動脈は「見る」より「触れる」―ペン持ちで決める動脈血ガス採血のコツ
第111回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
動脈血ガス分析の採血について正しいのはどれか。
- a.動脈の走行は目視で確認する。
- b.穿刺針の太さは18Gを選択する。
- c.穿刺針と皮膚との角度は15~20度を保つ。
- d.採血シリンジはペンを握るように保持する。
- e.ピストンに十分な陰圧をかけながら採血する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
動脈血ガス分析のための動脈穿刺は、静脈採血との違いを意識すると理解しやすい手技です。動脈は深部を走るため目視ではなく拍動の触知で位置を確認し(困難なら超音波ガイド下)、22〜23G程度の細い針を用い、静脈採血の15〜20度より大きな角度で刺入します。シリンジはペンを持つように指先で保持し、逆血を確認しながら深さを微調整し、動脈圧で血液が自然に流入するため陰圧はかけません。穿刺部位は側副血行があり止血しやすい橈骨動脈が第一選択で、抜針後は十分に圧迫止血し、気泡を除いて速やかに測定することが正確な結果につながります。基本手技の根拠を理解しておくことは、臨床研修で安全に動脈穿刺を行うための土台となります。
解答・解説
正解はdです
動脈血ガス分析(arterial blood gas analysis:ABG)は、動脈血の酸素分圧(PaO2)、二酸化炭素分圧(PaCO2)、pH、重炭酸イオン(HCO3-)などを測定し、呼吸状態と酸塩基平衡を評価する検査である。検体を得るために動脈を直接穿刺する手技が必要であり、本問はその基本手技を問うている。 静脈採血と比べたときの動脈穿刺の特徴を押さえると解きやすい。 ・動脈は皮膚の下の深い位置を走り、皮膚の上から見えないことが多い。そのため拍動を指で触れて位置と走行を確かめる。 ・動脈は内圧が高いため、針先が血管内に入れば血液は自然にシリンジ内へ流入する。強く引く必要はない。 ・深い位置の拍動部に針先を正確に届かせるため、刺入角度は静脈採血より大きく(立てて)とる。 ・針は細めのものを用い、血管・周囲神経の損傷や血腫を減らす。 ・逆血(フラッシュバック)を見ながら微妙な深さの調整をするため、シリンジはペンを持つように軽く保持し、指先で細かく操作する。 このように「触れて確認」「細い針」「立てた角度」「ペン持ち」「陰圧不要」という特徴を一つずつ選択肢と照らし合わせれば、正しい記述は d と判断できる。
選択肢考察
- ×a. 動脈の走行は目視で確認する。
誤り。動脈は静脈より深部を走行し、皮膚表面から透けて見えることはほとんどない。穿刺前には示指・中指などで拍動を触知し、最も強く触れる点と血管の走る方向を確かめてから刺入点を決める。拍動が触れにくい場合(何度も穿刺して血腫ができた、ショックで脈が弱い、動脈硬化が強いなど)には、超音波ガイド下に血管を描出して穿刺する方法もある。
- ×b. 穿刺針の太さは18Gを選択する。
誤り。G(ゲージ)は数字が小さいほど太い針を表し、18Gは輸血ルートなどに使うかなり太い針である。動脈血ガス分析では22〜23G程度の細い針を用いるのが一般的である。太い針は動脈壁の損傷を大きくして穿刺後の出血・血腫・仮性動脈瘤の危険を高め、橈骨神経や正中神経など伴走する神経を傷つけるおそれもある。また動脈圧があるので細い針でも必要量の血液は十分に得られる。なお、ショックなどで血管が虚脱している特殊な状況では、やや太めの針を用いることもある。
- ×c. 穿刺針と皮膚との角度は15~20度を保つ。
誤り。15〜20度程度の浅い角度は、皮膚直下を走る表在静脈を穿刺する静脈採血で用いる角度である。動脈は深い位置にあるため、より立てた角度で刺入する。角度は部位によって異なり、橈骨動脈ではおおむね30〜45度前後、上腕動脈では45度前後、大腿動脈ではほぼ垂直に近い角度(60〜90度)で穿刺するのが一般的である。いずれにしても静脈採血より大きな角度になる。
- ○d. 採血シリンジはペンを握るように保持する。
正しい。動脈穿刺では、拍動を触れている指を目印に、針先を数mm単位で進めたり戻したりして血管内に正確に入れる必要がある。シリンジを鉛筆やペンのように指先で軽く持つと、細かい深さ・方向の調整がしやすく、針先が動脈に入った瞬間に針基やシリンジ内に現れる逆血も視認しやすい。手のひら全体で握り込むと微調整が難しく、逆血も手で隠れやすい。
- ×e. ピストンに十分な陰圧をかけながら採血する。
誤り。動脈内は高い圧(収縮期で100mmHg以上)がかかっているため、針先が血管内に入れば陰圧をかけなくても血液が勢いよくシリンジ内に流れ込み、ピストンが押し上げられる。市販の動脈血ガス採血用キットは、針が動脈内に入れば自然に必要量が採取できる構造になっている。逆に強い陰圧をかけると、静脈血を誤って吸引しても気付きにくくなるほか、血液中に気泡が生じたり溶存ガスが抜けたりして、PaO2やPaCO2の測定値が不正確になるおそれがある。
穿刺部位の選択
・橈骨動脈:表在性で触知しやすく、背側に骨があって穿刺後に圧迫止血しやすい。尺骨動脈との間に手掌動脈弓による側副血行があるため、虚血の危険が少ない。合併症が少なく患者の負担も小さいため、ベッドサイドや外来で最もよく用いられる。穿刺前に尺骨動脈からの血流を確認する目的でAllenテストが行われることがある。 ・上腕動脈:肘窩で触知できるが、側副血行が乏しく正中神経が近接している。 ・大腿動脈:太く、ショックなどで末梢の脈が触れにくいときにも穿刺しやすい。一方、止血がしにくく、大腿静脈・大腿神経が近接するため、誤穿刺や血腫に注意が必要である。
採血後の取り扱い
・抜針後は穿刺部を5分程度以上しっかり圧迫止血する(抗凝固薬使用中はより長く)。 ・シリンジ内の気泡は速やかに除去し、空気の混入を防ぐ。気泡が混入すると、PaO2は大気の値に近づき、PaCO2は低下する。 ・ヘパリン加シリンジを用い、凝固を防ぐためにシリンジを転がすように混和する。 ・採血後は速やかに測定する。時間がたつと血球の代謝によりPaO2が低下しPaCO2が上昇するため、すぐに測定できない場合は氷冷して保存する。
主な合併症
血腫、出血、動脈の攣縮や血栓による末梢虚血、仮性動脈瘤、神経損傷、感染など。
POINT
・動脈の位置は目視ではなく拍動の触知で確認する(困難なら超音波ガイド下)。 ・穿刺針は22〜23G程度の細い針を用いる。 ・刺入角度は静脈採血(15〜20度)より大きい。大腿動脈ではほぼ垂直。 ・シリンジはペンを持つように保持し、逆血を確認しながら微調整する。 ・動脈圧で血液が自然に流入するので陰圧は不要。 ・第一選択は橈骨動脈。抜針後は十分に圧迫止血し、気泡を除いて速やかに測定する。
