妊娠に気づく前が勝負―葉酸と二分脊椎、そしてビタミンAのひっかけ
第111回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
母体における欠乏によって胎児に二分脊椎が発生しうるビタミンはどれか。
- a.ナイアシン
- b.ビタミンA
- c.ビタミンB1
- d.ビタミンK
- e.葉酸
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
二分脊椎は神経管閉鎖障害の代表的な病型で、神経管は受精後約4週(妊娠6週前後)までに閉鎖するため、この時期の母体の葉酸欠乏が発症リスクを高めます。葉酸はDNA合成に必要な補酵素であり、わが国では妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて栄養補助食品から1日0.4 mgの摂取が推奨されています。ビタミンAは欠乏ではなく過剰で催奇形性を示し、ビタミンB1欠乏は妊娠悪阻に伴う母体のWernicke脳症、ビタミンK欠乏は新生児・乳児の出血、ナイアシン欠乏はペラグラと結びつけて整理しましょう。母体糖尿病や抗てんかん薬も神経管閉鎖障害のリスク因子であり、妊娠に気づく前から始まる予防という視点は、プレコンセプションケアとして日常診療でも重要です。
解答・解説
正解はeです
二分脊椎は神経管閉鎖障害(neural tube defect:NTD)の代表的な病型であり、母体の葉酸不足との関連がよく知られている。
神経管の形成と閉鎖時期
胎児の脳と脊髄は、外胚葉由来の神経板が丸まって管状になった「神経管」から作られる。神経管の閉鎖は受精後およそ4週(最終月経から数えた妊娠週数では6週前後)までに完了する。この時期に閉鎖がうまくいかないと、頭側では無脳症、尾側では二分脊椎(脊髄髄膜瘤など)が生じる。
葉酸の役割
葉酸は水溶性ビタミンB群の一つで、核酸(DNA)合成やメチル基転移反応に必要な補酵素として働く。細胞分裂が極めて盛んな器官形成期の胎児にとって不可欠であり、不足すると神経管の閉鎖が障害されやすくなる。
考え方
神経管の閉鎖は妊娠に気づく前後というごく早い時期に完了するため、妊娠がわかってから摂取を始めても間に合わないことが多い。そのため、妊娠を計画している女性には妊娠前からの葉酸補充が推奨されている。したがって「母体の欠乏で胎児に二分脊椎が起こりうるビタミン」は葉酸である。なお、ビタミンAは欠乏ではなく過剰摂取が催奇形性をもつ点が、本問の典型的なひっかけである。
選択肢考察
- ×a. ナイアシン
誤り。ナイアシン(ニコチン酸)は NAD/NADP の構成成分となるビタミンB群で、欠乏するとペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D)を起こす。胎児の発育にも必要な栄養素ではあるが、母体の欠乏と二分脊椎との関連は示されていない。
- ×b. ビタミンA
誤り。ビタミンAで問題となるのは欠乏ではなく過剰である。妊娠初期のビタミンA(レチノール)やレチノイド製剤の過剰摂取には催奇形性があり、頭蓋顔面・心血管・中枢神経系の奇形のほか、二分脊椎などの神経管閉鎖障害の原因にもなりうる。そのため妊娠を希望する女性や妊娠初期の女性は、サプリメントやレバーの大量摂取を避けるよう指導される。一方、植物由来のβカロテンは体内で必要量に応じて変換されるため、過剰症の心配は少ない。
- ×c. ビタミンB1
誤り。ビタミンB1(チアミン)は糖代謝の補酵素であり、欠乏すると母体に脚気(末梢神経障害・心不全)や Wernicke 脳症(意識障害・眼球運動障害・失調)を起こす。妊娠悪阻(つわりが重く嘔吐が続く状態)で摂取が不足した妊婦に Wernicke 脳症がみられることは重要であるが、胎児の二分脊椎との関連は指摘されていない。
- ×d. ビタミンK
誤り。ビタミンKは血液凝固因子(II・VII・IX・X)の産生に必要な脂溶性ビタミンである。ビタミンKは胎盤を通過しにくく、母乳中の含有量も少ないため、新生児・乳児はビタミンK欠乏に陥りやすい。その結果、新生児メレナ(消化管出血)や乳児の頭蓋内出血を起こすことがあり、予防としてビタミンK2シロップを投与する。二分脊椎とは関係がない。
- ○e. 葉酸
正しい。葉酸はDNA合成に必要な補酵素であり、器官形成期、特に神経管が閉じる妊娠初期に大量に必要とされる。母体が葉酸不足の状態にあると神経管の閉鎖が障害され、二分脊椎や無脳症が起こりやすくなる。妊娠前から葉酸を補充すると神経管閉鎖障害の発生が減少することが疫学研究で示されており、わが国でも妊娠可能年齢の女性に対して、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、通常の食事に加えて栄養補助食品から葉酸を1日0.4 mg 摂取することが推奨されている。
二分脊椎とは
脊椎の椎弓が癒合せず、脊柱管が背側で閉じていない先天異常である。 ・潜在性二分脊椎:皮膚に覆われ、椎弓の欠損のみで無症状のことが多い。腰仙部の皮膚陥凹・発毛・血管腫などが手がかりになる。 ・顕在性(嚢胞性)二分脊椎:髄膜瘤や脊髄髄膜瘤として背部に嚢胞を形成する。脊髄髄膜瘤では下肢の運動・感覚障害、膀胱直腸障害を伴い、Chiari II 型奇形や水頭症を高率に合併する。
神経管閉鎖障害の主なリスク因子
・母体の葉酸欠乏 ・母体の糖尿病(血糖コントロール不良) ・抗てんかん薬(バルプロ酸、カルバマゼピンなど。葉酸代謝に影響する) ・ビタミンAの過剰摂取 ・母体の肥満、妊娠初期の高体温 ・放射線被曝、遺伝的要因(家族歴、葉酸代謝酵素の遺伝子多型など)
出生前診断の手がかり
開放性の神経管閉鎖障害では母体血清や羊水中のαフェトプロテイン(AFP)が上昇する。超音波検査で病変を確認できることも多い。
妊娠と主なビタミン
・葉酸:欠乏で神経管閉鎖障害、巨赤芽球性貧血 ・ビタミンA:過剰で催奇形性 ・ビタミンB1:妊娠悪阻に伴う欠乏で Wernicke 脳症 ・ビタミンK:新生児・乳児の欠乏で出血(新生児メレナ、頭蓋内出血) ・ビタミンD:欠乏で児のくる病、低カルシウム血症
POINT
・母体の葉酸欠乏は胎児の神経管閉鎖障害(二分脊椎・無脳症)の原因となる。 ・神経管は妊娠6週ころ(受精後約4週)までに閉鎖するため、葉酸は妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて1日0.4 mg 摂取することが推奨される。 ・ビタミンAは「過剰」で催奇形性をもつ(欠乏ではない)。 ・ビタミンB1欠乏は母体の脚気・Wernicke 脳症、ビタミンK欠乏は新生児・乳児の出血と結びつける。
