TSH低値、FT4高値:原発性甲状腺中毒症(Basedow病、機能性甲状腺結節、破壊性甲状腺炎など) ・TSH正常〜高値、FT4高値:TSH産生下垂体腫瘍、甲状腺ホルモン不応症 ・TSH高値、FT4低値:原発性甲状腺機能低下症(橋本病など) ・TSH低値〜正常、FT4低値:中枢性(下垂体性・視床下部性)甲状腺機能低下症 ・TSH低値、FT4正常:潜在性甲状腺中毒症
甲状腺中毒症と判明した後の原因検索
原発性甲状腺中毒症と確認できたら、次に原因を区別する。これは治療方針が大きく異なるためである。 ・TSH受容体抗体(TRAb、TSAb):Basedow病で陽性となる ・放射性ヨウ素(またはテクネチウム)甲状腺摂取率:Basedow病や機能性結節ではホルモン合成が亢進しているため高値、破壊性甲状腺炎(亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎)ではホルモンが漏れ出ているだけで合成は低下しているため低値 ・甲状腺超音波検査:びまん性腫大と血流増加はBasedow病を示唆し、結節の有無も評価できる ・臨床所見:眼球突出があればBasedow病、甲状腺の圧痛・発熱・赤沈亢進があれば亜急性甲状腺炎を考える なお、FT3/FT4比が高いことはBasedow病を、低いことは破壊性甲状腺炎を示唆する参考所見となる。
体重減少の鑑別の視点
食欲が保たれているのに痩せる場合は、甲状腺中毒症、コントロール不良の糖尿病、褐色細胞腫、吸収不良症候群などを考える。食欲低下を伴う場合は、悪性腫瘍、慢性感染症(結核など)、副腎不全、うつ病、摂食障害などを考える。
POINT
・甲状腺中毒症を疑ったら、TSHとFT4(必要に応じFT3)を測定する。 ・原発性甲状腺中毒症では負のフィードバックによりTSHは低値(多くは測定感度以下)となる。 ・TSHは甲状腺機能異常のスクリーニングとして最も感度が高い。 ・FT4高値でTSHが抑制されていない場合は、TSH産生下垂体腫瘍などの中枢性病態を考える。 ・原因の鑑別にはTRAb、甲状腺摂取率、超音波検査を用いる(Basedow病:TRAb陽性・摂取率高値、破壊性甲状腺炎:摂取率低値)。
