喉が渇かない、尿が濃くならない―高齢者が「すぐ脱水になる」3つの理由
第111回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
高齢者の特徴で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.血漿浸透圧が高くても口渇を感じにくい。
- b.腎でのナトリウム保持能が亢進している。
- c.糸球体濾過量が増加している。
- d.細胞内液量が増加している。
- e.腎濃縮力が低下している。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者では、口渇中枢の感受性低下により血漿浸透圧が上がっても喉の渇きを感じにくく、さらにネフロン減少や集合管のADH反応性低下によって腎の尿濃縮力が低下しています。加えてGFRやナトリウム保持能も低下し、体内総水分量は成人の約60%から約50%程度へ、主に細胞内液の減少によって少なくなります。これらが重なるため、高齢者は発熱や発汗を契機に高張性脱水を、塩分摂取低下や利尿薬で低ナトリウム血症をきたしやすくなります。また筋肉量減少で血清クレアチニンが低めに出て腎機能を過大評価しやすく、薬物投与量の調整にも注意が必要です。体液調節の加齢変化を「予備力の低下」として理解することは、高齢者の脱水予防や輸液・処方の安全性に直結します。
解答・解説
正解はa, eです
本問は、高齢者がなぜ脱水や電解質異常(高ナトリウム血症・低ナトリウム血症)を起こしやすいのかを、体液調節の加齢変化から問うている。 体液のバランスは、大きく(1)水を取り込む仕組み(口渇感→飲水行動)、(2)水とNaを保持・排泄する腎臓の働き、(3)水をためておく器としての体組成、の3つで保たれている。加齢により、この3つはいずれも「余裕がなくなる」方向に変化する。 (1)では、視床下部の浸透圧受容体からの口渇シグナルが弱まり、血漿浸透圧が上がっても飲水につながりにくい。(2)では、機能するネフロンの数と腎血流量が減って糸球体濾過量(GFR)が低下し、尿細管の濃縮・希釈能やNa保持能も衰える。(3)では、筋肉などの細胞量が減るため細胞内液を中心に体内総水分量が減少し、水分を蓄える予備が小さくなる。 したがって高齢者の特徴として「機能が亢進・増加している」とする記述は誤りで、「低下・減弱している」方向の記述を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. 血漿浸透圧が高くても口渇を感じにくい。
通常は血漿浸透圧がわずかに上がるだけで視床下部の浸透圧受容体が反応し、ADH(抗利尿ホルモン)分泌と口渇感が生じて飲水を促す。高齢者ではこの口渇中枢の感受性が低下しており、浸透圧や血清Na値が上昇しても喉の渇きを自覚しにくく、自発的な飲水量が増えない。認知機能の低下やADLの低下で水を取りに行けないことも重なり、高張性脱水(高ナトリウム血症)をきたしやすい。よって正しい。
- ×b. 腎でのナトリウム保持能が亢進している。
加齢により尿細管機能は低下し、レニン・アルドステロン系の反応性も弱まるため、塩分摂取が減ってもNaを十分に再吸収して尿中排泄を減らすことができなくなる。つまりNa保持能は亢進ではなく低下している。このため食欲低下などで塩分摂取が減ると、尿中にNaが失われ続けて低ナトリウム血症や細胞外液量の減少(脱水)を起こしやすい。
- ×c. 糸球体濾過量が増加している。
加齢とともに腎血流量が減り、糸球体の硬化(硝子化)や機能ネフロン数の減少が生理的に進むため、糸球体濾過量(GFR)は低下する。おおむね40歳頃以降、GFRは年に約1 mL/分/1.73 m²程度ずつ低下するとされる。なお高齢者は筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が見かけ上低めに出やすく、腎機能を過大評価しやすい点にも注意が必要である(薬物投与量の調節で重要)。
- ×d. 細胞内液量が増加している。
体内総水分量は成人で体重の約60%だが、高齢者では約50%程度まで減少する。この減少の主体は細胞内液であり、筋肉をはじめとする臓器の細胞数が減る(筋萎縮・サルコペニアなど)こと、相対的に水分の少ない脂肪組織の割合が増えることによる。細胞外液量は比較的保たれるため、減っているのは細胞内液である。水分の蓄えが少ないため、わずかな水分喪失でも脱水になりやすい。
- ○e. 腎濃縮力が低下している。
尿を濃縮するには、Henleループによる髄質の浸透圧勾配の形成と、ADHに対する集合管の反応が必要である。高齢者ではネフロン数の減少、髄質の浸透圧勾配の形成不全、ADHへの集合管の反応性低下などにより、尿の最大濃縮力が低下する(希釈力も低下する)。そのため水分摂取が不足しても尿量を減らして水を節約することができず、脱水が進みやすい。また濃縮されない尿が夜間にも作られるため、夜間多尿・夜間頻尿の一因にもなる。よって正しい。
高齢者の体液・腎機能の加齢変化のまとめ
・体内総水分量:成人約60% → 高齢者約50%(主に細胞内液の減少) ・口渇感:低下(飲水行動が起こりにくい) ・GFR・腎血流量:低下 ・尿濃縮能・尿希釈能:ともに低下 ・Na保持能:低下(塩分制限時に尿中Na喪失が続く) ・レニン・アルドステロン系:活性が低下しやすい ・ADH:分泌自体は保たれるか、むしろ亢進しやすいが、集合管の反応性は低下する
臨床的な意味
・高張性脱水(高ナトリウム血症):口渇感の低下と濃縮力の低下が重なり、発熱・下痢・夏季の発汗などを契機に起こりやすい。 ・低ナトリウム血症:Na保持能・希釈能の低下に加え、サイアザイド系利尿薬などの薬剤の影響も受けやすい。 ・脱水の診察所見がわかりにくい:皮膚の張り(ツルゴール)は加齢で元々低下しており評価しにくく、腋窩の乾燥や口腔粘膜の乾燥なども併せて判断する。 ・薬物動態:GFR低下と体内水分量の減少により、腎排泄型薬物や水溶性薬物の血中濃度が上がりやすい。
POINT
・高齢者は口渇感が低下し、浸透圧が上がっても飲水しにくい。 ・腎の濃縮力・希釈力、Na保持能、GFRはいずれも加齢で低下する。 ・体内総水分量は減少し、その主体は細胞内液の減少である。 ・これらが重なって、高齢者は脱水や電解質異常を起こしやすい。
