StudyMed医師国家試験

左心房に注ぐのは誰か―胸部MRIの四腔断面で「肺動脈」と「肺静脈」を見分ける

第111回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第18問

正常な成人男性の胸部MRIを別に示す。  図に示す部位と名称の組合せで誤っているのはどれか。

第111回 B問題 第18問の問題画像
  1. a.① ―― 左心室
  2. b.② ―― 肺動脈
  3. c.③ ―― 下行大動脈
  4. d.④ ―― 右心房
  5. e.⑤ ―― 心室中隔

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常な胸部MRIの水平断で心臓の各構造を同定する問題だ。カギは2つ。1つは画像の向きのルール、もう1つは「どの部屋が前で、どの部屋が後ろか」という心臓の立体的な位置関係だよ。まず、水平断像の左右はどう読むか覚えているかな。
医学生医学生
CTと同じで、患者さんを足側から見上げた向きでしたよね。だから画像の向かって右が患者さんの左です。
ドクタードクター
その通り。画像の上が腹側、下が背側になる。この画像は心臓の4つの部屋が一度に見える、いわゆる四腔断面に近い断面で、血液が白く、心筋が灰色に描出されている。では、心臓の中で一番前にある部屋はどこだろう。
医学生医学生
えっと、心臓の解剖実習で前から見たとき、正面のほとんどを占めていたのは左心室だった気がします。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。胸骨のすぐ裏、最も前方にあるのは右心室なんだ。左心室は左後方に回り込んでいて、正面からは心尖部付近がわずかに見える程度。逆に最も後ろにあるのが左心房で、背側では食道や下行大動脈と接している。
医学生医学生
前が右心室、後ろが左心房。思ったより心臓はねじれて胸の中に収まっているんですね。
ドクタードクター
そう、心臓は軸が左前下方へ傾き、さらに回転しているからね。次に、心房と心室、左右の心室の見分け方だ。決め手は壁の厚さだよ。
医学生医学生
左心室は体循環に向けて高い圧で血液を送り出すので、壁が一番厚いはずです。
ドクタードクター
正解。正常の左室壁は約10mm前後、右室壁は数mm程度で、心房の壁はさらに薄くて画像ではほとんど認識できないこともある。これで選択肢を確認しよう。心臓の左側、画像では右側にあって壁が際立って厚い心室が左心室。左右の心室の間にある厚い筋性の壁が心室中隔。どちらも組合せは正しいね。
医学生医学生
右心房は、心臓の右側、画像の左側にある壁の薄い部屋ということですか。
ドクタードクター
そう。単独で見ると同定しにくいけれど、最前方の右心室の右後方にある薄壁の部屋という位置関係から右心房と判断できる。では、椎体のすぐ左前方、画像では椎体の右上にある円形の太い血管はどうだろう。
医学生医学生
位置的に下行大動脈ですね。椎体の右前方には奇静脈があると系統解剖で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。下行大動脈で正しい。残るのが、左心房の後外側から左心房へ連続している血管だ。これを肺動脈としているのが誤りになる。
医学生医学生
肺の方から心臓に来る血管なので、肺動脈でもいいのかと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが狙われているポイントだ。左心房に流入するのは肺静脈。左右の上下肺静脈、通常計4本が肺門から心臓背側の左心房へ直接注ぐ。この血管は位置からすると左下肺静脈だね。一方、肺動脈は右心室の流出路から前上方へ出て肺動脈幹となり、大動脈弓の下、気管分岐部付近の高さで左右に分かれる。
医学生医学生
肺動脈はもっと上の断面で、心臓の前の方に見えるということですね。左心房に後ろからつながっているのは静脈しかありえない。
ドクタードクター
その通り。血管が「どこにつながっているか」で名前が決まる、と考えれば迷わない。臨床的な話もしておこう。左心房が食道と接していることには、どんな意味があると思う?
医学生医学生
循環器内科の実習で経食道心エコーを見学しました。食道からだと左心房や左心耳の血栓がよく見えると説明されました。
ドクタードクター
まさにその理由がこの位置関係なんだ。また、僧帽弁狭窄症などで左心房が拡大すると、食道が後方から圧排されることがある。心臓MRIは心機能や心筋性状の評価に使われるけれど、読影の基本はいつも、向きのルールと前後左右の位置関係、そして壁の厚さだよ。
医学生医学生
前が右心室、後ろが左心房、壁が厚いのが左心室、左心房に注ぐのは肺静脈。この4つを軸に読めばよさそうです。

まとめ

CT・MRIの水平断像は足側から見上げた向きで表示されるため、画像の右が患者の左となります。心臓では最前方に右心室、最後方に左心房があり、左心房は背側で食道や下行大動脈と接し、左右の肺静脈が後方から直接流入します。左心室は壁が最も厚く、心房の壁は薄いため、壁厚によって心室と心房、左右の心室を見分けられます。肺動脈は右心室から前上方へ出て大動脈弓の下で分岐するため、左心房に後方から連続する血管は肺静脈であり、肺動脈とするのは誤りです。この位置関係は経食道心エコーの原理や左心房拡大による食道圧排の理解にもつながり、画像読影の基礎として重要です。

解答・解説

正解はbです

提示画像は胸部の水平断(横断)MRIで、心臓の4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)が一度に描出される、いわゆる四腔断面(four chamber view)に近い断面である。血液が白く(高信号)、心筋が灰色に描出されるシネMRI系の画像と考えられる。

読影の前提

CT・MRIの水平断像は、患者を足側から見上げた向きで表示するのが原則である。したがって画像の向かって左が患者の右、向かって右が患者の左、画像の上が腹側(前)、下が背側(後)となる。

構造の同定

・椎体は画像下方中央にあり、そのすぐ左前方(画像では右上)に円形の太い血管がある。これが下行大動脈である。 ・心臓のうち最も背側に位置し、下行大動脈・食道に接する部屋が左心房である。左心房には左右から肺静脈が流入する。 ・心臓の左側(画像の右側)にあり、壁が最も厚い心室が左心室である。左心室は体循環を担い高い圧に抗して駆出するため、心筋壁が厚い(正常で約10mm前後)。 ・左右の心室を隔てる厚い筋性の壁が心室中隔である。 ・心臓の最も前方(胸骨の裏側)にあるのが右心室で、壁は左心室より明らかに薄い。 ・心臓の右側(画像の左側)で、壁がほとんど認識できない薄壁の部屋が右心房である。 ②は左心房の後外側から左心房へ連続する血管であり、左心房に流入する血管、すなわち肺静脈(左下肺静脈)である。肺動脈は右心室から起こり、心臓の前上方で肺動脈幹となった後、左右に分岐して肺門へ向かうため、四腔断面の高さで左心房の背側に接して見えることはない。したがって「② ―― 肺動脈」の組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  ① ―― 左心室

    組合せは正しい。①は心臓の左側(画像の右側)にあり、周囲の部屋と比べて心筋壁が際立って厚い心室である。左心房の前方に位置し、心室中隔を挟んで右心室と隣り合うことからも左心室と同定できる。

  2. ○b.  ② ―― 肺動脈

    組合せが誤りであり、これが正解である。②は心臓の最背側にある左心房へ後外側から流入する血管で、肺静脈(位置からは左下肺静脈)である。肺動脈は右心室の流出路から起こり、心臓の前上方を走行して大動脈弓の下で左右に分岐するため、心房レベルの断面で左心房に連続する形では描出されない。

  3. ×c.  ③ ―― 下行大動脈

    組合せは正しい。③は椎体の左前方(画像では椎体の右上)にある円形の太い血管で、左心房の背側に接している。この位置関係は下行(胸部)大動脈に典型的である。なお、椎体の右前方には奇静脈、左心房と大動脈の間付近には食道が位置する。

  4. ×d.  ④ ―― 右心房

    組合せは正しい。④は心臓の右側(画像の左側)にあり、壁がほとんど認識できないほど薄い部屋である。心房は心室に比べて壁が薄く、右心室は胸骨の直下の最前部にあることから、その右後方に位置する薄壁の部屋は右心房と判断できる。単独では同定が難しく、周囲の構造との連続性から判断するのがよい。

  5. ×e.  ⑤ ―― 心室中隔

    組合せは正しい。⑤は前方の右心室と左後方の左心室の間に位置する厚い筋性の壁であり、心室中隔である。心室中隔は左心室の一部として収縮に関与し、肥大型心筋症では非対称性に肥厚することが知られる。

胸部水平断における心大血管の位置関係(前から後へ)

・最前方:右心室(胸骨の裏に接する) ・右側:右心房(上大静脈・下大静脈が流入) ・左側:左心室(壁が最も厚い) ・最後方:左心房(肺静脈4本が流入、背側で食道・下行大動脈と接する)

心房と心室、左右の見分け方

・心室は心房より壁が厚い。 ・左心室は右心室よりはるかに壁が厚い(正常では左室壁厚が約10mm前後、右室壁厚は数mm)。 ・右心室には調節帯(moderator band)や粗い肉柱がみられ、三尖弁は僧帽弁よりやや心尖寄りに付着する。

肺動脈と肺静脈の走行の違い

・肺動脈:右心室流出路から肺動脈幹として前上方に出て、大動脈弓の下(気管分岐部付近の高さ)で左右肺動脈に分かれ、肺門へ向かう。 ・肺静脈:左右の上・下肺静脈(通常計4本)が肺門から心臓背側の左心房へ直接流入する。

左心房拡大と周囲臓器

左心房は食道と接しているため、僧帽弁狭窄症などで左心房が拡大すると食道が圧排される。この位置関係は経食道心エコーで左心房・左心耳内の血栓が観察しやすい理由でもある。

POINT

・CT・MRIの水平断は足側から見た像で、画像の右が患者の左である。 ・心臓の最前方は右心室、最後方は左心房。 ・左心房に後方から流入するのは肺静脈であり、肺動脈ではない。 ・壁の厚さで心房と心室、左心室と右心室を見分ける。 ・下行大動脈は椎体の左前方に位置する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。