StudyMed医師国家試験

「止める」薬が下痢を起こす?―薬理作用から読み解く副作用の組合せ

第110回医師国家試験 H問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第7問

薬物と副作用の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.ジギタリス ―― 悪心
  2. b.オピオイド ―― 下痢
  3. c.抗ヒスタミン薬 ―― 眠気
  4. d.副腎皮質ステロイド ―― 高血糖
  5. e.ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ―― ふらつき

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日常診療でよく使う薬とその代表的な副作用の組合せを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、丸暗記よりも「その薬が体のどこに何をするか」から副作用を導けるかがカギになる。多くの副作用は、主作用が目的外の臓器にも及んだ結果として説明できるんだ。
医学生医学生
薬理学の講義で「副作用は主作用の裏返し」と習いました。でも5つとも聞いたことのある組合せに見えて、ちょっと迷います。
ドクタードクター
じゃあ一つずつ機序から確認しよう。まずジギタリスと悪心。ジギタリスはNa+/K+-ATPaseを阻害する薬で、治療域が狭く中毒を起こしやすい。中毒の初期症状として最も多いのが何か覚えているかな。
医学生医学生
食欲不振や悪心・嘔吐でしたっけ。あと黄視症も特徴的だった気がします。
ドクタードクター
その通り。延髄の化学受容器引き金帯、いわゆるCTZが刺激されて消化器症状が出る。ほかに徐脈や房室ブロック、心室性期外収縮などの不整脈、黄視などの視覚異常もみられる。低カリウム血症や腎機能低下、高齢者では中毒になりやすいから、この組合せは正しい。
医学生医学生
循環器内科を回ったとき、高齢の患者さんの食欲低下でまずジゴキシンの血中濃度を測っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
臨床では大事な発想だね。次はオピオイドと下痢。オピオイドはμ受容体を刺激するけれど、腸管ではどんな作用になるだろう。
医学生医学生
腸管神経叢のμ受容体を刺激して蠕動を抑えるので……あ、起こるのは便秘ですね。下痢ではないです。
ドクタードクター
正解。オピオイドは消化管の蠕動運動や消化液の分泌を抑え、肛門括約筋の緊張も高めるので便秘を起こす。この止瀉作用を逆に利用したのが、下痢止めのロペラミドなんだ。だからこの組合せが誤りで、これが答えになる。
医学生医学生
でも、オピオイドで下痢になることもあると聞いた気がするんですが。
ドクタードクター
鋭いね。オピオイドを急に中止・減量したときの退薬症候として下痢が出ることはある。ただそれは投与による副作用ではなく、離脱による症状だ。区別して覚えておこう。続いて抗ヒスタミン薬と眠気はどうかな。
医学生医学生
花粉症の薬で眠くなるのは有名ですよね。脳のヒスタミンが覚醒に関わっているからでしょうか。
ドクタードクター
そう。脳内のヒスタミン神経系は覚醒を維持していて、血液脳関門を通過したH1受容体拮抗薬がそれを妨げると眠気や集中力の低下が起こる。ジフェンヒドラミンなどの第一世代で強く、抗コリン作用による口渇や尿閉も伴いやすい。第二世代は脳内移行が少ないので眠気が出にくいんだ。
医学生医学生
副腎皮質ステロイドの高血糖は、糖新生の促進ですよね。膠原病内科の実習で、朝にプレドニゾロンを飲んでいる人の血糖が夕方に高くなると教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。糖質コルチコイドは肝での糖新生を促し、末梢のインスリン抵抗性を高めて血糖を上げる。いわゆるステロイド糖尿病で、朝投与だと昼から夕方の食後高血糖が目立ちやすい。最後のベンゾジアゼピン系抗不安薬とふらつきはどう説明できる?
医学生医学生
GABA-A受容体の作用を強めるので、鎮静と筋弛緩でふらつくんだと思います。
ドクタードクター
完璧だ。過鎮静や運動失調、筋弛緩によるふらつきは、特に高齢者で転倒・骨折の原因になる。前向性健忘や依存、急な中止による離脱症状にも注意が必要で、拮抗薬はフルマゼニルだよ。
医学生医学生
オピオイドだけが機序と逆の副作用を組み合わせていた、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点をまとめよう。オピオイドの副作用は便秘、悪心・嘔吐、眠気、呼吸抑制が代表的だ。悪心や眠気には数日から1、2週間で耐性ができやすいけれど、便秘にはほとんど耐性が生じない。だから投与開始時から下剤を予防的に併用し、末梢性μ受容体拮抗薬のナルデメジンも使われる。呼吸抑制は過量時に問題となり、拮抗薬はナロキソンだ。
医学生医学生
緩和ケアの講義で「オピオイドを始めるなら下剤もセット」と言われたのは、耐性ができないからだったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。それから、ベンゾジアゼピン単独の呼吸抑制は比較的軽いけれど、オピオイドやアルコールと併用すると強まる。複数の中枢抑制薬が重なる場面では特に慎重にね。

まとめ

薬の副作用の多くは、主作用が目的外の臓器に及ぶことで説明できます。オピオイドは腸管のμ受容体を刺激して蠕動を抑えるため、起こるのは下痢ではなく便秘であり、この止瀉作用はロペラミドとして治療にも利用されます(下痢は急な中止時の退薬症候としてみられます)。ジギタリス中毒のCTZ刺激による悪心、H1受容体遮断による眠気、ステロイドの糖新生促進とインスリン抵抗性による高血糖、ベンゾジアゼピン系のGABA-A受容体増強によるふらつきは、いずれも典型的な組合せです。オピオイドの便秘には耐性ができにくいため、投与開始時から下剤を併用することが重要です。機序から副作用を導く考え方を身につけると、初めて見る薬でも副作用を予測し、安全な処方や患者指導に生かせます。

解答・解説

正解はbです

日常診療で頻用される薬物について、代表的な副作用を作用機序と結び付けて理解しているかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、副作用として典型的でない組合せを1つ選ぶ。 多くの副作用は、その薬の主作用(薬理作用)が目的外の臓器にも及ぶことで説明できる。 ・ジギタリス:Na+/K+-ATPase阻害。治療域が狭く、中毒では消化器症状・不整脈・視覚異常が出る。 ・オピオイド:μ(ミュー)オピオイド受容体刺激。鎮痛のほか、消化管運動抑制・延髄の呼吸中枢抑制・化学受容器引き金帯(CTZ)刺激を起こす。 ・抗ヒスタミン薬:H1受容体遮断。脳内のヒスタミン神経系は覚醒を維持しており、これが遮断されると眠くなる。 ・副腎皮質ステロイド(糖質コルチコイド):糖・蛋白・脂質代謝や免疫に広く作用し、血糖を上げる。 ・ベンゾジアゼピン系薬:GABA-A受容体の作用増強による中枢抑制・筋弛緩。 このように機序から考えると、オピオイドによって起こるのは消化管運動の抑制、すなわち便秘であり、下痢ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  ジギタリス ―― 悪心

    正しい組合せである。ジギタリス(ジゴキシンなど)は延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)を刺激し、食欲不振・悪心・嘔吐を起こす。これらはジギタリス中毒の初期症状として最も多く、他に徐脈や房室ブロック、心室性期外収縮などの不整脈、黄視症などの視覚異常がみられる。低カリウム血症、腎機能低下、高齢者では中毒を起こしやすい。

  2. ○b.  オピオイド ―― 下痢

    誤った組合せであり、これが正解である。オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)は腸管神経叢のμ受容体を刺激して消化管の蠕動運動や消化液分泌を抑え、肛門括約筋の緊張も高めるため、便秘を起こす。便秘には耐性がほとんど生じないため、投与中は下剤を継続して併用し、末梢性μ受容体拮抗薬(ナルデメジン)も用いられる。この止瀉作用を利用してロペラミドなどが下痢止めとして使われる。なお、オピオイドを急に中止したり減量したりすると、退薬症候として下痢が起こることはある。

  3. ×c.  抗ヒスタミン薬 ―― 眠気

    正しい組合せである。H1受容体拮抗薬は血液脳関門を通過すると、脳内のヒスタミン神経系による覚醒維持作用を妨げ、眠気や集中力・作業効率の低下を起こす。特にジフェンヒドラミンやクロルフェニラミンなどの第一世代で強く、抗コリン作用による口渇・尿閉・眼圧上昇も伴いやすい。第二世代は脳内移行が少なく眠気が出にくい。

  4. ×d.  副腎皮質ステロイド ―― 高血糖

    正しい組合せである。糖質コルチコイドは肝での糖新生を促進し、末梢組織でのインスリン抵抗性を高めて糖の取り込み・利用を抑えるため、血糖が上昇する(ステロイド糖尿病)。プレドニゾロンを朝に投与した場合、昼から夕方にかけての食後高血糖が目立ちやすい。

  5. ×e.  ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ―― ふらつき

    正しい組合せである。ベンゾジアゼピン系薬はGABA-A受容体に結合して抑制性神経伝達を増強し、抗不安・鎮静・催眠・抗けいれん・筋弛緩作用を示す。その結果、過鎮静による眠気、運動失調や筋弛緩によるふらつきが生じ、高齢者では転倒・骨折の原因となる。他に前向性健忘、依存形成、急な中止による離脱症状にも注意する。

オピオイドの主な副作用

・便秘:ほぼ必発で耐性ができにくい。投与開始時から下剤を予防的に併用する。 ・悪心・嘔吐:CTZ刺激による。投与初期に多く、数日〜1、2週間で耐性が生じやすい。制吐薬で対応する。 ・眠気:投与初期や増量時に多く、多くは数日で軽減する。 ・呼吸抑制:延髄呼吸中枢のCO2への反応性低下による。過量時に問題となり、拮抗薬としてナロキソンを用いる。 ・その他:縮瞳、尿閉、せん妄、掻痒感など。

ジギタリス中毒

・症状:消化器症状(食欲不振、悪心・嘔吐)、不整脈(徐脈、房室ブロック、心室性期外収縮、発作性心房頻拍など)、視覚異常(黄視、羞明)、精神症状。 ・誘因:低カリウム血症、低マグネシウム血症、高カルシウム血症、腎機能低下、高齢、相互作用(アミオダロン、ベラパミルなど)。 ・心電図:ST低下が盆状(盆状ST低下)になる所見はジギタリス効果としてみられる。

副腎皮質ステロイドの主な副作用

感染症(易感染性)、ステロイド糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍、高血圧、脂質異常症、満月様顔貌・中心性肥満、精神症状(不眠、多幸、抑うつ)、白内障・緑内障、無菌性骨壊死(大腿骨頭壊死)、筋力低下(ステロイドミオパチー)、副腎不全(急な中止時)など。

ベンゾジアゼピン系薬の注意点

過鎮静、ふらつき・転倒、前向性健忘、奇異反応、依存と離脱症状(不安、不眠、けいれん)。拮抗薬はフルマゼニルである。呼吸抑制は単独では比較的軽いが、アルコールやオピオイドとの併用で強まる。

POINT

・オピオイドの代表的副作用は便秘・悪心嘔吐・眠気・呼吸抑制。便秘には耐性ができにくい。 ・ジギタリス中毒:消化器症状(悪心)、不整脈、黄視。低カリウム血症で増悪。 ・第一世代抗ヒスタミン薬:眠気と抗コリン作用。 ・ステロイド:糖新生促進とインスリン抵抗性で高血糖。 ・ベンゾジアゼピン系:過鎮静・ふらつき(高齢者の転倒)・依存。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。