食べる前に「のどの準備運動」を―リハビリ職種の役割と障害別訓練の基本
第110回医師国家試験 G問題 第6問
国試問題にチャレンジ
リハビリテーションについて正しいのはどれか。
- a.嚥下訓練は食事の前に行うことを勧める。
- b.認知症患者では脳幹機能回復を目標とする。
- c.失語症訓練ではテレビの視聴が効果的である。
- d.作業療法は基本的動作能力の回復を目的とする。
- e.理学療法は社会的適応能力の獲得を目的とする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
リハビリテーションは多職種によるチーム医療で、理学療法は基本的動作能力(寝返り、起き上がり、歩行など)の回復、作業療法は応用的動作能力や社会的適応能力の回復を目的とすることが法律で定義されています。嚥下訓練では、口腔器官の運動やアイスマッサージなどの間接訓練を食事の前に行うと、嚥下の準備状態と覚醒が整い誤嚥予防につながります。認知症は主に大脳の障害であり、目標は脳幹機能の回復ではなく残存機能を生かしたADL・QOLの維持とBPSDの軽減です。失語症の訓練は言語聴覚士が患者の反応を引き出しながら能動的に行い、テレビ視聴のような受け身の刺激は効果に乏しいとされます。各職種の役割と障害別の訓練の考え方を理解しておくことは、病棟でリハビリスタッフと連携し、患者の生活を支えるうえで欠かせない知識です。
解答・解説
正解はaです
リハビリテーションは、医師、理学療法士(PT: physical therapist)、作業療法士(OT: occupational therapist)、言語聴覚士(ST: speech-language-hearing therapist)、看護師などが連携するチーム医療で行われる。本問では、各職種が何を目標に訓練するのかと、代表的な障害(嚥下障害、認知症、失語症)に対する訓練の基本的な考え方が問われている。 考え方の軸は次のとおりである。 ・理学療法と作業療法の目的は、理学療法士及び作業療法士法の定義どおりに区別して覚える。理学療法は「基本的動作能力」の回復、作業療法は「応用的動作能力」や「社会的適応能力」の回復を図るものである。d と e はこの組み合わせを入れ替えた選択肢である。 ・嚥下訓練は、食事の直前に行うと嚥下に使う筋群のウォーミングアップになり、誤嚥予防に役立つ。 ・認知症は主に大脳の障害であり、訓練の目標も脳幹ではない。 ・失語症の訓練は、ST が患者の反応を引き出しながら能動的に行うもので、受け身の刺激では効果が乏しい。
選択肢考察
- ○a. 嚥下訓練は食事の前に行うことを勧める。
正しい。嚥下訓練には、食物を使わない間接訓練(基礎訓練)と、実際に食物を使う直接訓練(摂食訓練)がある。間接訓練には、口唇・舌・頬の運動、頸部や肩のストレッチ、のどのアイスマッサージ(凍らせた綿棒で前口蓋弓などを刺激して嚥下反射を誘発する)、発声訓練などが含まれる。これらを食事の前に行うと、嚥下に関わる筋群や反射の準備状態が整い、覚醒も促されるので、続く食事をより安全に摂ることができ、誤嚥の予防につながる。
- ×b. 認知症患者では脳幹機能回復を目標とする。
誤り。記憶、見当識、判断、遂行機能といった認知機能は主に大脳皮質が担っており、認知症(Alzheimer型認知症、血管性認知症など)の病変の主座も大脳にある。脳幹は意識の維持、呼吸・循環の調節、脳神経の機能などを担う部位であり、認知症リハビリテーションの目標とは関係がない。また、多くの認知症は進行性であるため、障害された機能を回復させるというより、残っている能力を生かして日常生活動作(ADL: activities of daily living)や生活の質(QOL)を保ち、行動・心理症状(BPSD)を軽くすることが現実的な目標となる。
- ×c. 失語症訓練ではテレビの視聴が効果的である。
誤り。失語症の訓練は ST が中心となって行い、聴いて理解する、話す、読む、書くといった言語機能のそれぞれについて、患者の障害の程度に合わせた課題を用意する。患者にとって身近で関心の高い語を刺激として繰り返し提示し、患者から反応(発話や指さしなど)を引き出しながら進めることが基本である。テレビの視聴は一方的に流れる受け身の言語刺激であり、話す速さや内容も調整できないため、失語症の患者には理解が難しいことが多い。訓練としての効果は乏しい。
- ×d. 作業療法は基本的動作能力の回復を目的とする。
誤り。寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、歩行といった基本的動作能力の回復は、理学療法の目的である。作業療法は、理学療法士及び作業療法士法において「主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせること」と定義されている。食事・更衣・整容・家事などの応用的な動作や、復学・復職を含めた社会生活への適応を目指す。対象には身体障害者だけでなく精神障害者も含まれる。
- ×e. 理学療法は社会的適応能力の獲得を目的とする。
誤り。社会的適応能力の回復は作業療法の目的である。理学療法は、身体に障害のある者に対し、主として基本的動作能力の回復を図るため、治療体操などの運動療法と、電気刺激・マッサージ・温熱などの物理療法を行うものと法律で定義されている。関節可動域訓練、筋力増強訓練、起居動作訓練、歩行訓練、拘縮予防などがその中心である。
リハビリテーション関連職種と主な役割
・理学療法士(PT):基本的動作能力(寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行など)の回復を図る。手段は運動療法(関節可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練など)と物理療法(温熱、電気刺激、マッサージなど)。 ・作業療法士(OT):応用的動作能力(食事、更衣、整容、トイレ動作、家事など)や社会的適応能力の回復を図る。手芸、工作、園芸などの作業や ADL 訓練を用いる。身体障害者と精神障害者の両方が対象。 ・言語聴覚士(ST):失語症、構音障害、音声障害、聴覚障害、高次脳機能障害(言語面)、摂食嚥下障害の評価と訓練を行う。 ・義肢装具士:義肢・装具の採型、製作、適合を行う。
摂食嚥下訓練
・間接訓練(食物を用いない):口腔器官の運動、頸部可動域訓練、アイスマッサージ、頭部挙上訓練(Shaker 法)、息こらえ嚥下、発声訓練など。 ・直接訓練(食物を用いる):体位の調整(リクライニング位、頸部前屈など)、食形態の調整(とろみ付け、ゼリーなど)、一口量の調整、交互嚥下など。 ・食前に間接訓練を行い、準備を整えてから直接訓練や食事に進むと安全性が高まる。
失語症の訓練
・刺激法(Schuell の刺激法)が基本で、適切な強さの聴覚刺激を繰り返し与え、患者の反応を引き出す。 ・家族には、短い文で、ゆっくり、はっきり話しかけ、「はい/いいえ」で答えられる質問を用いるなど、コミュニケーションの取り方を指導する。
POINT
・理学療法は基本的動作能力の回復、作業療法は応用的動作能力と社会的適応能力の回復を目的とする(理学療法士及び作業療法士法の定義)。 ・嚥下訓練(間接訓練)を食前に行うと、嚥下の準備状態が整い誤嚥予防になる。 ・認知症は大脳の障害であり、リハビリテーションの目標は残存機能の維持と ADL・QOL の保持である。 ・失語症の訓練は ST が患者の反応を引き出しながら能動的に行う。テレビ視聴のような受け身の刺激は効果に乏しい。
