StudyMed医師国家試験

「治す」より「暮らせる」を―バリアフリーから読み解く障害者支援の基本理念

第110回医師国家試験 G問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第17問

障害者への対応について正しいのはどれか。

  1. a.QOLよりも障害の治療を優先すべきである。
  2. b.生活空間のバリアフリーを進めるべきである。
  3. c.身体的な障害者が精神的な障害者より優先される。
  4. d.事業主は障害者を雇用することを考慮しなくてよい。
  5. e.障害のある人は身体障害者手帳の交付を申請しなければならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、障害のある人をどう支えるかという基本理念と、それを支える法制度を問う問題だ。ポイントは「障害はどこで生じるのか」という障害観と、法律が何を義務とし、何を本人の選択に委ねているか。この2つを軸に選択肢を見ていこう。
医学生医学生
障害というと、まずは身体や精神の機能そのものの問題というイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるし、かつてはそれが主流だった。でも現在の基盤になっているのは、WHOが2001年に採択したICF、国際生活機能分類だ。ICFでは生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3層で捉えて、そこに「環境因子」と「個人因子」が影響すると考える。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、ICFは「できないこと」より「生活機能」に目を向けた分類だと習いました。環境因子が入っているのが旧来のICIDHとの違いでしたよね。
ドクタードクター
その通り。つまり障害は本人の側だけで生じるのではなく、段差や偏見、制度の不備といった環境との相互作用で生じる、という考え方だ。そうすると、支援の方向性はどうなるかな。
医学生医学生
環境の側を変えれば、同じ機能障害があっても活動や参加ができるようになる……だから生活空間のバリアフリーを進めるのが正しい、ということですね。
ドクタードクター
正解。段差の解消、エレベーターやスロープ、多機能トイレ、点字ブロックや音声案内などを整えると、活動と社会参加が広がりQOLが上がる。障害者基本法に基づく障害者基本計画でもバリアフリー化は柱の一つで、いわゆるバリアフリー法で建築物や公共交通機関の具体的な整備が進められている。
医学生医学生
でも医師としては、まず障害そのものを治すことを優先すべきという気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけの選択肢だね。治療を軽視してよいわけではないけれど、障害の多くは固定的・長期的で、元の状態に完全に戻すのは難しいことが多い。だから治療やリハビリの方針も、本人のQOLや社会参加、そして本人の意思を重視して決めるのが基本だ。「QOLより常に治療が優先」という考え方は今の理念に合わない。
医学生医学生
リハビリテーション科を回ったとき、指導医の先生が「目標は歩けることじゃなく、その人が家に帰って暮らせること」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその視点だ。次に、身体障害者が精神障害者より優先されるという選択肢はどうだろう。
医学生医学生
障害の種類で優劣をつけるのはおかしい気がします。
ドクタードクター
そうだね。障害者基本法は身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)などをいずれも等しく対象としている。障害特性に応じた配慮は必要だけど、それは優先順位とは別の話だ。むしろ歴史的には精神障害者への施策が遅れていて、その格差を是正してきた経緯がある。
医学生医学生
事業主が障害者雇用を考慮しなくてよい、というのは法定雇用率があるので誤りですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。障害者雇用促進法では、事業主は障害者に適切な雇用の場を提供する社会連帯の責務を負い、一定規模以上の事業主には法定雇用率の達成義務がある。2018年からは精神障害者も算定基礎に含まれ、民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられて2026年7月に2.7%になった。未達成の企業からは納付金を徴収し、達成企業には調整金を支給する仕組みもある。
医学生医学生
最後の身体障害者手帳は、障害があれば必ず申請しなければならないのでしょうか。
ドクタードクター
ここは条文の言い回しが大事。身体障害者福祉法第15条は、身体に障害のある者は手帳の交付を「申請することができる」と定めている。つまり申請は任意で、義務ではない。手帳を持つと補装具費の支給や税の控除、運賃割引、雇用率への算定などの支援を受けやすくなるけれど、取得するかどうかは本人、15歳未満なら保護者が決めることだ。
医学生医学生
診断書を書くのは誰でもいいんですか。
ドクタードクター
都道府県知事などが指定した医師、いわゆる15条指定医の診断書が必要だ。将来、整形外科や神経内科、眼科、耳鼻科などに進むと書く機会があるよ。ちなみに知的障害の療育手帳は法律ではなく通知に基づく制度、精神障害者保健福祉手帳は精神保健福祉法に基づき有効期間2年で更新が必要、と違いがある。どの手帳も申請は任意だ。
医学生医学生
理念はICFと社会モデル、具体策はバリアフリー、そして雇用は義務、手帳は任意、と整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。関連して、障害者差別解消法では合理的配慮の提供が求められ、民間事業者でも2024年4月から法的義務になった。外来で筆談を用意する、車椅子の人の診察動線を確保するといったことも合理的配慮だ。ノーマライゼーションやユニバーサルデザイン、2014年に日本が批准した障害者権利条約も合わせて押さえておこう。臨床の現場では、疾患を診るだけでなく、その人が地域で暮らし続けるために何が障壁になっているかを考える姿勢が求められるんだ。

まとめ

現在の障害者支援は、WHOのICF(国際生活機能分類)に基づき、障害を本人の機能だけでなく環境との相互作用で生じるものと捉え、活動と社会参加を通じたQOLの向上を目標とします。そのため生活空間のバリアフリー化は障害者基本計画の重要な柱であり、治療をQOLより常に優先する考え方や、身体・知的・精神といった障害種別で優劣をつける考え方は誤りです。障害者雇用促進法により一定規模以上の事業主には法定雇用率の達成義務があり、2018年からは精神障害者も算定対象となっています。一方、身体障害者手帳の申請は身体障害者福祉法第15条で「申請することができる」とされる任意の制度で、15条指定医の診断書が必要です。障害観と法制度の要点を押さえることは、診療を通じて患者の地域生活を支える医師にとって欠かせない基礎となります。

解答・解説

正解はbです

本問は、障害のある人を支える際の基本的な考え方と、それを支える法制度を問う一般問題である。

障害の捉え方

現在の障害観の基盤は、WHO(世界保健機関)が2001年に採択したICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)である。ICFでは、人の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3層で捉え、それらに「環境因子」と「個人因子」が影響すると考える。つまり、障害は本人の身体や精神の問題だけで生じるのではなく、段差・偏見・制度の不備といった環境との相互作用で生じるもの(社会モデル)とみなされる。

支援の方向性

この考え方に立つと、障害そのものを完全に治すことだけを目標にするのではなく、環境を整えて活動と社会参加を可能にし、本人のQOL(quality of life:生活の質)を高めることが支援の中心となる。物理的な障壁を取り除くバリアフリー化はその代表的な手段であり、障害者基本法に基づく障害者基本計画でも、住宅・建築物・公共交通機関・歩行空間などのバリアフリー化の推進が柱の一つに据えられている。

選択肢を見る視点

各選択肢について、(1) QOLや社会参加を重視する現在の理念に合っているか、(2) 障害の種別による差別をしない原則に反していないか、(3) 障害者雇用促進法や身体障害者福祉法など、根拠となる法律の規定と整合しているか、を確認すると判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  QOLよりも障害の治療を優先すべきである。

    誤り。障害の多くは固定的・長期的であり、治療によって元の状態へ完全に戻すことは難しい場合が多い。そのため、治療やリハビリテーションの方針を決める際にも、本人の生活の質(QOL)や社会参加を重視し、本人の意思を尊重して選択することが基本となる。治療を軽視してよいという意味ではないが、QOLより常に治療を優先するという考え方は、現在の障害者支援の理念に合わない。

  2. ○b.  生活空間のバリアフリーを進めるべきである。

    正しい。障害は環境との相互作用で生じるという考え方からすると、段差の解消、エレベーター・スロープ・多機能トイレの設置、点字ブロックや音声案内の整備など、生活空間の障壁を取り除くことで、障害のある人の活動と社会参加が広がり、QOLが向上する。障害者基本計画でも住宅・建築物・公共交通機関・歩行空間などのバリアフリー化の推進が掲げられ、いわゆるバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)によって具体的な整備が進められている。

  3. ×c.  身体的な障害者が精神的な障害者より優先される。

    誤り。障害の種類によって支援の優先順位がつけられることはない。障害者基本法は、障害者を身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者と定義し、いずれも等しく対象としている。もちろん障害特性に応じた配慮(例:視覚障害には点字・音声、精神障害には症状の波に合わせた支援)は必要だが、それは種別間の優劣ではない。歴史的には精神障害者への施策が遅れていた経緯があり、近年はむしろ格差の是正が進められてきた。

  4. ×d.  事業主は障害者を雇用することを考慮しなくてよい。

    誤り。障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)では、事業主は障害者に適切な雇用の場を提供する社会連帯の責務を負うとされる。さらに一定規模以上の事業主には、雇用する労働者のうち障害者が占める割合を法定雇用率以上にする義務(障害者雇用率制度)が課されている。対象は身体障害者・知的障害者に加え、2018年からは精神障害者も算定基礎に含まれた。民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられており、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%となっている。未達成の一定規模以上の企業からは障害者雇用納付金が徴収され、達成企業には調整金・報奨金が支給される仕組みもある。

  5. ×e.  障害のある人は身体障害者手帳の交付を申請しなければならない。

    誤り。身体障害者手帳は身体障害者福祉法に基づく制度で、同法第15条では、身体に障害のある者は都道府県知事(指定都市市長・中核市市長)に身体障害者手帳の交付を「申請することができる」と規定されている。すなわち申請は本人の任意であり、義務ではない。手帳を取得すると、補装具費の支給、税の控除、公共交通機関の運賃割引、障害者雇用率への算定など各種の支援を受けやすくなるが、取得するかどうかは本人(15歳未満では保護者)が決める。申請には都道府県知事が指定した医師(いわゆる15条指定医)の診断書が必要である。

障害者施策の主な法律

・障害者基本法:障害者施策の基本理念を定める法律。障害者の定義、差別の禁止、国・地方公共団体の責務を規定し、政府に障害者基本計画の策定を義務づけている。障害者基本計画は5年程度ごとに改定され、バリアフリー化、雇用・就業、保健・医療などの分野別目標が示される。 ・障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律):居宅介護、就労支援、自立支援医療、補装具などの福祉サービスを定める。難病患者も対象に含まれる。 ・障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律):不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を求める。合理的配慮は行政機関では当初から義務、民間事業者では2024年4月から努力義務から法的義務へ改められた。 ・障害者雇用促進法:法定雇用率制度、障害者雇用納付金制度、職業リハビリテーションなどを定める。 ・バリアフリー法:建築物・公共交通機関・道路などの移動等円滑化の基準を定める。

障害者手帳の種類

・身体障害者手帳:身体障害者福祉法に基づく。障害程度は1〜7級に区分されるが、手帳が交付されるのは1〜6級(7級の障害が2つ以上重なる場合は6級として交付)。 ・療育手帳:知的障害者に交付される。法律ではなく厚生労働省の通知に基づき、各自治体が実施している。 ・精神障害者保健福祉手帳:精神保健福祉法に基づく。1〜3級で、有効期間は2年(更新が必要)。 いずれの手帳も申請は任意である。

関連する理念

・ノーマライゼーション:障害のある人もない人も、地域で同じように暮らせる社会を目指す考え方。 ・ユニバーサルデザイン:はじめから誰にとっても使いやすいように設計する考え方。既存の障壁を取り除くバリアフリーと対比される。 ・障害者権利条約:国連で2006年に採択され、日本は2014年に批准した。

POINT

・障害者支援の目標は、治療一辺倒ではなくQOLの向上と社会参加である(ICFの考え方)。 ・バリアフリー化の推進は障害者基本計画の重要な柱である。 ・障害の種別(身体・知的・精神)による優劣はない。 ・障害者雇用促進法により、一定規模以上の事業主には法定雇用率の達成義務がある(精神障害者も2018年から算定対象)。 ・身体障害者手帳の申請は任意(身体障害者福祉法第15条「申請することができる」)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。