交差する2本の生命曲線―「面積」で読み解く平均寿命と平均余命
第111回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
A地区とB地区の生命表を基に作成した生命曲線を示す。 乳児死亡率が高い 平均寿命が長い 70歳平均余命が長い a A地区 A地区 A地区 b A地区 A地区 B地区 c A地区 B地区 A地区 d A地区 B地区 B地区 e B地区 A地区 A地区 f B地区 A地区 B地区 g B地区 B地区 A地区 h B地区 B地区 B地区 正しいのはどれか。

- a.A地区 A地区 A地区
- b.A地区 A地区 B地区
- c.A地区 B地区 A地区
- d.A地区 B地区 B地区
- e.B地区 A地区 A地区
- f.B地区 A地区 B地区
- g.B地区 B地区 A地区
- h.B地区 B地区 B地区
対話形式の解説
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ドクターまとめ
生命曲線は生命表の生存数lxを年齢に対して描いたもので、曲線の落ち込み(傾き)が死亡の多さを、曲線下の面積が生存延べ年数を表します。乳児死亡率は0〜1歳の落ち込みで比べ、平均寿命(0歳平均余命)は曲線下の全面積を出生数で割った値、x歳平均余命はx歳以降の面積をx歳時の生存数で割った値です。本問では生後早期の落ち込みが大きいA地区で乳児死亡率が高く、0〜70歳の長期間にわたりB地区が上回るため平均寿命はB地区が長く、70歳で生存数が等しくそれ以降はA地区が上にあるため70歳平均余命はA地区が長くなります。若年期の死亡の差は長期間の面積差を生むため平均寿命に大きく影響し、若年死亡が少なく高齢期に死亡が集中する「矩形化」した曲線ほど保健水準が高いとされます。定義に基づいて傾きと面積を読み分ける力は、人口統計や地域の健康指標を正しく解釈するための基礎となります。
解答・解説
正解はcです
図の読み取り
生命曲線(生存曲線)は、生命表で出生時10万人の集団が各年齢まで何人生き残るか(生存数 lx)を縦軸に、年齢を横軸にとって描いたグラフである。図では次の特徴が読み取れる。 ・0歳直後:両地区とも10万人から出発するが、A地区(実線)の方が急に落ち込み、生後早期の段階でB地区(破線)より生存数が明らかに少ない。 ・0〜70歳:全年齢を通じてB地区の曲線がA地区より上にあり、両者には数千人程度の差が続く。 ・70歳:両曲線がほぼ同じ生存数(約64,000人)で交わる(点線)。 ・70歳以降:B地区の方が急に減少し、A地区の曲線が上にくる。100歳近くで両者とも0に近づく。
3つの指標の読み方
1. 乳児死亡率(生後1年未満の死亡の割合):0歳から1歳までの曲線の落ち込み(傾き)の大きさで判断する。落ち込みが大きいほど乳児死亡率が高い。 2. 平均寿命(0歳平均余命):生命曲線と横軸で囲まれた全体の面積(総生存延べ年数 T0)を出生数 l0(10万人)で割ったものである。l0は両地区で共通なので、曲線下の全面積が大きい方が平均寿命が長い。 3. 70歳平均余命:70歳以降の曲線下面積(T70)を70歳時点の生存数 l70で割ったものである。本図では l70が両地区でほぼ等しいため、70歳以降の面積が大きい方が70歳平均余命が長い。
判定
・乳児死亡率:生後早期の落ち込みはA地区の方が大きい → A地区が高い。 ・平均寿命:0〜70歳の約70年間にわたりB地区が数千人上回っており、この面積差は、70歳以降の約20〜30年間にA地区が上回る分の面積差より明らかに大きい → 曲線下の全面積はB地区が大きく、B地区の平均寿命が長い。 ・70歳平均余命:70歳時点の生存数は同じで、それ以降はA地区の曲線が上にある → A地区が長い。 よって組み合わせは「A地区・B地区・A地区」となる。
選択肢考察
- ×a. A地区 A地区 A地区
誤り。乳児死亡率がA地区で高いこと、70歳平均余命がA地区で長いことは正しいが、平均寿命はA地区ではなくB地区の方が長い。70歳以降はA地区の曲線が上にあるものの、0〜70歳の長い期間にわたってB地区が上回る面積の方がはるかに大きく、全体の曲線下面積はB地区が大きい。
- ×b. A地区 A地区 B地区
誤り。乳児死亡率はA地区が高く正しいが、平均寿命はB地区の方が長く、70歳平均余命はA地区の方が長い。後2項目の判定がいずれも逆になっている。
- ○c. A地区 B地区 A地区
正しい。生後早期の生存数の落ち込みはA地区で大きく、乳児死亡率はA地区が高い。0歳からの曲線下の全面積はB地区が大きいため、平均寿命はB地区が長い。70歳時点の生存数は両地区で等しく、それ以降の曲線下面積はA地区が大きいため、70歳平均余命はA地区が長い。3項目すべてが図の読み取りと一致する。
- ×d. A地区 B地区 B地区
誤り。乳児死亡率(A地区が高い)と平均寿命(B地区が長い)は正しいが、70歳平均余命はB地区ではなくA地区が長い。70歳以降はB地区の生存数が急速に減少し、A地区の曲線の方が上にある。
- ×e. B地区 A地区 A地区
誤り。乳児死亡率は、生後早期の落ち込みが大きいA地区の方が高く、B地区ではない。また平均寿命はB地区の方が長い。正しいのは70歳平均余命(A地区)のみである。
- ×f. B地区 A地区 B地区
誤り。3項目すべてが逆である。乳児死亡率はA地区が高く、平均寿命はB地区が長く、70歳平均余命はA地区が長い。
- ×g. B地区 B地区 A地区
誤り。平均寿命(B地区)と70歳平均余命(A地区)は正しいが、乳児死亡率はB地区ではなくA地区が高い。0歳直後の曲線の落ち込みはA地区の方が大きい。
- ×h. B地区 B地区 B地区
誤り。平均寿命がB地区で長いことのみ正しい。乳児死亡率はA地区が高く、70歳平均余命はA地区が長い。
生命表の主な関数
・lx(生存数):出生10万人が x歳に達するまで生き残る人数。生命曲線はこれを図示したもの。 ・dx(死亡数):x歳から x+1歳までに死亡する人数(lx − lx+1)。 ・qx(死亡率):x歳の者が1年以内に死亡する確率(dx ÷ lx)。生命曲線では、その年齢での曲線の下がり方(傾き)を、その時点の生存数に対する割合として見たものに相当する。 ・Lx(定常人口):x歳から x+1歳までの間に生存する延べ年数。 ・Tx:x歳以上の定常人口の総和(x歳以降の曲線下面積)。 ・ex(平均余命):x歳の者があと平均何年生きられるかの期待値。ex = Tx ÷ lx。 ・0歳平均余命 e0 を平均寿命という。
平均余命と面積の関係
x歳平均余命は「x歳以降の曲線下面積 ÷ x歳時の生存数」である。本問のように x歳での生存数が等しければ面積の比較だけで判断できるが、生存数が異なる場合は、面積をその時点の生存数で割った値で比べる必要がある。
生命曲線の形と保健水準
乳児死亡や若年死亡が少なく、多くの人が高齢まで生き残り、高齢期に一気に死亡が集中する形(直角型・矩形化)ほど保健水準が高いとされる。日本の生命曲線は年々この形に近づいている。本問のB地区は若年期の死亡が少なく高齢期に死亡が集中する、より「矩形化」した形である。
乳児死亡率の定義
人口動態統計では、乳児死亡率は「年間の生後1年未満の死亡数 ÷ 年間出生数 × 1,000」(出生千対)で表す。地域の保健水準や生活環境を反映する重要な指標である。
平均寿命の性質
平均寿命は全年齢の死亡状況を総合した指標であり、乳幼児期の死亡の影響を強く受ける。若年で死亡すると失われる生存年数が大きいため、乳児死亡率が高い集団では、高齢期の生存がよくても平均寿命は短くなりやすい。本問はこの関係を図で示している。
POINT
・生命曲線は生命表の生存数(lx)を年齢に対して描いたもの。 ・死亡率:曲線の落ち込み(傾き)で判断。乳児死亡率は0〜1歳の落ち込みで比べる。 ・平均寿命(0歳平均余命):曲線下の全面積 ÷ 出生数。 ・x歳平均余命:x歳以降の曲線下面積 ÷ x歳時の生存数。 ・若年期の死亡の差は長期間にわたって面積差を生むため、平均寿命に大きく影響する。 ・本問:乳児死亡率はA地区が高い、平均寿命はB地区が長い、70歳平均余命はA地区が長い。
