StudyMed医師国家試験

「つらい」と訪ねてきた労働者に産業医がまずすべきこと―評価なくして対応なし

第110回医師国家試験 G問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第24問

過重労働と気分の落ち込みとを訴える労働者が相談に訪れた。  産業医の最初の対応で適切なのはどれか。

  1. a.このまま様子をみる。
  2. b.精神科医に相談するように勧める。
  3. c.配置換えの希望を出すように勧める。
  4. d.労働基準監督署に届け出るように勧める。
  5. e.詳しい労働状況や心身の状態を把握する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、過重労働と気分の落ち込みを訴えて相談に来た労働者に、産業医が最初に何をすべきかを問う問題だ。ポイントは「最初の対応」という言葉。どの対応も将来的には必要になりうるけれど、順番を考えることが大切なんだ。
医学生医学生
気分の落ち込みと聞くと、うつ病が心配なので、すぐ精神科につなぐのがいいように思えます。
ドクタードクター
その発想は自然だし、方向性としては間違っていない。でも、この時点で私たちは何を知っているだろう。労働時間が実際どのくらいか、落ち込みがどの程度でいつから続いているか、眠れているか、死にたい気持ちがあるか。どれもまだわからないよね。
医学生医学生
確かに、本人の訴えだけで、具体的な情報は何もないですね。
ドクタードクター
そう。だから正解は、詳しい労働状況や心身の状態を把握すること。面談でしっかり話を聴いて評価し、その結果で次の一手を決めるんだ。
医学生医学生
臨床実習の医療面接でも、まず情報を集めてから鑑別や方針を考えるよう繰り返し言われました。OSCEの医療面接と同じ考え方ですね。
ドクタードクター
まさにその通り。具体的には、時間外・休日労働の時間数、業務内容や責任の変化、人間関係やハラスメントの有無といった労働状況。それから抑うつ気分や興味の喪失の程度と期間、睡眠・食欲、疲労、飲酒量などの心身の状態。そして何より希死念慮の有無を必ず確認する。希死念慮があれば緊急に専門医へつなぐ必要がある。
医学生医学生
では、精神科医への相談を勧めるのは、評価の後ならありということですか。
ドクタードクター
そう。うつ病が疑われる、症状が重い、希死念慮があるといった場合は速やかに受診を勧める。ただ、評価の前にいきなり勧めると順序が逆だし、本人が「精神科に回された」と感じて抵抗感を持ち、相談自体をやめてしまうこともあるんだ。
医学生医学生
配置換えの希望を出すよう勧めるのはどうでしょう。仕事が原因なら環境を変えるのが早そうですが。
ドクタードクター
配置転換は、労働時間の短縮や残業制限、休業と並ぶ就業上の措置の1つで、産業医は事業者に意見を述べたり勧告したりできる。でも、何が原因でどのくらい悪いのかわからない段階で勧めても解決にならないかもしれないし、環境の変化そのものが負担になることもある。
医学生医学生
労働基準監督署に届け出るよう勧めるのも、まだ早いですね。法令違反があると決まったわけではないので。
ドクタードクター
その通り。労働基準監督署は法令違反の申告や労災保険の請求などを扱う行政機関だ。産業医はまず事業場の中で健康状態を評価し、労働環境の改善や措置につなげる立場にある。そして、このまま様子をみるのは論外だね。
医学生医学生
過重労働に抑うつが重なっていると、過労自殺や過労死につながる可能性もありますもんね。放置は一番危険です。
ドクタードクター
そう。長時間労働は睡眠不足や疲労の蓄積を通じて、うつ病などの精神障害や脳・心臓疾患のリスクを高める。発展知識として、労働安全衛生法の長時間労働者への面接指導を押さえておこう。時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積がある労働者が申し出たら、事業者は医師による面接指導を行わなければならない。
医学生医学生
その面接指導でも、勤務状況や疲労、抑うつ症状を確認するんですよね。今回の正解と流れが同じです。
ドクタードクター
よく気づいたね。面接後、事業者は医師の意見を聴いて、労働時間の短縮や作業の転換などの措置を講じる。脳・心臓疾患の労災認定の目安、いわゆる過労死ラインは、発症前1か月におおむね100時間、または2~6か月平均で月おおむね80時間を超える時間外労働だ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った「4つのケア」の中では、産業医は事業場内産業保健スタッフ等によるケアに当たりますね。
ドクタードクター
その通り。セルフケア、管理監督者によるラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つだ。産業医は職場の中で状況を評価し、必要なら専門医療機関という事業場外資源につなぐ橋渡し役なんだ。

まとめ

過重労働と気分の落ち込みを訴える労働者に対し、産業医がまず行うべきは、面談による労働状況と心身の状態の詳しい把握です。時間外労働の時間数や業務内容、抑うつ症状の程度・期間、睡眠や疲労、そして希死念慮の有無を確認し、その評価に基づいて精神科受診の勧奨や、労働時間短縮・配置転換・休業などの就業上の措置について事業者への意見・勧告を行います。評価なしに経過観察とするのは過労自殺・過労死を見逃すおそれがあり不適切で、評価前の精神科紹介や配置換え、労働基準監督署への届け出も初期対応としては順序が適切ではありません。月80時間超の時間外・休日労働に対する医師の面接指導や「4つのケア」とあわせて理解することで、職場のメンタルヘルス対策における産業医の役割が明確になります。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

労働者が「過重労働」と「気分の落ち込み」を訴えて産業医のもとを訪れている。長時間労働や業務負荷の増大は、睡眠不足や疲労の蓄積を通じてうつ病などの精神障害や脳・心臓疾患の危険因子となり、最悪の場合は過労自殺・過労死につながりうる。したがって放置は許されないが、この時点では、労働時間が実際にどの程度なのか、抑うつ症状がどの程度で、どのくらい続いているのか、希死念慮があるのかなど、判断に必要な情報がまだ得られていない。

産業医の対応の考え方

産業医の役割は、労働者の健康状態と働き方の両面を評価し、医学的な立場から就業上の措置(労働時間の短縮、残業制限、配置転換、休業など)について事業者に意見を述べ、必要なら勧告することである。どの措置が適切か、専門医療機関への受診が必要かは、評価の結果によって決まる。そのため、最初に行うべきは面談による状況把握である。 具体的には次のような点を確認する。 ・労働状況:時間外・休日労働の時間数、業務内容や責任の変化、職場の人間関係、ハラスメントの有無 ・心身の状態:抑うつ気分や興味・喜びの喪失の程度と持続期間、睡眠・食欲の変化、疲労の蓄積、身体症状、飲酒量 ・危険性の評価:希死念慮・自殺企図の有無(ある場合は緊急に専門医につなぐ) ・背景:既往歴、家庭の状況、支援してくれる人の有無 こうした評価を踏まえて、精神科受診の勧奨、就業上の措置に関する事業者への意見、休業の検討などの次の対応を決める、という順序で考える。

選択肢考察

  1. ×a.  このまま様子をみる。

    誤り。過重労働を背景に抑うつ症状を訴えている労働者は、うつ病を発症している可能性があり、自殺の危険も否定できない。状態を評価しないまま経過観察とするのは、症状の悪化や過労自殺・過労死を見逃すおそれがあり不適切である。少なくとも状況を把握し、業務負荷の軽減や休養などの必要性を判断しなければならない。

  2. ×b.  精神科医に相談するように勧める。

    最初の対応としては不適切。面談の結果、うつ病が疑われる、症状が重い、希死念慮があるといった場合には、精神科などの専門医への受診を速やかに勧めることになる。しかし、状態を評価する前にいきなり精神科受診を勧めるのは順序が逆であり、本人の抵抗感を強めて相談をやめてしまう原因にもなりうる。まず話を聴いて状況を把握することが先である。

  3. ×c.  配置換えの希望を出すように勧める。

    最初の対応としては不適切。産業医は労働者の健康を守るため、配置転換、労働時間の短縮、残業禁止、休業などの就業上の措置について事業者に意見を述べ、必要と認めるときは勧告することができる。ただし、どの措置が必要かは労働状況と心身の状態を評価して初めて判断できる。原因や状態がわからない段階で配置換えを勧めても、問題の解決にならない可能性があり、場合によっては環境の変化がかえって負担となる。

  4. ×d.  労働基準監督署に届け出るように勧める。

    誤り。労働基準監督署は労働基準法・労働安全衛生法などに基づき事業場を監督する行政機関で、法令違反の申告や労働災害(労災)保険の請求などを扱う。現時点では法令違反や労災に当たる事実が確認されたわけではなく、まず届け出を勧めるのは産業医の初期対応として適切でない。産業医はまず労働者の状態を評価し、事業場内で労働環境の改善や就業上の措置を図る立場にある。

  5. ○e.  詳しい労働状況や心身の状態を把握する。

    正しい。適切な対応を選ぶためには、まず事実の把握が必要である。時間外労働の時間数や業務内容などの労働状況と、抑うつ症状の程度・持続期間、睡眠、疲労、希死念慮の有無などの心身の状態を面談で詳しく確認する。その評価に基づいて、専門医への紹介、就業上の措置に関する事業者への意見・勧告、休業の検討などを行う。これは長時間労働者に対する医師の面接指導の流れとも一致する。

長時間労働者に対する医師による面接指導(労働安全衛生法)

・時間外・休日労働が1か月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を行わなければならない。 ・面接指導では、勤務の状況、疲労の蓄積の状況、心身の状況(抑うつ症状を含む)を確認する。 ・事業者は面接指導を行った医師の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、就業場所の変更、作業の転換などの措置を講じる。

脳・心臓疾患の労災認定における時間外労働の目安(いわゆる過労死ライン)

発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2~6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働は、業務と発症との関連性が強いと評価される。

産業医の主な職務

・健康診断・面接指導の実施とその結果に基づく措置への関与 ・ストレスチェック制度の実施と高ストレス者への面接指導 ・作業環境・作業の管理、職場巡視 ・健康教育・健康相談 ・労働者の健康確保のために必要があると認めるときの事業者への勧告

職場のメンタルヘルス対策の「4つのケア」

セルフケア、ラインによるケア(管理監督者による対応)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア(専門医療機関など)。産業医は事業場内産業保健スタッフとして、必要に応じて事業場外資源へつなぐ役割を担う。

POINT

・産業医の初期対応は、まず面談で労働状況と心身の状態を詳しく把握すること。 ・評価の際は希死念慮の有無を必ず確認する。 ・その結果に応じて、専門医への紹介、就業上の措置(労働時間短縮・配置転換・休業など)について事業者へ意見・勧告を行う。 ・抑うつを訴える労働者を「様子をみる」として放置するのは不適切である。 ・長時間労働者の面接指導:時間外・休日労働が月80時間超かつ疲労蓄積があり、本人が申し出た場合。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。