入院時に渡される一枚の表―クリニカルパスは誰のための道しるべか
第110回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。散歩中に転倒し,左腰部の疼痛と歩行不能のため救急車で搬入された。精査の結果,左大腿骨頸部骨折が認められ,人工股関節置換術を行うことになった。入院時の患者に対する説明は表を用いて行った。その表には入院から手術前,手術当日,手術後および退院までの日程と,それぞれの期間における到達目標,治療内容および安静度が記載されている。 この表の説明で正しいのはどれか。
- a.主治医ごとに作成される。
- b.我が国ではほとんど普及していない。
- c.記載されている日程は変更できない。
- d.主な目的は平均在院日数の短縮である。
- e.医療者と患者の間で情報共有に活用できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクターまとめ
入院から退院までの日程、各時期の到達目標、治療内容、安静度を一覧にした表はクリニカルパスであり、患者への説明に用いるものは患者用パスと呼ばれます。多職種が協議して施設単位で作成・統一運用し、主な目的は医療の質の向上と標準化、医療安全、チーム医療の推進、患者との情報共有で、在院日数の短縮は副次的な効果にすぎません。経過が予定から外れれば日程は変更でき、その逸脱はバリアンスとして記録・分析され、パスの改善に活かされます。日本では広く普及しており、大腿骨頸部骨折や脳卒中では地域連携クリニカルパスも用いられています。パスの性質を理解することは、チーム医療や患者説明を実践するうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
72歳の男性が転倒し、左大腿骨頸部骨折と診断されて人工股関節置換術を受けることになった。入院時の説明に使われた表には、入院から手術前・手術当日・手術後・退院までの日程に沿って、各時期の到達目標、治療・検査・処置の内容、安静度(リハビリテーションの進め方)がまとめられている。これはクリニカルパス(クリティカルパスともいう)であり、そのうち患者に渡す説明用のもの(患者用パス)である。
クリニカルパスとは
特定の疾患や手術・検査について、入院から退院までに行う標準的な診療・看護・リハビリテーションなどを、時間軸に沿って一覧表にした診療計画である。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士など多職種が共同で作成し、施設(病院や診療科)として統一して用いる。 主な目的は医療の質の向上と標準化である。根拠に基づいた標準的な治療手順を示すことで、担当者による治療のばらつきを減らし、指示漏れや処置忘れなどの医療事故を防ぎ、チーム医療を円滑にする。さらに患者用パスを使うと、患者は自分がいつ何を受け、いつ頃どこまで回復する見込みかを入院時から把握でき、医療者と患者の間で治療計画の情報を共有できる。これは患者の不安の軽減や治療への主体的な参加、インフォームド・コンセントの充実にもつながる。
設問の考え方
パスの性質(誰が作るか、普及度、変更の可否、目的、用途)を正しく理解しているかを問う問題である。標準化のための道具でありつつ、個々の患者の経過に合わせて柔軟に運用されることを押さえておく。
選択肢考察
- ×a. 主治医ごとに作成される。
クリニカルパスは医療の標準化を図るための道具であり、多職種が協議して病院や診療科の単位で作成し、統一して運用する。主治医ごとに別々の計画を作っていては、診療のばらつきを減らすという本来の目的が果たせない。
- ×b. 我が国ではほとんど普及していない。
日本では1990年代後半から導入が進み、現在では多くの病院で手術、検査入院、化学療法などさまざまな疾患・治療に広く用いられている。大腿骨頸部骨折や脳卒中では、急性期病院と回復期リハビリテーション病院などをつなぐ地域連携クリニカルパスも普及しており、診療報酬上の評価もある。
- ×c. 記載されている日程は変更できない。
パスは標準的な経過を示したものであり、合併症の発生や回復の遅れなどで予定どおりに進まない場合は、患者の状態に応じて日程や内容を変更する。予定から外れることをバリアンス(逸脱・変動)と呼び、その内容と原因を記録・分析して、パス自体の改善に役立てる。
- ×d. 主な目的は平均在院日数の短縮である。
パスの導入によって無駄な検査や待機が減り、結果として在院日数が短くなることは多い。しかしそれは副次的な効果であり、主な目的は医療の質の向上と標準化、医療安全の確保、チーム医療の推進、患者への情報提供である。
- ○e. 医療者と患者の間で情報共有に活用できる。
患者用パスは、イラストや平易な言葉で入院中の予定や回復の目標を示したもので、本問の表もこれにあたる。患者と家族は治療の見通しを持つことができ、医療者と同じ計画を共有しながら治療に参加できる。医療者側でも、多職種が同じ計画を共有することでチーム内の情報伝達が円滑になる。
クリニカルパスの構成
・横軸に入院日数(入院日、手術前日、手術当日、術後○日、退院日など)、縦軸にケアの項目(検査、処置、点滴・内服、食事、安静度・リハビリテーション、清潔、説明・指導、到達目標など)をとる形式が一般的である。縦横が逆の様式もある。 ・医療者用パス: 指示出し・指示受け、実施記録、観察項目、バリアンスの記録などの機能を持ち、電子カルテと連動していることも多い。 ・患者用パス: イラストを使うなどしてわかりやすく作られ、入院時の説明に用いられる。
バリアンス
・予定された経過からの逸脱をいう。正の変動(予定より早く回復)と負の変動(合併症などで遅れる)がある。 ・パスから外れて個別対応に切り替えることを「脱落(逸脱)」と呼ぶことがある。 ・バリアンスを収集・分析し、パスの内容を見直すことで医療の質を継続的に改善する(PDCAサイクル)。
パスの種類
・院内パス: 一つの病院内で入院から退院までを扱う。 ・地域連携クリニカルパス: 急性期病院から回復期病院、さらに在宅や診療所までの治療計画を複数の医療機関で共有する。大腿骨頸部骨折や脳卒中などで用いられる。 ・外来パス: 外来での化学療法や慢性疾患の管理などに用いる。
導入による効果
・医療の標準化と質の向上、医療事故の防止。 ・多職種によるチーム医療の推進。 ・患者への説明と情報共有、患者満足度の向上。 ・結果として在院日数の短縮や医療資源の効率的な利用。
大腿骨頸部骨折について
高齢者の転倒で生じやすい骨折で、骨粗鬆症が背景にあることが多い。転位の大きい頸部骨折は骨癒合が得にくく大腿骨頭壊死も起こりやすいため、人工骨頭置換術や人工股関節置換術が選ばれることが多い。長期臥床による肺炎、深部静脈血栓症、廃用症候群を防ぐため、早期手術と早期離床・リハビリテーションが重要であり、標準的な経過をたどりやすいことからパスがよく用いられる。
POINT
・入院から退院までの日程、到達目標、治療内容、安静度を一覧にした表はクリニカルパスである。 ・主な目的は医療の質の向上と標準化であり、在院日数の短縮は副次的効果である。 ・多職種で作成し、施設単位で統一して用いる(主治医ごとではない)。 ・経過が予定から外れた場合は変更でき、その逸脱をバリアンスとして記録・分析する。 ・患者用パスは医療者と患者の情報共有に役立つ。 ・日本で広く普及しており、地域連携クリニカルパスも用いられる。
