IgGはどこに沈着する?―蛍光抗体直接法で読み解く自己免疫性水疱症
第110回医師国家試験 I問題 第36問
国試問題にチャレンジ
病変部皮膚の表皮基底膜部にIgGが沈着する疾患はどれか。2つ選べ。
- a.天疱瘡
- b.疱疹状皮膚炎
- c.水疱性類天疱瘡
- d.Hailey-Hailey病
- e.後天性表皮水疱症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
自己免疫性水疱症は、自己抗体の標的分子の局在によって沈着部位が決まります。天疱瘡はデスモグレインを標的とし表皮細胞間にIgGが沈着する一方、水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)と後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)は表皮基底膜部にIgGが線状に沈着し、両者はsalt-split skin法で表皮側か真皮側かにより鑑別できます。疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部へのIgAの顆粒状沈着、線状IgA水疱性皮膚症は基底膜部へのIgA線状沈着が特徴で、Hailey-Hailey病は遺伝性のため直接法は陰性です。「部位」「免疫グロブリンのクラス」「沈着パターン」の3点で整理すると、水疱症の鑑別を体系的に理解できます。
解答・解説
正解はc, eです
本問は、水疱症の診断に用いる蛍光抗体直接法(DIF:患者の病変部〜病変周囲の皮膚を採取し、組織に結合している免疫グロブリンや補体を蛍光標識抗体で可視化する検査)で、どのような沈着パターンを示すかを問う問題である。 自己免疫性水疱症は、自己抗体が標的とする分子の局在によって大きく二群に分けられる。 ・表皮内水疱症(天疱瘡群):表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成蛋白(デスモグレイン)が標的。IgGは表皮細胞間に網目状(細胞間)に沈着する。 ・表皮下水疱症(類天疱瘡群など):表皮と真皮をつなぐ基底膜部の構成蛋白(ⅩⅦ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲン、ラミニン332など)が標的。IgGは表皮基底膜部に線状に沈着する。 さらに、自己抗体のクラスがIgAである疾患(疱疹状皮膚炎、線状IgA水疱性皮膚症など)や、そもそも自己免疫機序ではない遺伝性疾患(Hailey-Hailey病、先天性表皮水疱症など)を区別できれば、正解は「基底膜部の構造蛋白に対するIgG自己抗体」をもつ疾患、すなわち水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症の2つに絞られる。
選択肢考察
- ×a. 天疱瘡
天疱瘡は、デスモソームの接着分子であるデスモグレイン3(尋常性天疱瘡、主に粘膜優位型)やデスモグレイン1(落葉状天疱瘡、および尋常性天疱瘡の粘膜皮膚型ではDsg3とともに)に対するIgG自己抗体により、表皮細胞同士の接着が失われて(棘融解)表皮内水疱を生じる疾患である。蛍光抗体直接法ではIgG(しばしばC3も)が表皮細胞間に網目状に沈着し、基底膜部への線状沈着ではない。したがって誤りである。
- ×b. 疱疹状皮膚炎
疱疹状皮膚炎(Duhring病)は、グルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連する表皮下水疱症で、肘・膝・臀部などに強い瘙痒を伴う小水疱が環状・集簇性に出現する。蛍光抗体直接法では、IgGではなくIgAが真皮乳頭部に顆粒状に沈着するのが特徴である。標的抗原は表皮型トランスグルタミナーゼ(トランスグルタミナーゼ3)とされる。沈着する免疫グロブリンのクラスも部位も設問の条件と異なるため誤りである。
- ○c. 水疱性類天疱瘡
水疱性類天疱瘡は、ヘミデスモソームを構成するBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)および BP230 に対するIgG自己抗体によって生じる表皮下水疱症で、高齢者に好発する最も頻度の高い自己免疫性水疱症である。蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。基底膜部へのIgG沈着という設問の条件に合致するので正しい。なお近年は糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬との関連も注目されている。
- ×d. Hailey-Hailey病
Hailey-Hailey病(家族性良性慢性天疱瘡)は、Golgi装置のCa2+ポンプ(SPCA1)をコードするATP2C1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。腋窩・鼠径部・頸部など間擦部にびらん・水疱を繰り返し、病理では基底層直上から表皮全層にかけて広範な棘融解(崩れたレンガ塀様と表現される)がみられる。自己免疫疾患ではないため、蛍光抗体直接法は陰性であり、IgGの沈着は認めない。したがって誤りである。
- ○e. 後天性表皮水疱症
後天性表皮水疱症は、基底膜の直下で表皮と真皮をつなぎ留める係留線維(anchoring fibril)の主成分であるⅦ型コラーゲンに対するIgG自己抗体によって生じる表皮下水疱症である。蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGが線状に沈着するので正しい。外力を受けやすい部位に水疱や瘢痕・稗粒腫を残す点で先天性の栄養障害型表皮水疱症に類似する。水疱性類天疱瘡との鑑別には、1M食塩水で皮膚を表皮と真皮に人工的に剝離させる食塩水剝離皮膚(salt-split skin)法が有用で、類天疱瘡では抗体が表皮側(天井側)に、後天性表皮水疱症では真皮側(床側)に結合する。
蛍光抗体直接法・間接法
直接法は患者の皮膚組織に結合した免疫グロブリン・補体を検出する方法、間接法は患者血清中の自己抗体を正常ヒト皮膚などの基質と反応させて検出する方法である。現在は血清中の抗デスモグレイン抗体や抗BP180抗体をELISA法・CLEIA法で定量することも診断と病勢評価に広く用いられる。
主な水疱症と蛍光抗体直接法の所見
・尋常性天疱瘡/落葉状天疱瘡:表皮細胞間にIgG(C3)。標的はデスモグレイン3/1。表皮内水疱、Nikolsky現象陽性。 ・水疱性類天疱瘡:表皮基底膜部に線状のIgG・C3。標的はBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)・BP230。緊満性水疱、高齢者。 ・粘膜類天疱瘡:基底膜部にIgG(IgA)・C3。標的はBP180、ラミニン332など。眼・口腔粘膜の瘢痕。 ・後天性表皮水疱症:表皮基底膜部に線状のIgG。標的はⅦ型コラーゲン。salt-split skinで真皮側に結合。 ・線状IgA水疱性皮膚症:表皮基底膜部に線状のIgA。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭部に顆粒状のIgA。グルテン過敏性腸症と関連(日本では腸症の合併は少ない)。 ・Hailey-Hailey病、先天性表皮水疱症:遺伝性で自己抗体なし、直接法陰性。
基底膜部の構造(表皮側から)
基底細胞のヘミデスモソーム(BP230、BP180)→透明帯(ラミニン332など)→基底板→係留線維(Ⅶ型コラーゲン)→真皮。標的分子の位置によって、salt-split skinでの抗体結合側が異なる。
POINT
・表皮細胞間にIgG沈着=天疱瘡(抗デスモグレイン抗体) ・表皮基底膜部に線状IgG沈着=水疱性類天疱瘡(ⅩⅦ型コラーゲン/BP180)、後天性表皮水疱症(Ⅶ型コラーゲン) ・salt-split skin:類天疱瘡は表皮側、後天性表皮水疱症は真皮側 ・IgA沈着=疱疹状皮膚炎(真皮乳頭に顆粒状)、線状IgA水疱性皮膚症(基底膜部に線状) ・Hailey-Hailey病はATP2C1変異の遺伝性疾患で、蛍光抗体直接法は陰性
