「頑張れ」より「受診を」―新入社員の不調に産業医がまずすべきこと
第111回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
23歳の男性。睡眠障害と全身倦怠感とを主訴に産業医を訪れた。3か月前に就職し,1か月前から易疲労感を自覚するようになり,夜間十分に眠っても日中に強い眠気を感じるようになった。2週間前から食欲が低下し,やる気が起きないことが続き,仕事上の小さなミスも増えておりストレスが多いと感じている。産業医に自分の状況を相談した。 相談を受けた産業医の対応として最も適切なのはどれか。
- a.特に何もしない。
- b.直ちに休職させる。
- c.医療機関の受診を勧める。
- d.もう少し様子をみるよう勧める。
- e.他の同期入職者も頑張っているからと励ます。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
就職などの環境変化のあとに、易疲労感・睡眠の異常・食欲低下・意欲低下・集中力低下が2週間以上続く場合は、うつ病や適応障害を疑います。ただし甲状腺機能低下症、貧血、睡眠時無呼吸症候群などの身体疾患も鑑別が必要であり、産業医がまず行うべきは専門医療機関への受診勧奨です。休職などの就業上の措置は、診断と主治医の意見を踏まえて産業医が事業者に意見を述べ、事業者が決定するもので、その場での休職命令や漫然とした経過観察、安易な励ましや他者との比較は避けるべき対応です。4つのケアやストレスチェック制度といった職場のメンタルヘルス対策の枠組みとあわせて、産業医の役割と限界を理解しておくことが、働く人の健康を守る実践につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・23歳男性、就職して3か月。 ・1か月前から疲れやすく、夜十分に眠っても日中に強い眠気がある。 ・2週間前から食欲低下と意欲低下(やる気が起きない)が続いている。 ・仕事上の小さなミスが増えており(集中力・注意力の低下を示唆)、ストレスを強く感じている。 ・本人が自ら産業医に相談に来ている。
考え方
易疲労感、睡眠の異常(熟眠感の欠如や過眠)、食欲低下、意欲低下、集中力低下が、就職という大きな環境変化の後に出現し、2週間以上続いている。これはうつ病(大うつ病性障害)や適応障害を強く疑わせる状態である。 一方で、全身倦怠感・日中の強い眠気・食欲低下は、甲状腺機能低下症、貧血、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの睡眠障害、その他の身体疾患でも起こりうる。これらを区別し、正しく診断して治療を始めるには、医療機関(精神科・心療内科など)での診察・検査が必要である。 産業医の主な役割は、労働者の健康状態を把握し、就業上の措置(業務の軽減、就業制限、休職など)について事業者に意見を述べることであり、診断や治療そのものを担うわけではない。したがって、まず専門の医療機関への受診を勧め、その診断・意見を踏まえて就業上の配慮を検討する流れが最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 特に何もしない。
誤り。抑うつ症状が2週間以上続き、仕事のミスが増えるなど業務にも影響が出ている。本人が自ら相談に来ているにもかかわらず放置すれば、症状の悪化や、最悪の場合は自殺などの重大な結果につながるおそれがある。産業医として何らかの対応が必要である。
- ×b. 直ちに休職させる。
誤り。まだ診断がついておらず、休職が必要な重症度かどうかも判断できていない段階である。休職などの就業上の措置は、医療機関での診断や主治医の意見を踏まえて産業医が事業者に意見を述べ、事業者が決定するものであり、産業医が相談を受けたその場で直ちに休職させるのは適切ではない。
- ○c. 医療機関の受診を勧める。
正しい。症状からはうつ病や適応障害が疑われるが、甲状腺機能低下症、貧血、睡眠障害などの身体疾患も鑑別する必要がある。診断と治療を早期に開始するため、精神科・心療内科などの医療機関の受診を勧めるのが最初に行うべき対応である。そのうえで、受診結果を踏まえて業務量の調整などの就業上の配慮を検討する。
- ×d. もう少し様子をみるよう勧める。
誤り。症状はすでに1か月にわたって進行しており、2週間前からは食欲低下と意欲低下も加わっている。経過観察で対応が遅れると、症状が悪化し回復にも時間がかかる可能性が高い。早期の受診・治療が望ましい。
- ×e. 他の同期入職者も頑張っているからと励ます。
誤り。うつ病が疑われる人に対して「頑張れ」と励ましたり、他人と比べたりすることは避けるべき対応である。本人は「頑張りたくても頑張れない」状態にあり、励ましは自責感や無力感を強め、症状悪化や自殺のリスクを高めうる。まずは受容的に話を聴き、休養と治療の必要性を伝えることが大切である。
うつ病(大うつ病性障害)の診断の目安
DSM-5では、抑うつ気分または興味・喜びの喪失のいずれかを含む以下の症状のうち5つ以上が、2週間以上ほぼ毎日続き、生活機能に支障をきたしている場合に診断する。 ・抑うつ気分 ・興味・喜びの著しい減退 ・食欲の減退または増加、体重の変化 ・不眠または過眠 ・精神運動焦燥または制止 ・易疲労感、気力の減退 ・無価値感、過剰な罪責感 ・思考力・集中力の減退、決断困難 ・自殺念慮、自殺企図 身体疾患や薬物による症状を除外することも診断の前提となる。
適応障害
明確なストレス因(就職、異動、人間関係など)に反応して、その発生から3か月以内に情緒面・行動面の症状が現れる状態である。就職直後の新入社員は環境変化が大きく、適応障害やうつ病を発症しやすい。
職場のメンタルヘルス対策
・厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、4つのケアが示されている:セルフケア(労働者自身による対処)、ラインによるケア(管理監督者による対応)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医など)、事業場外資源によるケア(医療機関など外部の専門機関)。 ・常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられている(2015年施行)。高ストレス者で本人が申し出た場合には医師による面接指導を行う。 ・産業医は労働者の健康状態について事業者に意見を述べ、事業者が就業上の措置を講じる。休職後の職場復帰についても、主治医の意見と産業医の判断を踏まえて段階的に進める。
POINT
・就職などの環境変化後に、易疲労感・睡眠障害・食欲低下・意欲低下・集中力低下が2週間以上続けば、うつ病や適応障害を疑う。 ・産業医の最初の対応は、専門医療機関の受診を勧めることである。身体疾患の除外も必要である。 ・休職などの就業上の措置は、診断と医師の意見を踏まえて事業者が決める。 ・うつ病が疑われる人への安易な励まし・他者との比較は避ける。
