夜中に抜けた胸腔ドレーン―「まず塞ぐ」が正解になる理由
第112回医師国家試験 A問題 第21問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。4日前に肺癌のため右上葉切除術およびリンパ節郭清術を受けて入院中である。術後経過は順調だが,胸腔ドレーンはわずかな空気漏れがあり排液はやや血性のため留置している。昨日からせん妄症状がみられている。本日午後9時に患者は就寝していたが,2時間後には覚醒しており胸腔ドレーンが抜けていた。呼吸音に変化はみられず,直ちに胸部エックス線撮影を行ったが,日中に撮影した画像と比較して変化はみられない。SpO2 99%(鼻カニューラ2L/分酸素投与下)であり,胸腔ドレーン抜去前と比較して低下はみられない。 行うべき処置はどれか。
- a.右胸腔穿刺を行う。
- b.ドレーン刺入部を縫合する。
- c.気管挿管下に人工呼吸管理を開始する。
- d.抜けた胸腔ドレーンを刺入部から再挿入する。
- e.鼻カニューラをマスクに交換し8L/分で酸素を投与する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胸腔ドレーンの予定外抜去では、まず呼吸状態・循環動態・胸部エックス線写真で気胸や血胸の変化を評価します。状態が安定していれば、外気の流入による気胸や感染を防ぐため刺入部を縫合閉鎖し、エアリークや血性排液が残っていた場合は画像の再検を含めて慎重に経過観察します。抜けたドレーンは汚染されているため再挿入してはならず、再ドレナージが必要なら新しいドレーンを清潔操作で挿入します。また酸素化が保たれていれば、酸素増量や気管挿管の適応はありません。高齢者の術後せん妄は自己抜去の主要な原因であり、原因検索・環境調整・固定の見直しによる再発防止も欠かせず、評価から閉鎖、原因対策までの流れを理解しておくことが安全な術後管理の基本となります。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
・78歳男性。肺癌に対し右上葉切除術とリンパ節郭清術を受けて術後4日目である。 ・術後経過は順調だが、胸腔ドレーンからわずかな空気漏れ(エアリーク:切離した肺表面などから胸腔内へ空気が漏れている状態)があり、排液もやや血性のためドレーンを留置していた。 ・前日からせん妄があり、夜間にドレーンを自己抜去してしまった。高齢・手術侵襲・夜間はいずれも術後せん妄の危険因子であり、ドレーンやカテーテルの自己抜去は術後せん妄で起こりやすい事故である。 ・抜去後の評価:呼吸音に変化なし、胸部エックス線写真は日中と比べて変化なし(気胸の増悪や胸水・血胸の増加なし)、SpO2 99%(鼻カニューラ2L/分)で抜去前と同等。
考え方
ドレーンの予定外抜去に対しては、まず患者の状態(呼吸・循環、気胸や血胸の有無)を評価し、そのうえで抜去部の処置と今後のドレナージの要否を判断する。本例では呼吸状態・画像ともに変化がなく、緊急の脱気やドレナージ、呼吸管理を要する状況ではない。 一方、胸腔ドレーンが抜けた後の刺入部(創)は胸壁を貫く孔であり、開いたままだと吸気時の胸腔内陰圧により外気が胸腔内に吸い込まれ、気胸(開放性気胸)や感染の原因となる。したがって、まず行うべき処置は刺入部を閉鎖すること、すなわち縫合(通常は挿入時にかけておいた閉鎖用の糸を結紮するか、新たに縫合)して気密性を保つことである。 そのうえで、エアリークと血性排液が残っていた状態での抜去であるため、気胸や胸水(血胸)が遅れて増悪する可能性がある。呼吸音、SpO2、バイタルサインを監視し、数時間後や翌朝に胸部エックス線写真を再検して慎重に経過観察する。増悪した場合は、新しい清潔なドレーンを改めて挿入する。また、せん妄への対応(原因検索、環境調整、必要に応じた薬物療法)とルート・ドレーン類の固定の見直しも並行して行う。
選択肢考察
- ×a. 右胸腔穿刺を行う。
胸腔穿刺は、胸水の排液や緊張性気胸の緊急脱気などが必要なときに行う手技である。本例は胸部エックス線写真で気胸・胸水の増加がなく、呼吸音・SpO2にも変化がないため、穿刺の適応はない。不要な穿刺は肺損傷や出血、感染の危険を伴う。
- ○b. ドレーン刺入部を縫合する。
胸腔ドレーンの抜去後に刺入部が開いたままだと、呼吸に伴う胸腔内の陰圧で外気が胸腔内に吸い込まれ、気胸を生じたり、創から感染したりするおそれがある。本例は呼吸状態と画像に変化がなく、直ちに再ドレナージを要する状況ではないため、刺入部を縫合閉鎖して気密を保ち、そのうえで呼吸状態と胸部エックス線写真を厳重に経過観察するのが適切な対応である。
- ×c. 気管挿管下に人工呼吸管理を開始する。
気管挿管・人工呼吸管理は、酸素投与でも酸素化が保てない呼吸不全、換気不全、気道確保が必要な意識障害などで行う。本例はSpO2 99%と酸素化は良好で、呼吸状態の悪化もないため適応はない。さらに、肺切除後に陽圧換気を行うと、空気漏れのある肺から胸腔内への漏れが増え、ドレーンのない状態では緊張性気胸を誘発する危険もある。
- ×d. 抜けた胸腔ドレーンを刺入部から再挿入する。
一度体外に抜けたドレーンは寝具や皮膚などに触れて汚染されており、それを再び胸腔内に入れると膿胸などの重篤な感染を起こすおそれがあるため、行ってはならない。再ドレナージが必要と判断した場合は、新しい滅菌されたドレーンを清潔操作で改めて挿入する(元の刺入部は汚染されている可能性があるため、別の部位から挿入することが多い)。本例は現時点では再挿入の適応もない。
- ×e. 鼻カニューラをマスクに交換し8L/分で酸素を投与する。
SpO2は鼻カニューラ2L/分で99%と十分であり、抜去前と比べて低下もないため、酸素を増量する必要はない。酸素の増量は低酸素血症が生じた場合に検討すればよく、刺入部の閉鎖という本質的な処置の代わりにはならない。
胸腔ドレーンの基本
・目的:胸腔内の空気・血液・滲出液を体外へ排出し、肺の再膨張を保つ。肺切除後は、エアリークの監視、出血の監視、残存肺の再膨張の促進のために留置する。 ・構成:一般に排液ボトル、水封室(ウォーターシール:水で封をして外気の逆流を防ぐ部分)、吸引圧制御室からなる低圧持続吸引システムに接続する。水封室に吸気・呼気で液面が上下する呼吸性移動があればドレーンの開通が確認でき、気泡が出続ければエアリークがあると判断する。 ・抜去の目安:エアリークの消失、排液量の減少(性状が漿液性で1日量が少ないこと)、胸部エックス線写真で肺が十分に膨張していることなど。計画的な抜去では、深吸気位または呼気位で息こらえをさせて素早く抜き、直ちに刺入部を閉鎖する(挿入時にかけておいたマットレス縫合などの糸を結紮する)。
予定外抜去(自己抜去・事故抜去)時の対応
1. 刺入部をガーゼなどで直ちに押さえて外気の流入を防ぎ、医師に連絡する。 2. 呼吸状態(呼吸数、呼吸音、SpO2、呼吸困難)、循環動態、皮下気腫の有無を評価し、胸部エックス線写真で気胸や胸水の変化を確認する。 3. 状態が安定していれば刺入部を縫合閉鎖して経過観察し、時間をおいて画像を再検する。 4. 気胸・胸水の増悪や呼吸状態の悪化があれば、新しいドレーンを清潔操作で挿入する。抜けたドレーンの再挿入は禁忌である。 5. 抜去に至った原因(せん妄、固定不良など)を検討し、再発防止策(固定の強化、せん妄の治療、観察の強化)を講じる。
術後せん妄
・手術後数日以内に急性に生じる、意識の変容・注意障害・見当識障害を主体とする状態で、夜間に悪化しやすい。高齢、認知機能低下、手術侵襲、疼痛、睡眠障害、低酸素、電解質異常、薬剤(ベンゾジアゼピン系など)が危険因子となる。 ・対応:原因の検索と除去、疼痛管理、昼夜のリズムの確保、眼鏡や補聴器の使用、家族の面会など環境調整。必要に応じ抗精神病薬などを用いる。身体抑制は最小限とする。 ・ドレーン類の自己抜去や転倒・転落などの事故につながりやすく、医療安全上の重要な課題である。
POINT
・ドレーン自己抜去時は、まず呼吸・循環と胸部エックス線写真で気胸・胸水の有無を評価する。 ・状態が安定していれば刺入部を縫合閉鎖し、外気の流入(気胸)と感染を防いだうえで経過観察する。 ・抜けたドレーンの再挿入は汚染されているため禁忌。再ドレナージが必要なら新しいドレーンを清潔操作で挿入する。 ・酸素化が保たれていれば、酸素増量や気管挿管・人工呼吸の適応はない。 ・高齢者の術後せん妄はドレーン・カテーテル自己抜去の主要な原因。
