StudyMed医師国家試験

IgGはどこに沈着する?―蛍光抗体直接法で読み解く自己免疫性水疱症

第110回医師国家試験 I問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第36問

病変部皮膚の表皮基底膜部にIgGが沈着する疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.天疱瘡
  2. b.疱疹状皮膚炎
  3. c.水疱性類天疱瘡
  4. d.Hailey-Hailey病
  5. e.後天性表皮水疱症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、水疱症を「自己抗体がどこに、どのクラスで沈着するか」で整理する問題だ。注目点は2つ。沈着部位が表皮細胞間か基底膜部か、そして沈着するのがIgGかIgAか。この2軸で選択肢を仕分けていこう。
医学生医学生
水疱症というと、とりあえず天疱瘡と類天疱瘡の2つが頭に浮かびます。
ドクタードクター
それが出発点として正解だよ。まず検査の確認から。病変部やその周囲の皮膚を生検して、組織に結合している免疫グロブリンや補体を蛍光標識抗体で光らせるのが蛍光抗体直接法だ。自己抗体が狙う分子の場所が、そのまま光る場所になる。
医学生医学生
基礎の免疫学で習った直接法・間接法の違いですね。間接法は患者血清を正常皮膚に反応させるほうでした。
ドクタードクター
その通り。では天疱瘡から。標的は何だったかな。
医学生医学生
デスモグレインです。表皮細胞同士をつなぐデスモソームの蛋白なので……IgGは基底膜じゃなくて細胞間に沈着するはずです。
ドクタードクター
正解。天疱瘡では表皮細胞間に網目状にIgGが沈着し、棘融解によって表皮内水疱ができる。だから今回の条件には当てはまらない。一方、水疱性類天疱瘡はどうだろう。
医学生医学生
高齢者に多くて、緊満性の水疱ができる病気ですよね。標的はBP180とBP230だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。BP180はXVII型コラーゲンとも呼ばれ、BP230とともに基底細胞を基底膜につなぎとめるヘミデスモソームの構成分子だ。だから表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着し、表皮下水疱になる。これは正解の1つだ。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、DPP-4阻害薬を飲んでいる糖尿病の患者さんに類天疱瘡が出たケースを見ました。
ドクタードクター
良い経験だね。DPP-4阻害薬関連の類天疱瘡は近年注目されているから、薬剤歴の確認は大切だ。では、もう1つの正解を探そう。後天性表皮水疱症はどうかな。
医学生医学生
名前に「表皮水疱症」とあるので、遺伝性で自己抗体はないのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。先天性の表皮水疱症は遺伝子変異による病気で自己抗体はない。でも「後天性」は自己免疫疾患で、基底膜のさらに下で表皮と真皮をつなぐ係留線維の主成分、VII型コラーゲンに対するIgG自己抗体が原因なんだ。だから基底膜部に線状のIgG沈着がみられ、これも正解になる。
医学生医学生
類天疱瘡と同じ線状沈着だと、どうやって区別するんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。1M食塩水で皮膚を処理して透明帯で人工的に裂くsalt-split skin法を使う。類天疱瘡の抗原は裂け目より上にあるから抗体は表皮側、つまり天井側に結合する。後天性表皮水疱症のVII型コラーゲンは下にあるので真皮側、床側に結合するんだ。
医学生医学生
標的分子の位置関係がそのまま検査結果に出るんですね。では疱疹状皮膚炎は表皮下水疱だから、これも基底膜部でしょうか。
ドクタードクター
惜しい。疱疹状皮膚炎は表皮下水疱症だけど、沈着するのはIgGではなくIgAで、しかも真皮乳頭部に顆粒状に沈着する。グルテン過敏性腸症と関連し、肘や膝に強いかゆみを伴う小水疱が集まるのが特徴だ。ちなみに基底膜部にIgAが線状に沈着するなら線状IgA水疱性皮膚症になる。
医学生医学生
クラスと形まで見ないといけないんですね。最後のHailey-Hailey病は、病理実習で崩れたレンガ塀みたいな棘融解の写真を見ました。天疱瘡の仲間ですか。
ドクタードクター
見た目は似ているけれど、Hailey-Hailey病はATP2C1遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の疾患で、自己免疫ではない。だから蛍光抗体直接法は陰性だ。腋窩や鼠径部などの間擦部にびらんを繰り返すのが特徴だよ。
医学生医学生
まとめると、基底膜部に線状IgGが沈着するのは水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症の2つ、ということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、今は血清の抗デスモグレイン抗体や抗BP180抗体をELISAやCLEIAで測定して、診断と病勢評価に使うことも多い。ただ、確定診断には生検と蛍光抗体直接法が基本だ。水疱を見たら、表皮内か表皮下か、沈着はIgGかIgAか、遺伝性ではないかを順に考える習慣をつけておこう。

まとめ

自己免疫性水疱症は、自己抗体の標的分子の局在によって沈着部位が決まります。天疱瘡はデスモグレインを標的とし表皮細胞間にIgGが沈着する一方、水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)と後天性表皮水疱症(VII型コラーゲン)は表皮基底膜部にIgGが線状に沈着し、両者はsalt-split skin法で表皮側か真皮側かにより鑑別できます。疱疹状皮膚炎は真皮乳頭部へのIgAの顆粒状沈着、線状IgA水疱性皮膚症は基底膜部へのIgA線状沈着が特徴で、Hailey-Hailey病は遺伝性のため直接法は陰性です。「部位」「免疫グロブリンのクラス」「沈着パターン」の3点で整理すると、水疱症の鑑別を体系的に理解できます。

解答・解説

正解はc, eです

本問は、水疱症の診断に用いる蛍光抗体直接法(DIF:患者の病変部〜病変周囲の皮膚を採取し、組織に結合している免疫グロブリンや補体を蛍光標識抗体で可視化する検査)で、どのような沈着パターンを示すかを問う問題である。 自己免疫性水疱症は、自己抗体が標的とする分子の局在によって大きく二群に分けられる。 ・表皮内水疱症(天疱瘡群):表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成蛋白(デスモグレイン)が標的。IgGは表皮細胞間に網目状(細胞間)に沈着する。 ・表皮下水疱症(類天疱瘡群など):表皮と真皮をつなぐ基底膜部の構成蛋白(ⅩⅦ型コラーゲン、Ⅶ型コラーゲン、ラミニン332など)が標的。IgGは表皮基底膜部に線状に沈着する。 さらに、自己抗体のクラスがIgAである疾患(疱疹状皮膚炎、線状IgA水疱性皮膚症など)や、そもそも自己免疫機序ではない遺伝性疾患(Hailey-Hailey病、先天性表皮水疱症など)を区別できれば、正解は「基底膜部の構造蛋白に対するIgG自己抗体」をもつ疾患、すなわち水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症の2つに絞られる。

選択肢考察

  1. ×a.  天疱瘡

    天疱瘡は、デスモソームの接着分子であるデスモグレイン3(尋常性天疱瘡、主に粘膜優位型)やデスモグレイン1(落葉状天疱瘡、および尋常性天疱瘡の粘膜皮膚型ではDsg3とともに)に対するIgG自己抗体により、表皮細胞同士の接着が失われて(棘融解)表皮内水疱を生じる疾患である。蛍光抗体直接法ではIgG(しばしばC3も)が表皮細胞間に網目状に沈着し、基底膜部への線状沈着ではない。したがって誤りである。

  2. ×b.  疱疹状皮膚炎

    疱疹状皮膚炎(Duhring病)は、グルテン過敏性腸症(セリアック病)と関連する表皮下水疱症で、肘・膝・臀部などに強い瘙痒を伴う小水疱が環状・集簇性に出現する。蛍光抗体直接法では、IgGではなくIgAが真皮乳頭部に顆粒状に沈着するのが特徴である。標的抗原は表皮型トランスグルタミナーゼ(トランスグルタミナーゼ3)とされる。沈着する免疫グロブリンのクラスも部位も設問の条件と異なるため誤りである。

  3. ○c.  水疱性類天疱瘡

    水疱性類天疱瘡は、ヘミデスモソームを構成するBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)および BP230 に対するIgG自己抗体によって生じる表皮下水疱症で、高齢者に好発する最も頻度の高い自己免疫性水疱症である。蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着する。基底膜部へのIgG沈着という設問の条件に合致するので正しい。なお近年は糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬との関連も注目されている。

  4. ×d.  Hailey-Hailey病

    Hailey-Hailey病(家族性良性慢性天疱瘡)は、Golgi装置のCa2+ポンプ(SPCA1)をコードするATP2C1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。腋窩・鼠径部・頸部など間擦部にびらん・水疱を繰り返し、病理では基底層直上から表皮全層にかけて広範な棘融解(崩れたレンガ塀様と表現される)がみられる。自己免疫疾患ではないため、蛍光抗体直接法は陰性であり、IgGの沈着は認めない。したがって誤りである。

  5. ○e.  後天性表皮水疱症

    後天性表皮水疱症は、基底膜の直下で表皮と真皮をつなぎ留める係留線維(anchoring fibril)の主成分であるⅦ型コラーゲンに対するIgG自己抗体によって生じる表皮下水疱症である。蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGが線状に沈着するので正しい。外力を受けやすい部位に水疱や瘢痕・稗粒腫を残す点で先天性の栄養障害型表皮水疱症に類似する。水疱性類天疱瘡との鑑別には、1M食塩水で皮膚を表皮と真皮に人工的に剝離させる食塩水剝離皮膚(salt-split skin)法が有用で、類天疱瘡では抗体が表皮側(天井側)に、後天性表皮水疱症では真皮側(床側)に結合する。

蛍光抗体直接法・間接法

直接法は患者の皮膚組織に結合した免疫グロブリン・補体を検出する方法、間接法は患者血清中の自己抗体を正常ヒト皮膚などの基質と反応させて検出する方法である。現在は血清中の抗デスモグレイン抗体や抗BP180抗体をELISA法・CLEIA法で定量することも診断と病勢評価に広く用いられる。

主な水疱症と蛍光抗体直接法の所見

・尋常性天疱瘡/落葉状天疱瘡:表皮細胞間にIgG(C3)。標的はデスモグレイン3/1。表皮内水疱、Nikolsky現象陽性。 ・水疱性類天疱瘡:表皮基底膜部に線状のIgG・C3。標的はBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)・BP230。緊満性水疱、高齢者。 ・粘膜類天疱瘡:基底膜部にIgG(IgA)・C3。標的はBP180、ラミニン332など。眼・口腔粘膜の瘢痕。 ・後天性表皮水疱症:表皮基底膜部に線状のIgG。標的はⅦ型コラーゲン。salt-split skinで真皮側に結合。 ・線状IgA水疱性皮膚症:表皮基底膜部に線状のIgA。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭部に顆粒状のIgA。グルテン過敏性腸症と関連(日本では腸症の合併は少ない)。 ・Hailey-Hailey病、先天性表皮水疱症:遺伝性で自己抗体なし、直接法陰性。

基底膜部の構造(表皮側から)

基底細胞のヘミデスモソーム(BP230、BP180)→透明帯(ラミニン332など)→基底板→係留線維(Ⅶ型コラーゲン)→真皮。標的分子の位置によって、salt-split skinでの抗体結合側が異なる。

POINT

・表皮細胞間にIgG沈着=天疱瘡(抗デスモグレイン抗体) ・表皮基底膜部に線状IgG沈着=水疱性類天疱瘡(ⅩⅦ型コラーゲン/BP180)、後天性表皮水疱症(Ⅶ型コラーゲン) ・salt-split skin:類天疱瘡は表皮側、後天性表皮水疱症は真皮側 ・IgA沈着=疱疹状皮膚炎(真皮乳頭に顆粒状)、線状IgA水疱性皮膚症(基底膜部に線状) ・Hailey-Hailey病はATP2C1変異の遺伝性疾患で、蛍光抗体直接法は陰性

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。