StudyMed医師国家試験

処方するのは誰、選ぶのは誰?―お薬手帳から読み解く「薬事」の基本ルール

第110回医師国家試験 G問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第29問

薬事について正しいのはどれか。

  1. a.薬剤師も処方箋を交付できる。
  2. b.薬価は医療機関により異なる。
  3. c.医師は患者に特定の薬局を指定できる。
  4. d.お薬手帳により投薬の状況が把握できる。
  5. e.医薬分業は患者の不必要な受診を抑えることを目的とする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は薬事、つまり処方から調剤、薬の情報管理までを支える制度の問題だ。着眼点は「誰が何をする権限を持っているか」と「その制度が何のためにあるか」の2つ。選択肢を一つずつ、医師・薬剤師・国・患者のどの立場の話かに分けて考えていこう。
医学生医学生
処方箋は医師が出すもの、というイメージですが、薬剤師が出せる場面もあるんでしょうか。
ドクタードクター
そこは明確で、処方箋を交付できるのは診察した医師と歯科医師、それに動物の診療なら獣医師だけなんだ。医師法と歯科医師法にその根拠がある。薬剤師の役割は、処方箋に基づいて調剤することだよ。
医学生医学生
でも薬局実習の見学で、薬剤師さんが処方医に電話して薬を変えてもらっていました。あれは処方しているわけではないんですね。
ドクタードクター
いいところを見ているね。それは疑義照会といって、処方箋に疑わしい点があれば処方医に確認してからでないと調剤してはならない、という薬剤師法上の義務なんだ。最終的に処方内容を決めるのは医師で、薬剤師はそれを専門的に点検する立場。処方する権限と、処方をチェックする役割を区別して覚えよう。
医学生医学生
次は薬価ですね。病院によって薬の値段が違う、というのはありそうな気もしますが……。
ドクタードクター
保険診療で使う薬の価格は、厚生労働大臣が定める薬価基準で品目ごとに全国一律に決まっている。だから同じ薬なら、どの病院や薬局で出ても保険請求上の価格は同じなんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「薬価差益」という言葉を聞きました。値段が一律なら、差益はどこから生まれるんですか。
ドクタードクター
医療機関が卸から実際に仕入れる価格は交渉で決まるので、薬価より安く買えることがある。その差額が薬価差益だ。薬価そのものが施設ごとに違うわけではない、というのがポイント。なお薬価は実際の取引価格を調査して定期的に改定されているよ。
医学生医学生
医師が患者さんに薬局を指定する、というのはどうでしょう。病院の目の前の薬局を勧めるのは親切な気もします。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、保険医療機関や保険医が特定の保険薬局へ行くよう指示・誘導することは、療養担当規則で禁止されているんだ。院外処方箋は全国どの保険薬局でも使えて、どこで調剤を受けるかは患者が自由に選ぶ。医療機関と薬局が癒着すると、薬局の独立したチェック機能が働かなくなるからね。
医学生医学生
それなら医薬分業の目的も、そのチェック機能にあるんですね。不必要な受診を減らすため、ではなさそうです。
ドクタードクター
その通り。医薬分業の目的は、薬を出すほど医療機関がもうかる構造をなくして過剰な投薬を防ぐこと、薬剤師が処方を点検して重複や相互作用をチェックすること、そして十分な服薬指導を行うことだ。受診回数を減らすための制度ではない。
医学生医学生
そうすると、正しいのはお薬手帳の記述ですね。複数の病院にかかっていても、手帳を見れば何を飲んでいるかわかります。
ドクタードクター
正解。お薬手帳には薬の名前、用量・用法、日数、調剤日や薬局が時系列で記録されるから、医師や薬剤師がこれまでの投薬状況を把握できる。同じ作用の薬の重複や、飲み合わせの悪い組み合わせ、過去の副作用やアレルギーの確認に役立つんだ。
医学生医学生
救急外来の実習で、意識の悪い高齢の方が来たとき、ご家族が持ってきたお薬手帳で抗凝固薬を飲んでいるとわかって、すぐ方針が決まったことがありました。
ドクタードクター
まさに手帳の真価が発揮される場面だね。災害時や旅行先での受診でも、服用中の薬を正確に伝える手段になる。最近はスマートフォンで使える電子お薬手帳も普及している。ただし注意点もあって、手帳を複数に分けて持っていたり、市販薬やサプリメントが書かれていなかったりすると情報が不完全になる。1冊にまとめること、市販薬も記録することを患者さんに伝えるのも大事だよ。
医学生医学生
外来で「お薬手帳はお持ちですか」と聞くのは、ただの確認ではなく安全のためなんですね。かかりつけ薬局を決めておくのも同じ発想でしょうか。
ドクタードクター
そう、国も「かかりつけ薬剤師・薬局」を推進していて、服薬情報を一元的・継続的に管理することを目指している。処方は医師、調剤と点検は薬剤師、価格は国、薬局選びは患者、そして情報をつなぐのがお薬手帳。この役割分担を押さえておけば、薬事の問題は整理しやすくなるよ。

まとめ

処方箋を交付できるのは医師・歯科医師・獣医師に限られ、薬剤師は処方箋に基づいて調剤し、疑わしい点があれば疑義照会を行う立場です。保険診療の薬価は薬価基準により全国一律で、医療機関が患者に特定の薬局を指示・誘導することは療養担当規則で禁止されています。医薬分業は薬価差益による過剰投薬の防止と、薬剤師による処方の点検・服薬指導を目的とした制度であり、受診抑制のための仕組みではありません。お薬手帳は複数の医療機関からの投薬状況を一元的に把握し、重複投与や相互作用の防止、救急・災害時の情報提供に役立ちます。制度ごとの役割分担を理解しておくことは、日常診療で安全な薬物療法を行う土台になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、処方箋の交付から調剤、薬の情報管理に至るまでの「薬事」の基本ルールを問う一般問題である。

考え方の整理

薬物療法には、処方する医師(歯科医師)、調剤する薬剤師、薬の価格を決める公的な仕組み、患者自身の服薬情報の管理という複数の要素が関わる。各選択肢がどの要素についての記述かを見極め、それぞれの法的な位置づけを思い出すと判断しやすい。 ・処方箋を出す権限は誰にあるか(医師法・歯科医師法・獣医師法) ・保険診療で使う薬の値段はどう決まるか(薬価基準) ・患者はどの薬局を選べるか(保険医療機関及び保険医療養担当規則、いわゆる療養担当規則) ・医薬分業は何を目的とした制度か ・複数の医療機関から出された薬の情報をどう一元管理するか(お薬手帳) このうち、お薬手帳が服薬状況の把握手段であるという記述が正しく、ほかの4つは制度の内容と合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  薬剤師も処方箋を交付できる。

    誤り。処方箋を交付できるのは、診察を行った医師(医師法第22条)、歯科医師(歯科医師法第21条)、および動物の診療については獣医師(獣医師法)に限られる。薬剤師の役割は処方箋に基づいて調剤することであり、自ら処方箋を発行する権限はない。なお薬剤師は、処方箋に疑わしい点があれば処方医に問い合わせて確認する義務(疑義照会、薬剤師法第24条)を負い、正当な理由があれば調剤を拒むこともできる(同法第21条)。処方の権限と、処方内容を点検する役割とを区別して覚えておく。

  2. ×b.  薬価は医療機関により異なる。

    誤り。保険診療で用いる医薬品の価格(薬価)は、厚生労働大臣が定める「薬価基準」によって品目ごとに全国一律に決められている。そのため、どの医療機関や保険薬局で処方・調剤されても、同じ薬であれば保険請求上の価格は同じである。医療機関が卸業者から実際に購入する価格は交渉で異なりうるが、それは薬価そのものではない(この差額がいわゆる薬価差益である)。薬価は市場での取引価格の調査に基づいて定期的に改定される。

  3. ×c.  医師は患者に特定の薬局を指定できる。

    誤り。院外処方箋は全国どの保険薬局に持ち込んでも有効であり、どこで調剤を受けるかは患者が自由に選ぶ。療養担当規則では、保険医療機関や保険医が患者に対して特定の保険薬局で調剤を受けるよう指示したり誘導したりすること、またその見返りに薬局から金品などの利益を受け取ることが禁止されている。医療機関と薬局の癒着を防ぎ、薬局による独立したチェック機能を保つための規定である。

  4. ○d.  お薬手帳により投薬の状況が把握できる。

    正しい。お薬手帳は、処方・調剤された薬の名称、用量、用法、日数、調剤日、調剤した薬局などを時系列で記録する手帳である。複数の医療機関を受診していても1冊(または1つの電子版)にまとめておけば、医師や薬剤師がこれまでの投薬状況を一目で把握でき、同じ作用の薬の重複投与や、飲み合わせの悪い薬(相互作用)、過去の副作用・アレルギー歴の確認に役立つ。災害時や救急搬送時、旅行先での受診時にも、服用中の薬を正確に伝える手段として有用である。近年はスマートフォンなどで使える電子お薬手帳も普及している。

  5. ×e.  医薬分業は患者の不必要な受診を抑えることを目的とする。

    誤り。医薬分業とは、医師が処方箋を交付し、医療機関とは独立した薬局の薬剤師がそれに基づいて調剤する体制をいう。目的は、(1)医療機関が薬を出すほど利益(薬価差益)を得る構造をなくし、不必要・過剰な投薬を防ぐこと、(2)薬剤師が処方内容を専門的に点検し、複数の医療機関から出された薬の重複や相互作用をチェックすること、(3)薬についての十分な説明・服薬指導を行うこと、などである。患者の受診回数を減らすことを目的とした制度ではない。

処方と調剤に関わる主な法的ルール

・処方箋の交付:医師・歯科医師・獣医師が行う。医師は、患者に薬を投与する必要があると認めた場合、原則として処方箋を交付しなければならない(医師法第22条。患者が不要と申し出た場合などの例外がある)。 ・調剤:原則として薬剤師が行う(薬剤師法第19条。医師が自己の処方箋で自ら調剤する場合などの例外規定がある)。 ・疑義照会:処方箋に疑わしい点があるとき、薬剤師は処方医に確認してからでなければ調剤してはならない(薬剤師法第24条)。 ・調剤拒否:薬剤師は正当な理由がなければ調剤の求めを拒んではならない(薬剤師法第21条)。

薬価基準

・保険診療で使える医薬品の品目と、その価格を国が定めた一覧である。 ・新薬は類似薬との比較や原価計算に基づいて価格が決まり、収載後は市場での実勢価格を調査して定期的に引き下げられる。 ・後発医薬品(ジェネリック医薬品)は先発品より低い薬価が設定される。

医薬分業

・院外処方箋を受け取った患者が、医療機関とは別の保険薬局で薬を受け取る仕組みである。 ・医療機関が薬を出すほど収益が上がる構造(薬価差益)を断ち切り、過剰投薬を防ぐことが大きな狙いである。 ・「かかりつけ薬剤師・薬局」を持ち、服薬情報を一元的・継続的に管理することが推進されている。

お薬手帳

・調剤のたびに薬局で薬剤情報が記録される。 ・アレルギー歴、副作用歴、既往歴、市販薬やサプリメントの使用状況なども記入できる。 ・重複投薬・相互作用の防止、災害時・救急時の情報提供に役立つ。

POINT

・処方箋を交付できるのは医師・歯科医師・獣医師のみで、薬剤師は交付できない(疑義照会は薬剤師の義務)。 ・薬価は国が定める薬価基準により全国一律である。 ・医師や医療機関が患者に特定の薬局を指示・誘導することは禁止されており、薬局は患者が自由に選ぶ。 ・医薬分業の目的は、薬価差益による過剰投薬の防止と、薬剤師による処方の点検である。 ・お薬手帳は複数医療機関からの投薬状況を一元的に把握し、重複投与や相互作用を防ぐための手段である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。