「肺に流れすぎる血液」をどう止めるか―VSD乳児の心不全治療は利尿薬と早期手術
第111回医師国家試験 I問題 第30問
国試問題にチャレンジ
心室中隔欠損症によるうっ血性心不全と肺高血圧症を伴う4か月の乳児について,適切な治療方針はどれか。2つ選べ。
- a.利尿薬の投与
- b.β遮断薬の投与
- c.高濃度酸素の投与
- d.肺血管拡張薬の投与
- e.1歳未満での開胸修復手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心室中隔欠損症の大欠損では、生後に肺血管抵抗が下がると左右短絡が増え、肺血流過多による肺うっ血と左心系の容量負荷からうっ血性心不全と高肺血流性肺高血圧をきたします。内科治療の基本は利尿薬による前負荷軽減と水分管理であり、高濃度酸素や肺血管拡張薬は肺血管抵抗を下げて短絡を増やし、β遮断薬は心拍数依存の乳児で心拍出量を低下させるため、いずれも適しません。放置すると肺血管病変が不可逆となりEisenmenger症候群に至って手術不能になるため、心不全と肺高血圧を伴う例では1歳未満での心内修復術(パッチ閉鎖)が根本治療となります。小欠損は自然閉鎖が多く経過観察が基本である一方、肺動脈弁下欠損は大動脈弁閉鎖不全の予防のため早期手術が考慮されます。短絡の方向と量を左右する肺血管抵抗の考え方は、先天性心疾患全般の管理を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, eです
病態の整理
心室中隔欠損症(VSD:ventricular septal defect)では、出生後に肺血管抵抗が低下するにつれて、圧の高い左室から圧の低い右室へ血液が流れ込む左右短絡(左→右シャント)が増える。短絡血は肺動脈→肺静脈→左房→左室と再び左心系に戻るため、肺血流量の増加(肺うっ血)と左房・左室の容量負荷が生じる。生後1〜3か月ごろに肺血管抵抗が十分下がると短絡量が最大となり、大きな欠損孔では多呼吸、哺乳不良、多汗、体重増加不良、肝腫大といったうっ血性心不全症状が現れる。
肺高血圧の意味
大量の肺血流が続くと肺動脈圧が上昇する(高肺血流性肺高血圧)。この段階では肺血管はまだ可逆的だが、放置すると肺小動脈の中膜肥厚・内膜線維化が進行し、肺血管抵抗が固定的に上昇する。肺血管抵抗が体血管抵抗を上回ると短絡が右→左に逆転し、チアノーゼを呈するEisenmenger(アイゼンメンゲル)症候群となって手術不能になる。
治療の考え方
本症例の問題は「肺に血液が流れすぎていること」である。したがって内科治療の方向性は、(1) 循環血液量を減らして前負荷と肺うっ血を軽減すること(利尿薬、水分管理)であり、肺血管抵抗を下げて短絡をさらに増やすような治療(高濃度酸素、肺血管拡張薬)は逆効果となる。そして、内科治療で心不全をコントロールしきれず、肺高血圧を伴う例では、肺血管病変が不可逆になる前に欠損孔を閉鎖する外科手術を乳児期(1歳未満)に行うことが根本治療となる。
選択肢考察
- ○a. 利尿薬の投与
フロセミドなどのループ利尿薬(必要に応じてスピロノラクトンを併用)により体液量を減らし、前負荷と肺うっ血を軽減する。左右短絡による容量負荷型心不全に対する内科治療の第一選択であり、水分摂取の調整とあわせて行う。症状を和らげ、手術までの体重増加や全身状態の改善を図る目的がある。
- ×b. β遮断薬の投与
β遮断薬は心拍数と心筋収縮力を抑える薬である。VSDによる心不全は左右短絡による容量負荷が本態で、心筋収縮力そのものは保たれているため、β遮断薬で改善する病態ではない。乳児は心拍出量を心拍数に強く依存しており、急性期にβ遮断薬を用いるとむしろ心拍出量が低下して心不全を悪化させるおそれがある。成人の収縮不全(HFrEF)での使い方をそのまま当てはめてはならない。
- ×c. 高濃度酸素の投与
酸素には強力な肺血管拡張作用がある。高濃度酸素を投与すると肺血管抵抗が下がり、左右短絡量がさらに増えて肺血流過多と心不全を悪化させる。左右短絡疾患の乳児では、著しい低酸素血症がある場合に必要最小限の酸素を用いることはあるが、「高濃度」酸素投与は適切ではない。
- ×d. 肺血管拡張薬の投与
本症例の肺高血圧は、肺血管病変が主因の肺動脈性肺高血圧ではなく、短絡による肺血流量の増加が原因である。シルデナフィルやボセンタンなどの肺血管拡張薬で肺血管抵抗を下げると、短絡量が増えて肺うっ血と心不全がかえって悪化する。肺血管拡張薬は、肺血管抵抗が上昇した例で手術適応を評価する場合などに限って専門的に検討されるものであり、本症例の治療方針としては不適切である。
- ○e. 1歳未満での開胸修復手術
うっ血性心不全と肺高血圧を伴う大きなVSDでは、内科治療を行っても体重増加不良が続くことが多く、肺血管病変が不可逆となってEisenmenger化する前に、乳児期(1歳未満、多くは生後数か月〜半年ごろ)に人工心肺を用いた開心術でパッチ閉鎖を行うことが推奨される。早期に修復すれば肺動脈圧は正常化が期待できる。
VSDの概要
先天性心疾患で最も頻度が高い。欠損部位により膜様部(周囲膜様部)欠損が最多で、ほかに肺動脈弁下(漏斗部)欠損、筋性部欠損などがある。肺動脈弁下欠損は日本人を含む東アジアに多く、大動脈弁右冠尖の逸脱・大動脈弁閉鎖不全を合併しやすい。
欠損孔の大きさと臨床像
・小欠損:短絡量が少なく無症状。胸骨左縁下部に大きな全収縮期雑音を聴取する。膜様部・筋性部の小欠損は自然閉鎖が多く、経過観察とする。 ・大欠損:生後1〜3か月で心不全症状(多呼吸、哺乳不良、多汗、体重増加不良)。肺高血圧を伴うとⅡ音(肺動脈成分)が亢進し、短絡の圧較差が小さくなるため雑音はかえって小さくなることがある。
検査
胸部X線で心拡大と肺血管陰影増強、心電図で左室肥大(肺高血圧を伴えば両室肥大)、心エコーで欠損部位・短絡方向・肺動脈圧推定を行う。
治療
・内科治療:利尿薬(フロセミド、スピロノラクトン)、ACE阻害薬などの後負荷軽減薬(体血管抵抗を下げ左右短絡を減らす目的で用いられることがある)、栄養管理(高カロリー乳など)。 ・外科治療:心不全・肺高血圧を伴う大欠損は乳児期早期の心内修復術(パッチ閉鎖)。肺動脈弁下欠損は自然閉鎖しにくく、大動脈弁逸脱・閉鎖不全の進行を防ぐため早めの手術が考慮される。 ・Eisenmenger症候群に至ったものは原則として閉鎖手術の適応外となる。
肺血管抵抗を変化させる因子
肺血管を拡張させる:酸素、アルカローシス、一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリンなど。 肺血管を収縮させる:低酸素、アシドーシス、高二酸化炭素血症。 左右短絡疾患で肺血流過多の児にこれらを不用意に用いると短絡量が変化することを理解しておく。
POINT
・VSDの心不全は左右短絡による肺血流増加・容量負荷が本態である。 ・内科治療の基本は利尿薬による前負荷軽減と水分管理。 ・高濃度酸素や肺血管拡張薬は肺血管抵抗を下げ、短絡量を増やして心不全を悪化させる。 ・β遮断薬は収縮能が保たれた容量負荷型の乳児心不全には適さない。 ・心不全・肺高血圧を伴う大欠損は、Eisenmenger化を防ぐため1歳未満で心内修復術を行う。
