StudyMed医師国家試験

早すぎても遅すぎてもダメ―新生児マススクリーニングは「生後5日」の踵採血

第111回医師国家試験 B問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第32問

正期産児で新生児マススクリーニングを行うのに最も適切な時期はどれか。

  1. a.出生当日
  2. b.生後5日
  3. c.生後10日
  4. d.生後20日
  5. e.生後30日

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新生児マススクリーニングの採血時期を問う問題だ。数字を丸暗記するより「なぜその日なのか」を考えると忘れにくい。キーワードは「早すぎると見つからない」「遅すぎると間に合わない」の2つだよ。
医学生医学生
生まれてすぐに調べたほうが早く見つかって良さそうに思えるのですが、違うんですか。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも胎児期を思い出してほしい。胎内では栄養も老廃物の処理も胎盤を介して母体が担ってくれる。だから先天代謝異常症があっても、生まれた時点では異常な物質はほとんど溜まっていないんだ。
医学生医学生
生化学の講義で習ったフェニルケトン尿症なら、ミルクのたんぱく質を自分で代謝し始めて初めてフェニルアラニンが増えてくる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。哺乳が始まって数日たたないと異常値として捉えられないから、出生当日の採血では見逃し、つまり偽陰性が起こりうる。さらに出生直後には生理的なTSHの一過性上昇や17-OHPの高値があって、先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎皮質過形成症の偽陽性も増えてしまう。
医学生医学生
見逃しも空振りも増えるなら、出生当日は二重に不向きなんですね。じゃあ余裕をもって1か月くらい待てば確実では?
ドクタードクター
今度は遅すぎる問題が出てくる。対象疾患の多くは、特殊ミルクやホルモン補充を早く始めれば障害や命の危険を防げる病気だ。たとえば先天性副腎皮質過形成症の塩喪失型は生後1〜2週ごろに副腎不全を起こしうるし、ガラクトース血症や一部の有機酸・脂肪酸代謝異常症も新生児期早期に急性発症しうる。
医学生医学生
再検査や精密検査にかかる日数も考えると、生後1週以内に採血を済ませたいわけですね。
ドクタードクター
そう。だから標準は哺乳が確立した生後4〜6日ごろで、選択肢の中では生後5日が最も適切だ。生後10日でも検出はできるけれど、そのぶん治療開始が遅れるし、多くの施設では生後5日前後で退院するから入院中に採血できず検査漏れにもつながる。生後20日や30日では、すでに発症している疾患もありうるから、発症前に見つけるというスクリーニングの意味が薄れてしまう。
医学生医学生
産婦人科の実習で、退院前の赤ちゃんの踵から採血して濾紙に染み込ませているのを見ました。あれがこの検査だったんですね。
ドクタードクター
よく見ていたね。踵を穿刺して専用の濾紙に血液を染み込ませ、乾燥させた乾燥濾紙血を検査機関に郵送する。わずかな血液量で多くの項目が測れるのが利点だ。
医学生医学生
検査法はタンデムマス法でしたっけ。CBTの問題集で名前だけ見た気がします。
ドクタードクター
そう。タンデム質量分析計を使えば、1回の測定でアミノ酸やアシルカルニチンを一斉に測れて、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症を拾える。一方で先天性甲状腺機能低下症はTSH、先天性副腎皮質過形成症は17-OHP、ガラクトース血症はガラクトースなどを従来法で測る。公費で行われる対象はこれらを合わせて20疾患前後だ。
医学生医学生
選択肢に生後30日があるのは、何か意味があるんでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。低出生体重児、特に極低出生体重児では甲状腺の未熟性でTSH上昇が遅れて現れることがあるし、輸血や高カロリー輸液の影響で結果が修飾されることもある。だから通常の採血に加えて、生後1か月ごろや体重が一定に達したとき、退院時などに再採血を行うことがあるんだ。ただしそれは正期産児の標準的な時期ではない。
医学生医学生
正期産児は生後4〜6日に1回、低出生体重児は再採血もある、と分けて覚えます。
ドクタードクター
それでいい。もう一つ臨床での注意点として、スクリーニング陽性はあくまで「精密検査が必要」という意味で確定診断ではない。逆に、スクリーニングが正常でも症状があれば疾患を否定しきれない。近年は重症複合免疫不全症や脊髄性筋萎縮症などを対象にした拡大スクリーニングも一部の地域で行われているから、家族への説明では対象範囲も意識しておこう。

まとめ

新生児マススクリーニングの採血は、哺乳が確立した生後4〜6日ごろに踵から行い、乾燥濾紙血で検査するのが標準です。出生直後は異常代謝物がまだ蓄積しておらず偽陰性になりやすく、生理的なTSH上昇や17-OHP高値による偽陽性も増える一方、遅すぎると塩喪失型の先天性副腎皮質過形成症やガラクトース血症などで治療が間に合わなくなるため、その間のバランスで時期が決まっています。検査はタンデムマス法によるアミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症と、従来法による先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成症・ガラクトース血症が柱で、低出生体重児では再採血が行われることがあります。「なぜその時期なのか」を病態から理解しておくと、数字の暗記にとどまらず、家族への説明や結果の解釈にも生かせます。

解答・解説

正解はbです

新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の採血時期を問う問題である。採血時期は「早すぎると異常が検出できない・偽陽性が増える」「遅すぎると治療開始が遅れて障害を残す」という二つの条件のバランスで決まっている。

早すぎてはいけない理由

胎児期は胎盤を介して母体から栄養と酸素を受け取り、老廃物は母体が処理してくれるため、先天代謝異常症があっても胎内では異常物質がほとんど蓄積しない。出生後に哺乳が始まり、乳汁中のたんぱく質(アミノ酸)や乳糖・脂肪を自分で代謝するようになって初めて、代謝経路の障害による異常代謝物(例:フェニルケトン尿症におけるフェニルアラニン)が血中に増えてくる。したがって哺乳開始から数日が経過しないと異常値として捉えられない。また、出生直後は生理的な甲状腺刺激ホルモン(TSH)の一過性上昇や17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)の高値がみられ、先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎皮質過形成症で偽陽性が多くなる。

遅すぎてはいけない理由

対象疾患の多くは、早期に治療(特殊ミルクによる食事療法、ホルモン補充など)を始めれば知的障害や生命の危機を防げる疾患である。先天性副腎皮質過形成症の塩喪失型は生後1〜2週ごろに副腎不全をきたしうるし、ガラクトース血症や一部の有機酸・脂肪酸代謝異常症も新生児期早期に急性発症しうる。検査・再検査・精密検査に要する日数を考えると、採血は生後1週以内に済ませる必要がある。 以上から、哺乳が確立した生後4〜6日ごろ(日齢4〜6)に足底の踵(かかと)から採血し、濾紙に染み込ませて乾燥させた血液(乾燥濾紙血)を検査機関に送るのが標準である。選択肢の中では生後5日が最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  出生当日

    出生当日はまだ哺乳がほとんど進んでおらず、アミノ酸代謝異常症などでは異常代謝物が蓄積していないため見逃し(偽陰性)が生じる。加えて、出生直後の生理的なTSHサージや17-OHP高値によって先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成症の偽陽性が増える。スクリーニングの時期として不適切である。

  2. ○b.  生後5日

    哺乳開始から数日が経ち、代謝異常があれば異常代謝物が血中に十分蓄積している時期であり、出生直後のホルモンの生理的変動も落ち着いている。一方で、陽性時に再検査・精密検査を行っても新生児期早期のうちに治療を開始できる。標準的な採血時期である生後4〜6日(日齢4〜6)に含まれるため、最も適切である。

  3. ×c.  生後10日

    異常の検出自体は可能であるが、採血が遅れる分だけ結果判明と治療開始が遅れる。先天性副腎皮質過形成症(塩喪失型)による副腎不全やガラクトース血症、有機酸・脂肪酸代謝異常症の急性発症などは新生児期早期に起こりうるため、早期発見・早期治療というスクリーニングの目的にそぐわない。また、通常の産科入院中(多くは生後5日前後で退院)に採血を済ませることができず、検査漏れの原因にもなる。

  4. ×d.  生後20日

    すでに発症して症状が出ている疾患もありうる時期であり、発症前に見つけて治療するというスクリーニングの意義が損なわれる。正期産児の初回採血時期としては遅すぎる。

  5. ×e.  生後30日

    正期産児の初回スクリーニングとしては明らかに遅い。なお、低出生体重児(特に極低出生体重児)では甲状腺機能の未熟性によりTSH上昇が遅れて現れること(遅発型の高TSH血症)があるため、通常の時期の採血に加えて生後1か月ごろや体重が一定に達した時点・退院時などに再採血を行うことがある。しかしこれは正期産児の標準的な検査時期ではない。

新生児マススクリーニングの概要

特定の集団全員を対象に、特定の疾患の有無を簡便な検査でふるい分けることをマススクリーニングという。日本の新生児マススクリーニングは1977年に開始され、ほぼすべての新生児が受検している。検査費用は公費(自治体)負担で、採血料などは自己負担となる場合がある。

検査法と対象疾患

2011年からタンデム質量分析計を用いる検査(タンデムマス法)が導入され、2014年度には全国の自治体で導入が完了した。タンデムマス法では1回の測定でアミノ酸、アシルカルニチンなどを一斉に測定でき、アミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症など)、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症など)、脂肪酸代謝異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症など)を検出する。 タンデムマス法の対象外である先天性甲状腺機能低下症(TSHを測定)、先天性副腎皮質過形成症(17-OHPを測定)、ガラクトース血症(ガラクトースや酵素活性を測定)は従来の方法で検査する。公費対象はこれらを合わせて20疾患前後である。近年は重症複合免疫不全症(SCID)や脊髄性筋萎縮症(SMA)などを対象とする拡大スクリーニングも一部の地域で行われている。

採血と検体

生後4〜6日(哺乳開始後数日)に新生児の踵を穿刺し、専用の濾紙に血液を染み込ませて乾燥させ、検査機関へ郵送する。乾燥濾紙血のわずかな血液量で多数の項目を測定できる。

低出生体重児の扱い

低出生体重児では、未熟性により異常が遅れて現れたり、輸血・高カロリー輸液などの影響で結果が修飾されたりするため、初回採血に加えて再採血を行う。

POINT

・新生児マススクリーニングの採血は哺乳開始後数日、生後4〜6日(日齢4〜6)ごろに踵から行い、乾燥濾紙血で検査する。 ・早すぎると異常代謝物が蓄積しておらず偽陰性、また生理的TSH上昇・17-OHP高値で偽陽性が増える。遅すぎると治療開始が遅れる。 ・タンデムマス法(アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症)+従来法の3疾患(先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎皮質過形成症、ガラクトース血症)。 ・低出生体重児は再採血を行うことがある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。