狭い門は締めつける―大腿ヘルニアが「やせた高齢女性」で「嵌頓しやすい」理由
第112回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
大腿ヘルニアについて正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.男性に多い。
- b.両側性が多い。
- c.嵌頓しやすい。
- d.高齢者に多い。
- e.大腿動脈の外側に触れる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
大腿ヘルニアは、腹腔内容が鼠径靱帯の下方にある大腿輪から大腿管を通って脱出するヘルニアで、腫瘤は大腿静脈の内側に触れます。女性に多く、特に結合組織の脆弱化した中高年〜高齢のやせ型女性に好発し、多くは片側性で右側に多いとされます。ヘルニア門が鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯という硬い組織に囲まれて狭いため嵌頓・絞扼を起こしやすく、Richterヘルニアでは腸閉塞症状が目立たないまま壊死が進むこともあるため、診断がつけば早期手術が原則です。外鼠径(小児・男性)、内鼠径(中高年男性・嵌頓まれ)、閉鎖孔ヘルニア(高齢やせ型女性・嵌頓しやすい)と対比して整理すると、高齢者の腸閉塞の原因検索にもそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はc, dです
テーマ
大腿ヘルニアは、腹腔内容(小腸、大網など)が鼠径靱帯の下方にある大腿輪から大腿管を通って、大腿前面(大腿三角〈Scarpa三角〉の卵円窩付近)に脱出する鼠径部ヘルニアの一型である。鼠径部ヘルニア全体の数%程度と頻度は低いが、臨床上重要な特徴をもつ。
解剖から特徴を理解する
大腿輪は、前方を鼠径靱帯、後方を恥骨筋膜(Cooper靱帯)、内側を裂孔靱帯、外側を大腿静脈に囲まれた狭い開口部である。大腿鞘の中では外側から大腿神経(鞘外)・大腿動脈・大腿静脈・大腿管の順に並ぶため(覚え方:外側から「NAVEL」=Nerve, Artery, Vein, Empty space, Lymphatics)、ヘルニアは大腿静脈のさらに内側に出現する。 周囲が硬い靱帯で囲まれたヘルニア門は狭く伸展性に乏しいため、脱出した腸管は締め付けられやすく、嵌頓・絞扼を起こしやすい。
疫学
女性は骨盤が幅広く大腿輪が相対的に大きいこと、妊娠・出産による腹圧上昇や組織の脆弱化が加わることから女性に多い。また加齢による筋膜・結合組織の脆弱化を背景に、中高年〜高齢者、特にやせた高齢女性に好発する。多くは片側性で、右側に多い。 これらの特徴を踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 男性に多い。
大腿ヘルニアは女性に多い。女性は骨盤が広く大腿輪が大きいこと、妊娠・出産の影響などが理由である。なお、鼠径部ヘルニア全体では男性の外鼠径ヘルニアが最も多いため、女性の鼠径部ヘルニアでも外鼠径ヘルニアの方が数としては多い点に注意する。
- ×b. 両側性が多い。
大腿ヘルニアの大部分(約8割)は片側性であり、右側に多い。両側性は少数である。
- ○c. 嵌頓しやすい。
ヘルニア門である大腿輪は、鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯という硬い組織に囲まれて狭く伸展しにくい。そのため脱出臓器が締め付けられて還納できなくなる嵌頓を起こしやすく、血流障害を伴う絞扼性腸閉塞に進行しやすい。腸管壁の一部だけが嵌頓するRichterヘルニアの形をとることもあり、腸閉塞症状がはっきりしないまま壊死が進むことがある。このため、大腿ヘルニアは診断がつけば待機的にでも早期に手術を行うのが原則である。閉鎖孔ヘルニアも同様に嵌頓しやすいヘルニアとして知られる。
- ○d. 高齢者に多い。
大腿ヘルニアは中年以降、とくに高齢の女性(経産婦、やせ型)に多い。加齢による腹壁・横筋筋膜の脆弱化や、皮下脂肪の減少が関与する。小児や若年者にはまれである。
- ×e. 大腿動脈の外側に触れる。
大腿管は大腿静脈の内側に位置するため、大腿ヘルニアは大腿動脈・大腿静脈の内側、鼠径靱帯の下方に腫瘤として触れる。大腿動脈の外側には大腿神経が走行しており、ヘルニアの脱出部位ではない。
鼠径部ヘルニアの比較
・外鼠径ヘルニア(間接型):内鼠径輪から鼠径管を通って脱出。下腹壁動静脈の外側。小児(腹膜鞘状突起の開存)と男性に多く、陰囊まで達することがある。最も頻度が高い。 ・内鼠径ヘルニア(直接型):Hesselbach三角(下腹壁動静脈・腹直筋外縁・鼠径靱帯で囲まれる)から直接脱出。下腹壁動静脈の内側。中高年男性に多く、門が広いため嵌頓はまれ。 ・大腿ヘルニア:大腿輪から大腿管を通って脱出。鼠径靱帯の下方、大腿静脈の内側。中高年女性に多く、嵌頓しやすい。
鼠径靱帯との位置関係
鼠径ヘルニア(外・内)は鼠径靱帯の上方に、大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下方に膨隆する。ただし、大腿ヘルニアの脱出物が上方へ反転して鼠径靱帯を越えるように見えることもあり、診察だけでは鑑別が難しい場合は超音波検査やCTが有用である。
嵌頓しやすいヘルニア
大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアはいずれもヘルニア門が狭く、高齢のやせた女性に多いという共通点がある。閉鎖孔ヘルニアでは閉鎖神経の圧迫による大腿内側〜膝の痛み(Howship-Romberg徴候)がみられることがある。
治療
嵌頓例では緊急手術を行い、腸管壊死があれば腸切除を併施する。修復法には、腹膜前腔からメッシュで筋恥骨孔全体を覆う方法(腹腔鏡下修復術を含む)や、Cooper靱帯を利用する修復(McVay法)などがある。
POINT
・大腿ヘルニア:鼠径靱帯の下、大腿静脈の内側(大腿管)に脱出 ・中高年〜高齢の女性に多い、片側性で右側に多い ・ヘルニア門が狭く硬いため嵌頓・絞扼しやすい→早期手術が原則 ・外鼠径=小児・男性、内鼠径=中高年男性(嵌頓まれ)、大腿=中高年女性(嵌頓多い) ・閉鎖孔ヘルニアも高齢やせ型女性に多く嵌頓しやすい
