血圧が正常でも安心できない―発熱乳児の「指先の2秒」が告げる危険信号
第111回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
6か月の乳児。発熱を主訴に母親に連れられて救急外来に来院した。意識は清明であるが,ぐずっている。体温38.5℃。心拍数144/分,整。血圧90/60mmHg。呼吸数30/分。SpO2 98%(room air)。毛細血管再充満時間4秒と延長している。 この患児において重症感染症を示唆する所見はどれか。
- a.体温
- b.心拍数
- c.血圧
- d.呼吸数
- e.毛細血管再充満時間
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
小児の発熱では、熱の高さよりも意識・呼吸・循環といった全身状態で重症度を判断します。乳児では心拍数がおおよそ100〜160/分、呼吸数が30〜50/分前後が正常範囲で、低血圧の目安は収縮期血圧70mmHg未満と、成人とは基準が大きく異なります。小児は心拍数増加と末梢血管収縮で血圧を維持する力が強く、血圧低下はショックの後期所見であるため、毛細血管再充満時間(正常2秒以内)の延長が代償性ショックを早期にとらえる重要な指標となります。四肢冷感、皮膚のまだら模様、尿量減少なども循環不全のサインであり、PATやABCDEによる系統的評価と組み合わせて判断します。「血圧が正常でも安心しない」という視点は、小児救急で重症児を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
6か月の乳児が発熱で受診した。意識は清明だがぐずっている。各バイタルサインを乳児の基準と照らし合わせる。 ・体温38.5℃:発熱はあるが、熱の高さそのものは重症度をよく反映しない。 ・心拍数144/分:乳児の正常範囲(おおよそ100~160/分前後)に収まっている。発熱時には体温上昇に伴って心拍数が増えることも考慮すると、頻脈とはいえない。 ・血圧90/60 mmHg:乳児(1~12か月)の低血圧の目安は収縮期血圧70 mmHg未満であり、正常である。 ・呼吸数30/分:乳児の正常範囲(おおよそ30~50/分前後)にあり、多呼吸ではない。SpO2 98%で酸素化も保たれている。 ・毛細血管再充満時間(capillary refill time:CRT)4秒:正常は2秒以内であり、明らかに延長している。
考え方
小児では、敗血症などで循環が悪化しても、心拍数の増加と末梢血管の収縮によって血圧が保たれる(代償性ショック)。血圧が下がるのは代償が破綻した後期であり、低血圧が出現してからでは手遅れになりやすい。そのため、血圧が正常でも末梢循環の悪化を早期にとらえることが重要で、その代表的な指標がCRTの延長である。本例では他のバイタルサインがおおむね保たれている中で、CRTだけが明らかに異常であり、末梢循環不全、すなわち重症感染症(敗血症)の可能性を示唆する所見となる。 小児の発熱では、熱の高さよりも、意識・活気(ぐったりしている、あやしても反応が乏しい)、呼吸(多呼吸、陥没呼吸、呻吟)、循環(頻脈、CRT延長、皮膚色不良、尿量減少)といった全身状態の評価が重症度判定の中心になる。
選択肢考察
- ×a. 体温
重症を示唆するとはいえない。38.5℃は発熱だが、ウイルス感染症などの軽症疾患でもよくみられる値であり、熱の高さだけで重症感染症とは判断できない。なお、生後3か月未満の乳児では38℃以上の発熱そのものが重症細菌感染症を疑う危険信号として扱われるが、本児は6か月であり、その対象ではない。
- ×b. 心拍数
重症を示唆するとはいえない。144/分は乳児の正常範囲内である。発熱では体温上昇に伴い心拍数がある程度増えるのが普通であり、それを考えても頻脈ではない。乳児で160/分を超えるような頻脈が持続する場合は、循環不全の代償反応を疑って注意する。
- ×c. 血圧
重症を示唆するとはいえない。収縮期血圧90 mmHgは、乳児の低血圧の目安(70 mmHg未満)を十分上回っており正常である。ただし小児では血圧低下はショックの後期所見であり、血圧が正常であることは循環不全がないことを保証しない点に注意が必要である。
- ×d. 呼吸数
重症を示唆するとはいえない。30/分は乳児の正常範囲内で、多呼吸(乳児ではおおよそ50/分超)にはあたらない。SpO2も98%と保たれている。多呼吸は肺炎などの呼吸器疾患のほか、敗血症による代謝性アシドーシスの代償としても生じるため、異常があれば重要な所見となる。
- ○e. 毛細血管再充満時間
重症感染症を示唆する所見である。毛細血管再充満時間は爪床や胸骨上の皮膚を数秒間圧迫して白くし、離してから元の色に戻るまでの時間で、正常は2秒以内である。4秒は明らかな延長であり、末梢血管が収縮して皮膚への血流が低下していること、すなわち末梢循環不全を示す。血圧が保たれている代償性ショックの段階でも出現するため、敗血症などの重症感染症を早期に察知する手がかりとなる。
小児バイタルサインの目安(年齢により幅があり、文献で多少異なる)
・乳児(1~12か月):心拍数 おおよそ100~160/分、呼吸数 おおよそ30~50/分、低血圧の目安は収縮期血圧70 mmHg未満。 ・1~10歳の低血圧の目安:収縮期血圧 70+(2×年齢)mmHg未満。 ・10歳以上の低血圧の目安:収縮期血圧90 mmHg未満。
小児のショックの特徴
小児は心拍数を増やし末梢血管を強く収縮させることで血圧を維持する力が強い。そのため、頻脈、CRT延長、四肢冷感、皮膚の網状チアノーゼ(まだら模様)、尿量減少、意識・活気の変化などの末梢循環不全の徴候が先に現れる(代償性ショック)。血圧低下(低血圧性ショック)は代償が限界に達した後期の所見で、心停止が近い危険な状態を意味する。
発熱乳幼児で重症を疑う所見の例
・外見・意識:ぐったりしている、刺激への反応が乏しい、あやしても泣き止まない、甲高い泣き声。 ・呼吸:多呼吸、陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、SpO2低下。 ・循環:頻脈、CRT延長(3秒以上で注意)、皮膚の蒼白・まだら模様、尿量減少・脱水。 ・その他:大泉門膨隆、項部硬直、けいれん、紫斑・点状出血(髄膜炎菌感染症など)、生後3か月未満の38℃以上の発熱。
初期評価の枠組み
小児救急では、PAT(pediatric assessment triangle:外観、呼吸状態、皮膚への循環の3要素を一目で評価する方法)で第一印象をつかみ、続いてABCDE(気道、呼吸、循環、神経、体温・全身観察)の順に評価する。
POINT
・小児の発熱では、熱の高さよりも意識・呼吸・循環の全身状態で重症度を判断する。 ・毛細血管再充満時間の正常は2秒以内。延長は末梢循環不全(代償性ショック)を示す早期の重要所見である。 ・小児では血圧低下はショックの後期所見。乳児の低血圧の目安は収縮期血圧70 mmHg未満、1~10歳は 70+2×年齢 mmHg未満。 ・生後3か月未満の38℃以上の発熱は、それだけで重症細菌感染症を念頭に置いて精査する。
