StudyMed医師国家試験

加速する心、減速する心―躁とうつの症状を「対」で整理する

第111回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第111回 A問題 第14問

双極性障害の躁状態でみられる症状はどれか。2つ選べ。

  1. a.観念奔逸
  2. b.思考制止
  3. c.談話心迫
  4. d.微小妄想
  5. e.妄想気分

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は双極性障害の躁状態でみられる症状を選ぶ問題だ。精神症状の用語は似た字面が多くて混乱しやすいけれど、「精神活動が亢進する方向か、低下する方向か」、そして「そもそも気分障害の症状なのか」という2つの軸で整理すると解きやすくなる。まずは躁状態をイメージしてみよう。どんな様子の人を思い浮かべる?
医学生医学生
気分が高揚して、よくしゃべって、寝なくても元気な人です。精神科の臨床実習で、病棟でずっと話しかけてくる躁状態の患者さんに会いました。
ドクタードクター
いい実体験だね。躁状態では気分が高揚し、ときに怒りっぽくもなる。そして思考・会話・行動のすべてが速く、多くなる。この「速く、多く」に当てはまる用語を探せばいいんだ。まず観念奔逸はどう?
医学生医学生
考えが次々と湧いてきて、話があちこちに飛ぶ症状ですよね。でも話が飛ぶというと、統合失調症の滅裂思考とどう違うのか少し自信がありません。
ドクタードクター
そこは大事な区別だ。観念奔逸では言葉の響きや目に入ったものに連想が引っぱられて脇道にそれていくけれど、一つ一つのつながりは聞き手が追える。一方、統合失調症の連合弛緩では、考えと考えのつながりそのものが失われて、なぜその話になったのか追えなくなる。観念奔逸は思考の速さと量が増す、躁状態の代表的な症状だよ。
医学生医学生
では談話心迫は、話さずにはいられない状態のことですか。
ドクタードクター
その通り。話したい衝動を抑えられず、こちらが口をはさむ隙もないほど早口で一方的にしゃべり続ける。DSM-5の躁病エピソードの診断基準にも「普段より多弁、しゃべり続けようとする切迫感」として入っている。観念奔逸と合わさると、話題がどんどん移りながらしゃべり続ける、という典型的な姿になるんだ。だから観念奔逸と談話心迫の2つが正解だね。
医学生医学生
思考制止は逆に、考えが進まなくなる症状なのでうつ状態ですね。
ドクタードクター
そう。頭が働かず、返事に時間がかかり、決断もできなくなる。観念奔逸と対になるうつ状態の症状だ。では微小妄想は?
医学生医学生
自分を小さく見積もる妄想なので、これもうつ側だと思います。CBTの勉強で「うつ病の三大妄想」を覚えた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。罪業妄想、貧困妄想、心気妄想の3つが代表で、まとめて微小妄想と呼ぶ。躁状態ではその反対に、自分の能力や地位を過大に評価する誇大妄想がみられる。観念奔逸と思考制止、誇大妄想と微小妄想、と対にして覚えると忘れにくいよ。
医学生医学生
最後の妄想気分は、気分という言葉が入っているので気分障害の症状かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。妄想気分は、周囲の世界がなんとなく不気味に変わった、何か大変なことが起こりそうだと感じるけれど、まだ具体的な妄想の内容にはなっていない段階の体験だ。心理的に了解できる由来をもたない一次妄想の一型で、統合失調症の発病初期にみられる代表的な症状なんだ。
医学生医学生
一次妄想には、ほかに妄想知覚と妄想着想がありましたよね。
ドクタードクター
そう。妄想知覚は、例えば犬が吠えたのを見て「自分が狙われている合図だ」と、実際の知覚に了解できない意味を確信的に付け加えるもので、Schneiderの一級症状にも含まれる。妄想着想は、前ぶれなく突然ある考えが確信として浮かぶものだ。名前に惑わされず、どの疾患の症状かで整理しておこう。
医学生医学生
躁状態の症状は、亢進する方向のものを選べばいいと分かりました。ほかにも注意散漫や浪費もありますよね。
ドクタードクター
その通り。注意がすぐそれる転導性の亢進、次々と行動を起こす行為心迫、浪費や性的逸脱、短時間しか眠らなくても疲れを感じない睡眠欲求の減少などがある。DSM-5では、気分の高揚または易怒性と活動性の亢進が1週間以上続き、これらの症状が3つ以上あれば躁病エピソードとなる。4日以上続いて社会生活に著しい障害がないものが軽躁病エピソードで、躁病エピソードがあれば双極I型、軽躁とうつを繰り返せば双極II型だ。
医学生医学生
治療は気分安定薬のリチウムですか。
ドクタードクター
炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンといった気分安定薬や非定型抗精神病薬を用いる。リチウムは有効血中濃度と中毒域が近いから、血中濃度のモニタリングが欠かせない。それから臨床で大事なのは、うつ状態で受診した人に過去の躁や軽躁のエピソードがなかったかを必ず確認することだ。本人は「調子がよかった時期」としか思っていないことも多いからね。

まとめ

双極性障害の躁状態では、気分の高揚や易怒性とともに精神活動が亢進し、考えが次々に湧いて話題が移る観念奔逸や、しゃべらずにいられない談話心迫(多弁)がみられます。これに対し、思考制止や微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)はうつ状態の症状で、観念奔逸⇔思考制止、誇大妄想⇔微小妄想と対で整理すると覚えやすくなります。妄想気分は妄想知覚・妄想着想と並ぶ一次妄想で、統合失調症の初期に特徴的な症状であり、気分障害の症状ではありません。また、観念奔逸はつながりを追える点で、統合失調症の連合弛緩と区別されます。症状用語を「どの疾患の、どの方向の変化か」で整理しておくことは、精神科の面接で病態を正しく見立てる基礎になります。

解答・解説

正解はa, cです

テーマ

双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態を繰り返す気分障害である。本問は、精神症状を表す用語を、躁状態・うつ状態・統合失調症のどれに特徴的かで整理できているかを問う。

考え方

躁状態では、気分が高揚し(または怒りっぽくなり)、思考・会話・行動のすべてが速く、多くなる。精神活動が「亢進」する方向の症状を選べばよい。思考の面では考えが次々に湧いて次々と移っていき(観念奔逸)、会話の面では話さずにいられない(談話心迫)。 これに対してうつ状態では精神活動が「低下」する。思考の流れが遅くなり(思考制止)、自分を小さく価値のないものとみる妄想(微小妄想)が出る。 妄想気分は、統合失調症の初期によくみられる一次妄想の一型であり、気分障害の典型的な症状ではない。 躁とうつで対になる症状として整理しておくと覚えやすい(観念奔逸⇔思考制止、誇大妄想⇔微小妄想)。

選択肢考察

  1. ○a.  観念奔逸

    観念奔逸は、考え(観念)が次から次へと湧き出し、話題が連想に沿って脇道へそれていく思考の流れの障害である。言葉の響きや目に入ったものに引きずられて話が飛ぶが、一つ一つのつながりは追うことができる。この点で、つながり自体が失われる統合失調症の連合弛緩(滅裂思考)とは区別される。思考の速さと量が増す躁状態の代表的な症状である。

  2. ×b.  思考制止

    思考制止(思考抑制)は、考えがなかなか進まず、頭が働かないと感じる状態である。応答に時間がかかり、口数が減り、判断や決断もできにくくなる。精神活動が低下するうつ状態の代表的な症状であり、躁状態でみられる観念奔逸とは対になる。

  3. ○c.  談話心迫

    談話心迫は、話したいという衝動を抑えられず、相手が口をはさむ隙もないほど早口で一方的にしゃべり続ける状態である(多弁)。DSM-5の躁病エピソードの診断基準にも「普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感」として含まれている。観念奔逸と合わさって、話題が次々に移る多弁となることが多い。躁状態に特徴的な症状である。

  4. ×d.  微小妄想

    微小妄想は、自分を実際よりも劣った、取るに足らない存在と確信する妄想の総称である。罪業妄想(自分は取り返しのつかない罪を犯した)、貧困妄想(財産を失い破産する)、心気妄想(重い病気にかかっている、治らない)の三つが代表で、うつ病の三大妄想と呼ばれる。うつ状態でみられる。躁状態ではこれと反対に、自分の能力や地位を過大に評価する誇大妄想がみられる。

  5. ×e.  妄想気分

    妄想気分は、周囲の世界がなんとなく不気味に変わってしまった、何か大変なことが起こりそうだと感じるが、まだ具体的な妄想内容にはなっていない段階の体験である。了解できる心理的な由来をもたない一次妄想(真性妄想)の一型で、妄想知覚・妄想着想とともに分類される。統合失調症の発病初期にみられる代表的な症状であり、躁状態に特徴的な症状ではない。

躁状態とうつ状態の症状の対比

・気分:躁=爽快・高揚、易怒的/うつ=抑うつ気分、興味・喜びの喪失 ・思考の流れ:躁=観念奔逸/うつ=思考制止 ・思考の内容:躁=誇大妄想/うつ=微小妄想(罪業・貧困・心気) ・会話:躁=多弁、談話心迫/うつ=寡言、小声 ・行動:躁=行為心迫(次々と行動を起こす)、浪費、性的逸脱、易刺激性/うつ=精神運動制止、昏迷 ・睡眠:躁=睡眠欲求の減少(短時間睡眠でも疲れを感じない)/うつ=不眠(早朝覚醒が多い)、ときに過眠 ・注意:躁=注意散漫(転導性の亢進)

DSM-5の躁病エピソード

気分の高揚または易怒性と、活動・エネルギーの亢進が、ほぼ毎日・1日の大半で少なくとも1週間続く(入院が必要なら期間を問わない)。加えて、自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向性の活動の増加または精神運動焦燥、困った結果につながる活動への熱中のうち3つ以上(易怒性のみなら4つ以上)がある。軽躁病エピソードは4日以上続き、社会的・職業的な機能の著しい障害を伴わないものをいう。躁病エピソードがあれば双極Ⅰ型、軽躁病エピソードと抑うつエピソードがあれば双極Ⅱ型である。

一次妄想(統合失調症に特徴的)

・妄想気分:周囲が不気味に変わったという漠然とした感覚。 ・妄想知覚:実際の知覚に、了解できない特別な意味を確信的に付け加える(例:犬が吠えたのは自分が狙われている合図だ)。Schneiderの一級症状に含まれる。 ・妄想着想:何の前ぶれもなく、突然ある考えが確信として浮かぶ。

躁状態の治療

気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)や非定型抗精神病薬を用いる。リチウムは有効血中濃度と中毒域が近いため、血中濃度のモニタリングが必要である。

POINT

・躁状態の思考・会話の症状:観念奔逸、談話心迫(多弁)、誇大妄想、注意散漫、行為心迫。 ・うつ状態:思考制止、微小妄想(罪業・貧困・心気の三大妄想)。 ・妄想気分・妄想知覚・妄想着想は一次妄想で、統合失調症に特徴的。 ・観念奔逸(つながりは追える)と連合弛緩(つながりが失われる)を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。