その処方、誰が全体を見ている?―ポリファーマシーとかかりつけ医の情報共有
第111回医師国家試験 C問題 第6問
国試問題にチャレンジ
複数の医療機関や診療科から処方されている患者の服薬調整について正しいのはどれか。
- a.投薬の中止指示は薬剤師の業務である。
- b.かかりつけ医との情報共有が不可欠である。
- c.患者の薬剤費に対する経済的配慮が主目的である。
- d.医療ソーシャルワーカーが患者の薬剤内容を確認する。
- e.ポリファーマシーの定義は薬剤の種類が10を超える場合である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
複数の医療機関・診療科から処方を受ける患者では、重複投薬、薬物相互作用、転倒やせん妄などの有害事象、アドヒアランス低下が起こりやすく、かかりつけ医を中心とした情報共有(お薬手帳、薬局での一元管理、診療情報提供書)が服薬調整の要となります。処方の変更・中止を決めるのは医師であり、薬剤師は疑義照会や処方提案で関わり、医療ソーシャルワーカーは経済的・社会的問題の支援を担います。調整の主目的は安全で効果的な薬物療法であり、薬剤費の軽減は副次的な効果にすぎません。ポリファーマシーには薬剤数による厳密な定義はなく、多剤併用に伴う問題が生じている、あるいは生じうる状態を指します。処方カスケードを含めて「全体を見る視点」を身につけることは、高齢化が進む日本の診療で欠かせない基本姿勢です。
解答・解説
正解はbです
複数の医療機関・診療科から薬を処方されている患者(特に高齢者)の服薬調整、すなわちポリファーマシー対策について問う問題である。 高齢者は複数の慢性疾患を抱え、それぞれ別の医療機関や診療科を受診することが多い。各医師が自分の担当疾患についてのみ処方すると、全体として薬剤数が増え、同じ作用の薬の重複、薬物相互作用、薬物有害事象(ふらつき・転倒、せん妄、低血糖など)、飲み間違いや飲み忘れ(アドヒアランス低下)が起こりやすくなる。 これを防ぐには、患者が服用しているすべての薬を一元的に把握し、患者全体を診ている医師(かかりつけ医)を中心に、各処方医・薬剤師などが情報を共有して調整する必要がある。調整の主目的は安全性と有効性の確保であり、処方の変更・中止の判断は医師が行う。これらを踏まえて各選択肢を検討する。
選択肢考察
- ×a. 投薬の中止指示は薬剤師の業務である。
誤り。薬剤の処方・変更・中止の決定と指示は医師の業務である。薬剤師は処方箋に疑問(重複、相互作用、用量の誤りなど)があれば処方医に問い合わせて確認する「疑義照会」を行い(薬剤師法第24条)、減薬や変更を提案することはできるが、自らの判断で中止を指示することはできない。
- ○b. かかりつけ医との情報共有が不可欠である。
正しい。複数の処方元があると、個々の医師は他院・他科の処方を把握しにくい。患者の病状・生活全体を継続的に把握しているかかりつけ医と情報を共有することで、重複投薬や相互作用、不要な薬剤を見つけ出し、優先順位を考えた調整ができる。お薬手帳、かかりつけ薬剤師・薬局による一元管理、診療情報提供書などがその手段となる。
- ×c. 患者の薬剤費に対する経済的配慮が主目的である。
誤り。服薬調整の主目的は、重複投薬や薬物相互作用、薬物有害事象を防ぎ、服薬アドヒアランスを改善して、安全で効果的な薬物療法を行うことである。結果として患者の薬剤費や医療費の軽減にもつながり、経済面への配慮も大切ではあるが、それは副次的な効果にとどまる。
- ×d. 医療ソーシャルワーカーが患者の薬剤内容を確認する。
誤り。薬剤内容の確認は、医学・薬学の専門知識をもつ医師や薬剤師の役割である。医療ソーシャルワーカー(MSW)は社会福祉の専門職であり、患者・家族が抱える経済的・心理的・社会的問題の相談に応じ、社会保障制度の利用支援、退院支援、社会復帰の援助などを行う。
- ×e. ポリファーマシーの定義は薬剤の種類が10を超える場合である。
誤り。ポリファーマシーに「何種類以上」という明確な数の定義はない。単に薬の数が多いことではなく、多剤併用に関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、アドヒアランス低下などの問題が生じている(生じうる)状態を指す。なお、高齢者では6種類以上の服用で有害事象の頻度が増えるという報告があり、目安として5〜6種類以上が挙げられることはあるが、10種類という基準はない。
ポリファーマシーとは
poly(多い)+pharmacy(薬)に由来する語で、多剤併用に伴う問題全般を指す。厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」でも、単に薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象、服薬過誤、アドヒアランス低下などの問題につながる状態と位置づけられている。必要な薬が多い患者もいるため、薬剤数だけで「減らすべき」とは判断しない。
高齢者で問題になりやすい理由
・肝・腎機能低下により薬物の代謝・排泄が遅れ、血中濃度が上がりやすい ・体内水分量の減少や脂肪の増加により薬物の分布が変わる ・複数疾患・複数受診による処方の積み重ね ・ある薬の副作用を新たな症状と誤認し、さらに別の薬を追加してしまう「処方カスケード」
服薬調整の進め方
・お薬手帳や持参薬確認で全処方を把握する ・各薬剤の適応・効果・副作用を見直し、不要な薬や高齢者で注意すべき薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗コリン作用の強い薬など)を検討する ・減薬・中止は処方医(かかりつけ医)が判断し、他院・他科の処方医と連絡をとる ・薬剤師は疑義照会や処方提案、服薬指導で関与する
関係職種の役割
医師:診断、処方・変更・中止の決定 薬剤師:調剤、疑義照会、服薬指導、薬歴管理、処方提案 医療ソーシャルワーカー:経済的・社会的問題の相談、社会資源の紹介、退院・社会復帰支援
POINT
・服薬調整の要は、かかりつけ医を中心とした情報共有(お薬手帳、薬局での一元管理) ・処方の中止・変更の決定は医師の業務。薬剤師は疑義照会・処方提案を行う ・主目的は安全性(重複・相互作用・有害事象の防止)とアドヒアランス改善。薬剤費軽減は副次的 ・ポリファーマシーに薬剤数による厳密な定義はない(10種類という基準はない)
