汗が出ないのはどこの故障?―発汗経路から読み解く続発性無汗症
第112回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
続発性無汗症の原因とならないのはどれか。
- a.糖尿病
- b.Fabry病
- c.Sjögren症候群
- d.甲状腺機能低下症
- e.自家感作性皮膚炎
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
発汗は視床下部の体温調節中枢から脊髄、交感神経(コリン作動性節後線維)を経てエクリン汗腺に至る経路で起こり、続発性無汗症はこの経路の障害や代謝低下、薬剤によって生じます。糖尿病は自律神経障害で下肢優位に、Fabry病はGb3の汗腺・小径神経への蓄積で幼少期から、Sjögren症候群は外分泌腺である汗腺の障害で、甲状腺機能低下症は熱産生の低下で、それぞれ無汗・乏汗をきたします。一方、自家感作性皮膚炎は原発巣の悪化後に散布疹が出る急性湿疹反応で、汗腺や神経を持続的に障害しないため無汗症の原因にはなりませんが、アトピー性皮膚炎などの慢性炎症性皮膚疾患では発汗低下が起こりうる点に注意が必要です。無汗症はうつ熱・熱中症の危険があり、Minor法などの発汗試験と内服薬の確認が診療の基本となります。発汗経路のどこが障害されるかで考える習慣は、自律神経症状全般の理解にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
無汗症(anhidrosis)とは、汗がほとんど出なくなる状態をいう。汗の量が減るだけのものは乏汗症(減汗症、hypohidrosis)とよぶが、臨床では両者をまとめて扱うことが多い。本問は、他の病気の結果として二次的に起こる「続発性」無汗症の原因として、当てはまらないものを1つ選ぶ問題である。
発汗のしくみから考える
体温調節のための発汗は、視床下部の体温調節中枢 → 脊髄 → 交感神経節 → 節後線維(コリン作動性の交感神経)→ エクリン汗腺、という経路で起こる。この経路のどこかが障害されると無汗になる。整理すると、 ・中枢〜末梢神経の障害(例:糖尿病性ニューロパチー、Parkinson病などの自律神経障害、脊髄障害) ・汗腺そのものの障害(例:汗腺への物質の蓄積、汗腺周囲の炎症や破壊) ・熱産生・代謝の低下(例:甲状腺機能低下症) ・薬剤(抗コリン薬など) が主な原因群となる。
解き方
各選択肢が上の経路のどこを障害しうるかを考える。糖尿病は神経、Fabry病とSjögren症候群は汗腺(と神経)、甲状腺機能低下症は代謝低下を介して、いずれも無汗・乏汗をきたしうる。一方、自家感作性皮膚炎は急性の湿疹反応であり、それだけで汗の出が持続的に障害されることはない。したがって原因とならないのは自家感作性皮膚炎である。
選択肢考察
- ×a. 糖尿病
続発性無汗症の原因となる。長く続く高血糖は末梢神経を障害し(糖尿病性ニューロパチー)、なかでも細い無髄線維である自律神経(汗腺を支配する交感神経節後線維)が侵されやすい。神経障害は長い神経から起こるため、まず下肢から無汗・乏汗が始まり、体幹へ広がる。発汗できない部位を補うように上半身や顔面で汗が増える代償性発汗や、食事中に顔に汗をかく味覚性発汗がみられることもある。
- ×b. Fabry病
無汗症の原因となる。Fabry病はX連鎖性のリソソーム病で、α-ガラクトシダーゼAの欠損によりグロボトリアオシルセラミド(Gb3、GL-3)が全身の細胞に蓄積する。エクリン汗腺の細胞や汗腺を支配する小径神経線維にも蓄積が起こり、幼少期から低汗・無汗を生じる。そのため暑さや運動で体温が上がりやすく、四肢末端の激しい疼痛(四肢末端痛)の誘因にもなる。遺伝性疾患であるため、無汗症の分類では「続発性」ではなく「先天性・遺伝性」の枠に入れられることも多いが、他の基礎疾患によって生じる無汗という意味で原因に含めてよく、本問の正解(原因とならないもの)にはならない。
- ×c. Sjögren症候群
続発性無汗症の原因となる。Sjögren症候群は涙腺・唾液腺などの外分泌腺をリンパ球が攻撃する自己免疫疾患で、乾燥性角結膜炎(ドライアイ)や口腔乾燥(ドライマウス)が代表症状である。汗腺も外分泌腺の一つであり、汗腺周囲へのリンパ球浸潤や、汗腺で水の通り道となるアクアポリン5の発現低下が起こるため、発汗が減り皮膚が乾燥する(乾皮症)。
- ×d. 甲状腺機能低下症
続発性無汗症の原因となる。甲状腺ホルモンは基礎代謝を高めて熱をつくる働きをもつ。これが不足すると熱産生が減って体温を下げる必要が乏しくなり、発汗が減少する。寒がり、皮膚の乾燥・冷感、粘液水腫などとともに乏汗・無汗がみられる。逆に甲状腺機能亢進症では多汗となる。
- ○e. 自家感作性皮膚炎
続発性無汗症の原因とならない。自家感作性皮膚炎は、うっ滞性皮膚炎や接触皮膚炎など体の一部の湿疹(原発巣)が掻破や細菌感染で悪化したのち、全身に小さな丘疹・小水疱が散らばる(散布疹)急性の湿疹反応である。原発巣で生じた抗原に対する自己感作が機序と考えられている。強いかゆみを伴い、ときに悪寒・発熱・食欲不振などの全身症状がみられるが、急性の炎症であって汗腺や自律神経を持続的に障害するものではなく、本症のみで無汗症になることはない。なお、アトピー性皮膚炎のような慢性の炎症性皮膚疾患では、皮疹部で発汗が低下することが知られており、両者を混同しないよう注意する。
無汗症の分類
大きく先天性(遺伝性)と後天性に分けられる。 ・先天性:無汗性外胚葉形成不全症(汗腺そのものが少ない)、先天性無痛無汗症(遺伝性感覚・自律神経ニューロパチーIV型、NTRK1遺伝子異常)、Fabry病など ・後天性(特発性):特発性後天性全身性無汗症(AIGA)。明らかな原因がなく、体温が上がっても汗が出ず、発汗時にチクチクする痛み(コリン性蕁麻疹を伴うこともある)を訴える若年男性に多い。ステロイドパルス療法が有効なことがある。 ・後天性(続発性): 神経疾患:糖尿病性ニューロパチー、Parkinson病、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、Guillain-Barré症候群、脊髄損傷、Horner症候群(顔面の片側無汗)、Ross症候群など 内分泌・代謝疾患:糖尿病、甲状腺機能低下症など 膠原病:Sjögren症候群、全身性強皮症(皮膚硬化による汗腺の破壊)など 皮膚疾患:アトピー性皮膚炎、乾癬、熱傷瘢痕、汗疹(汗管の閉塞)など 腫瘍・その他:悪性腫瘍に伴う傍腫瘍性自律神経障害、放射線照射後など 薬剤:抗コリン薬、一部の抗てんかん薬(トピラマート、ゾニサミド)など
無汗症の危険性
汗による熱放散ができないため、夏季や運動時にうつ熱・熱中症を起こしやすい。診断にはヨウ素デンプン反応を用いたMinor法などの発汗試験で無汗部位を確認する。患者の内服薬を確認することも重要である。
POINT
・続発性無汗症の原因:神経障害(糖尿病性ニューロパチーなど)、汗腺障害(Fabry病、Sjögren症候群、強皮症)、代謝低下(甲状腺機能低下症)、薬剤(抗コリン薬など) ・Fabry病はGb3の汗腺への蓄積で幼少期から乏汗となり、四肢末端痛を伴う ・甲状腺機能低下症は乏汗・乾燥皮膚、亢進症は多汗 ・自家感作性皮膚炎は原発巣の悪化後に散布疹が出る急性湿疹で、無汗症の原因にはならない(慢性炎症のアトピー性皮膚炎は乏汗を生じうる)
