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脳を守るために肝臓が譲る―胎盤機能不全FGRで「お腹から小さくなる」理由

第111回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第111回 D問題 第9問

胎盤機能不全が原因の胎児発育不全で,最も早期から発育が抑制されるのはどれか。

  1. a.頭部
  2. b.心臓
  3. c.肝臓
  4. d.副腎
  5. e.肺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎盤機能不全による胎児発育不全、いわゆるFGRで、どの臓器の発育が最初に抑えられるかを考える問題だ。カギは「胎児が酸素不足のとき、限られた血液をどこへ優先的に回すか」という視点と、胎児循環の仕組み。まず、胎盤からの供給が減ったら胎児の体では何が起こると思う?
医学生医学生
酸素が足りなくなるので、全身が均等に小さくなるのかなと思いました。
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるね。でも胎児は、限られた酸素化血を生命維持に欠かせない臓器へ優先的に配る。これを血流再分配といって、特に脳の血流が保たれる現象をbrain sparing effectと呼ぶんだ。脳・心臓・副腎には血流が確保され、四肢や腸管、腎臓などの末梢臓器では血管抵抗が上がって血流が減る。
医学生医学生
生理学の講義で出てきた「生命維持に重要な臓器が優先される」という話ですね。だとすると、頭部や心臓、副腎は早期には小さくならない、と。
ドクタードクター
その通り。頭部は脳血流が保たれるので最後まで発育が保たれやすい。心臓も、静脈管を通った酸素に富む血液が卵円孔を経て左心系へ流れ、冠動脈と脳に届けられるから影響を受けにくい。副腎もストレス時のカテコラミンやステロイド産生に関わるため、優先的に血流を受けるんだ。
医学生医学生
残るのは肝臓と肺ですね。肺は胎児期には使っていないので、真っ先に削られそうな気がするんですが。
ドクタードクター
いい推論だけど、ここは少し視点を変えてみよう。胎児の肺はガス交換をしていなくて、肺血管抵抗が高いから、右心室から出た血液の大部分は動脈管を通って大動脈へ流れる。つまり肺血流は正常なときからもともと少ないんだ。だから胎盤機能不全による血流変化の影響は相対的に小さい。
医学生医学生
もともと少ないから、減りようがないわけですね。では答えは肝臓ですか。
ドクタードクター
正解。ここで胎児循環を思い出してほしい。胎盤で酸素化された血液は臍帯静脈を通って胎児に戻り、一部は静脈管、いわゆるアランチウス管を経て肝臓を素通りし、下大静脈から右心房へ向かう。残りは肝臓に流れ込む。
医学生医学生
発生学で胎児循環の図を何度も描かされました。静脈管って、肝臓をバイパスする近道でしたよね。
ドクタードクター
そう。胎児が低酸素・低栄養になると、この静脈管を通るシャント血流の割合が増えて、酸素と栄養に富む血液を心臓や脳へ直行させる。その分、肝臓に入る臍帯静脈血が減ってしまう。さらに栄養不足で肝臓に蓄えられたグリコーゲンが消費されるので、肝臓の容積はより小さくなるんだ。
医学生医学生
肝臓は脳を守るために血流を譲っているようなものですね。でも、肝臓が小さいことは超音波でどうやってわかるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。肝臓は胎児の腹部の大部分を占めるから、肝臓の発育抑制は腹囲、つまりACの小ささとして最初に現れる。一方で児頭大横径のBPDは保たれる。頭に比べてお腹が小さい、これが不均衡型、Ⅱ型のFGRだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、エコーの推定体重はBPD・AC・大腿骨長から計算すると教わりました。ACだけ小さいのは胎盤側の問題を示唆する、ということですね。
ドクタードクター
その理解で合っているよ。対比として押さえたいのが均衡型、Ⅰ型のFGR。頭部も体幹も四肢もそろって小さいタイプで、妊娠早期から細胞数自体が少ないことによる。原因は染色体異常や先天奇形症候群、TORCHなどの胎内感染といった胎児側の要因が多い。不均衡型は妊娠中期以降に細胞の大きさが抑えられるもので、妊娠高血圧症候群や胎盤梗塞、臍帯付着異常、母体の喫煙などが背景になる。
医学生医学生
頭まで小さければ胎児側、お腹だけ小さければ胎盤側をまず考える、という使い分けですね。
ドクタードクター
そう。ただし胎盤機能不全でも、障害が長く高度に続けば頭部まで小さくなるから、絶対的な区別ではないことも覚えておこう。臨床ではドプラ検査で血流再分配を評価する。中大脳動脈の拍動指数が下がり、臍帯動脈の拍動指数が上がる。悪化すると臍帯動脈の拡張期血流が途絶・逆流し、さらに静脈管血流に異常、たとえば心房収縮期の逆流が出てくると、胎児の状態がかなり悪化しているサインだ。
医学生医学生
今回の問題で出てきた静脈管が、重症度の評価にも使われるんですね。娩出のタイミングを決めるのにも関わりそうです。
ドクタードクター
その通り。FGRの管理では、胎児の状態と在胎週数を天秤にかけて娩出時期を判断する。胎児循環の生理を理解していると、ドプラ所見の意味も自然に読み解けるようになるよ。

まとめ

胎盤機能不全で胎児への酸素・栄養供給が減ると、血流再分配により脳・心臓・副腎の血流が優先的に保たれ(brain sparing effect)、頭部の発育は比較的保たれます。臍帯静脈血は静脈管(アランチウス管)を通って肝臓を迂回する割合が増え、さらにグリコーゲン貯蔵も減るため、肝臓が最も早期に発育抑制を受けます。肝臓は腹部の多くを占めるため超音波では腹囲(AC)が先に小さくなり、頭部に比べ腹部が小さい不均衡型(Ⅱ型)FGRとなる一方、全身が均等に小さい均衡型(Ⅰ型)では染色体異常や胎内感染など胎児側の原因を考えます。胎児の肺はもともと血流が少なく、早期の抑制部位ではありません。胎児循環と血流再分配の理解は、FGRの病型判断やドプラ検査による重症度評価の土台となります。

解答・解説

正解はcです

胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)は、原因が胎児側にあるか胎盤・母体側にあるかによって発育の抑制のされ方が異なる。本問は胎盤機能不全によるFGRで、どの臓器の発育が最も早く抑えられるかを問うている。

胎盤機能不全で胎児に起こること

胎盤からの酸素・栄養の供給が減ると、胎児は限られた酸素化血を生命維持に不可欠な臓器へ優先的に回す。これを血流再分配(circulatory redistribution)といい、とくに脳血流が保たれる現象はbrain sparing effectと呼ばれる。脳・心臓・副腎には血流が確保される一方、四肢、腸管、腎臓などの末梢臓器では血管抵抗が上がって血流が減る。

肝臓が最初に影響を受ける理由

胎盤で酸素化された血液は臍帯静脈を通って胎児に戻り、一部は静脈管(ductus venosus、アランチウス管)を経て肝臓を素通りして下大静脈・右心房へ、残りは肝臓(主に左葉)へ流れ込む。胎児が低酸素・低栄養になると静脈管を通るシャント血流の割合が増え、酸素と栄養に富む血液を心臓・脳へ直行させる。その結果、肝臓に入る臍帯静脈血が減り、肝臓は早い段階から発育が抑えられる。加えて、栄養が不足すると肝臓に蓄えられるグリコーゲンが消費され、肝臓の容積がさらに小さくなる。

超音波での表れ方

肝臓は腹部の大部分を占めるため、肝臓の発育抑制は超音波検査で腹囲(abdominal circumference:AC)の小ささとして最初に現れる。頭部の大きさ(児頭大横径BPD)は保たれるので、頭部に比べ腹部が小さい不均衡型(asymmetrical、Ⅱ型)FGRの形をとる。したがって正解は肝臓である。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部

    誤り。胎児が低酸素状態になると、脳の血管抵抗は低下して脳血流はむしろ増える(brain sparing effect)。そのため胎盤機能不全によるFGRでも頭部の発育は最後まで保たれやすく、BPDは比較的正常に近い値を示す。頭部まで小さくなるのは、障害が長期間・高度に及んだ場合である。なお、妊娠初期から頭部を含め全身が均等に小さい均衡型(symmetrical、Ⅰ型)FGRは、染色体異常や先天感染など胎児自身の要因で起こることが多く、胎盤機能不全の典型像とは異なる。

  2. ×b.  心臓

    誤り。心臓は全身へ血液を送り出す生命維持の要となる臓器であり、血流再分配では優先的に酸素化血が送られる。静脈管を通過した酸素に富む血液は下大静脈から右心房に入り、卵円孔を通って左心系へ流れ、冠動脈と脳に届けられる。このため心臓の発育は胎盤機能不全の初期にはほとんど影響を受けない。

  3. ○c.  肝臓

    正しい。肝臓は臍帯静脈から直接血液を受ける臓器だが、低酸素時には静脈管のシャントが増えて臍帯静脈血が肝臓を迂回するため、肝臓への血流が減る。さらに栄養不足で肝臓内のグリコーゲン貯蔵が減るため、肝臓の容積は早期から小さくなる。肝臓は腹部の容積の多くを占めるので、超音波で腹囲(AC)の発育が最初に遅れる。これが不均衡型(Ⅱ型)FGRで腹囲が頭部に比べ小さくなる理由である。

  4. ×d.  副腎

    誤り。副腎は脳・心臓と並んで血流再分配で血流が保たれる臓器の一つである。胎児の副腎はストレス時のカテコラミン・ステロイド産生など適応反応に関わるため優先的に血流を受け、発育抑制は起こりにくい。

  5. ×e.  肺

    誤り。胎児期の肺はガス交換を行っておらず、肺血管抵抗が高いため、右心室から出た血液の大部分は動脈管を通って大動脈へ流れ、肺血流は正常でももともと少ない。そのため胎盤機能不全による血流変化の影響は相対的に小さく、最も早期に発育が抑制される臓器とはいえない。ただし高度の低酸素が長く続いて胎児心不全・胎児水腫(浮腫、腹水・胸水貯留)に至れば、肺の発育に影響が出る可能性はある。

FGRの病型

・均衡型(symmetrical、Ⅰ型)FGR:頭部・体幹・四肢がそろって小さい。妊娠早期から細胞数自体が少ないことによる。原因は染色体異常、先天奇形症候群、TORCHなどの胎内感染、薬物など胎児側の要因が多い。 ・不均衡型(asymmetrical、Ⅱ型)FGR:頭部は比較的保たれ、腹囲が小さい。妊娠中期以降に細胞の大きさ(細胞肥大)が抑えられることによる。原因は妊娠高血圧症候群、胎盤梗塞、臍帯付着異常、母体の喫煙・慢性疾患など胎盤機能不全が中心である。

胎児循環の要点

・臍帯静脈(酸素化血)→ 一部は静脈管を通り肝臓を迂回して下大静脈へ、残りは肝臓(門脈系と合流)へ。 ・右心房 → 卵円孔 → 左心房 → 左心室 → 上行大動脈(冠動脈・脳へ)。 ・右心室 → 肺動脈 → 大部分が動脈管を通って下行大動脈へ(肺血流は少ない)。

血流再分配の評価

ドプラ検査で、中大脳動脈の血管抵抗低下(pulsatility index:PIの低下)と臍帯動脈の血管抵抗上昇(PIの上昇、高度では拡張期血流の途絶・逆流)がみられる。悪化すると静脈管血流の異常(心房収縮期の逆流など)が現れ、胎児の状態悪化を示唆する。

推定児体重

日本では児頭大横径(BPD)、腹囲(AC)、大腿骨長(FL)から推定体重を算出し、基準値の−1.5SD以下をFGRの目安とする。

POINT

・胎盤機能不全では血流再分配が起こり、脳・心臓・副腎の血流は保たれる(brain sparing effect)。 ・臍帯静脈血は静脈管を通って肝臓を迂回する割合が増え、肝臓の発育が最も早く抑えられる。 ・肝臓が小さくなる結果、腹囲(AC)が最初に小さくなり、不均衡型(Ⅱ型)FGRとなる。 ・頭部も含め全体が小さい均衡型(Ⅰ型)は、染色体異常や胎内感染など胎児側の原因を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。