「いぼ」をつくるウイルスはどれ?―病変の形から病原体を見抜くSTIの整理術
第110回医師国家試験 I問題 第28問
国試問題にチャレンジ
ヒトパピローマウイルスが原因となるのはどれか。
- a.軟性下疳
- b.精巣上体炎
- c.亀頭包皮炎
- d.非淋菌性尿道炎
- e.尖圭コンジローマ
対話形式の解説
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医学生まとめ
ヒトパピローマウイルス(HPV)は皮膚・粘膜の上皮に感染して細胞を増殖させ、乳頭状の病変をつくるDNAウイルスで、低リスク型(主に6型・11型)が尖圭コンジローマを、高リスク型(主に16型・18型)が子宮頸癌などの悪性腫瘍を引き起こします。軟性下疳はHaemophilus ducreyiによる有痛性潰瘍、精巣上体炎は若年者ではクラミジア・淋菌、中高年では大腸菌など、亀頭包皮炎はカンジダや細菌、非淋菌性尿道炎は主にクラミジアが原因で、いずれもHPVとは関係しません。高リスク型ではE6がp53を、E7がRbを阻害して発癌に至り、4価・9価ワクチンは尖圭コンジローマの予防にも有効です。「潰瘍か、炎症か、増殖か」という病変の性状と病原体の性質を結びつけて整理することが、性感染症の診断と重複感染への対応の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
性感染症(sexually transmitted infection:STI)や泌尿生殖器の炎症性疾患について、それぞれの原因となる病原体を対応づけて覚えているかを問う問題である。 ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)は二本鎖DNAウイルスで、皮膚や粘膜の上皮細胞(特に基底細胞)に感染し、細胞を増殖させて乳頭状の病変(いぼ)を作るのが特徴である。HPVには200種類を超える遺伝子型があり、大きく「低リスク型」と「高リスク型」に分けられる。低リスク型(主に6型・11型)は良性のいぼである尖圭コンジローマの原因となり、高リスク型(主に16型・18型など)は子宮頸癌をはじめとする癌の原因となる。 選択肢を眺めると、細菌(軟性下疳菌、淋菌、大腸菌など)やクラミジア、真菌(カンジダ)が主な原因となる疾患が並ぶ中で、ウイルスによって「いぼ状の増殖性病変」を生じるのは尖圭コンジローマだけである。病変の性状(潰瘍か、炎症か、増殖か)と病原体の性質を結びつけて考えると選びやすい。
選択肢考察
- ×a. 軟性下疳
軟性下疳はグラム陰性桿菌である軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)による性感染症である。感染後数日で外陰部に有痛性で辺縁が不整な軟らかい潰瘍を生じ、有痛性の鼠径リンパ節腫脹(化膿して自潰することがある)を伴う。無痛性の硬い潰瘍を作る梅毒の硬性下疳との対比が重要である。国内ではまれである。HPVとは関係しない。
- ×b. 精巣上体炎
精巣上体炎は尿道から逆行性に病原体が精巣上体へ波及して起こる。比較的若い性的活動期の男性ではクラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌など性感染症の病原体が主体であり、中高年や尿路に基礎疾患のある男性では大腸菌などの一般細菌が多い。陰嚢の有痛性腫脹と発熱を呈する。HPVは原因とならない。
- ×c. 亀頭包皮炎
亀頭包皮炎は亀頭と包皮の炎症の総称である。包茎や不十分な衛生、糖尿病などを背景に、カンジダなどの真菌、ブドウ球菌・レンサ球菌などの細菌による感染で生じることが多い。そのほか接触皮膚炎や固定薬疹など非感染性の原因によるものもある。HPVが原因となる疾患ではない。
- ×d. 非淋菌性尿道炎
非淋菌性尿道炎は淋菌以外の病原体による尿道炎の総称である。最も多い原因はクラミジアで、ほかにMycoplasma genitalium、Ureaplasma urealyticum、腟トリコモナス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスなどが挙げられる。淋菌性尿道炎に比べ潜伏期が長く、分泌物は漿液性で症状も軽い傾向がある。HPVは原因とならない。
- ○e. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは低リスク型HPV、主に6型と11型の感染によって外陰部・肛門周囲・腟・子宮頸部などに生じる良性の乳頭状腫瘤である。先端がとがった乳頭状あるいは鶏冠(とさか)状・カリフラワー状の淡紅色〜褐色の小腫瘤が多発するのが典型像で、性行為によって感染する。HPVが原因となる疾患として本選択肢が該当する。治療にはイミキモドクリームの外用、凍結療法、電気焼灼、レーザー蒸散、外科的切除などが用いられ、再発しやすい。
HPVの遺伝子型と主な疾患
・低リスク型(6型、11型など):尖圭コンジローマ。母子感染により乳幼児に再発性呼吸器乳頭腫症(喉頭乳頭腫)を起こすことがある。 ・高リスク型(16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型など):子宮頸癌およびその前癌病変(子宮頸部上皮内腫瘍、CIN)、腟癌、外陰癌、陰茎癌、肛門癌、中咽頭癌の一部。16型・18型が子宮頸癌の原因として特に多い。 ・皮膚型:尋常性疣贅(主に2型・27型・57型など)、扁平疣贅(3型・10型など)、ミルメシア(1型)、疣贅状表皮発育異常症(5型・8型など。皮膚癌の発生母地となる)。
高リスク型HPVによる発癌の機序
ウイルスのE6蛋白はがん抑制遺伝子産物p53の分解を促し、E7蛋白はRb蛋白に結合してその機能を阻害する。これにより細胞周期の制御が失われ、発癌につながる。
HPVワクチン
2価(16・18型)、4価(6・11・16・18型)、9価(4価に31・33・45・52・58型を追加)がある。4価・9価は6型・11型を含むため、子宮頸癌に加えて尖圭コンジローマの予防効果も期待できる。日本では女子の定期接種に用いられている。
主な性感染症と病原体の整理
・梅毒:Treponema pallidum(スピロヘータ)。初期に無痛性の硬性下疳。 ・軟性下疳:Haemophilus ducreyi。有痛性潰瘍。 ・性器ヘルペス:単純ヘルペスウイルス(主に2型、1型も増加)。有痛性の小水疱・びらん。 ・淋菌感染症:Neisseria gonorrhoeae。 ・性器クラミジア感染症:Chlamydia trachomatis。 ・尖圭コンジローマ:HPV 6型・11型。 ・腟トリコモナス症:Trichomonas vaginalis(原虫)。
POINT
・尖圭コンジローマの原因は低リスク型HPV(主に6型・11型)である。 ・子宮頸癌など悪性腫瘍に関わるのは高リスク型HPV(主に16型・18型)である。 ・軟性下疳はHaemophilus ducreyi、非淋菌性尿道炎は主にクラミジア、精巣上体炎は若年者でクラミジア・淋菌、高齢者で大腸菌などの一般細菌が原因となる。 ・4価・9価HPVワクチンは尖圭コンジローマの予防にも有効である。
