広げるか、支えるか―食道ステントが「悪性狭窄の切り札」である理由
第111回医師国家試験 G問題 第18問
国試問題にチャレンジ
食道狭窄に対して内視鏡的ステント留置の適応となるのはどれか。
- a.食道癌
- b.逆流性食道炎
- c.腐食性食道炎
- d.食道アカラシア
- e.胃管吻合部狭窄
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
内視鏡的ステント留置は、狭窄部に自己拡張型金属ステントを留置して内腔を確保する治療で、抜去が難しく長期留置で合併症が増えるため、主に切除不能・根治治療適応外の進行食道癌や再発癌による悪性狭窄の緩和治療として用いられます。食道気道瘻に対するカバー付きステントによる瘻孔閉鎖も重要な適応です。逆流性食道炎や腐食性食道炎の瘢痕狭窄、術後の吻合部狭窄といった良性狭窄ではブジーやバルーンによる拡張術が基本であり、機能的狭窄である食道アカラシアにはバルーン拡張術、POEM、Heller-Dor手術が行われます。狭窄の原因が悪性か良性か、器質的か機能的かを見極めて治療法を選ぶという考え方は、消化管狭窄全般の診療に通じる基本となります。
解答・解説
正解はaです
食道狭窄の治療は、狭窄が「悪性か良性か」で考え方が大きく異なる。 内視鏡的ステント留置とは、狭窄部に筒状の金属ステント(主に自己拡張型金属ステント、SEMS: self-expandable metallic stent)を内視鏡下に留置し、内腔を内側から押し広げて通過路を確保する治療である。一度留置すると組織に食い込み抜去が難しくなることが多く、長期留置では逸脱・穿孔・出血・ステント端の新たな狭窄などの合併症が問題となる。そのため、原則として予後が限られ、狭窄の原因そのものを取り除くことができない悪性狭窄に対する緩和治療として用いられる。 代表的な適応は、根治手術や根治的化学放射線療法の対象とならない(または治療後に再発した)切除不能進行食道癌で、狭窄のため経口摂取が困難な場合である。癌が気管・気管支に穿破した食道気道瘻(食道気管瘻)の閉鎖にも、カバー付きステントが用いられる。ステントにより経口摂取が可能となれば、栄養状態とQOL(生活の質)の改善が期待できる。 一方、逆流性食道炎や腐食性食道炎の瘢痕狭窄、食道癌術後の吻合部狭窄といった良性狭窄では、ブジーや内視鏡的バルーン拡張術による拡張を繰り返すのが基本であり、食道アカラシアのような機能的狭窄では下部食道括約筋(LES)の弛緩不全を解除する治療が行われる。よって、選択肢の中でステント留置の適応となるのは食道癌である。
選択肢考察
- ○a. 食道癌
切除不能・根治的治療の適応外の進行食道癌や再発癌で、腫瘍による内腔狭窄のため食事がとれない場合には、自己拡張型金属ステントの留置が経口摂取を回復させる緩和治療として行われる。食道気道瘻を合併した例でも、カバー付きステントで瘻孔を塞ぐ目的で用いられる。なお、放射線治療の前後にステントを留置すると穿孔や瘻孔形成などの重篤な合併症が増えるとされ、適応とタイミングは慎重に判断する。
- ×b. 逆流性食道炎
逆流性食道炎の治療の基本は生活習慣の改善(減量、就寝前の食事を避ける、頭側挙上など)と、プロトンポンプ阻害薬やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)による酸分泌抑制である。難治例には腹腔鏡下噴門形成術(Nissen手術など)や内視鏡的逆流防止術を検討する。高度な炎症の治癒過程で瘢痕狭窄を生じた場合も、ブジーやバルーンによる拡張術で対応するのが原則で、ステント留置の適応とはならない。
- ×c. 腐食性食道炎
腐食性食道炎は酸・アルカリなどの誤飲や自殺企図による服用で生じる。急性期は絶食・輸液、粘膜保護、感染対策などを行い、穿孔の有無に注意する。数週〜数か月後に瘢痕狭窄をきたすことが多く、まずブジーやバルーンによる拡張術を繰り返す。拡張術が無効な場合はステロイドの局所注入や外科的再建(食道切除・再建術)を考慮する。良性狭窄であり、ステント留置の原則的な適応ではない。
- ×d. 食道アカラシア
食道アカラシアは、食道壁内の神経叢(Auerbach神経叢)の障害により、下部食道括約筋(LES)の弛緩不全と食道体部の蠕動障害をきたす機能的な狭窄である。治療は内視鏡的バルーン拡張術、経口内視鏡的筋層切開術(POEM)、腹腔鏡下Heller筋層切開術+Dor噴門形成術が中心で、カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬は一時的な症状緩和に用いる。ステント留置は標準治療ではない。
- ×e. 胃管吻合部狭窄
食道癌術後に胃管を用いて再建した後の吻合部狭窄は良性狭窄であり、まずブジーや内視鏡的バルーン拡張術を行う。繰り返しても改善しない難治例では、ステロイド局所注入や内視鏡的切開術などが追加される。ステント留置は第一の選択とはならない(吻合部に癌が再発して狭窄した場合は別で、悪性狭窄として扱う)。
食道狭窄の主な治療法の整理
・ブジー拡張術:太さの異なる拡張器を順に挿入して狭窄部を押し広げる。 ・内視鏡的バルーン拡張術:狭窄部でバルーンを膨らませて拡張する。良性狭窄やアカラシアで用いる。 ・ステロイド局所注入:拡張後の再狭窄予防に用いられることがある(難治性の良性狭窄、内視鏡的粘膜下層剥離術後の狭窄予防など)。 ・内視鏡的ステント留置:主に悪性狭窄に対する緩和治療。
食道ステント留置の主な適応
・切除不能、または根治的治療の適応外の進行・再発食道癌による狭窄で、経口摂取が困難な場合 ・食道気道瘻(カバー付きステントで瘻孔を閉鎖) ・食道外の悪性腫瘍(肺癌、縦隔リンパ節転移など)による圧排性の食道狭窄
主な禁忌・注意点
全身状態が極めて不良な場合、制御困難な出血、狭窄部より肛門側に別の閉塞がある場合、頸部食道入口部に近い高位狭窄(異物感が強く留置が難しい)などは適応を慎重に判断する。合併症として、胸痛、逸脱、穿孔、出血、腫瘍の内腔への増殖による再狭窄、胃食道接合部をまたいで留置した場合の逆流などがある。
良性狭窄とステント
拡張術を繰り返しても改善しない難治性の良性狭窄に対して、抜去を前提とした一時的なカバー付きステント留置が試みられることもあるが、一般的・標準的な適応ではない。
POINT
・食道ステント留置の代表的適応=切除不能・根治治療適応外の進行食道癌による狭窄(経口摂取困難)と食道気道瘻。 ・良性狭窄(逆流性食道炎・腐食性食道炎の瘢痕狭窄、吻合部狭窄)はブジー・バルーン拡張術が基本。 ・食道アカラシアはバルーン拡張術、POEM、Heller-Dor手術で治療する。
