腎臓はNaを握りしめている―尿中Na低値が示す「有効循環血漿量の不足」
第111回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
尿中Naの排泄低下を伴う低ナトリウム血症をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.尿細管障害
- b.Addison病
- c.SIADH
- d.肝硬変
- e.心不全
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿中Na低値(20 mEq/L未満)は、腎臓が有効循環血漿量の低下を感知し、RAA系や交感神経を介してNaを保持しているサインです。同時にADHが非浸透圧性に分泌され、水の保持がNaの保持を上回るため希釈性の低ナトリウム血症となり、心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群などの浮腫性疾患や腎外性喪失がこれに当たります。一方、SIADH、Addison病(鉱質コルチコイド欠乏)、尿細管障害、利尿薬使用時では尿中Naは高値となります。低ナトリウム血症は、血漿浸透圧の確認後に「細胞外液量」と「尿中Na」の2軸で鑑別するのが基本です。病態を正しく捉えることは、水制限か補充かといった治療方針の判断に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
低ナトリウム血症(一般に血清Na 135 mEq/L未満)は、体内のNa量が足りないというより、Naに比べて水が相対的に多すぎる状態であることが多い。原因を絞り込むには、(1)細胞外液量(ECF)が減っているか、ほぼ正常か、増えているか、(2)尿中Na濃度(目安として20 mEq/L未満なら低値、それを超えれば高値)を組み合わせて考えるのが基本である。 尿中Naが低い(腎臓がNaを強く保持している)ということは、腎臓が「有効循環血漿量(実際に動脈系を満たして臓器を灌流している血液量)が足りない」と判断し、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)や交感神経が働いていることを示す。同じ刺激で抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)も非浸透圧性に分泌され、集合管で水の再吸収が進む。その結果、Naの保持よりも水の保持が上回り、希釈性の低ナトリウム血症になる。 このように「有効循環血漿量の低下→アルドステロンとADHの両方が亢進」という病態をとるのは、腎外性のNa喪失(嘔吐・下痢・熱傷など)による脱水と、体液全体は過剰でも動脈系が相対的に空になっている浮腫性疾患(心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群)である。選択肢の中では肝硬変と心不全がこれに当たる。 一方、腎臓そのものがNaを捨てている病態(尿細管障害、鉱質コルチコイド欠乏、利尿薬など)や、循環血漿量がむしろやや増えて腎臓がNaを排泄しているSIADHでは、尿中Naは高値(20〜40 mEq/L超)となる。
選択肢考察
- ×a. 尿細管障害
尿細管(特に近位尿細管やHenleループ)が障害されると、糸球体で濾過されたNaを十分に再吸収できなくなる。これは腎性のNa喪失(塩類喪失性腎症)であり、Naは尿中に漏れ続けるため尿中Naは高値となる。Na喪失に伴って細胞外液量は減少し、低ナトリウム血症をきたし得るが、「尿中Na排泄の低下」という条件には合わない。
- ×b. Addison病
Addison病は副腎皮質そのものが破壊される原発性慢性副腎皮質機能低下症である。鉱質コルチコイドであるアルドステロンが欠乏するため、集合管でのNa再吸収とK・H⁺の排泄ができず、尿中へのNa喪失(尿中Na高値)、細胞外液量の減少、高カリウム血症をきたす。さらに糖質コルチコイド(コルチゾール)の欠乏はADH分泌を抑えるブレーキを外し、自由水の排泄も障害するため、低ナトリウム血症がいっそう進む。したがって低ナトリウム血症は起こるが、尿中Naは低下せず増加する。
- ×c. SIADH
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)は、血漿浸透圧が低いのにADHが抑制されずに分泌され続ける病態である。水が貯留して細胞外液量は軽度に増加するが、浮腫は通常みられない。循環血漿量が保たれているためRAA系は抑制され、さらに心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の作用などで腎臓はNaを排泄する。そのため尿中Naは通常20 mEq/L以上と高値で、尿浸透圧も血漿浸透圧に比べて不適切に高い。尿中Na排泄が保たれることは診断基準にも含まれる特徴であり、本問の条件には合わない。
- ○d. 肝硬変
肝硬変では、門脈圧亢進に伴い一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が増えて内臓(腹部臓器)の動脈が拡張し、さらに低アルブミン血症で膠質浸透圧が下がって血管内の水分が腹水や浮腫として血管外へ移る。体全体の水とNaはむしろ過剰でも、動脈系を満たす有効循環血漿量は不足した状態になる。これを感知した腎臓ではRAA系と交感神経が亢進してNaを強く再吸収し(尿中Na低値)、同時にADHが非浸透圧性に分泌されて水を保持する。水の保持がNaの保持を上回るため希釈性の低ナトリウム血症となる。したがって尿中Na排泄低下を伴う低ナトリウム血症をきたす。
- ○e. 心不全
心不全では心拍出量が低下し、体液は全体として過剰(浮腫、肺うっ血)であるにもかかわらず、動脈系の有効循環血漿量は不足する。そのためRAA系・交感神経が亢進して腎臓でのNa再吸収が増え(尿中Na低値)、ADHも非浸透圧性に分泌されて水が保持される。心房や心室の伸展によりANPや脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が増えてNa排泄を促そうとするが、RAA系と交感神経の作用が上回るため、結果としてNa排泄は抑えられ、水の貯留による希釈性の低ナトリウム血症となる。心不全で低ナトリウム血症がみられることは予後不良の指標でもある。なお、ループ利尿薬などの利尿薬投与中は尿中Naが高くなるため、評価の際は服薬の有無に注意する。
低ナトリウム血症の鑑別の流れ
1. まず血漿浸透圧を確認し、高血糖(高浸透圧性)や脂質異常症・高蛋白血症による偽性低ナトリウム血症を除外する。 2. 低浸透圧性であれば、細胞外液量と尿中Naで分類する。
細胞外液量×尿中Naによる分類
・細胞外液量減少+尿中Na低値(20 mEq/L未満):腎外性喪失(嘔吐、下痢、熱傷、大量発汗など) ・細胞外液量減少+尿中Na高値:腎性喪失(利尿薬、塩類喪失性腎症・尿細管障害、鉱質コルチコイド欠乏〈Addison病など〉、中枢性塩類喪失症候群) ・細胞外液量ほぼ正常+尿中Na高値:SIADH、糖質コルチコイド欠乏(続発性副腎皮質機能低下症)、甲状腺機能低下症 ・細胞外液量ほぼ正常+尿中Na低値:心因性多飲、ビール多飲(ビールポトマニア)、極端な低溶質食 ・細胞外液量増加(浮腫)+尿中Na低値:心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群 ・細胞外液量増加+尿中Na高値:腎不全(急性・慢性)
アルドステロンとADHの働き
・アルドステロン:集合管でNaを再吸収し、K⁺とH⁺を排泄する。不足すると尿中Na増加・高カリウム血症・代謝性アシドーシスとなる。 ・ADH:集合管にアクアポリン2を発現させて水を再吸収する。血漿浸透圧上昇のほか、循環血漿量減少や血圧低下(非浸透圧性刺激)でも分泌される。
浮腫性疾患での有効循環血漿量低下
心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群では体液全体は過剰だが、動脈系の充満が不足しているため、腎臓は「脱水」と同じ反応(Na・水の保持)を示す。これが浮腫と低ナトリウム血症の悪循環を作る。治療では水制限が基本となり、心不全や肝硬変の低ナトリウム血症にはバソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)が用いられることもある。
POINT
・尿中Na低値(20 mEq/L未満)は、腎臓が有効循環血漿量の低下を感知してNaを保持しているサインである。 ・尿中Na低値+低ナトリウム血症:腎外性喪失(嘔吐・下痢・熱傷)と浮腫性疾患(心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群)。 ・尿中Na高値+低ナトリウム血症:SIADH、Addison病(鉱質コルチコイド欠乏)、尿細管障害、利尿薬、腎不全。 ・低ナトリウム血症は「細胞外液量」と「尿中Na」の2軸で鑑別する。
