浮腫は「どこから水が漏れるか」で解く―体静脈圧上昇の代表・右心不全
第111回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
体静脈圧が上昇して浮腫が生じるのはどれか。
- a.右心不全
- b.肝硬変
- c.甲状腺機能低下症
- d.敗血症
- e.微小変化型ネフローゼ症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
浮腫はStarlingの法則に基づき、毛細血管静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ流の障害という4つの機序に大別され、甲状腺機能低下症のムコ多糖沈着のような特殊な機序もあります。体静脈圧の上昇によって毛細血管静水圧が上がり浮腫をきたす代表は右心不全で、下腿の圧痕性浮腫に頸静脈怒張、肝腫大、肝頸静脈逆流などの体うっ血所見を伴います。肝硬変(合成低下)やネフローゼ症候群(尿中喪失)は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下、敗血症は血管透過性亢進、甲状腺機能低下症は非圧痕性の粘液水腫が主な機序です。肝硬変の門脈圧亢進は体静脈圧の上昇とは異なる点に注意が必要です。浮腫の分布と性状から機序を推定する考え方は、日常診療で原因検索を進めるうえでの基本になります。
解答・解説
正解はaです
浮腫の成り立ち
浮腫とは、組織間質に過剰な水分(間質液)が貯留した状態である。毛細血管と間質との水分の移動は、Starlingの法則に従い、次の因子のバランスで決まる。 ・毛細血管内の静水圧(血管外へ水を押し出す力) ・血漿膠質浸透圧(主にアルブミンによる、血管内へ水を引き戻す力) ・毛細血管壁の透過性 ・リンパ管による間質液の回収 したがって浮腫の機序は、(1) 毛細血管静水圧の上昇、(2) 血漿膠質浸透圧の低下、(3) 血管透過性の亢進、(4) リンパ流の障害、の4つに大別される。このほか、甲状腺機能低下症のように間質にムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が沈着して水分を保持する特殊な機序もある。
設問の考え方
体静脈圧が上昇すると、毛細血管の静脈側の圧が上がって毛細血管静水圧が上昇し、水分が間質へ漏出して浮腫が生じる。これは(1)の機序にあたる。体静脈系の血液は右心房に戻るため、右心のポンプ機能が低下すると上流の体静脈圧が上昇する。選択肢の中でこの機序が主体となるのは右心不全である。他の選択肢は、膠質浸透圧低下、ムコ多糖沈着、血管透過性亢進といった別の機序で浮腫をきたす。
選択肢考察
- ○a. 右心不全
右心室の機能が低下すると、体静脈から右心へ戻る血液がうっ滞し、中心静脈圧(右房圧)を含む体静脈圧が上昇する。これが毛細血管静水圧の上昇を招き、間質へ水分が漏れ出して浮腫となる。重力の影響を受けやすい下腿や、臥床患者では背部・仙骨部に圧痕性浮腫として現れやすい。ほかに頸静脈怒張、肝腫大(うっ血肝)、肝頸静脈逆流、胸水・腹水などの体うっ血所見を伴う。さらに心拍出量低下に伴うレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化によるNa・水の貯留も、浮腫を増悪させる。
- ×b. 肝硬変
肝硬変では肝臓のアルブミン合成能が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧の低下によって浮腫を生じる。腹水には門脈圧亢進症(門脈系の圧上昇)も強く関与し、有効循環血漿量の低下に伴う二次性アルドステロン症によるNa・水貯留も加わる。門脈圧は上昇するが、体静脈圧の上昇が浮腫の主因ではない点で右心不全と区別される。
- ×c. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、皮膚の真皮などにヒアルロン酸などのムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が沈着し、これが水分を引き寄せて保持するため浮腫が生じる。これを粘液水腫(myxedema)といい、指で押しても圧痕が残りにくい非圧痕性浮腫が特徴である。顔面(眼瞼)や前脛骨部に目立つ。体静脈圧の上昇による浮腫ではない。
- ×d. 敗血症
敗血症は、感染に対する宿主の制御不能な反応によって臓器障害をきたす病態である。炎症性サイトカインなどにより血管内皮が障害されて血管透過性が亢進し、血漿成分が間質へ漏出する(毛細血管漏出)ことで浮腫が生じる。大量輸液や低アルブミン血症も浮腫を助長する。機序は体静脈圧の上昇ではなく透過性の亢進である。
- ×e. 微小変化型ネフローゼ症候群
微小変化型ネフローゼ症候群は、糸球体のポドサイト(足細胞)障害により高度の蛋白尿(主にアルブミンを中心とした選択性の高い蛋白尿)をきたし、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下で浮腫を生じる。腎でのNa再吸収亢進(一次性のNa貯留)の関与も指摘されている。小児ネフローゼ症候群の大部分を占め、急激に発症する高度の浮腫が特徴で、副腎皮質ステロイドへの反応性が良い。体静脈圧の上昇による浮腫ではない。
浮腫の機序と代表的な疾患
・毛細血管静水圧の上昇: 右心不全(体静脈圧上昇)、左心不全(肺静脈圧上昇→肺水腫)、深部静脈血栓症・上大静脈症候群などの静脈閉塞、腎不全・急性糸球体腎炎による体液過剰、薬剤(Ca拮抗薬による細動脈拡張) ・血漿膠質浸透圧の低下: ネフローゼ症候群(尿中への喪失)、肝硬変(合成低下)、低栄養、蛋白漏出性胃腸症 ・血管透過性の亢進: 敗血症、熱傷、アナフィラキシー、血管性浮腫、炎症 ・リンパ流の障害: 乳癌・子宮癌術後のリンパ節郭清や放射線治療後、悪性腫瘍のリンパ節転移、フィラリア症 ・ムコ多糖の沈着: 甲状腺機能低下症(粘液水腫)、Basedow病の前脛骨粘液水腫
浮腫の分布と性状による鑑別
・全身性・圧痕性: 心不全、腎疾患(ネフローゼ症候群、腎不全)、肝硬変、低栄養、妊娠など ・全身性・非圧痕性: 甲状腺機能低下症(粘液水腫) ・局所性・圧痕性: 深部静脈血栓症、上大静脈症候群・下大静脈閉塞、静脈瘤、局所の炎症 ・局所性・非圧痕性: リンパ浮腫(進行例で非圧痕性となる)、血管性浮腫(Quincke浮腫)
体静脈圧上昇の評価
体静脈圧(中心静脈圧)の上昇は、身体診察では頸静脈怒張・頸静脈拍動の高さ、肝頸静脈逆流で評価し、心エコーでは下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失として観察される。
POINT
・浮腫の4大機序: 毛細血管静水圧上昇、血漿膠質浸透圧低下、血管透過性亢進、リンパ流障害(+ムコ多糖沈着)。 ・体静脈圧上昇 → 毛細血管静水圧上昇による浮腫の代表は右心不全(頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫)。 ・肝硬変・ネフローゼ症候群は低アルブミン血症による膠質浸透圧低下が主因。 ・甲状腺機能低下症はムコ多糖沈着による非圧痕性浮腫(粘液水腫)。 ・敗血症は血管透過性亢進による浮腫。
