マスクで救える呼吸、救えない呼吸―NIPPVの適応を前提条件から読み解く
第111回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
非侵襲的陽圧換気〈NIPPV〉の適応はどれか。3つ選べ。
- a.呼吸停止
- b.COPD増悪
- c.上気道閉塞
- d.心原性肺水腫
- e.筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
非侵襲的陽圧換気(NIPPV)はマスクを介して自発呼吸を補助する換気法で、挿管を避けられる反面、確実な気道確保にはなりません。そのため自発呼吸があること、上気道が開通していること、意識と協力が得られること、喀痰を自力で出せることが前提となり、呼吸停止や器質的な上気道閉塞では気管挿管(困難なら外科的気道確保)が必要です。急性期の代表的適応は、呼吸筋の負担を軽減してCO2を下げるCOPD増悪と、肺胞を開くとともに前負荷・後負荷を減らす心原性肺水腫であり、慢性期にはALSなど神経筋疾患による肺胞低換気が在宅NIPPVの代表的適応です。酸素化改善にはCPAP、CO2排出にはbilevel PAPという使い分けも押さえておきましょう。「適応」を暗記するのではなく「前提条件」から導く考え方は、NIPPVの限界を見極めて挿管へ移行する臨床判断にもつながります。
解答・解説
正解はb, d, eです
NIPPVとは
非侵襲的陽圧換気(NIPPV: non-invasive positive pressure ventilation、NPPVとも呼ぶ)は、気管挿管や気管切開を行わず、鼻マスクや顔マスク(フェイスマスク)を介して気道に陽圧をかけて換気を補助する方法である。挿管に伴う苦痛、鎮静の必要、人工呼吸器関連肺炎などの合併症を避けられ、会話や食事が可能で、着脱も容易という利点がある。一方で、マスクで気道を密閉して空気を送り込むだけなので、確実な気道確保にはならず、換気は患者自身の自発呼吸に同調させて補助する形になる。
適応の前提条件
この特性から、NIPPVを安全に行うには次の条件が必要である。 ・自発呼吸があること ・上気道が開通しており、気道確保が不要であること ・意識が保たれ、マスク装着に協力できること ・喀痰を自力で排出でき、誤嚥の危険が高くないこと ・循環動態が安定していること ・顔面の外傷や変形がなく、マスクが密着できること
解き方の考え方
選択肢を「自発呼吸と気道が保たれていて、陽圧換気の補助が有効な病態か」という観点で判断する。COPD増悪(高二酸化炭素血症を伴う急性呼吸不全)と心原性肺水腫は、NIPPVが挿管の回避や予後改善に有効であることが示されている代表的な急性期の適応であり、ALSなどの神経筋疾患による慢性肺胞低換気は在宅での長期NIPPVの代表的な適応である。呼吸停止と上気道閉塞は前提条件を満たさないため、挿管などによる確実な気道確保が必要となる。
選択肢考察
- ×a. 呼吸停止
誤り。NIPPVは自発呼吸に同調して換気を補助する方法であり、自発呼吸がない状態では十分な換気を保証できない。また意識障害を伴うため誤嚥の危険も高い。呼吸停止では、まずバッグバルブマスクで換気しつつ、気管挿管による侵襲的陽圧換気(IPPV)で確実に気道を確保して呼吸管理を行う。
- ○b. COPD増悪
正しい。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪では、気道抵抗の増大や呼吸筋疲労によって肺胞低換気となり、高二酸化炭素血症と呼吸性アシドーシスを伴う急性呼吸不全(II型呼吸不全)をきたす。NIPPVは吸気時の圧補助で呼吸筋の負担を軽減し、呼気終末陽圧(PEEP)で内因性PEEPに打ち勝って吸気を助けるため、換気が改善してPaCO2が低下する。気管挿管の回避、死亡率の低下、入院期間の短縮が示されており、COPD増悪に伴う呼吸性アシドーシス(pH 7.35未満かつPaCO2上昇)は最も確立したNIPPVの適応である。ただし、意識レベルの低下やアシドーシスの進行など、NIPPVで対応できない場合は速やかに挿管・侵襲的換気へ移行する。
- ×c. 上気道閉塞
誤り。急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫、異物、腫瘍などによる上気道閉塞では、マスクから陽圧をかけても閉塞部位より先へ有効に空気を送ることができず、NIPPVでは気道確保にならない。気管挿管による気道確保が必要であり、挿管が困難な場合には輪状甲状靱帯切開や気管切開などの外科的気道確保を行う。なお、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する持続陽圧呼吸療法(CPAP)は、睡眠中に軟部組織が虚脱して起こる機能的な狭窄を陽圧で広げるものであり、器質的・急性の上気道閉塞とは状況が異なる。
- ○d. 心原性肺水腫
正しい。心原性肺水腫では、肺うっ血により肺胞内に水分が貯留して酸素化が障害される。陽圧換気は虚脱した肺胞を開いて酸素化を改善するとともに、胸腔内圧を上げて静脈還流(前負荷)を減らし、左室の後負荷も軽減するため、心不全そのものの改善にも働く。急性心不全による肺水腫では、自発呼吸があり、気道確保ができ、喀痰を自力で出せる状態であれば、CPAPやbilevel PAP(二相性陽圧)によるNIPPVが挿管率を下げる治療として推奨される。
- ○e. 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
正しい。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位・下位運動ニューロンが進行性に変性する疾患で、病期が進むと呼吸筋(横隔膜など)の筋力低下により拘束性換気障害と肺胞低換気をきたし、高二酸化炭素血症を伴う慢性呼吸不全となる。まず夜間の低換気から始まることが多い。NIPPVは換気を補助して症状やQOLを改善し、生存期間の延長にも寄与するため、ALSを含む神経筋疾患の慢性呼吸不全は代表的な適応である。ただし球麻痺が高度で喀痰排出や嚥下が困難になると、NIPPVの継続が難しくなり、気管切開下の侵襲的換気を行うかどうかの意思決定が必要となる。
NIPPVの主なモード
・CPAP(持続陽圧呼吸):吸気・呼気を通じて一定の陽圧をかける。主に酸素化の改善(心原性肺水腫、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に用いる。 ・bilevel PAP(二相性陽圧):吸気時に高い圧(IPAP)、呼気時に低い圧(EPAP)をかける。IPAPとEPAPの差が換気量の補助となり、CO2の排出を助けるため、COPD増悪や神経筋疾患などの高二酸化炭素血症に用いる。
NIPPVの代表的な適応
急性期:COPD増悪(高二酸化炭素血症を伴うもの)、心原性肺水腫、免疫不全患者の急性呼吸不全、抜管後の呼吸不全の予防など。 慢性期(在宅):神経筋疾患(ALS、筋ジストロフィーなど)、胸郭変形(後側弯症、肺結核後遺症)、肥満低換気症候群、安定期の高二酸化炭素血症を伴うCOPDなど。
NIPPVの禁忌・不適当な状況
呼吸停止、心停止、循環動態が不安定、意識障害や不穏で協力が得られない、上気道閉塞、気道分泌物が多く自力で排出できない、嘔吐や消化管出血など誤嚥の危険が高い、顔面の外傷・熱傷・手術後、気胸未ドレナージなど。
NIPPVの合併症
鼻根部などの皮膚潰瘍、腹部膨満(空気嚥下)、眼の乾燥・結膜炎、口腔乾燥、誤嚥、エアリークなど。
POINT
・NIPPVはマスクを介した陽圧換気で、挿管を要しない。 ・前提条件:自発呼吸がある、上気道が開通している、意識があり協力的、喀痰を自力で出せる、循環が安定している。 ・急性期の代表的適応:COPD増悪(高CO2血症・呼吸性アシドーシス)、心原性肺水腫。 ・慢性期の代表的適応:ALSなどの神経筋疾患、胸郭変形、肥満低換気症候群。 ・呼吸停止、上気道閉塞は適応外で、気管挿管(困難なら外科的気道確保)が必要。
